20.『くりすますの贈り物』
============================== ●亜流間の村 到着 連ね鳥居をくぐり、急いで陸鳥を走らせる。それでも村に着いた時には、姫巫女の言葉通り、辺りは静まり返っていた。 「どうやら殲鬼はまだのようだな」 翡翠玉隋の焔雷師・椿(w2a419)は軒下に下がった袋を確かめる。その家の子供は女の子なのか、可愛らしい人形が中に入っていた。 「ここがまだ無事なだけで、もう殲鬼は動き出しているかも知れんだがや。急いで殲鬼を探すべ」 「理託の言う通りだ‥‥。俺と飛剣次が北側を重点に調べる‥‥。何かあればすぐに知らせる‥‥」 黄昏の食欲魔人・理託(w2b120)に頷き、蒼拳狼牙・禍鎚(w2b393)がお調子者な大食天狐・飛剣次(w2d992)と共に捜索を開始する。 「さて、俺達もさっさと殲鬼探しに向かおうぜ」 鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894)が皆を促し、それぞれ二人一組となって捜索を開始し始めた。 ●捜索開始 「せっかくの贈り物を奪う殲鬼なんか絶対に許せないぞっ! 絶対、倒しちゃうんだからなっ」 気合い十分なヒルコの天剣士・響(w2d402)の言葉に、共に行動する椿は、そうだな、と小さく返事する。 事前に入手した地図を見るとずいぶん小さい村のように見える。が、やはり、歩いてみるとそうはいかない。 北から南へ。徐々に捜索範囲を狭めるように歩きながら、家の周辺や屋根等を注意して探す。が、不審な影は無い。軒下の袋を探ると親御が入れたと思しき贈り物が入っているので、まだここには来ていないのかもしれない。 「響、何か感じないのか?」 「駄目なのだ。僕も注意しているけど、何も感じないのだ」 しゅんとうつむく響。 「となると、やはりここら辺にはいないか」 「だと思うのだ。もし見つけたら、このハリセンですぱこーんと‥‥」 「‥‥気合いを高めるのはいいが、静かにするのだな。子供が起きたら大変だろう」 椿に言われて慌てて口を閉ざす。実際はさほどの大声で話している訳でないが、夜も更けた村では、吐息の音さえやけに大きく感じる。 「潜むのが上手と言うからな。さて、今はどこに隠れているのか」 寒さに身を振るわせつつ、二人は慎重に殲鬼を探す。 疾風を奏でる者・灰(w2c926)と孫の手が捜索をしていると、地面にまだ新しい足跡を見つける。 「殲鬼か?」 「にしちゃあ、やけに堂々と道を歩いているような‥‥」 それでも他に手がかり無く、孫の手の小蛍符に照らされた足跡を追ってみる。すると、大きな袋を持って軒下にぶら下げられた袋に何かをしている老婆を見つけた。 「やはり殲鬼みてぇだな」 孫の手が刀に手をかけ、先制をかけようと動きかける。 「いや‥‥よく見ろ。あの老婆は贈り物を入れてるだけで、取ってない」 飛び出しかけた孫の手を灰が慌てて制す。 確かに月明かりだけで見分けにくいが、老婆はどうやら贈り物を、ただ入れているだけのようだ。途中、贈り物が入った家の前も通るが、それには見向きもしない。 たぶん、子供を寝かしつけている親に代わって、ご近所のさんたくろおす役を請け負ったのだろう。 何件かに贈り物を入れ、空になった手提げ袋を持って家に帰ろうとする老婆に二人は声をかける。 「あんりま。こんな夜更けにそんな格好して。どうしなすったんじゃ、一体?」 見慣れない二人に老婆は目を丸くする。特に、赤い衣装に付け髭つけたさんたくろおす衣装の孫の手に注目している。 ちなみに。この赤白っぽい衣装は、椿、理託、飛剣次も事前に用意している。四方に散った二人組の片割れだけが用意しているのは果たして偶然なのか、必然なのか。 「実はですね‥‥」 灰が老婆に事情を説明する。殲鬼と聞いて老婆の目が丸くなる。それでも、殲鬼の脅威は実感が持てないのか騒ぎ出すような事は無く、むしろ贈り物をすり替える事に腹を立てていた。 「それで、村に不審な出来事とかはなかったか? 性格が変わった人物がいるとか‥‥」 「ないねぇ。‥‥いや、そう言えば、梅さんの家から変な臭いがするっちゅう事があったわさ」 ふと思い出して老婆は語る。 梅という老人が住んでいた家があるのだが、数年前亡くなって以来空家になっていると言う。なのに数日前、その家から妙な臭いがするという話が出た。中で何かが死んでるのかも知れない、清掃でもしようかと言っている内に、ぴたりと異臭が消えて、清掃の話もそれっきりになったという。 「その梅さんの家というのはどこに?」 「村の中心じゃよ」 そう言って案内しようとする老婆に、二人は丁重に断りを入れる。 「そうか。わしはここで一人で住んどるから、何かあったら遠慮なく協力させてくれな。まったくロクでも無い事をする奴がおるべさっ!!」 本気で腹を立ててるらしい老婆に苦笑しつつ、孫の手と灰はその梅とやらがいた空家へと向かった。 「寒いぜー」 ぶるり、と身を震わせて飛剣次が小声でぼやく。 空は晴天。雲一つ無い‥‥、という訳で昼間の熱が全部空に逃げて、ずいぶんと冷え込んできている。 勘を頼りに殲鬼を探す飛剣次だが、やはりそれで見つかる程単純な殲鬼ではないようだ。さらに、共にいる禍鎚が思念投射で村全体を探しているのだが、この武神力を使っている間は全くの無防備となる。万一、そこを殲鬼に見つかってこれ幸いと攻撃されては危ないので、うかうかと離れられない。 よって、飛剣次の捜索範囲は結構限定されていた。 「ったく。寒さでいざという時動けなくなったら間抜けだぜ」 はぁー、と、手先に息を吹きかけた時。禍鎚の身が動いた。その顔に先とは違う険しさがある事を飛剣次は気付いた。 「いたのか?」 「ああ‥‥村の東、空晶達の近くだ‥‥。他の奴には俺が知らせる‥‥。飛剣次は空晶達に報せに行ってくれ‥‥」 「分かった」 言うが早いか。二人は別々の方向へと走り出していた。 「‥‥いたぜ」 飛剣次から話を聞き、心眼で気配を探した話術師・空晶(w2c201)がにやりと笑う。 理託、飛剣次らと共に、物陰に潜みながら、気配の方へと進む。 気配の主は、ひょろっとした壮年のようだった。人間に近いが異形の角がそうでない事を物語る。下げられた袋から贈り物を取り出し、自身の用意した贈り物とをすり替えていた。 「見つけたべ。間違いねぇべな」 「ああ。‥‥だが、禍鎚達がまだ来ねぇようだな。このまま三人で奴を見張って待つか、俺が韋駄天足で皆を‥‥」 呼んでくるか、と思案しかけた時だった。 殲鬼が袋を探っていた家の戸が、突然からりと開いた。 中から出て来たのは、五歳ぐらいの女の子。眠そうに目をこすりながらも、家の先にいる殲鬼とばっちり目が合っている。 「まずい!」 殲鬼も当然、少女に気付いた。ぼやっ、と自分を見つめる子を見て、果たして殲鬼は何を思ったか。 だが、殲鬼が動き出すよりも早く、闇分身の術で召喚した三体の空晶が殲鬼を押さえ込むと、そのまま素早くどこかへと連れ去って行く。 「ははは〜。さんたくろおすさんは配達途中だで、もう少しゆっくり寝てて欲しいだよ〜」 理託が笑顔で少女に話し掛けながら、殲鬼の落とした少女への贈り物を袋へ戻す。白い毛付きの赤の外套にさんたくろおすの姿を見たか、それとも単にあっけに取られただけか。少女はかくかくと頷くと、静かに家に戻っていった。 ●戦闘終了! 暴れる殲鬼を分身三体で押さえつけながら、空晶達は駆ける。 「だー! 何しやがんだ! てめぇら!!」 「うるさい、村の者が起きるだろうが」 ぼかり、と空晶その壱が殲鬼を扇で殴る。 「痛ぇ! あ、暴力はいけねぇんだぞー」 「てめぇが言うんじゃねぇ」 空晶その弐が、どかっと扇を突き立てる。 「がぁー、その使い方は反則」 「てめぇ、うるさいぜ」 空晶その参が呪縛符を貼り付けると、殲鬼がぴくりとも動けなくなった。 「お、皆来たようだな」 殲鬼を村外れまで運んだ所で、禍鎚達が合流した。 「てめぇの隠れ家は見つけたぜ‥‥よっくもあんなとんでもない贈り物を用意してくれたもんだな!」 怒り心頭の孫の手は、動けずあがく殲鬼に駆け寄ると、問答無用で大地斬を叩き付ける。 「屍骸とかも許せませんけどね‥‥。あの一尺はあるよな超巨大ゴキブリは何なんですかっ! 顔面めがけて飛んできましたよ!!」 「うぎゅうう‥‥。樹海の奥で、すっげぇ苦労して見つけた奴〜」 「うるさいですっ」 同じく灰がカスミ斬りで切り刻む。ついでに動き出した殲鬼に呪縛符をぺたり。 「人の物を盗っていくのは悪い事なのだっ!」 「子供の夢を壊すような奴は許せないべ」 響がハリセンでばしばし叩くと、理託も負けじと爆突拳を叩き込む。 「ちくしょー。この日の為に毎日夜なべして贈り物作ったのにーっ」 「作らんでいい」 冷ややかな突っ込みの元、椿が火炎弾を連発。 「大変だったんだぞー。村人に気付かれないよう、いつか子供の悲鳴を聞ける日を夢見てせこせこと‥‥」 「妙な夢を見るな‥‥」 禍鎚の爆突拳が殲鬼の脳天に直撃する。 「うぐぁああー。俺だって‥‥俺だって夢見たっていいじゃないかー」 「夢が見たいなら、一生寝てやがれ」 飛剣次のカスミ斬りが、殲鬼を覚める事の無い永遠の眠りへと誘っていた。 ●苦しみます、散々苦労す 殲鬼が取り替えていた贈り物は幸い壊れたりもせず、隠れ家にきちんと置かれていた。どうやら一旦集めた後で、纏めてどこかの家に置いておくつもりだったようだ。 盗られた贈り物の数はそんなに多くは無かった。 が、少なくも無かった。 「うーん。その刀は翔太にと用意してたの。その菓子は源平の親父が持っておったような気が‥‥。あ、その鞠は雛のに間違いないわ」 孫の手らが出会った老婆に協力を仰ぎ、贈り物を元の家へと返す為にサムライ達は奔走する。 ただ、老婆も詳しく知る訳ではない。見知らぬ物やあやふやな物は、空晶が柄でも無いと言いながら自然の友で犬猫に尋ねたり、その家の親御をこっそり起こして確認してもらったり。 しかも、元に戻す際、袋には殲鬼の贈り物が入っている訳で、それをいちいち確認した上処理せねばならなかったりして‥‥。 「あの殲鬼‥‥。もっと徹底的に痛い目に遭わせるんだった‥‥」 目だけが笑ってない素敵な笑みを浮かべる椿に、皆も似たような笑いで答える。 だが、サムライ達の奮闘あって、すべての贈り物は無事夜明け前には元の家に戻す事が出来た。 やがて陽が昇り、子供達が目を覚ましたなら、賑やかな歓声が村中に響き渡る事になるだろう。 ============================== |