19.『鼠退治:防衛編』


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 サムライ達は村へと急ぐ。
「先に行かせてもらうぜ」
 陸鳥の上に乗ったサムライが声をかける。
「俺たちは後から色々持っていくから少し遅れるぜ」
 鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894)が自らが背負った荷物を見せるようにしながら声をかける。
「偵察はしておくから任せておけ」
 陸鳥に乗ったもう一人が話す。
「まかせたぞ」
 先行組みを見送りながら黒髭侯・塩月(w2a599)は村人に差し入れる食料を持った周囲の者達を気遣いながら先を急ぐ。

 村についたサムライ達は早速村人達に持ってきた食料を配り始める。
「ありがたいことですじゃ。量よりも村人達を助けてくれる人達がいるということがありがたいですじゃ」
 村長はそんな風に言いながら食料の分配を手助けしている。
「あの。頼みがあるんだが良いか?」
 闇を往く者・不折(w2d724)が緞帳に向かって話し掛ける。
「なんじゃ?」
 村長が不折の方を向いて話を聞く。
「すまんが服を貸してくれないか?」
「それはかまわんですがなんにつかうのですじゃ?」
 村長が聞くと不折は簡単に答える。
「一芝居打っておきたくてな」
「服を貸すなら別にかまわんのじゃが‥‥」
 村長はそういいながらも不折に服を貸してくれる。
「村長、俺も聞きたいことがあるんだが?」
「なんじゃ?」
 孫の手の問いかけに村長は聞き返す。
「鼠がどこから来たかわかるかい?」
 孫の手の質問に村長はそっけなく答える。
「鼠はほとんどが北の森から来ていますじゃ。無論北だけでなく全方向からやってくると思うのじゃがこの辺りではあの森が一番のねぐらのようじゃ。鼠のケモノ達は普段から村にいるというわけでは無いようですじゃ」
「そうなると防ぐのは向こうの連中頼みかぁ」
 その言葉に孫の手は森の手前で準備してているサムライ達のことを考えながら食料の分配作業へと戻る。動くにしてもまず村人のことを安心させなければならない。

「この蔵がそうなのか‥‥」
 村人達への食料の分配が進む中柘植の・飛猿(w2a625)は蔵の状態の確認に来る。
「穴はいくつかあるようだが‥‥どれも最近出来たものだな」
 飛猿は蔵の状態を見て呟く。
 蔵そのものは良く補修されているようであるがここしばらく出来た穴と思われるもののいくつかはふさがれていない。
 飛猿はそれを確認すると村人から借りた道具を使って補修を始める。手の届く範囲の補修は比較的簡単に済むがそうでないところも多く、とても塀の補修までは無理そうである。それでも目に付く限りの補修には力を入れるが‥‥
「飛猿すまんが、指導を頼めるか」
 村人から借りてきた服を持った不折が飛猿のところへ来て打ち合わせ通りに使用ということになる。
 飛猿はもっと集中できれば進んだかもしれないのにと思いながら行動を分散したことを後悔しながら演技指導に取り掛かる。

 飛猿たちが演技の練習に打ち込んでいるころ凍える月・朧(w2a194)は村中の鼠の潜んでいそうなところを虱潰しに探して歩いていた。
 朧は残念そうにしながらも侵入経路となりそうな道筋の見当をつける。
 いくつかの場所には米粒や、粉、足跡などはいくつも見つかるが糞や齧った後は見つけられない。
「はやり孫の手が聞いてきた話の通り村の中に住んでいるわけではないのか‥‥」
 それらから判断してやはり村の中に鼠が潜んでいるのではないということが分かるだけであった。
 そして朧の探索によって村に入り込む場所が特定でき、村の外で待機している者達に伝えに行く。

 そんなことをしているうちにあっという間に時が過ぎ夜になる。
 全員が配置につきまんじりともせずに時を過ごす。
「始まったようですね」
 索敵の望遠鏡で村の北側を窺がっていた音斬流継承者・夢香(w2a102)は北側の森の入り口での戦闘が始まったのを確認すると周囲の者達にそれを伝える。
「よし、皆準備はいいな?」
 塩月は大きく声を上げ周囲の者達へ準備の確認をしてもらう。塩月の言葉を聞いた者達はそれぞれに戦闘体制を整える。そし蔵の中への侵入路を一つでも減らすため蔵の入り口は締め切られる。
「俺は上で迎撃する‥‥」
 飛猿はそう言うと高飛びで屋根の上へと軽々と飛び上がる。
「もうきたんですか」
 蔵の裏側で待機している邪を封じる舞師・沙耶(w2b817)は塩月の言葉を聞くと自分の周囲に7枚の小蛍符をつかい蛍を召喚する。

「明るいねぇ」
「ああ、なんでこんなにいるかな‥‥」
 締め切られた蔵の中で待ち構えるのは悪戯っ子・莉里(w2b489)と孫の手の二人である。二人を助けるために蔵の中に放たれた蛍は紅霧の6匹と不折の5匹、それに孫の手の9匹を合わせて20匹にもなる。
 外の二人が召喚した蛍はそれぞれのいる壁面の近くに、孫の手の蛍が残ったところをフォローするように配置しているが蔵の中は蛍に照らされ昼間よりも見えるのではないかというくらいの明るさが確保されている。
「これならはいってくればすぐわかるね」
「ああ」
 莉里の言葉に孫の手は答えながら周囲の音に気を配る。
「蔵の前でも始まったようだな」
 外から聞こえてくる音を聞きながら孫の手は入ってくる鼠がいないかどうか注意しながらじっと待つ。

「さぁ、こっちへきなさい!」
 蔵の前の道に陣取った戦場に舞う自動人形・紅霧(w2a389)は全身から炎のような闘気を撒き散らし叫びながら怒気放出によって鼠をひきつけるが‥‥
「キィッ!」
 小動物サイズの鼠は紅霧を見ると十数匹が一気に飛びかかる。
「夢香さん、今です! 合体技・『深霧』」
 灰色の名探偵・斜烙(w2a085)と夢香から生み出された霧が蔵とその周辺を一気に霧の中へ閉ざす。
「キィッ」
 鼠たちは突然現れた霧の中で混乱したように周囲を探っているようである。
「うまくいったようだな」
 塩月は鼠たちの様子を見ると輝神装甲で防御力を高めた淡く輝く鎧を身に纏いながら紅霧周辺に集まる鼠の群れの中へ切り込んでいく。
「撃って撃って撃ちまくるのみ」
 金獅子・徹(w2b548)は最後衛である扉の前に陣取りながら前方にいる鼠に向かって丁寧に狙いながら鬼攻弾と手裏剣を放ちつづける。
 怒気放出を行った紅霧は怒気放出から織炎剣へ移る間の隙を突かれ鼠に取り囲まれ動くに動けずに苦心している。その状態でありながら攻撃を受けながらも一匹ずつ確実に倒しているのはさすがである。
「紅霧さん、今行くわ!」
 深霧を放ち、手の空いた夢香がそう言って駆けつける。
 夢香は一気に接近すると蝶舞旋空斬を使って紅霧周辺の敵を一掃する。
「ありがとう」
「残りはこれで一掃ですね」
 斜烙は冷静に判断すると召雷光で残敵を一気に片付ける。
「これでおわりですか?」
 斜烙は雷撃で一掃した敵を見るといぶかしみながら疑問を口にする。
「どうやらまだのようだな」
 塩月は霧の中でかすかに動く影を見ながら溜息混じりに声を上げる。
「今のは序の口ですか‥‥」
 朧はいやそうにいいながらも第二陣に備える。

「本当に多いですねぇ」
 倒錯の虚体・真秀(w2c511)はその頃角から動けずにいた。
 側面から来る鼠に向かって角のところから数匹づつ纏めて退治するようにしながら中への侵入を防いでいた。
 真秀と反対側では不折がやはり一人で鼠が侵入しようとしているのを阻止していた。
「まったく、次から次へときりが無い!」
 そういいながらも光の杖と氷柱衝を交互に撃ちながら壁に取り付こうとしている鼠を一気に倒し続ける。
 そして裏側ではかなり楽に鼠狩りが進行していた。
 7匹の小蛍符で鼠を個々に抑えながら後ろから韋駄天足で駆け寄った沙耶が一匹づつ確実に止めを刺していく。着実に蛍は傷ついていくが今しばらくは持ちこたえられそうである。
 さらに沙耶の蛍達の合間を突破しようとするものには屋根の上から飛猿の召雷光が当たる。
 飛猿は三人それぞれの攻撃の後の隙をフォローするようにしながら屋根の上を忙しく駆け回る。
 ほとんどの鼠が紅霧の怒気放出に引かれたか正面に集まっている分周囲での戦いは思ったほどの数はいない。それでも一人で一面を完全に抑えきれずに数匹の鼠の侵入を許してしまう。
「ううぅ。やっぱりいやだなぁ」
 侵入された蔵の中では莉里が怖がりながらも血走りを振り下ろして一匹ずつ確実に始末していく。
 孫の手は小蛍符が見つけた鼠に確実に攻撃を加えしとめていく。

 その状態がしばらく続き、そろそろ武神力の残りが気になりだした頃徐々に鼠の攻撃は減ってくる。
「そろそろおわりのようだな」
 塩月は鼠を片付けるながら周囲の状況を見てそう判断する。
「だいぶ数も減ったしさっきからほとんど出てこないしな」
 朧も手近な鼠を倒しながら塩月の言葉に応じる。
 他のサムライ達も多かれ少なかれ傷を負い、武神力の残量にも不安がある中それでも何とかこらえきっている。
「この様子が続くならなんとかなりそうね」
 夢香が疲れた身体をひきづりながらも答える。
 サムライ達がしばらく待っていると森のほうからサムライがかけてくる。
「おわったのか?」
 斜烙が確認する。
「ああ、倒せた。村の手前でもかなり倒したので後は残敵掃討だけだ」
「それなら後は楽できるな。他の者達にも伝えておこう」
 塩月はそう引き受けて他の者達のところへ回っていく。
 しかし、殱鬼の命令を受けた鼠がどう来るか分からないため結局一晩中警戒に当たる。
 次の日の朝、ようやく開放されたと判断したサムライ達は村長に報告するとそのまま部屋を借りて寝不足の身体を休めたのであった。

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