第五十話:覚悟はいいか、オレはできてる

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【今回の登場人物】

オレ:4歳の頃からゲームを始め、それ以来「自分がゲーム・アニメ・マンガファンである」ことを隠したことは一度もない。

プッチ:深夜アニメ録画という趣味が高じ、逆にゴールデンタイムのアニメに面白さを見出せなくなってしまった悲しき男。

フクタ:ゲーマーとしての矜持を大事にする男。「ゲーマーとは何か」という話題で、オレと深夜0時過ぎまで語り合ったこともちらほら。

マーク:己の持論に対するこだわりが強く、悪く言えば頑固者、良く言えばロマンチスト。「格ゲーはスポーツだ」が代表例の持論である。

  ――― ■■■ ―――



オレ「思えば…オレは今じゃ《ゲーマー》って名乗ることが多いわけじゃん」

プッチ「そうなの?」

オレ「いや、お前らの前じゃ特に名乗らんけどな(笑) ただ学校とか、ホームページ上なんかではさ」

マーク「ああ、うん」

オレ「だけど昔は、自分のことをどう呼称するか迷った時期もあったんだよ」

プッチ「どう…っていっても、ゲーマー以外に何かあるの? ゲームファンとか?」

オレ「それもあるが、もっと基本的な呼び方だよ。…いや、そもそも自分の呼称以前に《言葉の定義》が分からなかったんだよな」

フクタ「何が?」

オレ「つまりは《マニア》と《オタク》って言葉だ。何が《マニア》で何が《オタク》なんだ? って話」

プッチ「なるほど。確かに言われてみれば、その分類はよく分かんないね」

オレ「特に高校の頃は、そういう言葉の《厳密な定義とは何か?》に凝っててな。中二病というか、高二病なんだが(笑)」

マーク「まぁでも、テキトーにしとくよりは、きちんと定義を考えた方が深まりはするよね。自分なりにでも」

オレ「ああ。…とりあえず一番最初に考えたのは、単純な《上位下位理論》だったんだよ」

プッチ「なんだソレ? 『モンハン』か?」

オレ「まぁ似たようなモンとも言えるが。つまり《マニア》と《オタク》は同一線上にあって、どちらかがどちらかの上級職みたいなイメージかな、と」

マーク「なるほど。つまり《マニア》がレベルアップしたら《オタク》になる…みたいな?」

フクタ「《マニア》が界王拳なら、《オタク》がスーパーサイヤ人ってことか」

オレ「最初のイメージ的には、そんなのを想像してた。だから《オタク》を名乗れるようになれば、ひとまずレベルアップは終了かなって感じで(笑)」

マーク「でもさ、やっぱ《マニア》と《オタク》って若干ニュアンスが違うよね?」

オレ「だよな。それこそ若さゆえの浅知恵とでもいうか、当時のオレはニュアンスの違いを失念してたわけだ」

プッチ「だけど具体的にどこがどう違うのかは、やっぱり分からなくない?」

オレ「それは、確かにそうなんだよ。ニュアンスの違いを意識することはできても、どこで線引きをするかは難しいような気もしてな」

マーク「少なくとも、まだ自分なりの理論も構築できてない…ってことか」

オレ「ああ。そりゃオレだって、例えばステレオタイプ的な判別法ならいくつか知ってるんだよ。要するに、他の人が考えた理論なら」

プッチ「ん? どういう意味?」

オレ「つまり、こういう話題に関しては人の意見をいっぱい聞いて、とりあえず色んな考え方に触れてみるのが答えを模索する常道だからな」

フクタ「だから、自分じゃなく他人の考え方とか判別法なら何個か知ってる…ってことか」

オレ「例えば高校なんかでは、こんな意見を聞いたぞ。つまり《マニア》ってのは《ただの物好き》だってんだよ」

プッチ「じゃあオタクは?」

オレ「オタクは《女キャラがプリントされたTシャツに汚れたジーパンを履き、デカイ紙袋の中に同人誌を万単位で買い込む汗ダクのデブっちょ》だと」

フクタ「はい?」

マーク「つまり、俗に言う《アキバ系》ってことね…」

オレ「ああ。だけど、それこそまさにステレオタイプの最たるモノで。そんな偏った理論があるかよ!! って話じゃん」

プッチ「確かにね」

フクタ「というかその理論を立てたヤツは、実際秋葉原に行ったことが1,2回しかないように思えるんだが」

マーク「むしろ、テレビの見すぎだろソレは」

オレ「ともかくそこまでは酷くなくても、やっぱ《理に適った理論》には出会えなかったんだよな。なるほどと思える理論というか」

プッチ「マニアとオタクに関して?」

オレ「ああ。作品に惚れるのがマニアで、キャラに惚れるのがオタクだ…とかいう話もあったけど、やっぱ説得力に欠けるし」

マーク「そういう表面的な分類じゃ、無理っぽいよね」

フクタ「結局、言葉が抽象的すぎるんだろ。マニアにしろオタクにしろ」

オレ「それは、オレもかなり思う。まぁ…そんなこんなが影響して、今では自称《ゲーマー》に落ち着いたわけだが」

マーク「でも《ゲーマー》ってのも、抽象的って意味じゃ変わらなくないか?」

オレ「ああ、そこは否定しないが。ただゲーマーって言葉は、案外便利なんだよ」

フクタ「何が?」

オレ「要するに《ゲームマニア》でも《ゲームオタク》でも、それを《ゲーマー》って言葉に言い替えたときに違和感が少ないってこと」

プッチ「ああ、なるほど。確かにね」

オレ「むしろオレ個人の自称云々よりも、単純に《マニア》とか《オタク》って言葉を使うこと自体を自粛したって方が正しいかな」

マーク「それは、何でだ?」

オレ「つまりさ、結局その言葉は《人によって受け取り方が大きく違う》わけじゃん。言葉の定義が厳密じゃないせいで」

マーク「ああ、そうだね」

オレ「特に最近はネット上に文章を載せる機会が増えたから、余計に意識するんだが…つまり《そういう言葉》はヘタに使わない方が無難だろって話」

プッチ「そういう言葉って?」

オレ「《マニア》にしろ《オタク》にしろ、他には《萌え》にしろ。言葉の意味が時・場所・人によって千差万別で、固定化されてない言葉」

プッチ「なるほど」

オレ「要はオレ自身が…つまり《オレ自身だけ》が、仮にきちんと言葉の定義を決めていたとしても、意味ないと思うんだよね」

フクタ「どういう意味だ?」

オレ「そうだな、解り易い例を出せば……例えば《クソゲー》って言葉があるじゃん」

フクタ「ああ」

オレ「《クソゲー》って言葉も、使う人によって意味が大きく違うだろ?」

マーク「メチャクチャ否定的な意味で使う人もいれば、ネタみたいな感じで肯定的に使う人もいるからね」

オレ「そうだな。だけど逆にいえば、世間一般での意味は固定化されてなくても、人によって《自分なりのクソゲーの定義》はあるわけじゃん」

プッチ「それこそ、おれはこの言葉を肯定的に使ってる! みたいな感じで?」

オレ「そう、ソレだ!」

プッチ「え?」

オレ「要は《自分がどう考えるか》はこの際重要じゃないと思うんだよ。その言葉を、《人がどう受け取るか》の方が大事ってこと」

マーク「ああ、なるほど。なんとなく言いたいことは解った」

プッチ「ん? なんかよく分かんない」

オレ「例えばだ。特に顔の見えないネット上なんかで、《このゲームはクソゲー!》みたいに言ってる人がいるとして」

プッチ「うん」

オレ「それに対して、その作品のファンが苦言を弄したとしよう。《クソゲーとか言わないでくださいよ!》みたいに」

プッチ「うんうん」

オレ「でもクソゲーって言った当人からしてみたら、実は《自分的には肯定的な意味で、その言葉を使っていた》とする」

マーク「だから《なに言ってんですか? これは褒め言葉ですよww》とか返したとする…だろ?」

オレ「ああ(笑) だけど、オレ的にはそれが卑怯というか…ちょっとばかしズルい気がするんだよな」

プッチ「なんで?」

オレ「事前に《ここでいうクソゲーとは、これこれこういう意味で、否定的な意味ではありません》って注意書きがあるならともかく、そうじゃないとして」

プッチ「うん」

オレ「すると、いくら本人が《けなしてるわけじゃない》とか思ってても、《クソゲー》って言葉の性質上万人がそう受け取ってくれるわけじゃないだろ?」

フクタ「確かに。むしろ否定的な意味だと思う人の方が多いだろうね」

オレ「更に補足するなら《否定的に感じる人もいるだろう》ってことは、十二分に予測範囲内だってことだよ。予測できないのはガキだけで」

プッチ「なるほど」

オレ「だからこそ、定義とか意味が曖昧な言葉を軽々しく使うことは、常に《何かしらの誤解を生む》リスクを背負ってるわけだ」

マーク「だろうね」

オレ「そこでさっきの話に戻るけど、《マニア》とか《オタク》に関しても同じことが言えるだろ?」

フクタ「自分が意図していた意味と、違う風に受け取られちゃうかもしれない…ってことか」

オレ「ああ。そりゃどんな言葉でも曲解しようと思えばいくらでもできるが、わざわざ曲解され易い言葉を選んで使うこともない…って話だな」

プッチ「なるほどね」



  ―― ◆ ――



オレ「ただ、話はちょっとズレるが……マニアにしろゲーマーにしろ、内弁慶やらネット弁慶が多い現状に憂いを感じるんだが」

プッチ「何が? 実際は知識ないのに、知識あるように見せてる…ってこと?」

オレ「いやいや、そうじゃなくてさ。別に知識はあるんだよ、普通に」

プッチ「じゃあ、何?」

オレ「つまりネット上なんかじゃ《オレはこんなにマニアなんだぜ!》とか《こんなにやり込んでるんだぜ!》とか自慢してるんだが……」

マーク「実際、現実だとカミングアウトしてない人も多いってこと?」

オレ「そう、察しがいいな。そもそも自分がマニアだったりゲーマーだったり…ってことを誇る気持ちがあるんなら、ソレを隠す理由は皆無じゃないか?」

マーク「確かに……理屈だったら、そういうことになるね」

オレ「自分で、自分がオタクだってことを恥ずかしいと思ってるなら隠すのも解らなくはないが。でもそうじゃなかったら行動が矛盾してるだろ」

フクタ「隠さなきゃならない程度の趣味だったら、ゲーマーなんてやめちまえと思うけどね」

オレ「そりゃ言い過ぎかもしれんが(笑) だがオレも、フクタと似たような気持ちはある。自分の趣味を公表さえできないんじゃ、やってらんねぇよ」

プッチ「誇りの話になるのかもね」

マーク「誇りって?」

プッチ「つまり自分の趣味に誇りを持ってたら、隠す必要なんかないじゃん。でも誇りが無くて後ろめたいから、隠すんでしょ?」

マーク「それを隠してないと、仲良くなった友達が離れていっちゃう! とかだろ(笑)」

オレ「そう、ソレだよ。ソレが一番、意味解んねぇと思うんだが」

マーク「え、何が?」

オレ「だからオタクだとかゲーマーだとか…って話をカミングアウトしただけで、友達がいなくなるわけないだろ! どんな薄っぺらい友情だよ!!」

フクタ「趣味の違いなんざ、誰にだってあるのにな」

オレ「例えば、マークは『テニプリ』とか嫌いじゃん」

マーク「まぁ嫌いっていうか、好きになれないというか……」

オレ「でも、そこでオレが《今まで隠してたけど、オレは『テニプリ』好きなんだよね…》とか言ったら、その時点で絶交ってか? あり得ないだろ!」

プッチ「でもまぁ…周りにゲームとかの話できる人がいなさそうだったら、やっぱ公表するのも恥ずかしいのかもね」

オレ「そうか? オレは高校時代、周りが全くそんな雰囲気じゃないのに普通に公言してたぞ」

マーク「そんな雰囲気じゃない…って?」

オレ「つまりスポーツとか好きなヤツだらけだから、昼休みとか《教室にオレ一人が残ってて、他の全員はグラウンドに行ってる》なんてザラだったし」

プッチ「いや、それは悲しすぎるでしょ!」

オレ「いや、趣味が違うんだからそうなるのも当然だろ? つーか、そういう状況になるのが怖くて公言できない…とか、精神力が弱すぎるだろうが!」

マーク「でもさ…クラスに一人もゲームとかアニメ好きがいないってのも、かなりレアなんじゃないか?」

オレ「ああ、それはオレも思ってた。さすがに、オレ以外に一人くらいはいてもおかしくないとは予想してたんだが…」

プッチ「それこそ、公言できないでいるヤツがいたのかもしれないね」



  ―― ◆ ――



オレ「結局は…サッカーを好きなヤツがいて、芸能人を好きなヤツがいて、ゲームとかアニメを好きなヤツもいる。そんだけの話だろ?」

フクタ「それを特殊なモノだと思うのがおかしいんでしょ」

オレ「むしろオレは、オレ達の同類…つまり《ゲームマニア》だとか《アニメオタク》の言い分にも苦言を弄したいんだが」

マーク「何がだ?」

オレ「いや…なんか人によっては、ゲームとかに詳しくない人を《一般人》とか言うだろ? もはや通例みたいになってはいるが」

プッチ「ああ、うん」

オレ「アレを聞くと、どうにも《調子に乗るな》って言いたくなる。そんなの選民思想もいいトコじゃないか」

マーク「アイツらが《一般人》で、おれ達が《特別な人間》なんだ…ってか」

フクタ「そういう意味なら、確かにね。ニュータイプとオールドタイプみたいなモンか?」

オレ「あるいは、自分達を卑下する意味なのかもしれんがな。だがどちらにしても、自分達を《普通》だと思えない・思ってないのが悲しいって話だよ」




――そもそも、「アイドルマニア」もいれば「釣りオタク」もいる。「マニア・オタク」ってだけで、ゲームやアニメしかイメージしない時点でおかしいんだ。

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