第三十九話:電波というか、芸人根性というか

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【今回の登場人物】

プッチ:オレ達メンバーを代表する《電波キャラ》として名を連ねる男。趣味は深夜アニメ録画で、ビデオ・DVDがダンボールで数箱分溜まっている。

オレ:プッチとの付き合いは古く、小学校低学年あたりからの親交がある。暇人同士として、つるむ機会もかなり多い。

トシ:プッチとの付き合いは小学生から。最近は、プッチの電波行動に突っ込みを入れる役回りになっている。

  ――― ■■■ ―――



トシ「ところでさ…プッチって、いつから電波になったんだっけ?」

オレ「電波キャラってこと? そうだなぁ…思えば高校くらいまでは、電波というよりむしろ《常識人》って感じだったもんな」

トシ「でもそれが、いつの間にか《プッチは電波》っていうイメージに変わってたからね」

プッチ「もうおれは、電波で確定かよ(笑)」

トシ「プッチ、それは《キャラが立った》ってことだから、むしろ誇らしいことだよ」

オレ「だな。トシは《ツケコミ》でフクタは《チキン》、そんでプッチが《電波》ってことで(笑)」

プッチ「ロクなモンがないじゃん!」

オレ「ともかく…そうは言うけどトシ、昔からプッチには《電波》の素養があった気がするぞ」

トシ「確かにね。むしろ今になって思い返すと、色々やっちゃってるよね、プッチって」

オレ「ああ。電波かどうか判別がつかない行動もあるが、少なくとも普通じゃないマネは色々やってるな(笑)」

トシ「屋根の上で《しゃちほこ》みたいなポーズ取ってたよね」

オレ「ああ、やってたな。かくれんぼのとき、プッチだけ見付からなくてどこ行ったんだ? とか思ってたら、家の屋根の上に座ってたっていう(笑)」

プッチ「でもあの場所は、かなり見付かりにくい死角だよ」

オレ「そりゃ確かに、かくれんぼ的には大成功だったかもしれないけどさ…」

トシ「ただ絶対、あそこまでやる必要ないだろ!」

オレ「そもそもアレだ。実はプッチって、生まれながらにしての電波だったんじゃないの?」

プッチ「な、なんでいきなり!?」

オレ「だってよ、プッチ…。そもそもプッチが《電波》って呼ばれるようになったのは、やっぱ『マザー』が原因なんじゃないのか?」

プッチ「ああ……考えてみればそうだったかもしれないけど……」

トシ「『マザー』の話って何だっけ? 俺はよく知らないんだけど」

オレ「あ、お前は知らなかったっけ? とりあえず5年前くらいだったか…オレとフクタとで、急にファミコンの『マザー』やり直したくなって」

トシ「ああ、うん」

オレ「そんでオレも持ってるんだけど、そのときはちょうど見付からなくてさ。だから周りの誰かから、ソフト借りようと思って」

プッチ「そんでおれが、家から持ってきたんだよ。ファミコンの『マザー』を」

トシ「『マザー』ってプッチも持ってたのか」

プッチ「うん。だけどアレは小学1年生くらいに買ったソフトだから、難しくて全然プレイしてなかった。そんで10年くらい放置してあった」

オレ「だからオレんちに持ってきたとき、ソフトがホコリ被ってたもんな(笑) そもそもきちんと起動するのかさえ不安だった」

プッチ「でもちゃんと付いたし、オマケに昔おれが作ったデータまで残ってたんだよね」

トシ「ああ。でもデータ残ってたってことは、一応ちょっとはプレイしたのか」

オレ「いや違う。本当に《名前だけ》残ってた…って感じだ」

トシ「名前だけって?」

オレ「『マザー』に限らないけど、RPGをスタートして主人公達の名前を決めた後、一番最初のセーブポイントに到達する前にリセットするんだよ」

トシ「うん」

オレ「するとゲームによっては登録した名前だけ残ってて、そのデータで再開すると普通にオープニングから始まる…って現象があるっしょ」

トシ「ああ、俺も経験あるわ。つまり、名前登録の手順だけが省略されるんだよね?」

オレ「そういうこと。つまり小学生のプッチは、名前だけ決めてそこで飽きたってことだろうな」

プッチ「一番最初のマネキン人形が怖くて、リセットしたのかも(笑)」

オレ「まぁ普通だったらそのデータは消去して、自分達で名前を決め直して始めるところなんだけどさ…。アレにはそれが無理な理由があったね」

トシ「無理ってなんで?」

オレ「無理というより、メチャクチャ気になったというか…。つまりさ、その《主人公の名前》がブッ飛んでたんだよね(笑)」

トシ「普通に《プッチ》とかじゃないの?」

オレ「プッチはプッチなんだけど…。『マザー』は6文字まで入力できるだろ? だから名前が《プッチあたま》だった」

トシ「は? なんだって?」

オレ「だから《プッチあたま》だよ」

トシ「いや《あたま》って何だよ!?」

オレ「オレが知るか! そこにいる本人に聞け!」

プッチ「といっても、おれ自身も覚えてないんだよ。なんであの名前にしたのか…全然記憶がなくて」

オレ「しかもそのデータをちょっと進めて、ママに料理作ってもらったら、その料理の名前が《プッチ》だった」

トシ「ん? 意味が解らないんだが…」

オレ「つまり昔のプッチは、《好きな献立》って項目を自分の名前にしてたんだよ。主人公が《プッチあたま》で、食い物が《プッチ》」

トシ「説明されたらされたで、もっと意味が解らねぇよ!!」

オレ「ママに話しかけたら、《あなたが好きなプッチを作るわ》とか言われた。どこのホムンクルスだよソレ(笑)」

プッチ「《プッチあたま》が《プッチ》を食ってパワーアップするとか、けっこうシュールだよね」

トシ「自分で言ってちゃ世話ないだろ!」

オレ「ともかくその名前が判明したからには…もう、オレもフクタも気になって仕方なくなっちまってな」

トシ「何が?」

オレ「つまりロイドとかアナとか…他キャラの名前だよ。主人公と献立のネーミングセンスを見ただけでも、スゲェ気になるだろ(笑)」

トシ「それは確かに。他はどんな名前なんだ!? とか思うよね」

プッチ「おれも10年以上前の話だから、自分がどんな名前付けたかなんて完全に忘れてたからね。《プッチあたま》さえ覚えてなかった」

オレ「だから、どうせプッチのデータも最初からなんだし、他キャラの名前を知るためにそのデータを進めてみることにしたんだよ。オレ達は」

トシ「なるほど。自分達で新しく作るんじゃなくて…ってことか」

オレ「主人公が《プッチあたま》とか電波なネーミングセンスなんだから、他キャラも相当なもんだろうと思ってな…そしたら、予想以上の結果だった」

トシ「ええと…仲間は主人公以外に3人だよね?」

オレ「そうね。…とにかく、まず1人目のロイドが《けいた》って名前だったことにビックリした」

トシ「《けいた》って誰?」

プッチ「多分、おれの従兄弟の名前から取ったんだと思うんだけど…」

オレ「でも主人公が《プッチあたま》とかブッ飛んでるのに、2人目が普通に《けいた》だぜ!? そのギャップが意味不明だろ!!」

トシ「むしろそれなら、主人公も普通に《プッチ》じゃないとバランス悪すぎだよね(笑)」

オレ「しかも3人目のアナ…つまり女の子は《ああああああ》って名前だったんだよ。子どもがよくやるパターンというか」

トシ「ああ、『ドラクエ』だったら4文字の《ああああ》みたいな? でも、3人目で既にネタ切れしたのかよ(笑)」

オレ「いや最初は、オレ達もそう思ったんだけどさ。3人目が《ああああああ》なら、4人目は《いいいいいい》か? とか考えたんだけど……」

トシ「でも違ったの?」

オレ「見事に予想を裏切られた。4人目のテディの名前は、《かずみパポペ》だった」

プッチ「《かずみ》ってのは、おれの妹の名前ね」

トシ「いや、それは知ってるけど…。でも《パポペ》って何だよ!? つーか何語だよ!?」

オレ「それはまぁ……神のみぞ知るってヤツ?」

トシ「大体3人目は女の子なんだから、妹の名前付けるならせめてそっちだろ。なんで3人目が《あああ》で4人目が《かずみ》だ!? しかも《パポペ》って!」

オレ「《プッチあたま》《けいた》《ああああああ》《かずみパポペ》って…どんだけ脈絡のカケラもねーんだよコレは!!」

プッチ「おれ自身も、何をどんな風に考えていたのか解んねぇ(笑)」

オレ「とにかくあの事件っていうか出来事が、プッチは電波だっていう法則を生み出した最初の要因だね」



  ―― ◆ ――



トシ「そういえば、プッチといえば例の武勇伝も思い出すね。タイちゃんとの『ぷよぷよ』バトル」

オレ「ああ、アレか(笑) タイちゃんとのパズル対決だと、姉ちゃんとの『ドクマリ』合戦と並ぶインパクトだったなアレは」

トシ「そもそも、何が原因でああいう勝負の話になったんだっけ?」

プッチ「とりあえず《タイちゃんはパズル上手くて誰も勝てないよ》って話になってたから、それならおれが挑戦してみようと思ったんだよ」

オレ「でもプッチは、そこまでパズルファンってわけでもなかったよな?」

プッチ「うん。だけどそんなおれでも、何回も挑戦したらマグレで勝てたりするのかな? ってことを実験したかった」

オレ「まぁ、野球とかも強いチームが100パーセント勝つわけじゃないしな」

トシ「そういう意味だったら、そりゃずっと挑戦し続ければいつかは勝てるかもしれないけど…。でもアレは、正直やり過ぎだろ!」

オレ「最初は《プッチが無謀にも、『ぷよぷよ』でタイちゃんに挑戦!》とかいってみんな盛り上がったけど…それが2時間とか続くとな(笑)」

トシ「だから最後の方は、全員が興味なくして別のゲームとかやってたよね。付き合わされたタイちゃんが一番迷惑だよ」

プッチ「それはそうかも(笑)」

オレ「そもそも『ぷよぷよ』って、対戦で勝った数を表す《星》があるじゃん。そんで、小さい星が10個になったらデカイ星になるでしょ?」

トシ「ああ、うん」

オレ「だけどオレは、あのとき初めて知ったね。《デカイ星が10個溜まったら、更にデカイ100勝分の星になる》ってことを(笑)」

トシ「というか、それだけ続ける根性は認めたいけど……結局、プッチは何試合目に勝ったんだっけ?」

オレ「ああ、それなら昔の日記に記録が残ってたぞ。どうやらプッチが勝ったのは107試合目。戦績は《1勝106敗》だ(笑)」

プッチ「うん、そのくらいだったかもね」

トシ「むしろ10回くらい負けるたびに、色々新しい戦法とか試してたよね」

プッチ「ハーピーの左右積みを真似してみたり、カエル師匠の積み方を真似たり、何も考えずにひたすら積んでみたり……」

トシ「一番酷いのはアレだろ、タイちゃんの積み方をコピーして同じ大連鎖を狙う戦法!」

プッチ「最初は《これで、うまくやれば勝てるんじゃね!?》とか思ったけど、タイちゃんの積みが早すぎて全然追いつけなかったからね(笑)」

オレ「でもまぁ、あのタイちゃんに《一度でも勝った》ってことは単純にスゲェよ。しかも100回以上対戦して」

トシ「アレは腕がどうのっていうより、タイちゃんの体力と精神力を消耗させた結果の根気勝負だった気がするけど」

オレ「まぁな。だけど、それでも凄いのは確かだろ。例えばタコッチやカムと『スマデラ』やったって、さすがに5回に1回くらいは勝てるだろ(笑)」

トシ「そういう意味だったらね。パズルはアクションや格ゲーと違って、運より実力が占める比率が高いってことでしょ」

オレ「だから、たとえ体力の浪費を狙う兵糧攻めであったとしても、とりあえず《実力で勝った》って事実は変わらないからな」



  ―― ◆ ――



トシ「でもこの前、久しぶりに会ったタイちゃんとあのときの話になったんだけど、そのタイちゃんが言ってたぞ」

プッチ「何て?」

トシ「《あれだけ勝負を挑んできたのは、後にも先にもプッチ一人だけだった。ある意味尊敬するよ》って」

オレ「そりゃ、そうだろうな(笑)」




――さすがプッチ! オレ達にできないことを平然とやってのける! そこに憧れはしないけど、シビれるゥッ!!

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