アニスちゃんのラブラブ大作戦4 〜作戦実行!〜
「おい、アニス!」
来た、とうとう来たっ!
私は何食わぬ顔をしながら、内心ではクククとほくそ笑んでいた。そう……ここまでは全て、計画通り!
しかしルークはそんなアニスちゃんの内心に気付きもせず、言葉を続ける。
「さっきから何を食べてるのかと思ったら、それは俺のポテチだろっ!?」
「あっ、ゴメーン! 置いてあったから、つい〜」
問題ない。私の態度は、こんな感じで問題ない。
「まったく、コンソメ味はなかなか見つからないんだぞ。せっかく楽しみにしてたのに……」
ブツブツ言いながら、ルークはわざとらしい動作で、普段からお菓子類をしまっている棚の方へと足を向けた。
ふふふ、ムダムダ! それに、ルークだって自分でわかってるんじゃないの?
「ああっ! それが最後のコンソメだったのかよっ!!」
ルークが言葉を言い終えると同時に、私はテーブルの上に残っていたポテチ……その最後の一枚を口に入れた。う〜ん、おいしっ!
そう、棚の中に他のポテチならまだある。だけどコンソメ味のポテチは、今私が食べ終えたもので打ち止めなんだ!
ねっ! それならルークの取る行動は、もうひとつしかないでしょ?
目の前で、自分が楽しみにしていた最後のポテチが食べられちゃったんだよ。誰だって、そういう行動に出てもおかしくはないっ!
「しょうがないなあ……。アニスを見ていたら、俺も急に食べたくなっちまったし……。
俺、今から街に出て同じものを買ってくる。……なあティア、ちょっと買い物に付き合ってくれよ」
ビンゴっ!!
私は、胸中で盛大にガッツポーズを決めていた。
「ちょっと……買い物くらいひとりで行けないの?」
「い、いいだろっ! 別にそれくらい付き合ってくれてもっ!」
「もう……。仕方ないわね……」
ブツブツ言いながらも立ち上がり、素直にルークの要請に従うティア。
二人は連れたって部屋を出て行き、ドアが閉まる。室内に静寂の空気が訪れた。
「なるほど〜。全て計画通り……というわけですか? アニス」
大佐が、にこやかに話しかけてくる。
「はい、そうです! ここまでは、ですけどね」
そして私も、笑顔で答えた。
そう、ここまでは全てが計画通りに運んだ。
ルークはガイから話を聞き、すぐに今日がナタリアの誕生日だと理解しただろう。
だけど私や大佐に、自分がそれを忘れていたなんてことを、あのルークが教えようとするはずがない。
だからルークはそれを隠す。隠しながら、なんとかしてプレゼントを用意する方法を必死で探そうとする。
ガイから話を聞かされたせいで、ルークはプレゼントを用意するために「女性の意見」を参考にしようとするのも間違いない。
じゃあ、その「女性」とは誰なのか? だけどその答えは簡単。これはもう、ティアしかいないんだ!
ガイが大切だと言ったのは、「プレゼントを渡す相手と同年代の女性に意見を求める」こと。
となれば、ナタリアと5歳も離れている私は必然的に候補から除外される。
ナタリアへのプレゼントを用意するのが目的なのだから、ナタリア本人に声をかけることもない。
つまり残るは……ティアだけなんだ!
だけどルークは、その必然に気付かない。
ルークが求めていたのは、あくまで「ナタリアと同年代の女性」であって、別に「ティア」である必要はなかった。
だからこそ、ルークも自然な形で、意識せずティアを連れ出すことができただろう。
ティアもブツブツ言ってはいたけど、最終的には素直にルークへ付いていくというのも計算のうちだ。
ティアは、いつもルークのことを過剰なほどに気にかけている。ひとりで買い物に行こうとするルークを、放っておくのは不安と考えるだろう。
だけどいつもだったら、ガイがお目付け役を買って出たかもしれない。
しかし今回は、ルークとティア以外の4人は全員グル。ティアが付いて行かない限り、誰もルークに助け舟を出すことはない!
この必然の結果として、ルークとティアは二人で屋敷を出ることになったわけだ。
「いや〜、なんだか面白いようにコトが運んじまったな」
頭を掻きながら、ガイが苦笑を浮かべる。
「ちょっと、まだ作戦は終わってないんだからね!」
そんなガイに対して、私は即座に釘を刺してやった。
「まだ、私たちの役目が全部終わったわけじゃないんだからっ!」
そう言ってから、今度はナタリアに視線を向ける私。
「それで、昨日頼んでおいたこと……。きちんとやってくれた?」
「え? ああ、あれなら言われた通りにしましたわ。少しの間だけですから、向こうも特に問題はないと言ってましたし……」
「了解〜! それなら万事オッケーだよっ! …それじゃあみんな、私たちにはまだ仕事もあるんだし、さっさと着替えてルークたちを追いかけるよ!」
言うが早いか、私は部屋の出口に向かって駆け出していく。
「はぁ……。結局アニスは、私たちに作戦の詳細を教えてはくれませんでしたわね……」
「はは。まあ、ここまで来たら付き合うしかないさ」
ナタリアとガイによるそんな会話が、背中越しに聞こえていた。
――― ◆ ―――
「もう、一体どこに向かってるのよ。お菓子を買いに来たんじゃなかったの?」
「べ、別にちょっとくらい寄り道したっていいじゃねーか!」
隣を歩きながらも不満そうな声を出すティアに対して、俺は内心の動揺を隠しつつ答えた。
もちろん俺は、こんなときにポテチだなんて言ってられない。
「そ、それよりさ。普通、女ってどんなもんを貰うと嬉しいんだ?」
「え? 突然どうしたの、ルーク」
「いや、その……。な、なんとなく知りたくなったんだよっ!」
我ながら、強引な答えだとは思った。くそっ、こんなときジェイドやアニスなら、口先でそれらしい理由をでっち上げられたんだろうな……。
だけどティアは訝しげな表情をしつつも、俺の質問に答えてくれた。
「それは、一般論を聞いているのよね?
そうね……。普通、女性は高価なアクセサリーを貰うと嬉しいと言うわ。指輪とか、ネックレスとか」
「そ……そうだよな? それであってるんだよな!?」
「ルークったら、いきなり何なの?」
ティアはなおも訝しげな表情を続けていたが、今はそれどころじゃない。
そう。俺は、ティアの答えを聞いてほっと胸を撫で下ろしていた。
(指輪やネックレス……。そうだよ、やっぱりそれでいいんだよな!)
女の気持ちは女にしかわからない。ガイはそんな言い方をしていたけど、別にそんなことはないじゃないか!
なぜなら俺だって、それくらいのことはなんとなくわかっていたんだから!
高価なアクセサリーで女は喜ぶ。そんなこと、普段のアニスを見ていれば俺だって気付くさ。
だけどさっきはガイに脅されて、不安になっていた。だから一応ティアに確認してみたけど、やっぱり返ってきた答えは同じだった。
つまり………。
(つまり……目指すは宝石店!)
「ちょっとルーク、どこ行くの!?」
早足になって突然歩き出した俺に向かって、ティアが慌てた声を上げる。
だけど今は、とにかく目的を果たさないと! それに宝石店はすぐそこだ!
角を曲がってすぐの場所にある宝石店の前まで一気に歩き、俺は店の中に………
店の中に?
(………って、入れないじゃん!)
俺の目の前には、でかでかと「本日休業」の札が掛かっていたのだ。
(な、なんでだよ!? 今日に限って、どうしてこんなっ……!)
光明が見えたかと思った矢先に、その光は偽者だったと気付かされたんだ。俺の心はまた、焦りに支配されようとしていた。
だけど……。
(だけど……なんでこんなタイミングで……? なんだかどこかに引っかかる……。これって、もしかして、つまりは……)
焦りながらも、俺は心中で考えていた。
そして………気付いた。
(えっ……!? まさか……こういうことなのか!?)
俺は今になって、初めて気が付いた。とても……とても重要なことに。
思えば、ガイたちの態度にも何か不自然なものがあった気がする。だからこそ、こう考えるとつじつまが合うんだ!
だけど今は、それより重要なことがある。
そう。いずれにしろ、プレゼントを用意するのが先だ!
俺はティアを振り返った。
「もう、ルーク。走ったり止まったり、一体どうしたのよ?」
不満気な顔で、ティアが口を尖らせる。
「ティア、あのさ」
そんなティアに対して、俺は尋ねた。
「他に、女の子の好きそうなものが売ってる店って……。
いや、どうせだったら、ティアの好きなものが売ってる店に連れてってくれないか?」
――― ◆ ―――
「ははは、あっちに行ったりこっちに行ったり。イライラさせてくれますね〜」
「まあまあダンナ。ルークとティアなんだから、こんなものさ。……おっ、今度はオモチャ屋に入っていくみたいだぞ?」
「オモチャ屋……ですか? なんだか不思議なところに入るのですわね?」
「ううん、ナタリア。ここまでは予定通りだよ。それより……」
私は、3人の顔を順々に見回した。そして指を突き立て、言う。
「じゃあみんな、ここからが最後の仕上げなんだからね! 急いで準備を始めるよっ!!」
あとがき
と、いうわけで。とうとうアニスちゃんのミッションがスタートです。
残すところはあと1話なので、どうかもう少しお付き合いください。
しかし……もはやルクティアなんて本当に思えなくなってきましたね(笑)
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