Tale.1 入学式の喜怒哀楽 前編


今日は、学園の入学式だ。
しかしなんだかソワソワ落ち着かないのは、今年度入学する新入生や、式の進行に忙しい先生方ばかりではない。
このたび新2年生・新3年生になる在校生の皆さんも、各人各様の思いを胸に、今日という日を楽しみにしていた。
そしてここにも、そんなソワソワ3年生ペアが2人……。


ロニ「……というわけで! やっとこの日がやって来たなァ、相棒!」

ゼロス「ああ…そうだな、相棒……!」


人混みの影で、こそこそ話だ。


ロニ「春休みが始まったときから、ロクに遊びもせずこの日のために準備を重ね……くうっ! カイル、遊んでやれなくてすまねぇ!!」

ゼロス「オイオイ、お前さんとカイルはルーティちゃん達の孤児院で一緒に住んでるんだから、まだいいだろうよ!
 俺様なんて、俺様とのデートを心待ちにしていた全校のハニー達……そのお誘いを涙ながらに断ってまで、今日の準備をしてきたんだぜ?」

ロニ「んなっ……。お、お前はそんな羨ましい……いや勿体無いマネを……」

ゼロス「でひゃひゃひゃ! いいかな、ロニ君。俺様とお前さんは、どうやら校内で『似たもの同士』として見られているらしいが……実は違う。
 確かに俺達は2人とも、ハニー達のハートを追い求める愛の探求者、恋の配達人ではあるが……」

ロニ「お前……言ってて恥ずかしくないか?」

ゼロス「話を折るなって! …ともかくだ、俺達は確かに似ているところもあるが……たったひとつ、大きく違うところがある!
 すなわち俺様はモテる。お前さんはモテ」

ロニ「お・ま・え・は! 作戦どころか入学式が始まる前から、もう仲間割れがしたいのか?」

ゼロス「でひゃひゃ、冗談だって!」

ロニ「……まあいい。…で? 例の準備はどうなってるんだ?」

ゼロス「ああ、それならバッチリだぜ。裏ルートから入手した入学者名簿から、目ぼしい女の子のリストアップは既に完了」

ロニ「裏ルートって……まさかお前、先生を買収したのか!? いくら財力にモノを言わせてるからって、教師買収はマズイんじゃ……」

ゼロス「いや、そうじゃねーよ。そもそもウチの学園に、金で買収されるような先生がいると思うか?」

ロニ「う……言われてみれば……。
 音楽のジョニー先生も、技術のフォッグ先生も、数学のリーガル先生も……みんな、けっこうな金持ちなんだっけか」

ゼロス「それに金持ちじゃない先生は、逆に金なんかに興味無い『研究バカ』だらけだぜ?
 クラース先生にリフィル様、ウィル先生……」

ロニ「筋肉バカのコングマン先生ってのもいるな」

ゼロス「ま、要するに学園の先生を金で買収して入学者名簿を受け取ろうとしても、ハナから無理な話だったってこと」

ロニ「で、でもよ……結局お前は名簿を入手したんだろ? 金を使わずにどうやって……」

ゼロス「ん? いや、金なら使ったぜ?
 ……1万ガルドでどう? …って頼んだら、ルーティちゃんが取ってきてくれたんだ」

ロニ「……って、そりゃ盗ってきたの間違いだろうが! おまっ…ルーティさんに泥棒まがいのことをさせやがって!!」

ゼロス「まがいというか、泥棒そのものじゃねーか?」

ロニ「う、うるせえ! ルーティさんはれっきとした職業レンズハンターであって、決して泥棒では無いっ!!」

ゼロス「それはともかくよ……ルーティちゃんって、お前より5歳も年下だろ? しかも俺らの後輩、2年生だ。
 それなのに……お前はなんで、いっつも『さん』付けなんだ?」

ロニ「あ、いや、それは……。ど、どうだっていいだろ! 俺はルーティさんの人柄に惚れ込んでるんだ。年齢なんて関係ないっ!」

ゼロス「ふ〜ん……なんか引っかかるな……」

ロニ「(ふぃ〜、危ねえ危ねえ……)」


カイルとロニは『デスティニー2』の記憶を保持したまま、『デスティニー』の時間軸へ時空移動を経験していたり。
そのまま成り行きでスタン・ルーティ・ナナリーらの経営する孤児院に居候しているものの、カイルらの正体は皆には秘密(笑)


ロニ「そ、それよりさっさと本題に入ろうぜ! 目ぼしい子ってのは、誰なんだよ!?」

ゼロス「ん? ああ……ゴホン。それではロニ君、まずはおさらいだ。今回の入学式における、俺達の目的は何だったかな?」

ロニ「愚問! 今年俺達は、3年生になる! 学園における3年生ってのは、すなわち最上級生! それはつまり……学内において絶対の権力を持つ!」

ゼロス「その通り! そしてその権力は、同時に下級生からの大きな信望を生み出す!!」

ロニ「その信望は転じて! カッコ良くて頼れる先輩というイメージを俺達に付加する! そして……それを利用しない手は無いってことだ!!」

ゼロス「……よし、あえておさらいする必要も無かったみたいだな。
 だがよ、相棒。入学式という大きな式典の当日に女の子を口説き落として、俺達のカッコ良さを一気に植え付けるこの作戦……。
 これは何も、ただ可愛い子を無差別にターゲッティングすればいいという話ではないんだぜ?」

ロニ「何? と、いうと……?」

ゼロス「つまり、問題は容姿や性格だけじゃない。というか今年度の新入生は、誰も彼もが容姿端麗・才色兼備。誰に声をかけてもハズレ無しだ。
 だから問題になるのはむしろ……ハニー達のバックグラウンドになるだろうと俺様は読んだわけさ」

ロニ「ほほう、何だか本格的な話になってきたな! して、そのバックグラウンドとは!?」

ゼロス「おうよ。要するにだ、たとえこの学園に今世紀最大の美少女が入学してきたとしても……彼女が『オマケ付き』だったら目が無いってこと!」

ロニ「な、なんだとっ!? つまり、それはっ……!」

ゼロス「ああ……。たとえばホレ、この娘を見てみろよ」

ひょい、と1枚の紙切れを渡す。

ロニ「なになに……? シャーリィ・フェンネスちゃん、15歳……。趣味は絵画とパン作り……。
 しかもご丁寧に譜業写真付きで、しかもメチャクチャ可愛いじゃねーか! これは早速お声をかけにっ」

ゼロス「だあーっ! お前は人の話を聞いていたのか!? アレを見ろっ!!」

ロニ「ん……? って、いつの間にか式が始まってるじゃねーか!!」


テイルズ学園の入学式は、新入生・在校生・教師が一堂に集って会食パーティーを行なう形式だ。
アホ2人が会話している間にもう、そこここで談話が始まっている。


ロニ「お、おいゼロス! 急がないと、パーティー自体が終わっちまうぞ!?」

ゼロス「だから焦りなさんなって! …ほれ、あそこだ」

ロニ「んあ……?」





シャーリィ「このたび入学しました、シャーリィ・フェンネスです! 宜しくお願いします!」

ナナリー「おや、さすが1年生、元気だね。あたしは2年のナナリーさ。宜しくね、シャーリィ!」

マリー「私は3年のマリーだよ。ふふ、可愛い子だね」

シャーリィ「あ……ありがとうございます、ナナリー先輩! マリー先輩!」




ロニ「おいゼロス……あの子のどこが問題なんだよ? まさに清純〜〜て感じで、写真で見た以上に可愛いじゃねーか!」

ゼロス「いいから待ってろって。ナナリーもマリーさんも女だろ? だけどこれが……っと、丁度いい。見てみな」




ティトレイ「おっ、ここにも新入生がいるのか」

ナナリー「ああ、ティトレイか。彼女はシャーリィっていうんだ。…シャーリィ、コイツはティトレイ。あたしと同じ2年生だよ」

シャーリィ「あ…宜しくお願いします、ティトレイさん!」

ティトレイ「おう、宜しくな、シャーリィ! んじゃ、まずは握手だ」

シャーリィ「はい! それじゃ握……」

 ガッ!

ティトレイ「うわっち! だ、誰だ! 俺を突き飛ばしたのは!?」

シャーリィ「ティ、ティトレイさん!? だいじょ」

セネル「大丈夫か、シャーリィ!」

シャーリィ「…って、お兄ちゃん!?」


ナナリー「ちょっとセネル! どうしたのさ、そんなに慌てて……。ん? シャーリィ、今お兄ちゃんって……?」

セネル「当たり前だろ。シャーリィは俺の妹なんだからな」




ロニ「おいおい、何だか風向きがおかしくなってきたぞ? …あいつって、今年2年になったセネルだよな?」

ゼロス「そ。セネル・クーリッジくん。…さしずめ、お姫様を守るナイトってところか」




ティトレイ「お、おいセネル! 俺はシャーリィと握手しようとしただけだぜ!? いきなり突き飛ばすこともないだろ!」

シャーリィ「そ、そうだよお兄ちゃん!」

セネル「握手だけ…? いいや、それも怪しいもんだな。…シャーリィ、お前も気をつけろよ」

シャーリィ「気をつけろって……」

ティトレイ「お、おい! 人聞きの悪いこと言うなよ! 俺がシャーリィに何かしようとしたってのか!?」

セネル「そう言ったつもりだが、わからなかったか?
 兄の俺が言うのも何だが、シャーリィはそこらの女じゃとても敵わないほど可愛いからな。
 妙な考えを持った男がいつ近付いてくるか分からないだろ? ……ちょうど、目の前にもそんな男がいる」

ティトレイ「な、なんだとぉーっ!?」

シャーリィ「もう……。お兄ちゃんのバカ……」




ロニ「……………なんだあれ?」

ゼロス「でひゃひゃひゃ! まあ、見ての通りってことよ!
 『超』が付くほど可愛い女の子には、『超』が付くほど兄バカのお兄ちゃんが付いてるってわけだ」

ロニ「………」

ゼロス「ちなみに、あのセネルくん。お前も覚えてるかもしれないが、去年の全校闘技大会における格闘技部門・男子の部で優勝してるぜ。
 なにせ、コングマン先生も太鼓判を押したくらいだ」

ロニ「それじゃ、下手にシャーリィちゃんに近付こうものなら……」

ゼロス「ま、ちぎって投げられるのがオチだろうな」

ロニ「マジかよ……」

ゼロス「ともかく! これで分かっただろ?
 綺麗な薔薇にはトゲがあるように……いくら可愛い娘でも、大砲付きじゃ近付けないよな」

ロニ「ぐむむむ……。
 …なるほど、分かった。お前の言いたいことはよ〜く分かった。
 だがよ、だったらどうしろってんだ? 春休みを潰してナンパ指南本を読みふけっていた、俺の時間はどうしろと言うんだ!?」

ゼロス「落ち着け! いいから落ち着け!!
 だから俺様はこんな機密文書を入手してまで……」

ロニ「入手したのはルーティさんだろ?」

ゼロス「ともかくこんなモンまで入手して、トゲの無い薔薇達のリストアップに励んだんだ。これで失敗は無いハズだぜ!」

ロニ「トゲの無い薔薇ねぇ……。
 まあいい、それじゃ『考えている間に式が終わってた〜』ってことにならないように、手早く説明を頼むぜ、ゼロス!」

ゼロス「オッケーオッケー! そんじゃまあ、野郎は無視するとしてだ……。
 今年入学する女の子、10人それぞれについて一人一人考えていくことにしようや!」




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