俺はゼロスの言葉に対して、何も反論することができなかった。
それは俺自身が、あいつの言葉の正しさを誰よりわかっていたから。
一度コレットを守れなかった俺は、ゼロスの言った通りただの負け犬でしかない。
でも俺は、あいつの誘いを受けてしまった。
なんで受けてしまったんだろう。俺は負け犬のはずなのに。
コレットを守る資格なんて、今の俺には無いはずなのに。
なんで、俺は…………
プレゼント 〜静寂の日〜
「私が、いけないのかな?」
答えてくれる人が誰もいないのは知っていたけど、私はそう呟くことしかできなかった。
宿屋のベッドにうつ伏せて、枕に顔を埋めながらなのでちょっと苦しい。
アスカードの宿屋は意外と(失礼かな?)大っきくて、私たちは二人づつ、四部屋に分かれてここに泊まってる。
ロイドとジーニアス。ゼロスとリーガル。しいなとプレセア。そして私とリフィル先生。
だけどリフィル先生は昨日とおんなじで、今日もまた遺跡調査に出掛けてるんだ。
だから今は、この部屋に私がひとりだけ。
先生が部屋を出るときに
「コレット、お前も私と一緒に崇高なる遺跡参拝をしたくはないか!?」
って声をかけてくれたんだけど、なんだかうやむやにして断っちゃった。
先生がもう遺跡モードになっていてちょっと怖かったってこともあるけど、それより今は、そんな気分じゃなかったっていうのが本音……だと思う。
だけど自分自身でも、それがよくわからないんだ。
「やっぱり、私がいけないのかな?」
そうやってもう一度呟いてみても、やっぱり答えは返ってこない。
だけどその代わり、ぐちゃぐちゃしてる頭の中を、ひとつの映像だけがずっと駆け回ってる。
そう、それは昨日の映像。あのときの映像。
あのとき部屋には私とロイド、それからしいなとジーニアスの四人がいた。
しいなはテーブルで麦茶を飲んでいて、ジーニアスはその隣で、リフィル先生から借りた難しい本を必死に読んでるところだったな。
そして私は、ロイドと二人でお喋りをしてたんだっけ。
話していたのは取り留めのない内容だったけど、私はそれでも、ロイドと一緒に話せることが嬉しかった。
だって一度は、話すことも……。ううん、こうして今、生きていることさえ夢のような状態だったんだから。
自分がもう一度みんなと、ロイドと話すことのできる日が来たなんて、それこそ本当に夢みたいだったんだよ?
だから嬉しい。大好きなロイドと、昔のように笑い合える「現在」。それが、今の私にとって一番大切なモノ。
そういえば、最近のロイドはなんだか元気が無いように見えるんだけど……だいじょぶかな? ちょっと心配だよ。
でも昨日は「元気満々」だって言ってたし、きっと平気だよね。
そうそう、誕生日プレゼントについても話したっけ。
ロイドは照れちゃったのか「プレゼントなんていらない」なんて言ってたけど、そんなのウソだもんね。
最近は旅が忙しくて、こんな間近になるまでプレゼントを用意する時間ができなかったけど。
でも、明日までにはきちんと用意しておかなくちゃ。そう、明日までには………
ドクン。
心臓が大きく鼓動したのがわかった。
「やっぱり現実から逃げちゃいけないのかな。うん、明日………だよね」
そうだ、明日はロイドの誕生日。だけど明日には、もうひとつ。
それは、昨日の話にさかのぼる。
「ロイドくん、ちょっといいか?」
そう言って突然ゼロスが話しかけてきたから、あのときの私はちょっとビックリしちゃったんだ。
少し前に部屋に入ってきてから、ゼロスはしばらくしいなと話していたみたい。
そのうちにジーニアスも手招きして、三人で何か言い合っていたみたいだけど。
私はロイドと話すのに夢中で、みんなが何の話をしていたのかはわからなかったんだ。私ったら、ほんとは耳が良いのにね。
だけど今になったら、あのときゼロスたちが何の話をしていたかわかる気がするよ。
しいなとジーニアスは、ゼロスを止めようとしてくれたのかな。だけど結局は、無理だったみたい。
「ん? なんだよ、ゼロス」
ロイドがそうやってゼロスの方を向いたから、私もゼロスを見たんだ。
その顔は、ロイドにあんなことを言う直前の顔には全然見えなくて。なんだかすっごく嬉しそうな、優しそうな顔だったんだよ?
「お話し中悪いね、コレットちゃん。こっちの話はすぐ済むから」
そうやって私に笑いかけてから、ゼロスは急に真剣な顔になった。
それは、いつものゼロスの顔じゃなくて。
その顔があまりにも真面目そうだったから、私は一瞬無理に作った顔なんじゃないかって疑ったくらいなんだよ。
だけど、違ったみたいだね。
「ロイド、単刀直入に言うぜ」
「な、なんだよゼロス。改まって」
ロイドも、いつもと違う真剣なゼロスの態度、真剣なゼロスの声に驚いたみたいだった。
そのとき部屋の向こう側から、しいなとジーニアスが泣き笑いのような表情で、こっちを見つめてたことが印象に残ってるんだ。
「ロイド。俺は、お前に決闘を申し込む」
「け、けっとう〜〜!?」
「な、なんでですか!?」
ロイドの驚く声と同時に、私も思わず聞き返しちゃった。
だって「けっとう」っていったら、喧嘩のことだよね?
ロイドとゼロスはおんなじ仲間で友達なのに、なんで喧嘩なんかしなくちゃならないんだろうって……単純にそう思ったから。
……やっぱり、私が悪いのかな? 私が変なのかな?
「コレットちゃん、ごめんな。だけど俺様は、ロイドを許すことなんざできねえのよ」
「な、なんでだよ、ゼロス! 俺が何かしたのか!?」
「してない、って言うのかよ、お前は。自分でもわかってると思ってたけどな」
「っ! そ、それは……」
そう言ってロイドが口ごもったから、私はちょっと驚いた。
だけどそのときの私はまだ、「私の知らないところでロイドがゼロスに何かしたのかな」くらいにしか思ってなくて。
まさか二人が私のことで言い合っているなんて、これっぽっちも考えてなかったな。
「単細胞のロイドくんでもわかったみたいだな。俺様の言いたいことがよ」
「……コレットの、ことか……?」
だからロイドの口から私の名前が出てきたときは、本当にびっくりしたんだよ。
びっくりしすぎて、あのときの私には何も言うことができなかったんだ。
「ああ、そうだ。天使化を止められずにコレットちゃんに辛い思いをさせたお前が、なんで未だにコレットちゃんの傍にいるんだよって言ってんの」
「そ……そんなこと、お前に関係ないだろ!」
お前には関係ない。
そうとしか言い返せなかった時点で、きっとロイドは負けていたんだろうな。
「関係なくなんてねえよ。俺様は、コレットちゃんのことが好きだからな」
「なっ……!」
きっと、ロイド以上にビックリしてたのは私だよ?
だけどダメだね、私。やっぱり何も言えなかった。
「俺はコレットちゃんのことが好きだ。お前と同じくらい、いや、お前以上にな」
「お、俺は……」
「だから許せないんだよ、お前が。コレットちゃんを傷つけて、それなのにのうのうと過ごしてるお前が」
「俺は、コレットを守りたいって……!」
「守りたいだと? 笑わせんじゃねえよ。お前は一度、コレットちゃんを守れなかった負け犬だ。それを否定できるのかよ」
「それは……だけどっ!」
「だけど? そんな言葉は聞きたくねえな」
真っ向から睨み付けるゼロスに対して、ロイドの視線はどこかゼロスを避けているように見えた。
「お前はコレットちゃんを守れなかった。そして、これから彼女を守っていく資格も無い。……自分でも、そう思ってるんだろうが?」
「くっ……!」
「だから俺が守る。お前の代わりに。いや、お前以上にきちんと守ってやるよ。……でもな」
そう言って、ゼロスはちらりと私の方を見た。
「俺様は慈悲深いからな。そんなロイドくんにもチャンスをやろうって言ってんだ。それにこのままじゃ、コレットちゃんも納得しないでしょ」
「チャンス……だと……?」
「だから決闘だって言ってんだろ。それに勝った方が、コレットちゃんの未来を守る。ま、その役目に適任なのは『強い方』だろうし?」
そう言いながら、ゼロスはふいとロイドに背を向けた。
「だけどよ、俺はお前みたいに腑抜けた野郎に負ける気なんざ毛頭ねえからな」
「俺が……腑抜けだって……!?」
「自分じゃわかんねーか。……まぁいい、日時は二日後の正午! 場所はあとで教える。誰にも言わずに一人で来いよ。いいな!」
ゼロスが部屋を出て、バタン! とドアが閉まる音と同時に、私たちの周りの空間は途端に静寂に包まれた。
しいなも、ジーニアスも、ロイドも………私も。みんなバラバラの方向を向きながら、誰も口を開こうとはしなかったんだ。
でもしばらくして、ロイドが歩き出した。……やっぱり何も喋らずに、ドアの方へゆっくりと。
何か、言わなくちゃ……!
その思いだけが、頭の中をひたすらぐるぐる回るんだけど、その意思に反して何の言葉も出てこなかった。
「っ……。ロ、ロイド……!」
最後の最後になんとか絞り出せたのは、そんな、何の意味も無い呼び掛けだけ。
でも私は、それでもどこかで期待してたんだ。ロイドが振り返って、「大丈夫だよ」って言ってくれることを。
だけどロイドは、そのまま何も言わずに部屋を出ていってしまった。
振り返ることもなく。……足を止めることさえも、なく。
私には、ロイドを追い掛けることができなくて。
しいなとジーニアスが部屋を出たあとも、私はひとりで立ち尽くしたままで。
あの日はいつの間にか自分の部屋に戻っていて。そして――
そして、今日に至る。
「私がいけないの? ……私は、どうすればいいのかな?」
だけど枕に向かって呟くだけじゃ、なんにもわからないんだよね。
でも。
そんな私でも、なんとなくわかったことがあるんだ。
最近のロイドは、やっぱりどう見てもおかしかった。
会話もどこか上の空だし、昔のように笑ってくれなくなった。
それにね……ロイド。私、気付いてたんだ。
ロイドが、私の視線を避けてること。一緒に話していても、私の方をまっすぐ見ようとはしないこと。
たまに目が合うことがあっても、ロイドはすぐに逸らしちゃうよね。
私はそれを、ずっと照れ隠しだなんて思ってた。ううん、そう信じたかったんだ。
だけど……今は、違うってわかる。
ロイドは――
ロイドは、私のことが嫌いなのかな。
「私ね、一度もロイドから『好き』って言われたことないんだよ?」
いつの間にか濡れていた枕に、私は自分が「泣いている」ことを初めて自覚した。
あとがき
オレは、この話を綺麗にまとめることができるのだろうか?
いや、プロットとしてはきちんとできてるハズなんだけど、オレの文章力・表現力がそれに足りるかがとことん不安だ。
それにしても、オレは本当にロイコレを書く気があるんですか?(聞くな)
むしろこの話をロイコレだと言い張って、オレは怒られないんですかね?
もう……なんつーか色んな意味でごめんなさい。
ともあれ、今回の小説初挑戦シリーズ。いよいよ次回が完結編の予定です。(誰も待ってないって)
ただしやっぱり慣れてないせいか、配分も良くわかってないので、もしかしたら全3話+αという構成になるかもしれません。
え〜と……やっぱり色んな意味でごめんなさい!
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