第四十五話:議論って……面白っ!

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【今回の登場人物】

オレ:世間で「ネタアニメ」「ネタマンガ」と呼ばれるタイプの作品も、自分の趣向に合いさえすれば心から楽しめるタイプ。

カム:「ネタアニメ」や「ネタマンガ」も嫌いじゃないが、そこまで好きでもないタイプ。ネタ要素が増えると、熱が弱くなったりも。

マーク:「ネタアニメ」「ネタマンガ」は、基本的に好きになれないタイプ。しかしそこには、様々な理由があるのであった! 本文参照。

  ――― ■■■ ―――



オレ「ネタマンガって言葉もあるけど、ネタアニメって言葉もあるよな。まぁ当然の話だけど」

マーク「マンガがアニメに変わっただけだしね。ネタゲーって言葉もあるくらいだし」

オレ「ただネタゲーってのは、けっこう挙げるのに困るが(笑) なんだろう…『ペプシマン』とか?」

カム「いや2周目以降の『サイレン』でしょ」

オレ「ああ、そういえばソレがあったか(笑) 他には例えば…『クロックタワー3』なんかもそうか?」

カム「キィヤック! だからね」

オレ「ただ『ペプシマン』にしろ『サイレン』にしろ『クロック3』にしろ、全部面白いゲームなのは間違いないが」

カム「だね。ネタゲーだから面白いってだけじゃないし」

オレ「むしろナニゲーだから面白い…ってのも変な話だからな。オレにとっては《面白いから面白い》で十分だ(笑)」

マーク「そもそも《ネタゲー》の定義が決まってるわけでもないしね」

オレ「そりゃな。だから使い方には注意したい言葉だと思う。少なくとも否定的な意味合いで使いたい言葉じゃないな」

マーク「真面目に楽しんでるファンもいるからか」

オレ「まぁ…それも理由のひとつだ。少なくともゲームを馬鹿にする意味で《ネタゲー》って言葉を使うのは嫌いだよ」

マーク「そういう意味じゃ、《クソゲー》ってのも必ずしも否定的ってわけじゃないからね」

オレ「《クソゲーだから面白い》っていう言葉があるくらいだしな(笑) 『たけしの挑戦状』とか、『スペランカー』なんかもそう言われるのか?」

マーク「『スペランカー』をクソゲーって言うのは、それ自体がネタみたいなモンだろうけど」

カム「というか『スペランカー』こそ、クソゲーよりネタゲーって言葉が合ってるんじゃね?」

オレ「そういうことなら『たけしの挑戦状』もネタゲーかもな。どっちにしろ、クソゲーもネタゲーも厳密な定義なんかねぇだろうが」

マーク「ネタマンガとかネタアニメって言葉も同じだよね」

オレ「そもそも、考えてみれば《ネタアニメ》ってのも簡単に思い浮かばんな…。代表例としては何だろう?」

カム「『テニプリ』でしょ」

オレ「ああ(笑) あとは何だ……例えば『SEEDデス』なんかもそう言われるな」

カム「それとネタっていったら、やっぱ劇場版の『コナン』でしょ!」

オレ「そういえば、『コナン』っていう最終兵器があったか(笑) むしろアレはネタというより、《天丼》系だろ」

マーク「『コナン』の映画ってそうなの?」

オレ「いやまぁ、それこそ本当に《ネタ》なんだけどね。オレ達が勝手に観て笑ってるというか」

カム「オープニングの流れが、どの映画でもほとんど一緒っていうトコロが無性に笑える」

オレ「というかオレとカムって、いつも一緒に劇場版観てるじゃん?」

カム「うん」

オレ「だから多分、あそこの台詞ならソラで言えるんじゃねーか(笑)」

カム「もしかしたらね。2人の記憶を合わせれば多分イケるかも」

マーク「というか、あそこの台詞ってどこの話? むしろおれは、『コナン』あんま観てないんだけど」

オレ「ああ、つまり映画版は、子どもを映画館に連れて来る親とか…『コナン』に詳しくない人も観に来るわけじゃん」

マーク「うん」

オレ「だから『コナン』に限らずだけど、映画の場合最初にちょっとした《アニメのストーリー説明》が入ることが多いわけで」

マーク「ああ、なるほど」

カム「《俺の名前は工藤新一。東の名探偵と呼ばれる、高校生探偵だ》で始まるんだよね。新聞記事の絵と一緒に」

オレ「そんで《ある日幼馴染の蘭と遊園地に遊びに来たオレは、怪しい黒ずくめの男達の取引現場を目撃!》」

カム「《取引に気を取られていた俺は、背後から近付くもう一人の仲間に気付かなかった!》」

オレ「《頭を殴られ気絶したオレは怪しい薬を飲まされ……目を覚ますと!》」

カム「コホン…《カラダが縮んでしまっていた!》」

マーク「そこは裏声なのか(笑)」

オレ「んで、一通り終わると次はコレだ。《そこで、阿笠博士が作った探偵グッズをいくつか紹介しよう!》」

カム「あとは登場人物紹介ね。《このマヌケな顔したオヤジが、自称名探偵の毛利小五郎。といっても俺が推理してるんだけどな》とかなんとか」

オレ「とりあえず、そこらへんのノリと流れはどの映画でも全部一緒なんだよな(笑)」

カム「むしろアレって、使い回しだろ!」

オレ「ともかく…あの流れはノリが良すぎて、今はもう《オレの名前は工藤新一!》って最初の台詞を聞いただけでも笑えてくるんだよ!」

カム「だね。最初の頃は《いちいちいらねーよ、こんな説明!》とか思ってたけど、今はアレが無いと『コナン』の映画って気がしない」

マーク「でもなんか…実際に体験してみないと、話を聞いただけじゃナツキ達の言う《面白さ》がよく解らんな」

オレ「まぁ…内輪ネタなんて大体がそんなモンだぜ」

カム「それに俺もナツキも、《何が面白いのか具体的にはよく解らない》のに笑ってるんだしね」

オレ「ああ…そういやこの前さ、マークとオレとで《ネタアニメ》に関するなかなか熱い議論が発生したよな」

マーク「そういえば、そんな話もしたね」

オレ「でもマークの意見は、かなりオレとの違いがあったが…。でもアレは、なるほど面白いと思ったよ」

カム「どんな話したの?」

オレ「そうだな…アレは『ダブルオー』が放送開始したときだから、今から2ヶ月くらい前の話なんだけどさ……」



  ―― ◆ ――



2ヶ月前。

オレ「なぁマーク。今日の『ダブルオー』1話をビデオに撮ってあるんだが、明日トシとかプッチとみんなで観賞しないか? まだオレも観てないし」

マーク「観てもいいよ。まぁおれは、明日の朝にでもニコ動で観るつもりだけど」

オレ「って、朝観るのかよ! …なら、やっぱりやめとくか。2回観てもつまらんだろ(笑)」

マーク「みんなで観ると、周りがうるさくなると思うからさ…。正直、初見は1人で静かに観たい」

オレ「ああ、その気持ちは解る。オレも普通ならそうするけど、明日はちょうど4人集まるって話だったからさ。真面目に観る気なら1人でオッケーだ」

マーク「真面目にって、どういう意味?」

オレ「いやニコニコって言うから、最初からネタとして観る気なのかと思った」

マーク「おれは、基本的にネタとしては観ないよ。真面目に作ってる人に失礼だから」

オレ「なるほど…その気持ちは解らんでもない…というか、オレも基本は真面目に観るが…。ただオレは、逆の考えもあるぞ」

マーク「逆って?」

オレ「つまり《真面目に観る》ことにこだわり過ぎた挙げ句に、作品を《つまらない》と断ずる態度が、どうにも批評主義の考え方にも見えてな…」

マーク「ふむ?」

オレ「作品を心から楽しもうとしているのか? って思うことはあるんだよ。それこそ『SEED』にしろ『テニプリ』にしろ、オレにとっては同じ話で」

マーク「同じ話って、具体的にはどういうことだ?」

オレ「特に『テニプリ』なんか顕著だが、オレにとっては《作品の楽しみ方を追求した》結果が《ネタとして読む》なんだよ」

マーク「真面目に読むんじゃなく…ってことか?」

オレ「要するに、マークなんかは昔の『テニプリ』が好きだったけど、今のノリには付いていけないってよく言うだろ?」

マーク「ああ。それは確かに、おれが《真面目に楽しみたいのに、楽しめなくなった》からだが…」

オレ「でもそんな風に《真面目に楽しもうとしても無理になった》なら、思考を変えて《ネタとして楽しもう!》と思った方が絶対に得じゃないか?」

マーク「得ってのはつまり、《どんな形であっても作品を楽しむことができるから、得》ってことか?」

オレ「ああ。そりゃ真面目に見なくて失礼…って話も解るけど、それで《クソマンガ!》とか言うよりネタとしてでも《楽しい!》って思えた方がいいじゃん」

マーク「でもさ、もしその作品を、制作側が真面目に作っていたとするじゃん」

オレ「ああ」

マーク「だけどそれを見て自分は《合わない》と感じ、その挙げ句《ネタとして見る》って見方は作品をバカにしてないか? 違うか……?」

オレ「ふむ……なるほど……」

マーク「少なくともおれは、《バカじゃねぇの?》みたいな見方はしたくないから、《つまらなかったからネタとして改めて見る》ってことはしないな」

オレ「確かに…言いたいことは良く解る。そこはまぁ《考え方の違い》と言っちまえばそれまでだが…。ただマークには誤解もあるぞ」

マーク「ふむ」

オレ「例えばオレは『SEEDデス』とか『テニプリ』のファンだけど、それを《ネタとして好き》って言い訳で誤魔化したくないわけだ」

マーク「言い訳ってのは、どういうことだ?」

オレ「つまり《ネタとして》って言うと、やっぱネガティブなイメージがあるわけだろ? マークが言ったみたいに《バカじゃねぇの?》とかさ」

マーク「確かに、色々細かい矛盾を見つけて、そこを指摘してバカにする…みたいなイメージはあるな。《ネタとして観る》って言葉には」

オレ「だけどオレの言ってる《ネタとして読む・観る》ってのは、別に作品をバカにしようとか、そういう態度じゃないんだよ」

マーク「つまり?」

オレ「そもそも『SEEDデス』とかは、オレの好きアニメのトップ10にも入ってるんだぜ? バカにしながら観てるものを、そこまで好きになれないだろ?」

マーク「確かに、ネタとして表面的に観てるだけだったら、心から好きにはならないだろうね。《あのアニメ、マジウケるよ!》とか言ってたとしても」

オレ「つまりさ…ちょっと話はズレるけど、マークみたいに《面白く感じられなかったから、この作品は嫌い》って言うなら別にいいんだよ」

マーク「そこは個人の価値観だしね」

オレ「だけど、たとえネタであってもその作品を観て《楽しい!》って気持ちを抱くことはあるだろ? 描写の矛盾とかを指摘して、笑うにしても」

マーク「例えばフリーダムが核爆発起こしてるのに、キラが生きてることに対して《キラ最強wwテラワロスww》みたいな?」

オレ「極論を言えばな(笑) だけど少なくとも、そこでそいつらが《うわ、これ観てて面白い!》って感じてる気持ちは事実だと思うんだよ」

マーク「まぁ確かに、そうかもね」

オレ「だけどそういう人でさえ、一通り笑った後は掌を返して《アレはネタだから、クソアニメだ》とか軽々と口にする状況が気に食わないって話」

マーク「ふむ、なるほど…」

オレ「これも極論だが、ギャグマンガを読んで笑うのはOKなのに、他の作品は笑えても…つまり楽しめても駄目っていう勝手な定理が理解できん」

マーク「確かに、ナツキの話も解るな。それにその部分は、おれの考えてることに近い話だとも思うよ」

オレ「マークの考えてること…ってのは?」

マーク「例えばおれにしたって、観ようと思えば《ネタとして観る》ことは容易にできるし、するときはするんだよ」

オレ「ふむ…」

マーク「でもそこで、ふと我に返ると《あ、今おれはバカにしてたんだな》と思っちゃう。そこはイヤだなぁ、と」

オレ「なるほど、自分の態度とか心が…ってことか」

マーク「視聴者が楽しめればいいという考え、更に《ネタとしても観れるように作っているのかな?》という予測は捨ててないんだ。おれも」

オレ「ふむ、そうか…。むしろこの話の中でオレが思ったのは、マークはきっと《製作者の意を汲もうとしてる》んじゃないか?」

マーク「ん?」

オレ「だからこそ、場合によっては製作者をバカにしてるようにも見える《ネタとして観る》ことが好きじゃないのかも…と予想してみたんだが」

マーク「なるほど」

オレ「つまり製作者が作品を《こういう風に観て欲しい》と考えて作った、その相手の思考を読んで、《その通りに観よう》と努力するタイプなんじゃ?」

マーク「ううむ…」

オレ「対してオレは、仮に向こうが《この作品はこういう風に観て、こういう風に楽しむものです》と定義していたとしても、それを無視するっていうか…」

マーク「無視ってのは?」

オレ「つまり相手の意向よりも、《自分自身が最も面白いと思う見方・楽しみ方》を強引に貫き通すタイプ…ってトコロか。マークと対比すれば」

マーク「そうだな…大体は、ナツキの言ってることでたぶん合ってる。ただし、ひとつだけ違う部分があるな」

オレ「どこだ?」

マーク「おれは《製作者の意を汲んだ》つもりには決してならない。なぜなら、確認が取れない場合が多いからだよ」

オレ「ああ、なるほど…」

マーク「なぜこういうテーマにしたんですか? ナニナニって、こういうテーマを含んでますよね? とかいう細かい質問に対する答えは無いわけで」

オレ「確かに監督や作者が何か話すにしても、大まかな部分しか言わなかったり、あえて細部をボカしたりはするな」

マーク「おれは製作者の伝えたいことを受け取ったんだァァァーー!! …というのは、おれの嫌いなもののひとつ…《シッタカ》に入っちゃうから」

オレ「なるほど(笑)」

マーク「まとまってないけど、なんというか……《笑い》は難しい」

オレ「は?」

マーク「よく思うのは、お笑い芸人がネタをやる。万人が笑わないのは構わないんだ。…でも、そのネタで誰かが傷付いちゃいけないんだよ」

オレ「…なんか話がズレてきてないか? いいことを言ってるようだが、さっきの話と関係あんのかソレ?」

マーク「いや…これはお笑いだけじゃなく、普段の会話でもそうだろうね。これは名言だな……メモメモ」

オレ「聞いてんのかコラ! ともかく、オレもマトメに入るぞ。…まぁとりあえず、マークの話も良く解った」

マーク「うむ」

オレ「だけどマークが《ネタとして観る》ことを嫌うのは、やっぱり《きっと製作者はこうやって観て欲しくはないんだろうなぁ…》と思うからじゃん?」

マーク「まぁ…そうかもね」

オレ「だからこそ、そうやって観ることは製作者に対して失礼だと思って、ネタとして観ることを自粛してると思うんだよ」

マーク「確かにそこは、さっきの話でも出たからな」

オレ「対してオレは、たとえネタとして観る態度だったとしても、そういう楽しみを提供してくれた相手に対して感謝はしてるつもりだから……」

マーク「だから、その部分でおれとナツキの違いが出てるんじゃないかって?」

オレ「まぁ、そういうことだな」

マーク「そうだな……でもまぁ、おれ自身そんな大きな違いとも思ってないけどね」

オレ「そりゃ自分なりの信念や考え方のもと作品を観ている…って点では同じだろうな。あとは、本当に個人差の範疇か」

マーク「そこだよ。《人それぞれ》って、きっとそういうことなんだよ」

オレ「え?」

マーク「《自分なりの信念や考え方のもと作品を観ているって点》だ。《人それぞれ違う》って理解してるなら、それは大した違いではないでしょ?」

オレ「おっ、なるほど……たま〜に良いこと言うな、お前は(笑)」

マーク「オヤジの栄光時代はいつだよ?」

オレ「あ? なんだって?」

マーク「おれは……今なんだよ!」

オレ「いやお前…最後にそういうネタを絡めると、せっかくの感動が台無しになるからやめとけって!!」



  ―― ◆ ――



現在。

オレ「……とまぁ、こんな話があったわけだ」

カム「なんか…シリアスなのかそうじゃないのか、よく判らない話だったな…」




――価値観の違う話題で喧嘩にならず議論を楽しめるのは、まさに厨には不可能な「大人の楽しみ」ってヤツだ(笑)

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