第三十八話:限定と聞いたら、すぐ予感を走らせるべし

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【今回の登場人物】

オレ:『カイジ』単行本を全巻買い集め、周囲にブームをもたらした功労者。ちなみに福本作品のファンになったのも『カイジ』が初。

フクタ:オレの家で『カイジ』を読んで大ファンになった挙げ句、結局それが高じて自分でも単行本を買い集めた。『黙示録』が一番好き。

プッチ:オレから借りた『カイジ』によって、ファンになった。ただオレやフクタのような凄まじい大ファンが身近にいるため、少々引き気味。

  ――― ■■■ ―――



オレ「『カイジ』といえばさ…。オレとフクタで計画して実行した、《リアルカイジ企画》は面白かったよなぁ…」

フクタ「確かに面白かったけど、マジで辛かったよアレは」

プッチ「もう1年くらい前の話だっけ、ソレ」

オレ「そうだな…もう、そんな前になるのか。オレもフクタも、ヤバイほど『カイジ』にハマってた頃だったもんな」

フクタ「まぁ、『カイジ』は今でも面白いけどね。十分」

オレ「それはな。だけど『カイジ』の読みすぎが高じてあんな企画を思いつくくらいなんだから、オレ達も今以上にヤバかったよ。中毒ぶりが」

プッチ「思いついただけじゃなくて、実際に実行したトコロが凄いと思ったよ。しかも、超運動音痴のお前ら2人が」

フクタ「アレは、おれ達が死ぬほど不得意なことじゃないと意味なかったからね」

オレ「オレ達メンバーの中でも、体力ナシのワースト1,2位を争うオレとフクタだからこそ、題材に《運動》を選ぶ必要があったんだよな」

フクタ「でもアレで、カイジの気持ちがよく解った」

オレ「ああ、それは完全に実感したぜ。本気で死ぬかと思ったくらいだぞ(笑)」

フクタ「だっておれ達が水泳だぜ!? マトモなスポーツとか運動とかを、7年間全くやってなかったおれ達がよ!」

プッチ「7年間って? 大学じゃ運動しなくても、高校じゃ体育の授業あるでしょ。あと体育祭とか」

フクタ「授業はどうにか誤魔化す。体育祭はサボるに決まってるだろ」

オレ「奇遇だな、オレも体育祭は3年間不参加だったぞ。あと体育の授業は、体力無さすぎて先生からドクターストップかけられてた」

プッチ「いやお前ら、どんだけだよ!」

オレ「甘いぞプッチ。真のゲーマーやらアニメファンなら、こうなるのがむしろ普通だ」

フクタ「ゲーマーなのに体力にも自信あるとかいうのは、ただのモグリだね」

オレ「正直、本気でゲーム・アニメ・マンガ以外の行動に興味示さなかったら、オレ達みたいになってないとおかしいと思うんだが」

フクタ「おれ達2人の体重足しても、90キロないからね」

オレ「秋葉原とかのオタクはデブってイメージもあるけどよ、そもそも食事よりゲーム優先だったら、構造的に太るわけねぇだろ」

フクタ「ソフトボール投げとか、10メートルいかないからね。おれ達」

オレ「オレは全校生徒で走る10キロマラソンやって、510人中510位になったことあるぞ。しかも最下位から2番目のヤツとも、1時間くらい差があった」

プッチ「ソレ本当の話?」

オレ「嘘ついてどうすんだよ、当たり前だろう。参加した以上は途中棄権しないのがオレのルールだぜ」

プッチ「いやカッコイイこと言ってるけどさ、ソレって他の人にとっては超迷惑だよね(笑)」

オレ「まぁそれは否定しねぇ(笑) 1位でゴールしたヤツなんか、オレのためにどれだけ待ったことやら」

プッチ「そもそも42.195キロじゃなくて、10キロのマラソンなのに何時間かかったんだよナツキは」

オレ「ん? そうだな…3時間くらいか?」

プッチ「いやソレは、歩くより遅いだろ!」

フクタ「でもおれ達のレベルって、正直そんなもんだよね」

オレ「むしろ一般男子の平均より体力あるゲーマーなんて存在しねぇよ。それはゲーム以外に部活とか、スポーツとかも頑張ってるヤツだろう」

フクタ「別に、それが悪いことじゃないけどね」

オレ「そりゃそうだ。運動は身体に良いとも言うしな。ただオレ達が死ぬほど嫌いなだけで(笑)」

フクタ「だから、《リアルカイジ》のときに選んだんだしね。運動を」

プッチ「そもそもお前らは、『カイジ』の何を再現しようとしたんだっけ?」

オレ「ホラ、『黙示録』の途中に《鉄骨渡り》ってあっただろ? 落ちたら死ぬ方のヤツ」

プッチ「ああ、うん」

オレ「オレとフクタは、アレを読んでメチャクチャ感動してな。なんとか強引にでも、カイジ達の気持ちを味わいたいと思った」

フクタ「だから、おれ達もひたすら体力と精神力を消費する挑戦をしたいと思ったんだよ。それこそ、死ぬくらいにキツイヤツを」

オレ「それで結局、数ある運動の中でも相当に体力消費量が激しいっていう《水泳》を選んだわけだ。しかも遠泳5000メートルね」

フクタ「本当は全長5キロの海峡を渡るくらいのことがしたかったけど、おれ達の場合マジで死にそうだからやめた。だからプールにした」

オレ「救いだったのは、オレ達はヤバイくらい体力ないけど、カナヅチじゃなかったってことだな(笑)」

フクタ「カナヅチではないけど、結局25メートル泳いだら息切れするくらいだけどね」

オレ「でもだからこそ、そんなオレ達が遠泳5000メートルに挑戦しなきゃカイジにはなれなかったんだよ」

プッチ「お前らはカイジになりたかったのか(笑)」

フクタ「むしろプールでさえ、一度も休まずに5キロ泳ぐなんてマネしたら気絶する可能性があったから、プッチに付いてきてもらったんだろ」

オレ「ああ。プッチはライフセイバー役だったね(笑) あと、5000メートルをしっかり数えてもらう役」

プッチ「でも結局ナツキ達は、自分できちんと数えてたよね。5000メートル」

フクタ「実際に挑戦を始めると、もうそれくらいしかやることないからね。水中で考えることがない」

オレ「むしろ、そういう部分もかなり《鉄骨渡り》ぽかったよ。ひたすら青い闇の中で、ただただ何時間も泳ぎ続ける…って雰囲気が」

プッチ「結局5000メートル泳ぐのに何時間かかったんだっけ?」

オレ「延長料金をけっこう払ったからな…。やっぱ5キロだから、5時間くらいか? いや6時間だったかも…」

フクタ「おれは6時間だった気がする」

オレ「ともかく…マジで数年ぶりに運動したオレ達が、結局2人とも5キロ泳ぎきったわけだろ? それが凄いというか、人間の底力を実感した」

フクタ「むしろ体力に自信あるヤツだって、5キロは無理かもしれないだろ。だけど死ぬ気になれば、おれ達でさえできたんだよな」

オレ「つまり、もし普通のヤツが死ぬ気になれば50キロくらいは泳げるかもしれないってことだな。体力はオレ達の10倍だとして(笑)」

プッチ「でも、今はそうやって笑い話にできるけどさ…。実際に5キロ泳ぎきったあの日の帰りは、2人とも相当ヤバイ状態だったぞ」

オレ「それは解る。ってか、フクタとお互いの顔を見て解った」

フクタ「色々な部分が真っ青だったよな。紫というか」

オレ「唇だけじゃなくて、顔面が全体的に蒼白っていう言葉はああいうのを指すんだろう(笑)」

プッチ「それに2人とも、言ってることがおかしかったもん。息切れしてるくせに、無理に喋ろうとするから」

オレ「なんつーかアレは、もはやテンションが変になってたんだろう…。でも確かに当日を思い出すと、色々メチャクチャ言ってた記憶があるぞ…」



  ―― ◆ ――



1年前。

オレ「はぁ…はぁ…」

フクタ「はぁ…ゲフッ! はぁ…」

プッチ「お前らプールの建物出てからずっと、はぁはぁ言い過ぎだから。いくら5キロ泳いだ後だっていっても」

オレ「はぁ……はぁ……。何言ってるんだプッチ……。ステラたんハァハァなんて言ってねぇぞ……はぁ……」

プッチ「いや、ソレはおれも聞いてないから! しかもステラってどのステラだよ!」

オレ「はぁ……『SEED』でも……『レジェンディア』でもなく……はぁ……『ヴァンパイア』のステラさんだったらどうしよう……はぁ……」

プッチ「いや、どうもしないって! そもそもプール出てから30分くらい経つのに、そろそろ息切れ収まってもいいだろお前ら!」

フクタ「はぁ……そんな簡単に……収まるか……はぁ……。うちはの力をなめるなよ! ……はぁ……」

プッチ「なんでいきなりサスケなんだよ!?」

フクタ「サスケじゃねぇ……《うちは》だ……」

プッチ「《うちは》はサスケだろ? それともイタチか?」

オレ「ち、違う……はぁ……《外派》じゃなく《内派》って意味だ……はぁ……インドア派って意味の……オレとフクタの造語だ……はぁ……」

プッチ「そんな難しい暗号わからねぇよ!!」

フクタ「はぁ……はぁ……。なぁナツキ……はぁ……泳いでる間、何を考えてた……? はぁ……」

オレ「オレは……はぁ……途中から頭の中で……はぁ……最初から始めた『ドラクエ3』をクリアしたぞ……はぁ……」

プッチ「どんな妄想だよ!」

フクタ「そうか……はぁ……。おれは、途中から……はぁ……『カイジ』のあのシーンを思い出してた……はぁ……」

オレ「あのシーンって……はぁ……あのシーンか……! はぁ……」

フクタ「そうだ……57億のあかり! しかし、打とう! 確かに伝わることがひとつ!!」

オレ「そうか……はぁ……あのシーンをお前は……水中で再現してたんだな……!」

フクタ「はぁ……! これでおれは……カイジになったんだ……! はぁ……!!」

プッチ「とりあえず2人とも無理して歩いてないで、しばらくどっかで休もうぜ」



  ―― ◆ ――



オレ「ふぅ……」

プッチ「おっ、そろそろ落ち着いたか?」

オレ「ああ、なんとかな……。でも息切れは収まったが、スッゲェだるいんだが……」

フクタ「おれも……」

オレ「あっ、そうだ…忘れてた。今日出かける前に、フクタと準備しといたんだっけ」

プッチ「準備って何を?」

オレ「ほら、コレだよ」

プッチ「ん? 500円玉?」

フクタ「違う! 500ペリカだ!!」

オレ「今日これから使っていいのは、この500ペリカだけだ…! この500ペリカで、オレ達は水泳の疲れを癒すモンを買って食うんだ!」

フクタ「3人で500ペリカ使って、それでようやく企画終了だな…!」

プッチ「そうやって使う金を制限するのも『カイジ』風なのか(笑) …でも3人で500円…じゃなくて500ペリカで、何を買うんだ? おにぎりとか?」

オレ「何を言ってるプッチ! そんなの決まってるじゃないか!」

フクタ「500ペリカで、おれ達は焼き鳥を買うっ!!」

プッチ「あ、なるほど」

オレ「というわけで、行こう! 出かける前に、焼き鳥屋の位置はチェック済みだ!!」

プッチ「準備が良いな(笑)」



  ―― ◆ ――



30分後。

オレ「ふぅ〜、やっと家まで帰ってきたぁ〜〜!」

フクタ「ふぅ、疲れた……。さすがに今日は、ちょっとゲームやったら帰るか……」

オレ「おっと、だがその前に…まずは、この買ってきた焼き鳥を食わなければ!!」

フクタ「おう、それはもちろんだぜぇ! この焼き鳥をさ、そこのレンジでチンしてホッカホッカにしてさ、冷たいコーラでやりたいんだよ!!」

オレ「そこはビールじゃなくコーラだけどな(笑) だがそんなの関係あるか! とにかく食うぜ!!」

プッチ「ほら、もう温まったみたいだぞ。500ペリカで6本…1人2本だけど」

オレ「プッチ、今日は5000メートル泳いだ特別な日だ、だからちょっとくらいの贅沢はいいか…違う! そういう考え方がもうダメっ!」

フクタ「もうダメ、泥沼! バカ丸出しで班長に笑われるのが関の山だぜ!」

プッチ「班長……」

オレ「たとえ1人2本でも、食ってみろよコレを!! う…うまいっ! 犯罪的だっ!!」

フクタ「涙が出る! ぐうっ、本当にやりかねない…焼き鳥1本のために強盗だって!!」

オレ「そしてこのコーラ! これがまた、たまらない! かぁっ! キンキンに冷えてやがるぜ!!」

プッチ「2人とも、なんか元気になったな(笑)」

フクタ「カイジが給料日を迎えたときも、こんな気持ちだったのか…。これなら解る! 2日続けての豪遊も、猛省するけど理解できる!!」

オレ「クク、バカ丸出しだなフクタ」

フクタ「これには抗えないっていうか、多分無理…ていうか不可能……」

オレ「いきなり『堕天録』のネタに早変わりか(笑)」



  ―― ◆ ――



そして現在。

オレ「ともかく、あのときは本気でカイジ世界を心から体感したよなぁ…」

フクタ「ああ。アレ以来おれは、水泳したら絶対に焼き鳥食うと心に決めたね。まぁ、あれから一度も水泳とかやってないけど」

オレ「そういえばさ…この前オレはプッチと2人で、リアルチンチロやったんだけど」

フクタ「なるほど」

オレ「でもさすがに、アレは『カイジ』みたいな緊張感を出せなかったわ(笑)」

プッチ「罰ゲームとして激辛唐辛子せんべいは用意したけど、それでもあんまり効果なかったね。負けたときの恐怖みたいなモンがなくて」

オレ「やっぱりチンチロは、地下でやるに限るね!」

プッチ「地下ってどこだか知らないけどな(笑)」




――マンガとして読んで楽しいだけじゃなく、現実生活にまで影響を及ぼす『カイジ』。その魅力はやはり凄まじい。

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