24.『【父は辛いよ】子守りできますか?』

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●殲鬼昇天
『ギャーーーーーーーーーーーォ!!』
「ど五月蠅いぃぃぃぃ!」
「一昨日来なさいっ!」
 超人覇流躯・砲巖(w2b061)と陽炎の白蛇・幽羅(w2a904)の八つ当たり爆突拳が炸裂する。
「ええーと‥‥する事が無くなったニャ。‥‥‥‥‥‥‥カスミ斬りニャ!!」
 ホウキでお掃除する様に、ほんの少し動いていた殲鬼だったモノを細切れに掃除する美酒倶楽部の白き薫風・綾歌(w2a010)によって微塵になって殲鬼は畑の肥やしに消えた。

 と、これで終わってしまっては他のサムライ達に余りに失礼というものだ。
 別の視点でこの瞬間を捉えてみよう。

 その日、子ども達の子守りを続けていたサムライ達は既に疲労の局地を迎えていた。
 単純に殲鬼と闘う準備をしてきていた者、子守りに専念していた者、両方に備えていた者、色々な者達が居るのだが、殲鬼発見の報は以外と早くに知らされることになった。
「式に、殲鬼が見えましたわ」
 笛の音で、ようやく子ども達を昼寝させるのに成功した桜色の調べ・桜那(w2b793)の言葉に、
「式神に? 不用心なヤツだな‥‥」
 子ども達と遊び疲れたのか、先に寝ている黒猫の影丸を横にどけながら、囲炉裏の火をおこしていた空虚の闇鬼・伏季(w2a751)が外にいる養い子の様子を見に急ぎ足で歩いて行く。
「あ、父上?」
「夕顔。殲鬼が来た様だ感じられ‥‥」
「‥‥はい」
 一瞬、歪められた炎帝追風・夕顔(w2c752)の表情で十分だった。
「来たんだな。折角子ども達が寝たんだ。一撃で仕留めて、静かにさせたいな」
「父上、お疲れみたいですね?」
「? ‥‥ああ、そのようだ」
 夕顔が彼を見上げて微苦笑するのを、一瞬おやと言った表情で見下ろした。もしかすると、懐かしくも骨の折れる子どもの世話よりも、殲鬼を相手に円月刀を振るうことの方が自分にとって楽なのかも知れないなと、伏季は独白する。
「昔は昔、なのかも知れないな。懐かしくはあったが、流石に疲れた」
 子ども達の元気に当てられたのだろうと、子ども達の手を握っていた手で刀を構える。
「眠っている間は、怖い殲鬼は居ませんものね‥‥」
 悪戯っ子達の上に掛布を置いて、立ち上がる桜那。手を掛けられたと言っても、寝顔は無邪気な童達である。
「可愛いものですわね。‥‥わたくしも愛しい人と添い遂げ、子をなすことができたらどんなに幸せでしたでしょうか‥‥」
 慎ましやかな姫人形・鈴奈(w2a343)が小さく呟いて背を向ける。
「丁度良かった。子ども達の居る前で、余り物騒なことはしたくなかったからな」
「そうそう。俺の未来の花嫁位は、護らないとな」
 指切りを危うく強要されそうになった天の幻狼・天矢(w2e628)が苦笑しながら指を握って離さない女童の指を一つ一つ広げてやる。
「ほらほら、理託。お仕事お仕事。子ども達と一緒に狸寝入りしてないの」
「え? ふが‥‥‥おら、もう喰えないだ‥‥」
 ぽかぁっと、黄昏の食欲魔人・理託(w2b120)の華提灯が広がって割れる。彼を揺り起こそうとしていた鬼面仏手の整体師・孫の手(w2b894)は、理託の周りで子ども達の為にとサムライ達の持ち寄った菓子や食べ物の残骸が沢山転がっているのを発見した。
「てめぇ‥‥狸寝入りじゃなくて‥‥」
 孫の手の拳が空を掴む様にぽきりぽきりと骨の鳴る良い音で理託に迫る。
「合掌‥‥」

 チーンと、口で言って鳳嬢・遮那(w2a707)は理託が子ども達が昼寝をしている小屋から叩き出されるのを見守った。
「子ども達も起きていたら、喜んだのにね」
「あんた、可愛い顔して怖い子ねぇ?」
 手を払いながら、あっけらかんとした表情で言う遮那に呆れてみせる孫の手が、仲間達の後を追って殲鬼に向かう。
「ま、まってけろ〜おらも殲鬼退治さ行くだ〜」
 どたどたと、膨らんだ腹を左右に揺らしながら後を追う理託は、確かに子ども達にはやし立てられた様に、走るより転がった方が早い様に見えるから不思議だと遮那は内緒で笑った。

 と、いう勇ましい準備を前提に闘ってみたものの‥‥殲鬼はほんの一瞬で灰燼と化したのだった。

●昼寝の後の勢い全開!
「お、お、お、お、お、お? まだなのかぁ?」
 ぐるぐるぐるぐると、同じ場所を何度も走り回って天矢は目を回しそうになる。
「う、がーーーーーー! おまえら、少しは疲れろーーー!」
 殲鬼を追い込んで打ち倒す為に鍛え上げられた脚力も、尽きることが無いとも思える子ども達の体力に追い込まれそうになっている。
「楽しそうですわね、天矢さん」
「そう見えるか? 真面目に?」
 鈴奈に言われて、恨めしそうな瞳で彼女を見上げる天矢。鈴奈も童の悪戯の的となって頑張って(?)はいるのだが、何にせよ相手は無邪気という一つの、そして最大の武器でサムライ達を翻弄する。
「ほら、サムライのあんちゃん、次は犬じゃなくて馬だよ!」
「う、馬ぁ? 俺が馬なのかよ‥‥」
 確かに、馬の様な格好かも知れないし、子どもが馬乗りに鳴りたがる理由も分かるのだが、流石に走り続けた後でこれ以上は勘弁して欲しいという表情の天矢。
「ほらほら、無茶いうでないべ。天矢も困ってるだろ?」
 タスキで背負った赤ん坊をあやしながら、台所から上がってきた理託の手にはふかした芋の山。
「理託‥‥お前、似合いすぎ‥‥」
 肩を落として、理託を見上げた天矢と、まだ立てない子どもをあやしながら頷いている鈴奈。
「だべか?」
 くるりと、己を見下ろしてみても、出っ張ったお腹の肉が地面を見せない体型の理託では自分の姿を確認するのも一苦労だ。
「ほらほらほら、身内で虐め合ってない!」
 見かねて声を掛けた孫の手だが、あまりに似合いすぎる理託と赤ん坊、そして理託にまとわりつくようにはしゃぐ子ども達の姿を見て、まるで男やもめの子育て日記のようだと溜息が漏れる。
「いいわね。温かい家庭‥‥憧れちゃうわ」
「だべか?」
 ほうと溜息の孫の手、そして自分の背中に盛大に生暖かい物が広がったのを感じて泣くに泣けない表情になる理託だった。
「本当に、良い夫婦の様子で‥‥憧れますわね」
「‥‥‥あー俺は発言を控えておくぜ」
 二人の様子を評した鈴奈に、天矢はそうかなと首を傾げる。己の尻尾にじゃれようとする子ども達は、尻尾をハタハタと振って猫じゃらしの要領であやしているのだが、加減という言葉の意味を知らない年頃だけに、何時飛びつかれるものか分かったものではない。交替の時間が来たら、早速休もうと決めた天矢だった。

「寝た時は、きちんと聞いてくれたのに‥‥今度は、聞いてくれません‥‥あ、その笛は駄目ですってば!」
 鳴いた烏が‥‥とはよく言ったもので、昼寝していた子ども達と本当に同一人物なのかと言いたく、尋ねたくなる程に彼らの破天荒な勢いに押されっぱなしの桜那。
「ほら、もうすぐ出来ますから、埃を立てちゃ駄目ですよ、めっ!」
 桜那がマドウ族特有の瞳で覗き込むと、流石に子ども達も大人しくなってくれるのだが、それもしばらくの事で、おやつがてらで料理を作ろうと台所に戻った次の瞬間には背後で何かが飛び交っているのだ。
「ああもう、幽羅さん、何とかして下さいよ」
「あたしにいうの? そんなの無理に決まってるでしょう? 昔とった杵柄は昔のなのよ。ほら、わたしよりも、少し前はおしめを替えられていた御門、何とかしなさいよ。替えられた者、代表でしょ?」
「そんな、無茶な‥‥」
 眉根を寄せる陰陽司る光龍の覡・御門(w2a030)に、幽羅は全く容赦がない。
「あら、翔さん。意外と慣れてんのねぇ‥‥子供いるんだっけ。今はどうしてんの? 奥さんと子供、残して来た訳?」
「ん、まぁな。ほら出来た」
 おしめを替えてやると、理託も衣を替えて再び背中に赤ん坊を負ってトコトコと散歩がてらで子ども達の相手に復帰する。
「おっさん、後片付けはー?」
 ひょっこり姿を現した砲巖は、両腕に子どもを捕まらせて、上下に腕の力だけで上げ下げして見せてはキャッキャと声を上げる子ども達相手に筋肉で繰り出す得意技の何千分の一の力で相手をし続けている。
「ぬ? ま、まかせておけ、ほーら、高い高ーーー!」
 幽羅に散らかった室内の掃除を言われて、つい腕を空けることに優先順位を割いた砲巖は、
真上に子どもを放り上げて手の中を空にして‥‥
「投げるなーーーーーーーーー!!」
「うむ、いかん!」
 投げてみて、ようやくその不味さに気が付いた。
 軽く屋根を越えて飛び上がっていった子どもを空中で受け止めて、肩で息をする砲巖。
 だが、彼の背後には文字通り角を生やした幽羅が手ぐすね引いて彼の尻を待っている。
「さぁ、悪いことした子はどうなるか‥‥昔を思い出してみるっての、どう?」
「おおう」
 砲巖、絶体絶命の危機だったが、遮那の呼ぶ声が彼へのケツ叩き100回を水泡に帰した。
「ちょっと、こら、そんな引っ張っても何も出てこないってば、こ〜ら〜!!」
「そういう‥‥趣味でもあったの?」
「簡単に抜け出せるであろうに?」
 半眼で遮那を見る幽羅と、仕掛けから簡単に出てみろという砲巖。二人とも、紐でがんじがらめの遮那を助けようとしない所が彼ららしい。
「だ、だって、下手に動いて怪我させたら‥‥あやとりです! 趣味なんかじゃないですよ!」
 子ども達の手前、明るい笑顔を作ろうとしている遮那は、あやとりに用いようと持ってきた紐でがんじがらめの状態だ。
「うーん、ほら、見た目楽しそうだから、そっちの趣味でもあるのかと思っちゃって‥‥」
 頬を掻く幽羅。
 明後日を向いて韜晦する砲巖。
「何かの修行かと思ったのだが‥‥」
「ほ、ほう?」
 彼らを見る遮那の目が氷に包まれたような冷え冷えとした殺気を放った気がした。
「うにゃ〜助けて欲しいニャ〜」
「お、そっちもか?」「大変ねぇ〜」
 綾歌の声に、そそくさと席を外す二人によって、遮那はまだしばらくの間童の悪戯と闘うことになる。
「夕顔、あれは助けなくても良いんだ」
「でも‥‥」
 綾歌の惨状を見ながらも、助けを出さない『父』にいぶかしんだ表情で見上げた夕顔は、伏季が楽しげに子ども達を見て微笑んでいるのに気が付いた。
「ニャから、綾歌は将来お母さんににゃった時の予行演習をしてるニャよ」
「うそだー。結婚相手を捜してんだろー? おらが貰ってやるよ」
「にゃんでそうなるニャ〜〜!!」
 子ども達の相手をしようと勢い込んでみたものの、完全に子ども達の中にとけ込んでしまって、ある意味では年下に見られてしまっている綾歌。
「そうやって、いやだいやだっていうのも、いいっていうことだって、父ちゃん言ってるもんな」
「えー綾歌ちゃんそうだったんだ」
「違うニャ〜〜!!」
 童と女童に本気になって反論している綾歌。見事にドツボにはまっているのだが、本人は気が付いていない。
「‥‥どうした?」
 ふと気が付くと、夕顔が自分を見上げて笑っているのに、慌てて表情を硬くする伏季。
 そんな彼が、子ども達の様子を見て優しく笑っていたと言うことが、夕顔には心から嬉しいことだった。

●カラスが鳴くから帰ろう
 流水・無紋(w2a448)に付き合えと言われて、ヒト族の剣匠・翔(w2z063)は腰を叩きながら外に出た。
「頼まれた。鍛え直させてもらう」
 表情を変えずに相手に布袋を渡す無紋だが、翔は中を覗き込んだ瞬間に萎えた表情になる。
「俺、勉強って苦手なんだよ‥‥返すぜ。代わりに、ほら‥‥」
 腰に下げていた太刀を抜き、薪の山に向かって一刀両断する翔。
「流石に、赤ん坊抱いていたから体力着いたしな。あいつをあやしてた頃も、確か薪割りしてたよ俺‥‥」
「そんな戯れ言を‥‥だが、確かだな」
 見事な切れ味に苦笑するしかない無紋。
「無紋おじちゃーん、翔おじちゃーん!」

「呼ばれてるな」
 サムライへの憧れの瞳に呼ばれて、彼らは茜色に染まる夕闇の中を、手に手に子どもをぶら下げて歩き出すのだった。
「そういえば、翔さんのお子さんってどうしてるんでしょう?」
「ん? ああ、元気だって言うのは聞いてるよ。親はなくても子は育つって言うんだろうな‥‥」
 御門に返して寂しげに笑う翔の、それは父の表情だった。

【おしまい】

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