34.『【着物を脱いだ後】サムライクイズをもう一度』

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●第一回戦・○×クイズ
「えっと、○×クイズって、赤色と白色の帽子をかぶって、間違ったら座る奴だっけ?」
「違う違う。出された問題に、○と×の陣営に分かれて、外れた人は脱落って奴」
 赤い稲妻の少年・光流(w2e263)の疑問に、虹色の闘少女・夏岳(w2d747)が調べてきたルールを、割と真面目に説明している。
「そっか。常識問題は、ばっちり覚えてきたから大丈夫だよ。安心して。今じゃあ、この村の猫の総人口だって分かるし」
「じゃあ、光流くんについていけばいいねっ」
 シノビ族の天剣士・かすみ(w2z006)は、優勝狙う割には、すでに楽をする気満点のようだ。
「まぁ、知力の方は、そこそこいけますしね」
「そう。じゃあ任せたわよ」
 楽しようとしているのは、かすみだけではない。男装してクイズに参加していた影が見る夢・未散(w2c369)も、自信ありげに微笑う無邪気な天剣の・喪(w2a490)に対して、そんな事を呟いている。
 と、そこに現れたのは。
「皆さんお待ちかねっ! それでは記念すべき第一問だ!」
 自慢の尻尾をくるりんとなびかせて、少し照れくさそうな表情をしながらも、舞台の上で、観客と参加者を煽っている月花の陰陽師・詠里紅(w2d576)。全ては、殲鬼の居場所を探る為と称して、村長に話を聞いた結果、その話術と礼儀正しさを買われて、司会者役に抜擢された為である。
「それでは第一問!」
 詠里紅と参加者の目の前に、チャーハンが引き出された。
「このチャーハンは、村長の娘さん特製の料理である。○か×か!?」
 問題の書かれた紙切れを見ながら、そう告げる彼。サムライ含め、参加者からはブーイングの嵐だ。と、村長はこう怒鳴り散らす。
「公正さを規する為、問題は多岐に渉る! 己の運勢と、知識量と相談するが良いっ!」
 無茶苦茶である。が、彼のその嬉しそうな表情を見るに、悪気はなさそうだ。
「一か八かです。私は×に」
「大吉神社のお守り、役に立ってよ〜」
 喪と夏岳が、自信なさそうに移動する。未散は、小銭を投げてその向かう方向を決めていた。
「はい。○と×の人、さくさくすみやかに移動して下さいね」
 あっけにとられている他の面々に、ヒト族の狂剣士・楓葉(w2e604)がそう言った。
「正解は○ッ! 孫娘さんは、ああ見えて料理が得意なのだっ。ゆえにコレは、間違いなく村長宅のチャーハンッ!」
「「「わかるかぁぁぁぁ!!」」」
 まぁ、少し村長の娘さんについて調べておけばわかる問題なんだが、それをチャーハン見て当てろと言うのは、かなり無理な相談ではある。
「あ、危ねぇ‥‥。アレ間違ってたら激ヤバだったぜ‥‥。ま、まあ通過したんだ、次行くぞっ!!」
「まぁ、こればっかりは実力でどうにか出来るものではないですから、仕方がないですね」
 直感で○の方へ移動した流風の浮雲・羅瞳(w2a322)に対し、そう答える喪。己の知力に頼った事が、敗因であろうと、観客席の方へと移動しようとする。
「だぁぁっ。敗者復活戦だ! かすみちゃんに優勝をかっさらわせて、なるものかっ! やり直しを要求するッ!」
「いいでしょう。では‥‥いでよ、特設舞台ッ!」
 納得いかない様子なのは、夏岳の方だ。と、詠里紅は持っていた扇を、ばさりと広げて合図した。と、今まで背景だと思われていた大きな布が、ばさりと取り去られ、中から、大きく○と×と書かれた扉がいくつも現れる。
「どこにかくしてた! んなもんっ!」
「行事にはハプニングが無いと面白くなかろうっ! えぇい、つべこべ言うでないわ! うちの孫娘も面白いと言ってくれたぞ!」
 村長がそう言って解説を始めた。そう言えば、『面白い仕掛けを多数用意しているのじゃ』と、彼が打ち合わせの時に、含み笑いしていた事を、詠里紅は思い出す。
「はん。上等だね! ただ殲鬼ぷっ倒すだけじゃ、芸も無いしね。どれ、お節介焼きの乱華姉さんが、一肌脱いでやろうかい」
 がぜんやる気を出す御節介焼きの・乱華(w2b282)。敗者復活戦と、本戦の続きが始まった。
「漢は直進! 二択は左! 困ったら体力勝負だっつーの!」
「そ、そうね」
 自信たっぷりにそう言う鬼面仏手・孫の手(w2b894)。そして、大げさな身振りで、答えを選ぶ扉へと突進していく。未散が、その後についていった。
「とぉりゃぁぁぁっ!」
 障子を破って通り抜けた先に会ったのは、不正解を示す泥の池。孫の手。早くも脱落。
「は!? そんなの判るわけねぇだろっ! こ、こうなったら勘で勝負だぁーーー! …って、ぐあっ」
「はい、消えた」
 羅瞳もまた、泥の池へ豪快なダイブを決めていた。
「く、くそぉっ! 腕立て伏せなら負けないのにッ!」
「残念でした。敗者復活戦へGO!」
 なお、今度は泥の海へ飛び込んだ方が正解と言う、一度泥まみれになった者は、とことんまで泥に浸かって来いと言う、村長の心意気があからさまな方法だった。
「ああっと、しぐま選手鉄の爪を両手に構え駆け出し、跳躍一番、高速回転しながら○に飛び込んだぁ〜」
 その頃、今週の吃驚度霧メカ・しぐま(w2c753)はと言えば、解説の通りの動きで、扉の方へ突っこんでいく。
「何ぃ!? あ、あれはまさしく棲灸龍虎射場!!!」
「な、しっているのか? 喪!!」
 喪が、最初の○×クイズで落ちたのを棚に上げて、その豊富な知識から、ちゃっかりと『解説』の札をつけて、司会席の横に陣取っている。が、その割には手元に、しぐまから『俺が○×やったら、これ読んでくれ』と記された解説用紙が収まっていたり。
「そんな恐ろしい技を何故奴が!」
「メカラッタ☆」
 ぴっと自信たっぷりに指先を上げ、扉の向こうへと消えるしぐま。が、直後には『どっぼーんっ』と言う効果音が聞こえている。どうやら、技のすごさは、正解率には関係ないようだ。
「はーい。泥まみれになっちゃった人は、敗者の館へ向かって下さいね〜」
 で、こうして泥まみれになった参加者は、観客の邪魔にならないよ、やっぱり影に潜んでいた楓葉が、次の会場へと誘導していくのだった。

●第二回戦・バラマキクイズ
 さて、生き残った面々を待っていたのは、会場中にばら撒かれた、問題用紙の書かれた紙を拾って来て、それに答えると言う方式のクイズだ。
「な、何で村中の家に、問題用紙をばら撒くんだー!」
 問題は、その会場と言うのが、村全体と言う広大さ加減にある。
「この広い村の中を、全力疾走して、体力を競い、村を治める者として相応しく、村の全体図を把握しておかねばならないからだッ!」
「だーもー! 仕方がないねぇ。ほらよ、あたいが拾ってきてやるから」
 村長の言葉に、乱華がその有り余る体力を御披露するかの様に、他の人の分まで問題用紙を取って来ている。
「はい、外れ」
「なにぃぃぃぃッ!! 外れあんのか!?」
 が、運には見放されているのか、その殆どが『外れ』と書かれた紙だったり。
「って、これで四回目だよ!! 体力には自信あるけど、なんでこんなに外れが多いんだいっ」
「忍耐もまた、優勝への道!!」
 村長は自慢げだ。
「くっそぉぉぉ! 負けるかぁ! ぜーぜー…お、おっけー、問題なしっ! 楽勝だぜっ!!」
「その割には息が上がってるよー」
 そして、こちらもやはり体力には自信のある羅瞳くん。肩の上に重石をのっけたまま、村中を全力疾走している。
「うるせぇ! 人の肩乗ってる奴が文句言うんじゃねぇ!」
「だって、僕達が走ったら、他の人達が追いつけないしぃ」
 ちなみにその重石とは、何を隠そうかすみちゃんだったり。
「ああもう。出る問題は、マニアックなもんばっかりだし。なんでここまで苦労しなくちゃならないんだー!」
「何言ってんだい。娘さん手に入れたいんだろ。気合いれていくんだよ!」
 ネを上げそうになった村の若いのは、乱華が励ましている。これで若者の憧れの視線が、彼女に向いてしまったのは、まぁご愛嬌と言う奴だろう。
「メカラッタ☆」
「はい、しぐまさん」
 ぴこーんと早押し用団扇を上げるしぐま。
「メカラッタ☆」
「‥‥えーと、誰か通訳お願い」
 相変わらずの調子で話す彼。その通訳を探しているうちに回答時間が過ぎてしまい、彼もまた脱落するのだった。

●決勝戦・御湯屋口説きバトル
 決勝戦は、『入浴に行きたいか!』の掛け声が示すとおり、飾りつけられた村の銭湯で行われる事になった。
「よくぞ生き残った我が精鋭たちよ!」
「「「誰が精鋭だ! 誰が!」」」
 村長が訓示をたれるが如く、真剣な表情でふんぞり返っている事に、参加者全員からツッコミが入る。
「ちくしょう。トンチキな罠山ほど張りやがって‥‥。もう少しで死ぬかと思ったじゃねぇか!」
「えー? そんなに大変だったかなぁ」
 何とか、敗者復活戦で這い上がってきた孫の手が、そう言った。かすみが、のほほんと無傷な顔で、そう答えている。
「証拠に光流が死にかけてるぞ」
「ぎく」
 それもその筈、かすみへの罠と攻撃の数々は、全て光流が庇っていたからだ。
「それでは。皆さんにはお約束の通り、こちらの村娘さんを口説いていただきますっ!」
「そんなに大した事は言えませんけど、いいんでしょうか‥‥」
 例題を示す為に、喪がそう言った。
「そうですね‥‥。僕はあなたと結ばれるためにここに導かれたのです。これは偶然ではなく必然です。あなたは僕だけのものです‥‥」
「それをおっしゃりたいのは、私ではありませんでしょう? 私は、その気もない方から口説かれるほど、鈍感ではございませんわ」
 その彼の口説き文句に、お嬢様は水着のまま、湯船の中でそう答えている。
「と、この様に、かなりひねくれているので、生半可な口説き文句は通用しないと思って下さいね」
 詠里紅の腫れた頬を見るに、打ち合わせの最中に口説いて、ひっぱたかれた様だ。
「ここであたいがお嬢様をもらってもしょうがないしね。しっかり口説くんだよ!」
 乱華は、ここで孫娘をどうこうするつもりは、まったくないらしく、さっさと湯から上がってしまっている。
「おぉっと。一人棄権者が出た模様です。負けた方は、敗者の館へ行って下さいね」
「ああ、わかってるさ」
 その口元に不遜な笑みを浮かべ、乱華は残っていた村の連中に『頑張んなよ』と、囁いている。
「成る程。これは‥‥、相当に手ごわそうなレディだな‥‥」
「えーと、お友達になって下さい‥‥かな。えーん、女の子口説くなんて、恥ずかしいよぉ!」
 孫の手の横で、夏岳が顔を真っ赤にそう言った。この事あるを予想して、水着は重ね着しているらしいが、顔が赤いのは、そのせいだけはあるまい。
「お友達になるくらいなら、構いませんよ? でも、私も女性と、結婚前提のお付き合いっていうのは‥‥」
「じゃ、お友達でいいね。後で、背中流してあげるよ♪」
 彼女の言葉に、孫娘さんは「はい、ありがとうございます♪」と、にっこりと笑顔を向けた。が、それだけでは口説いた事にならないので、脱落決定。
「だから、そうじゃあねぇだろう。えー、おい。さぁ、僕を見てー!」
 上着を脱ぎつつ、いつもの通りの大げさな身振りで、孫の手がそう言った。気分はどこぞの舞台役者だが、孫娘さんの「変態ですわ」の一言により、脱落。
「そんな事じゃ、女性は口説けないよ。さあ! 僕の胸に飛び込んでおいで! 神に愛でられた麗しの乙女よ!」
「いえあの‥‥」
 未散の口説き文句に、困惑した表情の孫娘さん。どうやら、役者系の色男、もしくは男装の麗人は、彼女の胸をときめかさないようだ。
「メカラッタ☆」
「きゅー」
 かといって、可愛い系も首を横に振る。
「ずっと、この時を待っていた……君の流れるような髪、仄かに香るその香り、そして、いつも俺を見つめてくれる優しい瞳、その全てを今俺はたまらなく愛しく思う……。いろんな誤解をさせちゃったけど、俺の大切な人はかすみちゃん、ずっと君だけなんだ……」
 そう言って、光流はぼろぼろのまま、かすみを抱きしめる。「ええっと‥‥。これ、どう扱うべきなんだろう‥‥」
「デートくらい行ってやれば?」
 困惑した表情のかすみに、孫の手がそう言った。
「それで良いの‥‥かな?」
「うん♪」
 ぽふぽふと撫でられた手の温もりに、光流は幸せをかみ締めていた。むろん、この後『デート代』と称して、さんざっぱらおごらされた挙句、チケット制になってしまったとか言うのは、知る由もない。
「えぇい。誰も生き残らんのか! 軟弱者どもめが。全員敗者の館へ叩き込めー!」
 ぷち切れた村長が、悲鳴を上げるサムライ達を、『敗者の館』へと連行させたのは、その直後の事。
「ふふふ。これが楽しみで来たのよ。おー笑いしてあげるわ‥‥」
 相変わらず影に潜んでいたらしい楓葉が、楽しげに後を追いかけていった‥‥。

●罰ゲーム・敗者の館
 で、彼らが連行された敗者の館と言うのは、その名前に相応しく、打ち捨てられた廃屋を改装したものだ。
「ここが敗者の館か‥‥。いるんだろう! 出てきな!」
「ふはははは! ようこそ地獄の一丁目! 敗者の館に来たからには、生きて帰れると思うなよ!」
 乱華の言葉に、階段の上から現れたのは、大きな身体をして『お仕置き係』と書かれたたすきを身につけた男だ。ご丁寧に、頭から角が生えている。こいつが殲鬼と見て間違いないだろう。
「にゃろう…泥まみれになったのも全部お前のせいだ! こうなったら、お前をぶっ飛ばして憂さ晴らしてやるぜっ!!」
 羅瞳が、泥まみれのままそう言った。他の面々も、次々に自分の得意武器と、武神力を活性化させる。
「何ィ!? 何でサムライどもしかおらんのじゃあ!」
「他の人は、みーんな別の敗者の館で、罰ゲームやってますよ」
 詠里紅がそう言った。驚いたのはその殲鬼の方。
「ところで、捕まっていた人はどうしたんだい?」
「大人しくしゃべらねぇと、タコ殴りだぜ?」
 孫の手と、羅瞳がすごみながらそう聞く。
「決まっておろう。全員魂を喰らった挙句、死体はうちのペットどもの餌じゃあ!」
 二人の問いに、殲鬼はだんっと持っていた棍棒をならした。どうやら、行方不明になった連中は、彼らが食べてしまった様だ。
「威張れるか! 皆、フクロにしてしまえ!」
「うっぎゃぁぁぁぁっ!!」
 で、そんな悪事を働く殲鬼が、サムライの怒りに触れない訳はなく、反撃する間もないまま、囲まれて倒されてしまっていた。
「ああ。こんな所に居たんですか。ダメですよぉ。逃げるなんて♪」
 そこへ、図ったように乱入する、やけににこにこ顔の村長以下、係員。怪訝そうな表情を浮かべるサムライ達を、別の敗者の館へ連行していく。
「くすくすくす‥‥」
「笑うなそこー!!」
 顔に落書きされたり、熱すぎる風呂に強制的に叩き込まれてひーひー言っている他のサムライ達を見て、楓葉が邪悪な笑みを浮かべていたのは、いわずもがなだった。

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