41.『遥けき想い』
============================== 今日もぽかぽか暖かく。気分は上々、さぁ、今日も一日頑張ろう。 そんな気分からはいろんな意味で程遠いその地には、すでに大勢の人が集まっていた。大会はすでに始まっているようで、台の上から熱烈な愛を語る者の姿が見える。 歓声や応援のために台の前にたかる人たちとは別に、黄色い声で一杯の人だかりがあった。 「あれ、ですよね」 「あぁ、あれだな」 どこかしら呆れと哀れみを含んだように、ラセツの狂剣士・蜜(w2f875)と焔竜・祇亜(w2f719)が頷きあった。 「とりあえず、女子を言いくるめてみましょうか?」 「‥‥おそらく、無駄だと思う‥‥」 式神符を折りながら、廉士・勅久(w2d794)がそう言った。確かに、女性たちの顔を見ていると、説得なんか受け付けそうになかった。 その証拠に、先ほどから女性集団に向かって愛を叫んでいる男の声に、彼女らは振り向きさえしないのだ。哀れ思春期男子たち。 「これで渚の正体を暴ければいいが‥‥」 いささか不安げではあるが、手に現れた式神たちを、飛ばす。渚を倒せと命を受けた五匹の雀が渚にまとわり付き、つつきだす。と、 バシッ! 取り巻き女性の一人が、その雀を叩き落してしまった。お怪我はありませんか。と、渚にすがるように、その身を案ずる。 「私は平気ですよ、お嬢さん。ですが、その綺麗な肌に傷がついては、大変ですよ?」 優しく微笑みながら手をとり、撫でる。それがきっかけで、女たちによる雀狩りが始まったとか‥‥。 そんなこんながあった間にも、大会はどんどん進み、いよいよ渚の順番が回ってきた。女性たちに微笑みかけながら舞台に上り、言葉を紡ごうとしたその瞬間。 「火事だ〜! 逃げろ〜!」 渚の言葉をかき消すように、鬼面仏手・孫の手(w2b894)の叫びが響く。 ラセツによるその叫びに恐れ惑った村人たちは、誰からともなく逃げ出した。が。 「な、渚様のお言葉を聞くまでは‥‥」 意地で残る女がちらほら。さすがに孫の手も唖然としたが、はっとしたように、改めて渚の前に立つ。 「‥‥あんたら、サムライなんだ?」 台の上にたっていることもあってか、ものすごく上のほうから見下してものを言う渚。 「おとなしく引き下がれよ。そこの人間も、俺の言葉を聞きたがってるんだぜ?」 紳士の面影どこへやら。あからさまな挑発としか思えない言葉列に、真っ先に攻撃を仕掛けたのは銀糸の夢紡ぎ・弓弦(w2b404)だった。 勢いよく台の上に飛び乗ったかと思うと、握った錫杖で、殴る。とにかく殴る。 「人の心の大事なものを、裏切るだなんて‥‥許せません、絶対許しません!」 「ちょ、待て‥‥っく、俺に触るなぁ!!」 錫杖を払い、弓弦を突き飛ばす渚。その拍子に、殲鬼特有のねじくれた角が、現れる。 本性をあらわした殲鬼・渚に、もはや容赦の必要などなかった。 「人の心を弄ぶなんてなぁ、殲鬼じゃなくても許されねえぞ、コノヤロウ!」 集団私刑宜しく、積極的に、それはもうとことん殴るサムライたち。さして力もない渚は、彼らの攻撃によってあっけなく倒された。 逃げずに残った女性たちも、ヒルコの癒し手・ぷてぃーら(w2e747)がなだめつつ場から遠ざけていたため、気づくものは誰もなし。 いい汗かいた。と、爽やかに息をついたとき、ようやく村人が戻り始めていた。すばやく渚を処理し、いぶかしげな表情の村人たちに頭を下げる孫の手。 「間違えて大声を出してすまなかった。大会を再開してくれるかな?」 「あの、でも‥‥渚様は?」 なんだか泣き出しそうな勢いで所在を尋ねてくる女性を見やりつつ、そういえば。と言ったように、 「なんか、『誰かを選ぶなんてできないッ! 旅に出ます。探さないで下さい』って言って走り去る優男は見たなあ‥‥」 「僕もそんな人を見ましたよ。なんだか悲しそうでしたね」 勅久が口裏合わせてそういうと、残念そうではあるが、納得はしたようだ。少しずつだが苦笑して、台へ上がるための列につく姿も。 そうして再び、大会が始まった。 「お母さん〜! お父さん〜! 会いたいよ〜!」 ぷてぃーらの可愛らしい声が響く。目一杯の声を張り上げる小さな子供のそんな叫びに、村人たちからは拍手と声援が送られた。 「朔夜さんの愛をくれ〜!」 涙ながらに叫ぶ祇亜。片思いの少女がいつのまにかオカマに心を奪われてしまったのだと、漢泣きで語る彼には、多大な同情が送られた。 「いつも、いつも、本当に好かれているのか‥‥優し過ぎて想いが図れないこともあるけれど。それでも共に、これからを生きたいと私がただ一人、希う人‥‥この心のうちに常にある不安ごと。全てひっくるめて。私は私の隣に居る人が、大好きです――これからも、ただずっと変わらずに」 茹蛸のように真っ赤になりながら、胸のうちの想いを告げる弓弦。ここに感情をあらわにした相手の男性がいなくて良かったと想いつつも、言えてよかったと安堵した様子の彼女には、大きな歓声が送られた。 「孫の手さんは、参加しないんですか?」 「あぁ。言う時は正面切って言うつもりだからな。呼びそびれちまったし‥‥散々迷った末に」 苦笑しながら言う孫の手に首を傾げつつも、蜜は何も言わず、再び大会のほうへ気を戻した。 大会は大盛り上がり。はじめのほうに見向きもされなかった男たちも、サムライたちの励ましによって再告白。見事想いを遂げるものも、少なくなかった。 そうして、とうとう最後の一人。勅久は舞台の上にたち、うん。と一度うなずくと、言った。 「僕は真珠さんを好きです。その時には、千の障害があっても、必ず逢いに行きます。それが今でなくても」 場が一度しんと静まり返り、それから、盛大な拍手と歓声が起こった。 きょとんとした様子の勅久に、村人たちからの「優勝特典」なるものが、手渡された。 互いが互いを励ましあい、口々に祝辞を述べる村人たち。少しずつ負の感情が消えていくのを感じながら、サムライたちは、村を後にした。 ============================== |