アニスちゃんのラブラブ大作戦3 〜作戦準備!〜





















(まったく、ティアのやつ……。いっつも俺を子ども扱いして……っ!)


昨日のことを思い出しながら、俺はもやもやした気分で屋敷の廊下を歩いていた。

バチカルに滞在を始めてから、もう何日かが経っている。屋敷の中はとても静かで、城下町の賑わいなど全然感じられない。

そういえば、今日の日付にはどこか聞き覚えがあった気がしたけど……なんだったろう? 思い出せない……。

だけど、そんなことより。今の俺は、別のことを考えるので頭がいっぱいになっていた。


(俺だって……。俺だって、自分が子どもだってことくらいわかってるんだ……)

だけど俺は、そんな自分をティアに指摘されることが、なんだかたまらなく恥ずかしくて。


あなたのことをずっと見ている。

そう言ってくれたティアに、俺は、俺の変わっていく姿をきちんと見てもらいたいんだ。

もう迷わない俺を。子どもじゃなくなった俺を。

そうやって、俺はあいつを安心させてあげたい。そしてこれからもずっと、あいつにそんな俺を見ていて欲し―――

って、何を考えてるんだよ、俺はっ!!


頭を左右にブンブン振って、俺は自分の妄想を振り払った。なんだか顔面が熱い……。


とにかくどこかで休もう。そう思い、俺は手近にあったドア――応接室への扉に手をかけようとした。

と。


ガチャ、と音がして、背の高い扉が向こう側から開かれた。ドアの間から、ノブを掴んだ手元が見える。

半分ほどドアが開いたところで、その手の主と目が合った。……なんだ、ガイか。


「おっ、どうした? ルーク。……大丈夫か、顔が赤いぞ?」

「な、なんでもねーよっ!」

俺は、もう一度ぶんと首を振った。そのついでに、応接室の中を覗き込んでみる。


部屋の中には、どうやら俺以外の全員が揃っていたらしい。

今も、廊下に身体を半分乗り出したままのガイ。手前のソファで本を読んでいるジェイド。その隣に座って、何かをパクついているアニス。

そして部屋の一番奥……窓際の席に向き合って座り、お喋りに講じているナタリアとティア。


「ん? どうしたんだ、ルーク」

ガイがこっちを向いて尋ねた。


「あ、いや……。別に、なんでもないんだけど……」

「そうか。…それよりさ、ルーク」

ガイが途端に小声になって、俺の耳に口元を寄せてきた。

「な、なんだよ。ガイ」

「いや……。お前が、今日のプレゼントを用意し忘れてるんじゃないかと思ってな」


(プ……プレゼント……?)

覚えのない単語に、俺は目を白黒させた。


「な…なあ、ガイ。プレゼントって……」

「おいおいルーク、もしかして忘れてるんじゃないだろうな? 今日は彼女の誕生日じゃないか!」

そう言って、ガイが部屋の中を振り向く。同時に、声に気付いたのか、ジェイドとアニスがこちらに訝しそうな視線を向けた。


(誕生日……って、まさか!?)

俺は恐る恐る、部屋の中を再度覗き込んだ。部屋の一番奥、ガイの視線を追った先にいるのは………


(ナ、ナタリアっ!? そういえば……今日はあいつの……っ!?)

驚きすぎて、一瞬開いた口が塞がらなくなった。


「お……おい、ルーク!? まさか、冗談じゃなくて……。本当に忘れてたっていうのか!?」

「うぅ…。ガ、ガイ……。実は俺……本当に――」


本当に忘れてた、と言いかけて。俺はハッと口をつぐんだ。

見ると、こちらを向いているジェイドとアニスが、ニタァとした表情で薄笑いを浮かべているっ!


(ヤバイっ! これはマジでヤバイっ!!)

プレゼントも用意しておらず、あまつさえナタリアの誕生日自体をもすっかり忘れていた俺。

だけどそんなことがあの・・ジェイドたちに知れようものなら、一体どんな脅迫を受けることかっ……。


ナタリアにそれをバラされたくなければ、私の人体実験に付き合ってもらえますか? …そう言って笑うジェイドの顔。

ナタリアにバラさないでって? うん、いいよ! じゃあとりあえず、最初は5万ガルドね! …そう言って片手を差し出すアニスの顔。

それらがまじまじと想像できてしまい、俺は寒気を覚え身震いした。


(だっ……駄目だっ! 少なくともジェイドとアニスには、絶対バレちゃいけないっ!!)

俺はそう心に決め、ともかく体面上の冷静を保とうとした。


「な……なに言ってんだよ、ガイ! プレゼントくらい用意してあるに決まってんじゃねーかっ!!」

ジェイドたちにも聞こえるように、わざと声を強くしてみた。……幸いなことに、奥でティアと会話しているナタリアには気付かれなかったみたいだ。

俺の言葉を聞き、ガイが少しはにかんだような表情に変わる。


「なんだ…ビックリさせるなよ、ルーク。俺はてっきり………」

そう答えるガイに対して、俺は内心で懇願していた。

た、頼むよガイ! 気付いてくれっ! 本当は……本当に忘れてるんだよっ!!

しかしガイは表情を笑顔に変え、俺を更に追い詰めるような追い討ちをかけた。


「いや〜、だけど心配したぞ、ルーク。なにせ女性へのプレゼントを選ぶっていうのは、けっこう大変な作業だからな。

プレゼントを渡す相手と同年代の女性にでも意見を求めないことには、なかなかこれといったものが選べない。

ルークがひとりで決めるには、荷が重いかと思ってたよ」

さらりとそんなことを言ってのける。


ちょ……ちょっと待ってくれよ、ガイっ! それじゃ、今から全速力で何か用意しようにも…それさえ俺一人じゃ無理ってことなのか!?

俺は、自分の血の気がサーッと引いていく音を聴いたような気がした。


(何か方法はないか……。何かっ……!)

ガイはもう、まるっきり俺の嘘を信じ込んでしまったようで、そそくさと部屋の中へと引き返していく。

くそっ、ガイのやつ……お前は何のために廊下に出てきたんだよっ!!

焦っているせいか、どうでもいいことに対してまで腹が立つ。


(とにかく、今からどうにかしてプレゼントを用意するしかないっ……! だ、だけど……)

さり気なく、ジェイドとアニスの様子を伺う。だけど2人は未だ俺の方に顔を向けたまま、その嫌な笑いを止めようとしていないっ!!


(ダ……ダメだっ! とにかく今は、怪しまれないよう自然な行動を取らないとっ……!)

俺は両足の震えを抑えつつ、ガイの後ろに張り付くようにしながら部屋へと入室した。


(どうしよう……。どうしようっ……!)

そう、俺は本気で焦っていた。そして、それはなにも、ジェイドやアニスの視線が怖かったというだけじゃない。


きっと。ただ誕生日を忘れていたというだけなら、まだ良かったんだ。

ナタリアに必死で謝って、プレゼントも後日用意して……。怒られはするだろうけど、恐らくはそれくらいで済むはずなんだ。

……だけど。


(くそっ! 俺はまた、こんな……っ!!)

不意に、脳裏にティアの顔が浮かぶ。

そうだ……俺は、あいつを安心させてやりたいんだ。

だからこんなことで、また子どものような失敗をしてしまうところを、あいつに見せるわけにはいかないっ……!


(だけど一体、どうすれば……!)

どんな僅かなことさえも見落とすまいと、俺は部屋中をぐるりと見渡した。

なんでもいい。何か、使えるものはないか……!?


未だに、ナタリアとティアが会話を続けている窓際のテーブル……。脇に置かれた花瓶……。

部屋の角に設置された食器棚……。その隣にある柱時計……。

ジェイドが座っているソファ……。読んでいる本……。

ジェイドの隣に座ったアニス……。そしてアニスが手を伸ばしている、テーブルの上の………


えっ!?

テーブルの……上!?


俺はそこにある物を見て、はっと息を呑んだ。視線がそこに釘付けにされる。


(もしかして……これが救いの手か!? こ、これを利用すれば!?)


パッと、一筋の光明が見えた気がした。

これならいける。これなら不自然にならない。きっといける!


自らの思い付きを信じ、意を決して、俺は自分が取るべき最初の行動を実行に移した。



「おい、アニス!」



そしてこの台詞を放った瞬間から、俺の壮大な作戦が始まったのだった―――。





































あとがき

本当は全4話にまとめるハズだったのですが、この章に案外文章量を取られ、結局全5話と予定を変更しました。
無駄に長くなってすみませんです(汗)

ともかくここに来てやっと、一応今回の主役(の一方)であるルーク君が登場しました。
とはいえ、活躍しました……とは言えないところがまた(苦笑)

3話も使って、未だタイトルは「作戦準備」なのですが……。
いよいよ次回は「作戦実行」! ちょびっとだけは期待してもらってOKです!(笑)

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