15.『フルスイングでかっ飛ばせ!』

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 分厚い雲に覆われた空の下、戦いが切って落とされ様としていた。
 殲鬼『遊球鬼』率いる『冥勲戦鬼軍』とサムライチーム『桔梗サムライファイターズ』との壮絶な戦いが。

オーダー表

桔梗サムライファイターズ

背番号:30 刀伯・塵(w2a434):三塁
背番号:009 流光蒼刃・鳴(w2b458):捕手
背番号:10 昏き螢惑・連十郎(w2d097):二塁
背番号:119 鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894):一塁
背番号:51 冷然なる眼光・紫苑(w2c897):先発
背番号:44 無貌の客人・狩玻璃(w2b809):左翼
背番号:25 螺旋の月・久遠(w2b806):右翼
背番号:85 明日の輝き・円(w2c330):遊撃
背番号:53 一投入魂の陰陽師・叶(w2d037):中堅

冥勲戦鬼軍

背番号:病 巖奇:三塁
背番号:腐 屠魔:二塁
背番号:怨 郷仲:先発
背番号:死 夜魔堕:捕手
背番号:負 頬映:左翼
背番号:怪 狗怪:遊撃
背番号:冥 怒威堵:一塁
背番号:狂 狗髪:右翼
背番号:滅 翳円:中堅

 余談だが、殲鬼率いるシビトは、過去のこの遊びの名手達をよみがえらせた物であるらしい。
 所々骨さえ見える姿は痛々しいが、技術的には、俄仕込みのサムライ達をはるかに上回っていた。

 この戦い、一回の表から、壮絶な展開となった。
「相手はシビトだろ?なら手加減なしに豪速球で討ち取って・・・いや、打ち取ってやるさ」
 先発の紫苑は、不敵に笑うと第1球目を投げつけた。
「燃える魔球!」
 そう、紫苑が投げた球は、凄まじい勢いで燃えている。
 白球の代わりに、【極】火炎弾を投げているのだ。
 火炎弾は、そのままの勢いで、ミットのど真ん中へと突き刺さる。
 だが、先頭打者の『巖奇』は微動だにしない。
 その様子にほくそえむ紫苑。相手は手が出ないに違いない。
 だが、無情にも審判の声が響く。
「ボーク」
 あっさりと一塁へ進む巖奇。
 流石に、白球以外のものを投げるのは問題らしい。
 かといって、武神力と白球を同時に投げる事は出来ない。
 難しい所である。
 ならば、とばかりに意気込む紫苑。
「こんどは、消える魔球だ!」
 消える魔球‥‥それは、燃える魔球である火炎弾を、そのまま打者にぶつけ『消す』という、禁断の秘技。
 前回の反省も踏まえ、火炎弾を投げた後、普通に投球する(火炎弾はあくまで練習投球らしい)為、反則にならない(!?)のだ。
 だが、二番打者屠魔は見事だった。
 火炎弾を受けたその衝撃を回転力に変え、突如高速回転。その回転力で、普通に投げられた球を彼方へ打ち返す。
 そう、屠魔は秘打の使い手なのだ。。
 白球は空を切裂き場外へと消え去った‥‥かのように見えた。
「狩玻璃、超人野球のお約束・フライングキャッチ頼むぞッ!」
「塵っ! 飛ばせぇぇぇ〜〜!!」
 韋駄天速で打球の下方にに到達した狩玻璃が、同じくたどり着いた塵を土台に、打球目掛け飛びつく。
 だが、高度がたりない。
 観客席へと吸い込まれる打球。
 ここで余談だが、この戦いは大勢の村人の前で行われていた。
 殲鬼が、その遊びで絶望を撒き散らし、封土を作り上げているのなら、村人達の目の前で討ち果たす事で、その絶望を打ち払う事ができる。
 無論、観客の安全は確保しなければならないが、その役は絶対障壁・憐獄(w2b077)が買って出ていた。
 未だ勢いを残し、観客へ迫る打球を、憐獄が跳ね返すように球場内へと打ち返す!
 それを、ノーバウンドで右翼の久遠が掴み取る。
「一応アウトになるんだろ? これってよ」
 久遠は得意げにグラブの中の白球を掲げて見せた。

 そんな調子で、一回裏。
 殲鬼側の先発は郷仲。シビトとなった今はただの操られる骸でしかなかったが、その実力は確か。
 先頭打者の塵を三球三振に切ってとり、二番打者の鳴からも、二球続けて空振りを奪っていた。
 これまで鳴達は投手と捕手に向かって、バットを投げつける&叩き付ける等の攻撃を加えていたのだが、シビトに痛みはないためか、目立った効果を上げられずにいた。
「気合い入れて応援しろ! 憂夜!!」
 鳴は苛立ちを隠すように、応援席の嵐を呼ぶ陰陽師・憂夜を怒鳴りつけた。
「はわわ〜〜! わ、わかりましたぁ! ‥‥でも、どうしてこんなかっこうなんですかぁ?」
 首を傾げる憂夜の姿は、ボンボンを持ちミニスカート姿の『ちありーだー』。
 どうやら、鳴に無理やり着せられたらしい。
 憂夜は元々ひょろりとした長身の童顔(髪も少々長めだ)であるため、そういった衣裳を着てもさほど違和感が無い(というか、いやんなる位似合っていた)。
 俯き上目遣いで恥らっている仕草さえ、衣裳にしっくりとなじんでいる。
 その姿を見るうちに、鳴から力みが消える。
 郷仲の第三球。
 切れ味の鋭い変化球を、鳴は無理せず前に転がした。
 同時に『韋駄天足』。一気に一塁まで駆け抜ける。
 見事な内野安打だった。
 そのプレイに、応援席の村人や安らぎ導く小乙女・いるか(w2c039)、春宵に微睡む蝶・螺旋(w2b526)が歓声を上げ、憂夜が飛び跳ねる。
 その歓声が終らぬ内に、更なる快音。
 三番打者の連十郎が、痛烈な打球を飛ばしたのだ。
「殺られる前に殺る、コレだろ」
 その言葉どおり、打球は中堅の翳円を直撃する!
 『滅天怨(メテオ)打法』(力任せに相手守備シビトを狙う)の炸裂。流石に、一撃で戦闘不能とはならなかったが、その間に鳴が韋駄天足の俊足を生かし本塁を踏む。
 かくしてサムライ達は一点を先制するのだった。

 回は進んで、五回の表。
 この頃になると、サムライ達に疲れの色が出始めていた。
 武神力を使ってのプレイは強力だが、如何せん回数に限度がある。
 また、彼我の経験差(←この遊びに対する)がありすぎるため、シビト達に試合をコントロールされるようになってきたのだ。
 それでも、怪我はしていない。試合前にかけられた円や甘き芳香の幸福・皓麟(w2d225)の護りの雫がここまで皆を守りきっている。
「誰かが怪我をした時には癒しの手を使えるけど‥‥怪我を未然に防ぐことも大事だから!」
 だが、試合自体は、先制した直後から立て続けに三振をとられ、あれ以降点は入っていない。
 逆に、巧妙な揺さぶりと、シビトゆえの疲れ知らずに押される場面が目立つようになってくる。
 今も、殲鬼側の攻撃中。
 巧みなバッティングに連打を許し、無死満塁。
 巖奇、屠魔、郷仲を塁に置き、迎えるは四番、夜魔堕。
 先発紫苑も粘ってはいるが、既に燃える魔球は使えない(火炎弾を使い果たしている)。
 そのとき、何者かが紫苑の肩を叩いた。
 振り返った先で、これまで中堅を守ってきた叶が微笑んでいた。
「交代しましょう。あとは任せてください」
「すまないな。なら、中堅は任せてくれ」
 短く声を掛け合うと、守備位置を交代する二人。
 次の瞬間、叶は振り向くと鋭すぎる牽制を三塁の巖奇へと投げつける!
 そう、これも『消える魔球』の一つ。走者を『消す』、牽制球(今回は鋭刃符使用)だった。
 頑丈な巖奇も、バットを持たない状態では成す術も無く引き裂かれる。
 見事にアウトとなる巖奇(もっとも、辛うじて破壊を逃れてはいた)。
 これで、一死、一二塁。
 とりあえず一死とった安堵の息をつく。だが、打席へと向き直った時、嫌な予感めいた物が浮かんだ。
 叶は、(普段の符投げの癖なのか)下手投げ。
 それは奇しくも、相手先発、郷仲と同じ。
 同時に、今打席に立っているのは、郷仲の球を受け止めつづけた夜魔堕。
 真っ向勝負を挑んだ叶の球を、夜魔堕ははるか彼方へと打ち返していた。
 あまりの打球の速さに、見送る事しかできないサムライ達。
 重い三点が一同の上にのしかかった。

 そして、九回の表。
 サムライ達は更なる窮地に立たされている。
 あれから、勢いに乗った殲鬼側は一点を追加、四対一となっていた。
 同時にこの回、シビト達は2番からの好打順。
 幾つも重なる逆境が、敗北を予感させる。
 だがそんな空気は、その男がマウンドに立った時一変した。
「投手の交代をお知らせします、叶投手に代わりまして、『伝説の猛虎仮面』投手」
 アナウンス(?)の声と同時に、猛虎仮面のマスクを被った孫の手がゆっくりと回りを睥睨する。
 その存在感、頼もしさに、応援席は揺れに揺れた。
「大船に乗った気でいな!」
 その言葉どおり、緩急入り混ぜた投球は、瞬く間に空振りの山を築き上げる。
 二人を切ってとりそして、夜魔堕。
 この脅威の強打者にも、猛虎仮面は臆する事無く、不敵に笑う。
 既にカウント2−3。お互いを追い詰める。
「ど真ん中だ! 打てるモンなら打ってみろ!」
 叩き付けるように超剛魔球「猛虎彗星弾」(猛虎仮面の気迫溢れる剛速球)を放つ。
 唸りを上げ迫る猛虎彗星弾。
 迎え撃つ夜魔堕。
 その瞬間!
 白球はバットを真っ二つに叩き降り、そのままの勢いでミットへと突き刺さった。

 そして、その裏、サムライ達の最後の攻撃。
 この回から急に郷仲は崩れた。
 いや、正確には、郷仲をリードしていた夜魔堕が不調になったのだ。
 その理由は簡単、先ほどの折れたバットの破片が、夜魔堕の体のあちこちに突き刺さっていたのだ。
 それ故、白球をこぼす事が多くなり、結果コースの甘くなった郷仲の球を、サムライ達は立て続けに連打。無死満塁のチャンスを作り上げる。
 そして四番である猛虎仮面が打席へと降り立った。
 無言で威圧する猛虎仮面。
 そのプレッシャーに郷仲は耐え切れなかった。
「葬らん!!」
 それは完璧なインパクト。
 打球は遥か遠く彼方へと飛んで、視界から消え去って‥‥


 その瞬間、歓声とともに封土は消滅した。

 かくして村人は希望を取り戻し、殲鬼は力の元を失う。
 元々、シビトの製作と試合の指揮程度しか実力のない殲鬼である。
 試合に勝ち、勢いのあるサムライ達に適う訳がない。
 めでたく9人がかりのタコ殴りをうけ、見るも無残な運命を辿る。
 そして‥‥
 サムライ達は、お約束の酒かけで祝われながら、村人の心からの宴を受るのだった。
 文字通り、勝利の美酒に酔いながら。

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