14.『漢(おとこ)の寒中水泳大会!!』(サポート)
============================== ●殲鬼は斃(たお)れた 風凛(ふうりん)州、西のはずれ。火澄(かすみ)州と州を隔絶している、広い海峡の村。 その村の名を、『桐の里』と言った。よい桐材を産出することから名づけられたのであろう。 その村で行われる冬の祭り。それが『漢の寒中水泳祭り』である。 そも、風凛州には海人を尊ぶ風習があり、造船技術も発達していた。土地は痩せていたが、風凛州はケモノを排した沿岸貿易で富を得、栄えていったのである。 そして今日、この冬の荒海で、漢の寒中水泳祭りこと『百漢水祭』が開かれるのだ。 「もうその辺でいいだろう」 船上の、濡れ羽色の髪をしたマドウ族の戦巫女・かいな(w2z039)が、水の中にいるヒト族の狂剣士・恭華(w2c550)に向かって言う。豊満なプロポーションを持つ、女狂剣士だ。 その周囲には、蛟(みずち)と思しきケモノの死体が累々と浮かんでいた。すべて、恭華とかいなが倒したものである。 そのような光景は、この大会会場水域のそこかしこで見られた。高きを目指す和の鉄人・梅吉(w2b092)のように、蛟を竿で釣り上げる者もいれば、超人覇流躯・砲巖(w2b061)のようにその肉体で絞め殺す者も居る。 「秋の空、儚く散る、殲鬼かな。字足らず」 蒼黒の重戦車・是鵡(w2b430)が、ケモノを倒して一句詠んだ。彼も船で出たクチだ。相当数のケモノを倒していた。 そして、肝心の殲鬼を倒したのは、ラセツの鬼道士・千歳(w2a481)たちだった。遠泳の進路上、漕ぎ出した船の上で殲鬼と遭遇し、黒き魔人阿武瞳羅・仏血耶唖(w2c486)や他のサムライたちの助けを得て、これを撃砕したのだ。ちなみにとどめは、仏血耶唖の『地獄突き』だった。 「せっかく藤花が弁当を用意してくれたのにな」 血塗られた微笑み・藤花(w2a626)に包帯を巻かれながら、千歳が言う。あちこちに赤く、血がにじんでいた。殲鬼が口から吐き出した細い水流に、体を何箇所も貫かれたのである。まるで、鉄砲魚のような殲鬼だった。水弾の破壊力は、船の横板をやすやすと射抜くほどあった。 これでは、大会参加は断念せねばなるまい。しかし、海殲鬼を相手に最小の被害で勝利したのは、大殊勲であろう。あとは、この(一部非常に濃い)祭りを成功に終わらせるだけだ。 ●出発前 「村長、子供と大人では勝負にならないブー。ブーは『少年少女部門』を作って欲しいでブー」 黒き魔人阿武瞳羅・仏血耶唖は言った。 「却下じゃ」 「ブー‥‥」 仏血耶唖の提案は、コンマ2秒で却下されてしまった。 そもそも、この大会は『漢』の大会なのである。そんな軟弱なことを言ってはいけないのだ。そのあたりをよく理解していただきたい。 それはさておき。 「うむ、今日も見事なカットです」 こちらは筋肉の使徒・筋之助(w2b265)である。筋骨隆々、ふんどし一丁で、無意味にポーズをとりまくっている。白い歯が、ニッカリさわやかな笑顔の中で光っていた。彼は友人の黒き刃・震(w2a033)や鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894)と共にケモノを排除していたのだが、こちらは怪我ひとつ無いつやつやした肌をしていた。大会への参加準備は万端整っているようである。 もう一人、かなりナルシー入っているサムライが居た。愛の狩人・亜蓮(w2b272)である。ふんどしは、赤は赤だが紅の薔薇の赤。しかも薔薇の刺繍入りときている徹底ぶりだ。 「琥珀さん、そんな目で見ないで下さいよ」 銀姫の宝玉・琥珀(w2a279)にジト目で見られながら、亜蓮が言う。この浮気性でどうしようもない助平(人それを、『ナンパ師』と呼ぶ)なサムライは、出会う美女を片っ端から口説いているのだ。そのたびに琥珀に邪魔されているのだが、今日は大会でいいところを見せて村の娘の心を鷲づかみにするつもりで体操をしている。それを、琥珀に見透かされているのである。あにはからんや、であった。 黒双月の片翼・華月(w2a334)やヒト族の剣匠・いさり(w2c114)、紅の双月・理紅(w2c401)やラセツの鬼道士・難多羅(w2a996)という面々は、準備運動に余念が無かった。難多羅(w2a996)などは、もう四半日も準備運動をしている。準備運動をしない輩には勢いよく『喝!』が飛んでいた。 ちなみに大会には五〇名からの参加者が居るのだが、やはりサムライ達は目立っていた。女の参加者は、サムライのみ。男もほとんどが船乗りであるが、サムライたちとは、やはり身に備わっている『気配』が違う。胆力と言ってもいいかもしれない。サムライは、やはりサムライなのだ。 カーンカーン。 半鐘の音が、浜辺に鳴り響いた。いよいよ、祭りが始まるのだ。 ●デッドヒート 遠泳のコースは、沖合いにある獄門岩を回ってくる往復4キロメートルほど。途中は5隻の船が遠泳集団に随伴し、脱落者やなどを拾い上げたりすることになっている。今回は是鵡とかいな他、幾人かのサムライが、海のケモノの残党を警戒して随伴船に乗り込んでいる。 「貴殿は、誰が優勝すると思うでござるか」 是鵡がかいなに向かって言う。 「さて、なんとも言いがたいな。韋駄天足の使える者が居れば、最初に飛び出すであろう。あとは、本職の船乗りの泳ぎに勝るか否かというところか」 「先は長いでござるからのう」 カーン、カーン、カーン。 再び、半鐘が打ち鳴らされた。同時に、浜辺に居た総勢五十二名の漢たちが、一斉に海へと飛びこんで行く。 「ブー!」 まず抜きん出たのは、仏血耶唖であった。韋駄天足全開で、先頭集団をぐいぐい引き離してゆく。 しかし。 「ブー!?(ぶくぶくぶく)」 独走態勢で泳いでいた仏血耶唖が、突然沈んだ。韋駄天足が切れて、足でも攣ったようである。 数分後、おぼれて意識が無くなった仏血耶唖は随伴船に救い出されるのだが、その時猟師の人工呼吸を受けて、ファーストキスを奪われたことは、彼は後になるまで知らない(南無)。 「あらら〜? なの〜」 快調に飛ばしていた紅の双月・理紅が、急に速度を落とした。手足が思うように動かない。まるで、鉛でも詰まっているかのようだ。 やがてほとんど動けなくなって、理紅は随伴船に救助された。スタミナ切れであった。 「なかなか手ごわいですね」 ヒト族の剣匠・いさり(w2c114)が言った。彼女は中央集団から抜け出せずにいた。さすがは海の猛者の集まる風凛州の男たち。たとえサムライといえどもやすやすとは勝たせてもらえないようである。 さらに後方。どっぱーん! どっぱーん! と派手な水音と波を蹴立てているのは、ラセツの鬼道士・難多羅であった。必殺泳法『羽汰浮裸威(ばたふらい)』である。どの辺が『必殺』なのかは突っ込まないで欲しい。 しかし派手なアクションのわりには、あまり効率良く進んではいないようであった。強烈に目立っていることには違いないのだが。 潜水泳ぎでなんとか中央集団を抜け出たのは、ヒト族の剣匠・子竜(w2a547)である。先の殲鬼退治でも、活躍していた。 「さすがに泳ぎながらだと息が持たんな」 肺活量に自信があった子竜でも、さすがに4キロもの潜水泳法は無理である。必然、その泳ぎはクロールへと移行していった。海の猛者の囲まれて、なかなか前に出れない。しまいには他の競泳者からぶつけられたりする始末。次第に優勝争いから脱落していった。 結局、優勝したのは黒双月の片翼・華月であった。やはり体力が物を言ったようである。準優勝は、ほんの数分の差で筋肉の使徒・筋之助。一位二位をサムライが占めた事は、サムライの面目躍如というところであろう。 かくて、『漢の寒中水泳祭り』は幕を閉じた。優勝者に振舞われる御神酒で酔った華月が暴れたりファーストキスを奪われた仏血耶唖が固まったり亜蓮が村娘を口説いたり理紅が土地も名産品を片っ端から食い漁ったり他のサムライがいろいろしたりしたのは、また別の話である。 祭りの後、サムライ達は去る。 またどこかで、殲鬼が悪巧みをしようとしているからである。それを阻止できるのは、サムライたちだけなのだ。 【おわり】 ============================== |