23.『悶絶っ! 筋肉祭り!!』

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「いらっしゃい! いらっしゃい! これさえ食べればみんなムッチムチのバッキバキだよ♪ 興味があるなら寄ってきな」
 殲鬼王戦で負傷した鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894)は、上半身裸で筋肉兄貴の里名物『筋肉うどん』と定番の豚汁、新メニュー『マッスル・リブ』を見物客に売りながら、着実に資金を稼いでいる。
「ところでお前‥‥この水着に何か意味があるのか? まさか俺に看板娘をやらせるつもりじゃないだろうな」
 同じく殲鬼王戦で絶対斬殺剣の一の太刀を受けてしまったため重傷状態にある天下御免の傾き武者・玲於奈(w2a016)は、目の前でヒラつくハイレグ水着と孫の手を睨み、確認するかのように問いかけた。
「ははっ、気にするな。誰かに看板娘をやってもらおうと思っていたが、嫌なら破り捨てればいい。あ、マッスル・リブ追加ねっ!」
 猫の手も借りたいほど忙しい屋台の接客をしながら、孫の手が玲於奈に答えを返す。
「まぁ‥‥こんな時だしな。着てやるよ。別にお前のためじゃないぞ。この寒い中、冷水に浸かる仲間達の為だ」
 そう言って孫の手に微笑む玲於奈。
「今回のお祭りって‥‥筋骨隆々の紳士、淑女が集い筋肉の素晴らしさを冷水の中で語り合うお祭りなんですね‥‥」
 孫の手の屋台を手伝いながら癒し手・美月(w2a708)がお祭りに必要な『ぷろていん』を確保する。なんでも『ぷろていん』は大会参加者達に配るものらしい。
「これって、うまいのかブー?」
 大量に積まれた『ぷろていん』を見つめ、黒き魔人阿武瞳羅・仏血耶唖(w2c486)が美月にむかって問いかける。
「私には全く縁のないものですからね。美味しくはないと思います」
 マッチョな漢達を指差しながら、微笑む美月。
「これって『ぷろていん』でしょ? マッチョの素だよ。かっこいいなぁ〜」
 瞳をキラキラと輝かせながら、星祈師・叶(w2d037)が孫の手の屋台で何度かうどんをおかわりする。
「この筋肉祭りは神聖な祭り‥‥面白半分で参加されると、すぽんさーのボクが困るんだよね〜。そういうわけで祭りをもっと面白くするためにボクの権限で予選を開く事にしたんだぁ〜。予選の内容はすばりカキ氷を食べる事! 控え室には一人3つずつのカキ氷を届けてさせてあるから、全部食べきった人だけが本選に出場できるんだよ〜。もちろん村のお偉いさんにはちゃんと許可を貰ったよ〜。いつもこの村を救っているから、サムライ達の頼みは断れないからね〜」
 そう言って未来を垣間見る美少女・緋翠(w2a026)がニコリと笑う。
 どうやら村のお偉いさんと紳士的な交渉をしてきたらしい。
「少し味を変えてみるか‥‥」
 うどんに七味唐辛子をドッサリかけ、無限のチュウ忍・乱月(w2b151)は真っ赤に染まったうどんの汁をゴクゴクと飲み干し立ち去った。
「こりゃ、随分と美味いうどんだな。‥‥隠し味が効いている」
 うどんのうまさに上腕二頭筋を唸らせながら、限界への挑戦者・紅ひげ(w2a930)がニヤリと笑ってうどんを食う。
「そういや大会参加者に怪しい奴がいるぜ。名前は我異流。この辺じゃまったく見かけない顔だ」
 他の客に聞こえないようにして紅ひげにむかって呟きながら、孫の手がマッスル・リブをご馳走する。
「すまねぇな。それじゃ、俺はメンタルトレーニングでもしてくるか」
 そして紅ひげは芙蓉の部屋からこっそり盗んできた矯正用の胸当てを懐から取り出すと、ハネモノパワーを充填させるためひとり控え室へと姿を消した。

「殲鬼王戦も癒えぬというのにご苦労な事だ。これが若さというものか‥‥いや、若くないものも居るな」
 ハネモノパワーを充填完了した紅ひげの肩を叩きながら、黒髭侯・塩月(w2a599)が彼の事を応援する。
「紅ひげよ、がんばれ。我らが里の名に恥じぬ様にな。負けると正に『年寄りの冷や水』と言われるだろう。それだけは回避するのだ。それと‥‥暴発だけはするなよ」
 クールな視線で紅ひげのハネモノを黙って見つめ、塩月が彼に背を向け応援席へと歩き出す。
「あっちのお兄さんも、こっちのお兄さんも頑張ってぇ〜♪ みんな応援しちゃうからぁん♪」
 嬉しそうな様子で参加者達の受付をしながら、ついでとばかりにボディチェックを始める怪士・玖狼(w2d414)。漢達の肉体は大会参加者という事もあり、無駄のない美しい筋肉ばかりが集まっている。
「みんな頑張ってるぅ〜? ボクは突撃筋肉リポーター! マッスル・リブで元気百倍! 頑張るよぉ〜♪」
 そう言って元気爆発・緋虎(w2a405)はド派手な水着に身を包み突撃取材を続けていた。
「ご苦労様だブ〜」
 好物のみたらし団子を食べながら、緋虎に挨拶する仏血耶唖。
「ありがとぉ〜。それじゃ、今度は控え室を突撃だぁ〜☆」
 そして緋虎は冷水の入ったバケツを片手に、選手達のいる控え室へと走り出すのであった。

「いちにいさんダーッ!」
 冷水に入る前から浮雲のメカ沢・純一(w2b471)と共に魂の熱き交換をしながら、超人覇流躯・砲巖(w2b061)が空に向かって雄たけびを上げる
「イチバ〜ン! ふっふっふ。殲鬼王戦で怪我を負ったとはいえ、この祭りに参加せねば漢が廃るというもの。ヒカルの郷に集いし観衆達も我が筋肉を心待ちにしていよう! エセ筋肉を纏った殲鬼め! 私が真の筋肉の素晴らしさを教えてやろう!」
 冷水の中に浸かり、殲鬼を挑発する砲巖。
 殲鬼もまだまだ余裕な様子で砲巌を睨む。
「ふん、この程度の冷水‥‥俺にとっては熱風呂に入っているようなものだ」
 砲巖の挑発に乗り、自ら冷水を被り微笑む殲鬼。
「俺達を甘く見ない方がいいぜ! お前が思っているほど俺の防水加工はヤワじゃない」
 背筋を大きく膨らませ背中の刺青をみせながら、純一が余裕な態度で殲鬼の横に陣取った。
「背中の侍魂が、薔薇が哭いている!? 貴様‥‥タダモノではないな」
 純一の背中から発せられるただならぬオーラに驚きながら言葉を失う殲鬼。
 かなり動揺しているためか、先程と比べてその口数も少なくなっている。
「難しい理屈は必要無い。我慢大会、見事に制してみせよう」
 黒眼鏡でサムライ特有の瞳を隠し、凍える月・朧(w2a194)が動揺する殲鬼の肩をポンと叩く。
「‥‥ふん。強がりを言っていられるのも今のうちだけだ。俺に勝てる奴など、この世に存在しない」
 朧を刺す様にして睨み、殲鬼が険しい表情を浮かべている。
「ド○ツ、ド○ツ、ジャー○ン!!」
 祭りも最高調に達してきたため、水穂三味線を取り出し『世界の○貴たち』を弾き語る玲於奈。色々と事情があったため、伏字が必要な歌らしい。
「これが土佐の一本釣りじゃけん。まぁ、ここまで出来る様になるには5年はかかるわな」
 殲鬼が狙っていた参加者のひとりを鉄鎖法を使って引き上げ、塩月が土佐村仕込みの一本釣りを披露する。
「はぁ〜い、ご苦労様。あら、素敵ぃ〜。うんとサービスしちゃうんだから♪」
 瞳をキラキラさせながら玖狼が参加者達の筋肉をじっくり堪能すると、毛布とタオルを用意して彼らの身体を暖めた。
「あ、そこ、倒れた人に近づいた駄目だよ!」
 殲鬼が再び別の参加者を狙っているのに気づき、焔法刃の蹴りを入れ警告する緋虎。
「だ、大丈夫ですか」
 その間も参加者達は美月の手によって身体の傷を癒される。
「そんな奴ら捨てておけ。みんな根性なしだからな」
 沈んだ漢達を狙って下半身を蠢かせていた殲鬼はそう言って美月を睨む。
「‥‥彼らは一生懸命戦いました。たとえ誰であろうとも彼らを非難する権利などありません」
 気絶した参加者達を焚き火に当て、殲鬼に答える美月。
「これを飲めば身体がすぐに温まる」
 ようやく意識を取り戻した参加者達に対し、禍々しい超赤色の丸薬を与えて頷く乱月。
「あ、ありがとう。うごぉ!?」
 参加者達も何の迷いもなく丸薬を飲み込み、そのまま意識を失った。
「血の勢いが増した証拠だ」
 口からブクブクと泡を吐き、まるで海老のように痙攣をし始めた参加者達を黙って見つめ、乱月が遠い目をして微笑んだ。
「本当に大丈夫なの?」
 うどんを食べながら参加者達に近づき、黙って見学をする叶。
 どうやら丸薬の中に唐辛子の塊が練りこんであったらしい。
「悪戯が過ぎるぞ、乱月。まぁ、多少だったらいい刺激になるけどな」
 そう言って孫の手は無料で参加者達にうどんと豚汁を配っている。
「寒い時の我慢比べといえば、この冷たいジュース! さぁ、遠慮せずに飲んでね」
 3分が過ぎた頃、緋虎がニッコリと微笑みながら、次々と冷たいジュースを配っていく。
「残っているのは俺達だけか。‥‥て事は殲鬼はお前しかいねぇ」
 余裕な態度で殲鬼に向かって微笑みながら、紅ひげが殲鬼に向かって話しかける。
「何の事かな?」
 妙に量の多いジュースを飲みながら、震えた口調で答える殲鬼。
「筋肉とは漢と漢女(おとめ)が最後に身に纏う、最強かつ最高の着衣よ! さあ、いざ尋常に勝負!」
 そう言って砲巖はジュースを勢いよく飲み干すと、大胸筋を上下に動かし殲鬼の事を挑発した。
「ラストスパート! 最後はかき氷だ! がんばれ!」
 予定より早くかき氷を配り、緋虎が参加者達を応援する。
「ふ‥‥貴様の筋肉は見てくれだけだな。真の筋肉とは熱き魂を宿す物。貴様にはその熱き魂が無い、いわば抜け殻よ! そのような筋肉では人々に感動を与えれる筈が無いわ!」
 大胸筋を動かすのに手間取っている殲鬼を力強く指差しながら、砲巖が追加でやってきたかき氷をパクついた。
「ふ、水の冷たさなど『侍魂』で十分解決だ」
 純一が砲巌と共にビンタをしながら『いちにちさんダァー!』で気合を入れ、純一がカキ氷を余裕で喰らう。
「ふ‥‥この程度の冷水、気合いと根性でどうとでもなろう‥‥」
 クールな様子で微笑みながら、朧が黙ってかき氷を食べ終える。
「うわっ! 寒っ! 冷たっ!! と云うか痛っ!!!!」
 かき氷を一気に食べた事で頭痛に襲われ悶絶する朧。
「ゼンゼンヘイキ。モウ一杯タベレルヨ」
 顔にツララが出来そうなくらいに凍えつつ、朧が緋虎からおかわりのかき氷を山ほど貰う。
「ア、アリガトウ」
 凄まじく殺気に満ちた視線で睨み、朧が無理やり笑顔を作ってかき氷を食べる。
「そろそろ勝負をしようじゃないか」
 そう言って純一は合鬼投げを使って殲鬼を冷水の外へと投げ飛ばし、自ら高飛びを使って華麗に飛躍すると『百鬼粉砕拳』を使って殲鬼の事を攻撃した。
「筋肉の真価は闘いの中でこそ問われる物! 正直、残された時間は殆ど無い。メカ沢殿! そなたの筋肉を私に貸してくれ! 喰らえ! 奥義・井埜鬼盆破遺影!!」
 既に我慢できる限界を超えたため、殲鬼に攻撃を仕掛ける砲巖。
「とうっ! 必殺、まっする・どっきんぐ!」
 それと同時に宙に舞っていた殲鬼に向かって高飛びで近づき、純一と共に合体技を殲鬼にむかって炸裂させる。
「あとは頼むぜっ!」
 冷水の中へとブクブク沈み、親指を立てる純一。
「いま助けます」
 沸点に達した水(熱湯)をヤカンに入れ、美月が意味もなく源泉の祈りをかけて純一達の救助に向かう。
「殲鬼はまだ倒れてない。‥‥気をつけて」
 武の城壁を使って仲間達のダメージを防ぎ、叶が観客達を避難させる。
「頑張れよ、てめぇらっ!」
 仲間達に向かって不屈の応援と護りの雫をかけながら、殲鬼をけん制する孫の手。
「筋肉祭りに紛れ込んで村人達を喰らおうとは、筋肉愛好家にとっては許せねぇ殲鬼だな。そんな奴に筋肉を語る資格は無ぇ! この俺が真の筋肉美というモノを思い知らせてやる!!」
 そのため紅ひげも自慢のハネモノをチラつかせ、吸魂掌で殲鬼の体力を奪う。
「‥‥烏頭(トリカブト)だ。気合を入れろ」
 かき氷の食べ過ぎで意識を失った朧にさっきの丸薬を飲ませ、乱月がむりやり朧を目覚めさせる。
「なんだこりゃー! くそっ! 迷惑な真似をしやがって! 沈めよっ!!」
 意識が戻ったのと同時に瀕死の重傷だった殲鬼をボコボコに殴りつけ、朧が火剣連撃を放って殲鬼に対してトドメをさす。
「死ぬって‥‥死ぬって‥‥」
 先に上がっていた紅ひげの後を追うようにして朧が水から慌てて上がり、近くにあった毛布を被り水を飲む。
「なんだ? 俺の優勝か? 最後まで水の中にいたもんな。はは‥‥ははははは‥‥」
 そして朧は乾いた笑いを浮かべながら暖かい豚汁を口に含み、せっかく貰った優勝商品を里長の権限によって緋翠にすぐさま奪われた。

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