16.『【能面】動き出した計画』
============================== ●鬼面衆の謎 夜那瀬の国のとある村が、殲鬼たちに襲われた。殲鬼たちは皆鬼を表した面をつけていたという。既に村の人間は皆殺しにされているが、この者たちを放置しておけば、更なる災厄がもたらされる事は必定である。 この鬼面の者たちを倒すべくサムライたちに依頼する迦煉であったが、鬼面たちの者の正体が掴めず、不安を感じていた。単なる殲鬼とは思えず、さりとてシビトでは活動できない日中でもまったく問題なく行動している鬼面の者たち。果たしてこの者たちの正体とは何なのであろうか。 「人の居ない村‥‥。子供も老人も誰一人生き残ってはいないのでございますね」 凶剣士・虚影(w2c857)は村の惨状を見て、顔を曇らせた。家屋は破壊され、昨日まで人々の営みが行なわれていたであろう村の中は、死の恐怖に顔を引きつらせ死んでいった村人たちの死体で埋め尽くされていた。 サムライの力をもってしても、既に起きてしまった悲劇は止めることはできない。しかし、これから起きる事を防ぐ事はできる。この村に今だ居座っているという、鬼面の者たちは今だその姿を確認することはできない。サムライたちはまずその者たちを探す事にした。 「でも、鬼面衆の正体って一体何なのかしらね」 六津の国の王女・安寿姫(w2b852)が依頼に取り掛かってからずっと疑問に感じていた事を口にした。最初は殺された村人をシビト化したものではないかと思ったが、姫巫女によると彼らは日中でも活動できるという。日の光を浴びれば無力化してしまうシビトでは無い事は確かだ。となると残された可能性は何か。ラセツの鬼道士・三斗(w2a059)は、サムライたちで言うカラクリに近い存在では無いかと踏んでいた。 「俺は鬼面が操る人形だと予想しているんですけど‥‥」 「でも、操られている普通の人間という可能性もありますよ。よく分からない事だらけだから、出来る限り調査をした方がいいと思いますよ」 そうであったとしたら、万が一排除する仮定で殺しでもしたら取り返しがつかない。不屈のへっぽこ侍・八重垣(w2b382)の慎重論ももっともである。彼の意見に頷き、霞彩の白珠・若桜(w2a092)も同意を示した。 「敵の正体が分からない以上、できるだけ鬼面衆の正体を把握し、殲鬼の企みを見抜いた上で阻止したいところです」 最近の殲鬼はサムライを研究している節がある。すなわちサムライが得意とする事や苦手にする事、その他弱点なども掴んでいる可能性がある。迂闊に鬼面衆を攻撃して罠にはまってしまっては元も子も無い。 「そうね。敵の計画を知るには敵を知る事が重要。なので対鬼面衆班として鬼面衆の正体の確認をしたいと思うわ。でも、肝心の敵がいないのよね‥‥。孫の手?」 見轟の銀狐・吾梨亜(w2a037)に問われ、小蛍符で呼び出した蛍(孫一から孫九と命名)を偵察にあたらせていた鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894)は首を横に振った。 「今ん所、特に見つからへんなぁ。確か、村に居座っているはずやったんやけど‥‥」 蛍だけではラチがあかないので自らも探しに来たが、村には鬼面の者はおろか、誰も存在していないかのように静まり返っている。姫巫女の予知が外れる事は無いので、必ず村の中にいるはずなのだが‥‥。 「ともかく、いっぺん正体を掴んどかんと、安心して殴れんわな。霞ちゃんと吾梨亜ちゃんに捕まえてもらって確認せんといかんな」 「ええ。敵さえ見つかれば、やりようもあるのですが‥‥」 村に入った途端に迎撃されると身構えていた大鎖鎌の使い手・霞(w2a284)も、この状況に肩透かしを食らったような気分だった。しかし、まったく敵の影も形も見つける事ができない。 「‥‥胸の痛みは感じるんですけど‥‥」 ヒルコである若桜が苦しみを感じているので、殲鬼が近くにいる事は確実なようである。サムライたちが辺りを警戒しながら村の中央の広場にたどり着くと、突然、辺りに響き渡るような大声が聞こえてきた。 「はっはっは! ようやく来たか、サムライ共! この村に残っていればお前達がやってくるのではないかと待ちかまえていたが、案の定やってきたな」 「‥‥!? あれは‥‥!」 慌てて辺りを見回すサムライたちの中で、静かなる雷・洸(w2a811)が一件の家の屋根の上を指差した。そこには、恐ろしい形相をした鬼面を被る殲鬼が、サムライたちに視線を向けている。 「我が名は蛇(じゃ)。鬼面衆の長よ。お前達の事は迦楼羅と翁から聞いている。我らの邪魔をする不遜な者たちよ。その力を見せてもらおうか!」 「奴が、お館さまとやらか? 面白くなってきたな‥‥」 蛇の言葉が終るとともに、そこかしこから姿を表した鬼面の者たちに囲まれながら竜を狩る者・瞬(w2a645)は不敵な笑みを浮かべた。敵が何であろうと、強い者と戦える事に充実感を感じる瞬にとって、あの迦楼羅(かるら)と翁(おきな)の上に立つと考えられる殲鬼を前にして喜びを感じるのは不謹慎とは言え、無理らしからぬ事であろう。 かくして、サムライたちと鬼面衆たちの戦いの火蓋は切って落とされた。 ●鬼面衆の正体 「まずは、その力を確かめさせてもらおう!」 鬼面衆の側面をつく側から姿を現した閃風狼牙・斬(w2b822)が霧隠れを放った。彼の付近が濃霧に覆われる。殲鬼やサムライには効果を及ぼさないこの武神力、シビトやケモノ、それに人間にはかなりの効果を及ぼす。これが効くかどうかで、鬼面衆たちが殲鬼に近い存在かどうかが判明するのではと考えたのだ。 鬼面衆たちは、霧などものともせずに刀を抜いてサムライたちに切りかかってくる。どうやら霧隠れの霧はあまり効果を発揮していないようだ。 「ただの雑魚という訳ではないようだな!」 それならばと電光脚で斬は鬼面衆たちを迎撃する。殲鬼ほど圧倒的な力は無いが、素早い身のこなしと数人が組みになって襲い掛かってくるところからなどからしても、決して油断してかかれる相手ではない。洸が自分に切りかかってくる鬼面衆に対し、カスミ斬りを浴びせようとしたところ蛇が彼に声をかけてきた。 「良いのか? 若きサムライよ。その者はお前達と近しい人間だぞ。それを手にかけるというのか?」 「何!?」 殲鬼の言葉に驚いた洸は、慌ててカスミ斬りを中断して敵の攻撃を弾いて後方に飛び退った。他のサムライたちもこの言葉には驚いたようで、ひとまず攻撃を中断する。 「くくく‥‥。驚いているようだな。そうよ、そやつらは皆普通の人間たちよ。鬼の面を被っているだけのな。嘘だと思うなら剥がして確かめてみるがいい」 「ならば‥‥」 自分に向かってきた鬼面衆の一人を捕縛網で拘束する霞。そして、動けなくなったその者を縄で縛り付けて、吾梨亜に引き渡した。仮面を剥がそうとした彼女の脳裏に、一瞬同じように力を与える面の存在が思い出された。確かその名は肉付きの面とか言ったか、とにかくその面を被ると普通の人間でも強力な力が発揮できるようになる代わりに、外す時にはその者の顔の皮まで剥がしてしまうという恐るべき代物であった。幸いにして、その面を人が被る事はサムライたちの活躍によって阻止されたが、今それが被らされているとしたら‥‥。 (「でも、仕方ないわ」)。 だが、殲鬼の目的を知るため吾梨亜は意を決して面を剥ぐ事にした。どのみち、このままこうしていも始まらない。恐る恐る仮面を取って見ると、そこにはごく普通の農夫のような男の顔があった。勿論顔の皮は引き剥がされてなどいない。念のために八重垣も、面をかけている紐を鋭刃符によって器用に切り離してみたが、結果は同じだった。 「やはり人の顔‥‥。人を操っていたのか」 「その通りだ。これで分かっただろう。この者たちを殺したくなければ、お前達はその力を相当抑えて戦わなければならない。倍以上の数の相手を前にそれができるかな」 鬼面衆の数はざっと三十人。それが何組にも分かれて間断なく襲い掛かってくるのだ。これはかなり厄介な事である。そして、ついでのように蛇はある事を付け加えた。 「そうそう、そいつらは例え面を剥がしたとて、しばらくは我が支配下に置かれたままだからな。簡単に解放できるなどと思わぬ方がいい」 「‥‥まったく抜け目ないわね」 止むを得ず蛇眼を用いて複数の鬼面衆を足止めをしながら、安寿姫は内心殲鬼の狡猾さに舌を巻いていた。ここまで都合のいい下僕を作り出すことができるとは思っていなかったのである。ケモノやシビトのように力押しで攻められるならば苦労は無いが、殺す事ができない人が相手ではそうはいかない。孫の手も同感であるらしく、切りかかってきた鬼面衆の手を掴んで骨を外しながら溜息をついた。 「まったく骨の折れる事やで‥‥」 威力をセーブしての戦いという思わぬ苦戦を強いられる中、虚影は呼び出した蛍に衝撃波を放たせて、鬼面衆を弾き飛ばす戦法をとった。悠長に連中と戦っていてもこちらが疲弊するだけ。ここは一気に操っている本人を倒すべしと判断したのだ。 「さぁ、瞬様!」 「俺はそれほど器用ではないんでね。邪魔する奴は力づくでどかせてもらう」 容赦なく自分の前に立ち塞がる鬼面衆に氷縛剣を浴びせて、終は蛇の元に駆け出す。同じく三斗もあらかじめ呼び出しておいた蛍で邪魔な鬼面衆を攻撃させながら、蛇の元に迫った。 「行くぞ!」 そして、蛇の周りの鬼面衆の囲みを打ち破り、遂に殲鬼の元にたどり着いた三斗は蛇に対して百鬼粉砕拳を繰り出そうする。しかしその踏み込んだ足元に、鎖で繋がれた苦無が打ち込まれ彼は攻撃を中断させられた。 「薄汚い手でお屋形様に触れないでもらおうか、サムライ君」 ●迦楼羅と翁 「迦楼羅か‥‥。余計な真似をするな。鬼面衆の実験もかねて、私も少し体を動かそうと思っていたに‥‥」 「お戯れを。もう十分ではございませんか。あまり遊びが過ぎますと怪我をなさいますぞ」 三斗の足元に鉄鎖法で苦無を打ち込んだ鳥面の殲鬼が、主である蛇に提言した。その背後にはもう一人、老人の顔をした殲鬼もいる。三斗はその顔を見て、声を張り上げた。 「翁! やっぱり来やがったか!!」 「ほほう、いつかの小僧か‥‥。まったく良く顔を合わせるのう。よくよく縁があると見える。じゃが、残念ながらお前さんと遊んでおる暇は無くてな。大人しく退かせてくれんかね?」 「‥‥俺もここで決着をつけるつもりはない」 敵は強力な三体の殲鬼。しかも、蛇に至ってはまだその力をまったく見せてはいない。本当ならば、翁よりも強いと思われるこの殲鬼を追い詰める事で自分の力を示したかったが、敵の実力が分かっていない以上、無理な力押しによる攻撃は無謀であり、無意味である。それは目の前にいる翁から学んだ事でもあった。 だが、瞬はせめて実力だけでも図っておきたかったらしく、焔法刃により炎を宿した刃で蛇に追撃をかけた。 「お前が迦楼羅や翁のいうお館様とやらか? どれほどの力があるか、確かめさせてもらおうか!」 「残念だが、そうはいかんよ」 横合いから放たれた迦楼羅の苦無は、何と瞬の魔剣に打ち出された。屋外故、ある程度鉄鎖法の軌道が読めるのではと思っていた瞬もこれには驚いた。そして、絡みついた苦無の鎖が猛烈な勢いで魔剣を迦楼羅の手元に引き寄せようとする。そうはさせまじと踏ん張る瞬に対し、迦楼羅は空いたもう片方の腕を彼に向けた。その手を覆う手甲にも、勿論苦無が仕込まれている。 「鉄鎖法にはこういう使い方もあるのだよ」 鎖を生やして射出された苦無は、まっすぐに瞬の無防備な喉下に迫った。魔剣を絡め取られている瞬にそれを防ぐ手だては無い。そしてそれが喉に突き刺さろうとしたその時、火炎の塊がそれを打ち砕いた。 「貴方の好きにはやらせません!」 迦楼羅に注意を払っていた若桜が、火炎弾を放ったのだ。瞬も何とか隙を見て魔剣に絡み付いていた苦無を取り外した。更に援護のため、安寿姫が殲鬼たちに向かって召雷光を放つ。 「もう頭にきたわ! 烽火、どんどん敵を破戒しちゃいなさい!」 「‥‥‥‥超破戒」 何の罪も無い人々を殺し、あまつさえ捕らえた人間を先兵として用いる殲鬼のやり方に、超合金の里の影響か怒りの炎を燃やす安寿姫にけしかけられた超破戒・烽火(w2b332)が、鬼面衆たちの面を次々と破壊していく。他のサムライたちも面を破壊していく事で何とか操られた人々を解放しようとし、翁は鬼面衆に限界を見て主に撤退を促した。 「もはやここまでです。鬼面衆の力は十分に試す事ができましたでしょう。サムライ共もおいそれと殺す事が出来ない事は知ったはず。ここはひとまず帰還すべきです」 「お屋形様」 「‥‥分かった。もう少し遊びたいところだが、まぁ、ここはお前達の顔を立てて引き上げることにしよう」 蛇は撤退を決意した。虚影はどちらかが自分たちと戦う様子を見せれば迎撃するつもりであったが、どうやら三体とも撤退するつもりのようで、内心ほっと溜息をついた。正直、殺す事ができず開放に時間がかかる鬼面衆を相手しながら、殲鬼たちと刃を交えるのはかなり厳しい。 「何とかなりましたか‥‥」 「どうやら、ヘタな深追いする奴はおらんようやね」 刀で鬼面衆の攻撃を受け止めていた孫の手も、引き上げていく殲鬼たちに無理に追撃をしようとする者がいないことを確認して、鬼面衆の無力化に努める事にした。そんな中、洸が殲鬼たちに気になっていたことを問うた。 「元阿弥様はどうした? ‥‥まさかもう用済みとなって手をかけたのか!?」 「‥‥元阿弥? ああ、そう言えば、確かそんな奴も存在したな。迦楼羅、もう始末はしたのか?」 「いえ、もう少し使い方がありそうなので生かしてあります」 「だ、そうだ。良かったな、サムライ」 哄笑を上げて引き上げていく殲鬼たち。鬼面衆相手に、殺さないよう威力を抑えて戦っていた八重垣は、徐々に操られていた人々が正気を取り戻すのを見て安堵した。 「良かった。‥‥何とかなったようですね」 「‥‥しかし、この面。一体どんな秘密があるのだろうな」 剥がされた面を見て斬は首を傾げた。それは大した細工の無い鬼の面。村の家屋なども確認してみたが、特に手がかりは見つからなかった。やはりこの面に何か秘密があるのだろうか。 殺された村人たちを埋葬しながら、サムライたちはこの鬼面衆との戦いがまだまだ続く事を予感するのだった。 ============================== |