コレットのこと、ずっと守るなんて言っておいて……

結局俺は、徐々に心を失っていくコレットを見ているだけしかできなかった。

確かに今のコレットは、感情を取り戻して、昔のように俺の傍で笑ってくれている。

だけど苦しんでいたあいつを守れなかった俺が、このまま変わらずコレットの傍にいてもいいのだろうか?

俺にはわからない。どうすればいいのか。

俺は、俺は…………












プレゼント   〜開幕の日〜





















「ああ、なんだか平和だねぇ」

「しいな、それって年寄りくさいよ」

テーブルの麦茶を飲みながらつぶやいたあたしに対し、隣で本を読んでいるジーニアスから即座につっこみが入った。

「うるさいね。あたしだってたまには、束の間の平和を噛みしめたくもなるのさ。……あんただってそうだろ?」

「まぁ、確かにね」

そう言って、ジーニアスはまた手元の本に視線を戻す。覗き見ると、どうやら相当難しい本に取り組んでるみたいだ。



ここはシルヴァラント、遺跡の街アスカードの宿屋。あたしたちは旅の途中ながら、現在はこの街(リフィルの希望だ)で休息を取っている。

世界の危機とはいえ、たまの休みも必要だ。そうじゃなきゃ、世界より先にあたしたちの身体の方が参っちまう。


だけど休暇といっても、全員が全員あたしのようにぼーっとすごしてるわけじゃないよ。

リフィルは当然のように遺跡調査に出かけたし、リーガルとプレセアは「アスカードの石舞台を一目見たい」と連れ立って出て行った。

だから宿屋の居残り組は、あたしとジーニアス、そしてさっきから部屋の反対側で仲良く喋っているあの二人だけだ。


「ねぇロイド。そういえば、あさってはロイドの誕生日だよね? プレゼントは何がいいかな?」

「え? いや、俺は、別に……」

「あっ、そっか! プレゼントの中身が最初からわかっちゃうんじゃ面白くないもんね。だいじょぶ、私が自分で考えるね!」

「いや、俺は……。プレゼントなんて……」

「ううん。だって誕生日にロイドからペンダントを貰ったとき、私とっても嬉しかったんだよ?」

「………」

「だからロイドの誕生日には、私も絶対プレゼントを贈りたいと思ってたんだ。……ダメかな?」

「……コレット、俺は……」


ああ〜、なんだかもどかしいねぇ。

コレットの方は(もとが天然だからか)積極的にアプローチしてるんだけど、どうもロイドの方がしゃきっとしない。

そういえば、しばらく前からだったね。ロイドのコレットに対する態度が変というか、ぎくしゃくした感じになったのは。

そう……あれは天使化が進んで感情が欠落したコレットが、要の紋によって元に戻った頃からだったと思う。

やっぱり幼馴染の危機に直面したことによって、それまで抱いてた「友情」の想いが「愛情」に変わったってやつかい?

自分の心の変化に戸惑う少年か……。う〜ん、青春だねぇ。

……なんて、こんなこと考えてるとまたジーニアスから「年寄り」だなんて言われちまうよ。


ガチャ。


ああ、そういえばあたしたち四人だけじゃなかったね。居残り組は。もう一人オマケがいたよ。


ドアの開く音がしたので振り返ると、そこにはいつも通りのヘラ顔でアホ神子が立っていた。

と思ったら、その顔が途端に不機嫌な仏頂面になる。


そう、最近変といったらロイドより、むしろこのアホ神子の方だよ。まったく。

アホ神子――ゼロスが仏頂面になったのは、やっぱりそこの二人を見たからだろうね。最近ではもう毎度のことだよ。

とはいえ、あたし以外の皆がどれだけそれに気付いてるのかはわからないけどさ。

とにかく、最近のゼロスはロイドとコレットの二人を見るたびに、どうにも不機嫌な表情をするんだ。

いっつもヘラヘラしたアホ面の眉間に突然シワが寄るもんだから、異様に映るったらありゃしない。

一体なんだって、急にそんな態度をするように――



はっ。

そこであたしは、気付いてしまった。突然に気付いてしまった。そう、「ビビッときた」ってやつだよ。

ゼロスがこんな表情をする時は、いつも「ロイドとコレットが一緒にいるとき」だけだ。

どちらか一人でいるときは、あいつも別段変わった素振りは見せない……

だけど二人が一緒にいるとき、特に今のように二人が仲良くしてる・・・・・・・・・のを見たときに限って、ゼロスは途端に渋面になるのさ。

これって……。


「ロイド、どうしたの? なんだか最近元気ないような気がするよ?」

「そうか? いや、なんでもないよ、コレット。ほら、俺はいつでも元気満々だって!」

「あ、そうかな? うん。私も元気満々なロイドが好きなんだ」

「え? うん………。……いや、ありがとな、コレット」

「えへへ」



むっす〜〜。

更に、アホ神子のシワが一本増えた。ホラ、やっぱりそうだよ。思った通り。

あたしもバカだね、こんな単純なことに気付かないなんて。

仲良くしてる男女を見て、不機嫌になる男がひとり。

これってつまり、その男が「嫉妬」してるってことだろ? 仲の良い二人に対してさ!



要するに、ゼロスはコレットのことが好きなんだ。だから、彼女がロイドと仲良く振舞うのを見ると不機嫌になる。

やっぱり、同じ神子という境遇でもあるからねぇ。

だけどいっつも女の尻ばかり追い回しているくせに、ゼロスも特定の誰かを好きになったことなんて初めての経験なんじゃないのかい?

だからこのあたしにさえバレバレなほど、あからさまに不機嫌な顔までしちゃってさ。

普段はすかした作り顔しかしてないってのに、案外可愛いところもあるじゃないか。


そうやって、心の中で勝手にニヤニヤしていたのも束の間。あたしはまたも、大事なことを失念していることに気付いちまった。

やれ青春だ、三角関係だと野次馬根性を剥き出しにして考えていたものの、実はこれって、けっこう大変なことじゃないのかい?

だってそうだろ。あたしたちの関係ってのは、学校のクラスメートどころの騒ぎじゃないんだ。

ロイドもコレットもゼロスも、一緒に旅をしている仲なんだよ!?

三角関係を構成している三人が、四六時中同じ場所にいるんだ。

何の問題も起こらないわけがないというか、むしろ喧嘩になって当然というか、つまりは修羅場そのものというか……

「なぁ、しいな」

って、うわっ!

突然話しかけられてびっくりしたというのもあったけど、その話しかけてきた相手が当のゼロスだったもんだから余計に驚いちまった。


「な、なんだい。ゼロス。いきなり驚かせないでおくれよ」

「はぁ? 俺様フツーに話しかけただけでしょーが」

そう言われると返す言葉もない。

「う、うるさいね。それより何の用さ。買い物に付き合えってんならお断りだよ」

なんとなくロイドとコレットの方を気にしつつ、あたしはぶっきらぼうに答えてやった。

幸いなのか二人は会話に夢中らしく、こちらの声には気付いていないようだった。読書に集中しているジーニアスも同じらしい。


「買い物? ああ、違う違う。ちょっとばかし、しいなに聞いといて欲しいことがあってな〜。相談に乗ってちょーだいよ」

おいおいゼロス。眉間のシワも完全に抜けきってない顔で、あたしにどんな相談があるっていうのさ。

「ア、アンタがあたしに相談かい? 珍しいこともあるもんだね。……な、なんだい?」

どうにも嫌な予感がまとわり付くのを何とか振り払いながら、あたしは動揺に震えた声を絞り出した。


「? どうしたよ、しいな。風邪でもひいたか?」

「な、なんだも……じゃなくてなんでもないよ! それより相談があったんじゃないのかい!?」

「ん? ああ、そうそう。それよそれ! 実はな、しいな。俺様さ……」


ゴックン。

嫌な予感が的中しませんようにと祈りながら、あたしはゼロスの言葉を待った。……俺様が、何だって?








「俺様さ……ロイドに決闘を申し込もうと思うんだけど」





ああ、こりゃ、本物だよ……。

アホ神子の言葉を遠くに感じながら、あたしは目の前が暗転していく錯覚を覚えた。






































あとがき

つ、ついにやってしまったというか、ともかく生まれて初めて「小説」というジャンルに手を出してみました。
変だとか下手だとかってことは自分でも重々承知してますんで、触れないでくれると嬉しいです(笑)。

しかしまぁ……短編でなく生涯初挑戦が3部作予定とは、自分もどれだけ小説をナメとるんだ。
いや、オレだってもちろん最初はそんな気無かったんだけど……。
なんだかプロットを考えて書き始めたら、やっぱ3回くらいに分ける必要性を感じまして。

ともあれ残りの2部(予定)も頑張りますので、応援して頂けると幸いです。
というかこの小説、全然ロイコレじゃないってツッコミはスルーの方向でお願いします(笑)。
一応最終的にはロイコレになる予定というか、そうしたいというか、そうなったらいいなというか……。
すみません……まだ全然勝手がわからないんですよ(泣)。

だけどそんなのが、人様へのお祝いでいいのか、オレ。

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