40.『玉梓を倒せ! 邪黒瞳の行方』

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●玉梓を逃がさないために
 思念投射を用いて、その敵の一群を索敵していた歴戦の荷物持ち・我出謀坐琥(w2d263)がいち早く敵の状況を掴んだ。
「‥‥敵は玉梓(たまずさ)をのせていると思われる籠と、それを背負っている鬼面衆。それに配下の殲鬼が二十体以上いて、それらが周りを取り囲んでいるようだ」 
 鬼面衆と呼ばれる鬼面をつけた人間たちが担ぐ輿の中には、サムライたちの目からは窺い知れぬがその玉梓がいるはずである。
 現物の輿を見やって、太陽色の微風・これっと(w2a172)は玉梓の事を思った。
「玉梓‥‥、ようやく倒せる時が来たのかしら? 迦煉さまの魂、取り戻さなくちゃ。負ける訳にはいかないわ‥‥」
「夜那瀬の解放作戦での借りも含めて、ここで一気に決着をつけたいところだね」 
 姫巫女迦煉よりもらった護符を握り締めながら、銀獅子姫・夜魅子(w2a340)は夜那瀬の解放作戦の事を思い出した。
 まずは終焉を奏でる武神龍・空(w2a365)が式神符によって作り出した隼と土竜の式神を玉梓の籠を取り囲む配下の殲鬼たちに差し向ける。
「これで連中の気を削いだら一気に突撃だな」
「‥‥それでは私達はこれで‥‥」
 配下の殲鬼たちへの襲撃が開始されたため、紅天星・紅霧(w2a389)はその殲鬼たちを避けて玉梓の退路を絶つ位置に回ることにした。
 そして居竦の人斬り・ふぁれる(w2a210)もまた、玉梓が籠より姿を現すその時まで見を伏せて隠す事にする。
「本当ならば、どんどん斬りに行きたいところですが、今回は事情が事情ですからね。慎重に行動しないと‥‥」
「ひとまずは樹海の方に身を隠しておくとしましょう。玉梓は恐らくここを移動するはずですから‥‥」
 玉梓は、桔梗の都に到着している殲鬼王ゴルゴラザスに合流するため、ここから南下しようとしている。
 そのためには確実に樹海を通るため、純然なる蒼霹・洸(w2a811)はその辺りに身を隠す事にした。
 このようにサムライたちが準備を整えている間に、空が放った式神が殲鬼の群れに攻撃を開始していた。

 式神からの襲撃によってにわかに行動が慌しくなる殲鬼たち。
 多少不安を感じながらも、この機を逃す訳にはいかないため焔舞師・終(w2a586)はこれっとと共に武の城壁の合体技を用いて防御障壁を展開することにした。
「玉梓か‥‥。けりをつけられるか? いや、今は悩んでいる暇はないな」
「「赤壁」」
 これにより、サムライたちの体は不可視の防御障壁によって覆われ、多少の攻撃ではビクともしなくなった。
 まずは籠の周りを取り囲んでいる殲鬼たちをその場から引き剥がすため蒼炎の使い手・炎羅(w2e912)は、香流の瑞雲・出雲(w2b441)と共に怒気放出の合体技を使用する。
「まずは邪魔な連中を籠から引き離すのじゃ。一匹でも多く殲鬼を引き付けられれば、それで良い」 
「やりにくい状況下ではあるが、囲みさえ破ってしまえば勝機はある。行くぞ!」
「「幻焔狼吼」」
 二人のサムライの体から放たれた怒気が、炎のごとくその体から立ち上り殲鬼たちを引き付ける。
 こうして引きつけられた殲鬼たちは、どんどんとサムライたちの元へと近寄るが、依然それに抵抗して籠の近くで護衛にあたっている殲鬼たちもいる。
 そんな殲鬼たちに対して、空遊小僧・小鉄(w2c776)は百器大波乱の合体技をもって、一斉に攻撃を仕掛けた。
「突破口を作らな、近づけんじゃ話にならひん。お前らは邪魔なんじゃ! 素直にさがっとれ!!」
「この一撃で活路を‥‥!」
「「蝶羽電醒衝」」
 電影小町・梅華(w2c740)も協力して暗器使いの体からそれぞれ放たれた暗器は、狙いを定めた全ての殲鬼たちに直撃し、痛烈な打撃を与えた。
 だが、当の玉梓を載せた輿はと言えば、鬼面衆に担がれそんなものなど無視して樹海へと向かっている。

 雛乃の懐刀・白蛇(w2b619)にも手伝ってもらい、鬼面衆をひきつけて鬼面を外そうと思っていた赤き蝶・まゆ(w2e792)のあては外れた。
「‥‥どうやら鬼面衆は輿を運ぶ事を最優先にしているようだね‥‥。そうなると、怒気放出を用いても引きつけられない‥‥」
 怒気は、基本的に敵意のある相手のみを引き付けるものである。
 玉梓を輸送する事だけに集中している彼らには効果が乏しいのだろう。
 同じように、姫巫女からの予知によって玉梓の結界を構築していると思われる殲鬼も同じようにサムライたちを無視して移動している。
 これらに関してはヒト族の剣匠・子竜(w2a547)が氷乱斬によって氷の嵐を巻き起こして攻撃を加えている。
「逃がしはせんぞ! ここで何としても玉梓を打ち滅ぼさなければ‥‥!!」
 戦闘は一進一退であるが、護衛の殲鬼をサムライたちが引きつけているため、強襲しやすい状態ではある。
 だが、桔梗の天剣士・衛(w2a141)は影潜みで気配を絶った上で、攻撃の機会を慎重に見極めようとまだ飛び出す事は控えていた。
「まだだね。もう少し、玉梓が現れるその時を狙わないと‥‥」
「玉梓さえ姿を現せば、すぐに攻めるんだけど‥‥」
 御燈の白狐・藍白(w2b088)も仲間たちの戦う姿を見ながら、必至に耐えて身を潜めている。玉梓が姿を現したその時こそ、一斉攻撃の機会なのだ。
 この間に怒気放出の影響より開放された数体の殲鬼たちが妨害を行おうとしてきたが、それは夢叶え求む神導・神楽(w2d268)が再度怒気放出を用いて足止めをかける。
「吉乃、回復は気にしなくていいから思いっきりやってよ? 私が引きつけていられるのも限界があるんだから」
「神楽姉上‥‥。有難うございます。後は私が‥‥!」
 そうやっておびき寄せられた殲鬼を、深緑の輝石・吉乃(w2d393)が氷縛剣によって呪縛して動きを止めた。
 こうして配下の殲鬼の動きを止める事はできたが、殲鬼では無い鬼面衆に関しては、元は人であるために思い切った作戦に出ることができない。
 このままでは玉梓と共に樹海の中へと逃げられてしまう危険性があったが、そこは今まで身を潜めていた天衣無縫の鬼狩り師・幽鬼丸(w2e415)が対応する事にした。
「ええいっ、おぬしらは邪魔じゃ!!! 麿の狙うは玉梓ただ一人、どけどけぇい!!!」
「幽鬼丸さん、行きましょう!」
「「恐鬼の瞳」」
 白珠の仙符術師・若桜(w2a092)の協力を得て放った蛇瞳による呪縛が、鬼面衆たちを捉えて全てを呪縛した。
 また、この時、結界を構築している殲鬼に関してもサムライたちが倒していたため、もはや玉梓との間を遮るものは何も無くなっている。
 それを確認して、蒼炎を纏う神殺し・龍鎧(w2b421)は輝神装甲を用いて防御を固めた上で、油断無く武器を構えた。
「いよいよだな‥‥。さて、どうでてくるか‥‥」
 そして輿に何か動きがあったと思われたその時、この辺り一帯は漆黒の闇に包まれるのだった。

●玉梓との決着
 それは日の陽すら遮り、全てを漆黒の闇に包み込む殲鬼王ザルヴェングルが遺産邪黒瞳の力であった。
 この力の中では何も見渡せなくなってしまうのだが、それに関してもサムライたちは対策を立てていたので、問題は無い。
小蛍符によって蛍を作り出し、その光を証明とすれば良いのだ。
早速まゆは蛍を作り出すと、辺りを見回した。
「‥‥どうやら玉梓が本気で仕掛けてきたようだね。‥‥これで視界は一応確保されたけど、次に何が来るのか‥‥」
 するとまゆの言葉が終る前に、サムライたちの体の周りで灼熱の業火が発生した。
 渦となって辺りを巻き上げるその一撃でサムライたちの防御障壁はくだけ散る。
 火炎陣によって全体攻撃を仕掛けてきたのだ。この攻撃に夜魅子は舌打ちする。
「ちっ‥‥。式神をしかけようと思っていたけど、これじゃあ、とてもそんな余裕を与えてくれそうにないね」
「‥‥ならば、小細工は止めて一気に攻撃にするしか手はないでしょう」
「「秘剣・万滅刃」」
 闇の中で心眼により殺気を掴んでいた紅霧は、その中の一体に目標をつけて夜魅子と合体技を仕掛けた。
 それは狙い違わず殲鬼の体を刺し貫いたが、その体は徐々に透明になって消え去ってしまった。
 闇分身の術による分身だったようだ。
 すると今度は闇の中から漆黒の雷撃が走り、サムライたちの体をうち始める。
 恐らくは黒雷天撃だろうか、闇の中で放たれるため軌道が読めず回避がしづらい。
「‥‥相変らず無駄を続けるのが好きなようだな、サムライたちよ。いかにお前達が頑張ろうと、滅びの定めは変えられぬ」
「玉梓ね! いつまでも貴方の好きになるとは思わないで!」
 蛍によって照らし出された空間に玉梓らしき姿を見たこれっとは、同じく黒雷天撃を打ち込んだが、反撃とばかりにまたしても漆黒の雷撃を打ち込まれて防御障壁が粉砕された。
 このままでは危険なので、すかさず夜影を癒す月光・鎮女(w2c305)が援護に入って護りの雫を施す。
「これっと、無理をするな! 下手をしたら殺されるぞ!」
 流石に姫巫女の魂を取り込んだ上級殲鬼だけあって、その戦闘力は尋常ではない。 
 何とか確認できた殲鬼に対して、藍白も双月星・備前(w2e605)の協力を得て月天剣舞の合体技泪月乱舞・光覇を放ったが、有効打に繋がったような手ごたえは感じられなかった。
「この闇の中じゃ、決定打を与えられたかどうか、それに倒したのが分身か本体かどうかも分からないね‥‥」
「‥‥分からない以上、ひたすら攻撃し続けるしかないでしょう! 何としてもここで玉梓を倒さなくては‥‥!」
 殲鬼はどうやらこの闇の中でもまったく問題無く行動できるようで、玉梓が戻ったことで勢いを取り戻した配下の殲鬼たちを相手に、吉乃は必至に天狼剣を用いて撃退にあたっている。
 玉梓が闇分身の術によって分身を作り出し、複数存在しているのは事実だ。
 こうなれば一体でも多くの分身を消すしかないと、確認できた殲鬼全てに、若桜の協力を得て幽鬼丸は太極四天陣の合体技を繰り出す。
「何としても邪黒瞳だけでも奪取しなければならんでおじゃる! 陰陽の奥義の冴えを見せてくれよう‥‥。いきますぞ、若桜殿っ!!!」
「「八極天地陣」」
 恐るべき形相をした式神たちが飛び交い殲鬼たちを襲う中、出雲は天狼剣によって配下の殲鬼を仕留めながら心眼を用いて殺気を再確認してみた。
「‥‥駄目だな。まだ複数の殺気を感じる。玉梓の分身が残っているようだな‥‥」
「じゃが、こうも視界が悪いとどれが本物の玉梓であって、邪黒瞳を握っているのか分からぬのう‥‥」
 自分に飛びかかってきた殲鬼を灰燼剣でもって屠りながら、炎羅は玉梓の姿を探す。
 だが、暗闇が支配する空間の中で、僅かに蛍の照らし出す明かりを頼りに目標をつけるのは並大抵のことではない。
 できるだけの蛍を出して照明を用意しているが、殲鬼との戦いの間にかなりの量が落とされており、それほど見通しは聞かなかった。
 しかも、玉梓から強烈な攻撃が仕掛けられてくるため、攻撃だけに集中している訳にもいかない。
 今も太極四天陣による式神の一斉攻撃を食らった仲間達の傷を癒すため、孫の手が必至で光り輝く愛の翼を用いているが、それにも限界がある。
「‥‥まずいな。回復する量よりも攻撃を受ける分の方が大きくなっている。このままじゃ、いつか倒されるぞ‥‥」
「武の城壁にも使用できる限界がある‥‥。早く本体を見つけないと‥‥!」
 武の城壁の合体技を用いて何とか殲鬼の攻撃を凌ぐ子竜であったが、使用回数の限界は刻一刻と迫っている。
 何とかサムライたちは玉梓の本体を見つけ出そうとしていたが、誰も見つけ出す事はできなかった。
 それもそのはずで、何と玉梓はこの場には既にいなかったのである。

「ふふふ‥‥。私がわざわざサムライの相手などする必要も無い。要は桔梗に到着できればいいのだ」
 分身と配下の殲鬼にサムライたちの相手を任せ、本体は樹海への道を急ぐ。
 闇に包まれた空間の中で、サムライたちは闇雲に分身の相手をさせられるだけなのだ。
 だが、そんな玉梓の前に三人のサムライが立ち塞がった。否、それは全て同じ姿恰好をした分身たちと無紋の遺品となったかんてらともった洸であった。
「どこへ行くんですか? 貴方の相手は私たちですよ」
「‥‥ほう、伏兵とは気がきくな‥‥。だが、その程度の数でこの私を止められるとでも思っているのか?」
 洸に向けて錫杖を構える玉梓。
 そして、もう片方の手に闇よりも暗き輝きを放つ石のようなものを見た衛は、今こそ攻撃の時と物影より姿を現して終焉に舞う黒翼の月姫・冬華(w2a120)と共に玉梓に合体技を仕掛けた。
「‥‥狙うなら、今! いくよ!!」
「「氷槍千峰衝」」
 氷柱衝の合体技によって無数の氷柱が大地に生え、玉梓を襲う。
 更にこれに合わせて龍鎧が震撃でもって突進し、玉梓の邪黒瞳を狙った。
「本当の力を引き出せないお前が持っていても宝の持ち腐れだろ。それこそお前達の王になど渡させるものか」
 サムライたちの猛攻によって、玉梓の手より邪黒瞳が弾き飛ばされた。
 思わぬ攻撃を受けた玉梓は反撃の殲鬼力を放ってきたが、それをものともしないで我出謀坐琥は玉梓へと突進する。
「例え間接が曲がろうが折れようが、貴様を倒すまで俺は諦めん!」
「後一歩です! 頑張りましょう!」
「他の兄ちゃんたちに攻撃を繋げるためにも、ここは是が非でも堪えなきゃいかんのじゃ!」
梅華の月天剣舞が小鉄の鉄鎖法が玉梓の体に命中し、その動きを鈍らせていく。そして空が鬼攻弾を放って、続く武神力の放つために集中を行っていた仲間達を見やった。
「さぁ、準備は整えたぜ! 後は一気に決めてくれ!」
 仲間達が玉梓へ必死の攻撃を行っていた時、ふぁれると終は最終奥義一撃必殺の準備のために集中していたのだ。
 そして、それは今、終わった。
「さて、この一撃に耐えられるかどうか、見せてください」
「あんたは確かに強かった。だが怖くは無かった‥‥。そこがあんたとイルヴァラートの決定的な差だ」
「「散命刃」」
 二人の狂剣士による必殺の斬撃によって、まさしく玉梓の体は文字通り真っ二つにされた。
「し、信じられぬ‥‥! こ、この玉梓がサムライごときに、おくれをとるとは‥‥!!!」
 かくしてサムライたちは、桔梗での最終決戦を前に上級殲鬼を倒す事に成功した。
 鬼面衆の方は見轟流影忍の銀狐・吾梨亜(w2a037)が鬼面を割って無力化したし、捕らわれていた姫巫女迦煉も、玉梓が乗っていた輿の中で発見されサムライたちに保護された。
 だが、守護する国より離れ命の危険にさらされている姫巫女の容態は予断を許さない状態だ。サムライたちは彼女を連れてひとまず桔梗へ帰還することにした。

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