45.『【温泉殲鬼変】源泉・脛毛塚』(サポート)

==============================

●獅炎の鬣・流禍(w2a358)、とりおとす。
 銀の刃をもてあそぶ。ままごとの道具のようだけど、肌に添えれば金属の風合いがたしかに武器なのだと告げる。
 息づかいはケモノのように、荒い。ひたすら一点を見つめる眼は、幾本もの朱がはしっている。
 特別な力はいらない。すぅっと引けば、切れるだろう。落ちるだろう。だが、指先は意思に反し、わななくばかり。指からすべる刃は、床に跳ねかえり、かわいた音を響かせた。
「やはり駄目だ‥‥男の誇りにかけて‥‥脛毛を先に剃っておいたりなぞできるか‥‥っっ!!」

≪『青輝温泉! 青輝温泉は良いトコ一度はおいでだぞ☆』
 ココでしか買えない(?)美味しい牛乳もあるぞ〜(><)≫
「最初はめだつぞ〜☆」
「おい。人の苦悩にわりこむな」

●マドウ族の天剣士・まゆい(w2e122)はうきたち、忌魄の片月・華夜(w2a012)はたくらむ。
 で、ぴーかん五月晴れに当日なのだ。いえ、五月晴れのもともとの意味って、梅雨のあいだの晴れ間って意味なんだよ。そんで、いつものように水面をしゅわしゅわと覆い尽くす湯気が、あぁ温泉だかぁねって感じだし。焔雷はそんな様子を物欲しげに横目でながめる。
「焔雷、つかるのは殲鬼をたおしてからだよ」
「や、それは承知の上だけどよ」
 焔雷は湯にひたした手をひきぬき、ぴりと振って、華夜の肩におく。それから、ついっと微妙な方向にも動かしたりして。
「じゃあ、帰りにいっしょに寄ってかないか? たのしく背中のながしっことか」
「そうだね。たしかに他人に背中をながしてもらうのって、気持ちがいいけど」
 このやりとりからすると、わりにどっちも手馴れてる?
 で、これはいつもどうりでなく(現地では、という意味で。某里ではどうだか知らない)、地平から砂塵をたてて、すそわれ浴衣が駆けてくる。えいやっと一蹴り。みごと焔雷のどたまに命中おおあたり。だがそれでも焔雷、最後まで華夜の手をはなさなかったあたりがサムライだ。
「人がちょっと目を離したすきに、なにをしてるんだ。おまえは」
「まぁおちつけ、流禍。武神力なしで、その速さと威力は反則だろう」
「おまえのやり方のほうがよっぽど反則だろうがっ」
「だって流禍くん、いそがしそうに剃刀と密談してたってきいたから」
「って、なんで知ってるんだ」
「はい」
 私だよ、と丹藤が話に横入り。
「相談したいことがあったんだけど。なんだか楽しそうだから、遠慮したんだよ」
 がんばれ流禍。負けるな流禍。なんだかすべてが天然十割で敵だぞ、流禍。ほら、向こうではお子様連中が作戦会議のまっさいちゅうだ。
「見てくれだぞ〜。クズノハ窃盗団御用達特製トリモチ『キミのはぁと以外を、財布もまとめていただきだ☆』くんだぞ」
「すごいですね。完璧です。じゃあじゃあ、僕、光輝く愛の翼で脛毛を復活させます☆」
「私もがんばりますっ。見てください。秘密兵器をもってきましたっ♪」
 順に、青輝・将・まゆい。
 元気がいちばんお子様連中って、あ、ひとり成人がいた。まゆいは御年22歳だっけ。しかし、なぜかみょーに違和感がない。トリモチを利用してつくられた粘着物質『がむてぇぷ』を天にかかげる。
「これです、これ。女将さん、見てください。これで温泉は安泰ですっ」
 殲鬼はどーした。
「‥‥‥‥なんとか、なりますっ☆」
 ちょっとだけ、忘れかけてたらしい。
「強く逝き、じゃなかった、生きましょう。僕もおともしますから」
 瑠異がぽむと流禍に添えたてのひらは、焔雷のそれとはちがい、ひたすら同情のぬくもりに満ちていた。

 ま、いろいろあったけど。みんなでなかよく、かるーく登山をこなしましょ☆

 でも、さっそく重くなってる人もいた。
「‥‥で(ゼイ)、相談したいってのは(ゼィゼィ)これだったんだな(ゼィハァ)」
 ほとんどの人が想像したとおり、流禍である。丹藤をおぶって、えっちらおっちら歩く。だが、いくら痩身とはいえ、相手は六尺半を超える男子。重い。もっぱら精神的に。
「私は体力がないから。流禍くんは力持ちだねぇ」
「ラセツなもんで」
 だが、流禍がラセツになった理由は、成人男性をかついで山をのぼるためではなかろう。
 はっ。それとももしかして、流禍ってば『恋人のために』とは隠し蓑で、本当はそういう趣味でラセ ツ
 ツー――‥‥。
 山道ついでに電波をにじっと踏みしめて(一部の文章が乱れたことを、ここにお詫びいたします)、流禍はがしがし進む。ちょっと自棄がはいってるけど。
「ほんとうは女将さんを、抱いていく予定だったんだが」
「私はべつに、お姫さまだっこでもよかったんだけど」
「俺がよくない」
 流禍の『女将さんを抱きかかえていこう。すくなくとも、道中は襲われないはずだ』作戦がどうして不発に終わったかというと、彼女は華夜がつくりだした式蜘蛛にのっているからだ。ちょっとの揺れさえ我慢すれば、これなら楽ちん♪
「ほら、なかなか愛嬌があるでしょう。はい、蜘蛛さん、ご挨拶しましょ〜♪」
 華夜が合図をくだせば、蜘蛛はちょっとたちどまって、前方二本の脚をしゃかしゃか動かす。心が広い人ならば、たしかにかわいいとみるかもしれない。普通人には、人食の支度にしかみえなかろうが。
「ええ、ほんとうに、かわいいですわね」
 普通じゃなかった。丹藤はそんな様子を、安全圏からながめて、ぽつりと一言。
「流禍さん、ご挨拶しましょう」
「するかぁっ」
 おんぶ漫才という新しい極致を開拓しそうなふたりはさておき、彼らの前方は比較的楽しく進んでいる。特に、将。孫の手に手を引かれ(あ、ダジャレみたいだ)、ご機嫌だった。おんぶ漫才(仮名)を観察してなにやら考え込んだ将に、孫の手は声をかける。
「将も背負って欲しいのか?」
「うんっ。そんでね、でね。おんぶしてもらった瞬間に、僕ね、どーんと力を入れて、孫の手さんをおしたおすの〜♪」
「うんうん。将は素直でかわいいな。だが、そういうことは、本人にむかっていうもんじゃねぇぞ。それに、他にいうことがあるんじゃなかったのか?」
「あ、はーい。
『どきどき褌キングダムは魅惑の里。奉納された褌に埋もれてみませんか? もれなくおかーさんがつきますv』
 うまくいえたから、押し倒してもいい?」
「(将のうしろで、まっちょぽーずキメキメ)だから、本人に懇願するのはよそうな?」

●漢に憧れを抱く者・将(w2e146)は押したおし、クズノハ窃盗団死天王・青輝(w2c234)は葱る。
 殲鬼殲滅に成功。って、いきなりかい。
 事のあらましを圧縮版でお送りすると、こーなる。

「んっ。胸が痛いです。この痛みは恋っ?!」
 と、将が叫べば、『それはヒルコの苦痛では』というツッコミも忘れたまゆいが反応し、孫の手に詰め寄る。
「恋といえばっ。そうだ、どさくさまぎれに。里長、好きです!」
「すまん、俺はべつに好きなやつが。つか、ちっともどさくさまぎれになってない気がするんだが」
「どさくさってどんな草だろうなぁ〜?」
 青輝はべつの方向に反応する。『青く輝く』名前のとおり、彼の心は青々と萌ゆるものに対して、敏感だ。青物、すなわち、野菜系。
「きっと、こんな感じだぞ〜☆」
 思えば、迷わず実行にうつせ。四方を刃がぐるりととりかこむ。
 !! 炸裂の、【極】絶対惨殺葱 !!
「なぁ、暗器って緑と白に塗り分けられてても、暗器っていうのか?」
「自然にやさしく人にやさしくない形状でも、暗器っていうのか?」
「っていうか、あれはどうみてもネ」
 暗器使いがあれは暗器使いだっていってるんだから、あれは暗器なんだよ。たぶん。そして、流禍は【極】氷縛剣を発動させようとしたその腕を、直前に空蝉の術に変更するのだった。
「そこのマドウ族、今、俺にも飛ばそうとしたろ。ネ○を。○ギを?!」
 だから、ネギ(書いちゃった)じゃなくって、あれは暗器。きっぱり。
「どっちでもいいから、仲間に攻撃するんじゃねぇ!」
「ちょっと手元が狂っただけだぞ〜♪」
「‥‥視線をあわせろ」
「これこれ、そこのふたり。まだ全部、終わってませんよ」
 いちおうね。虫の息だけど、まだ生きてたりする。華夜がしかたがない、と指を鳴らして、地に円陣をえがいた。
「はい、これで終わり」
 ひとしごと終えた式神たち@太極四天陣が、そこらをぴこたんぺこたん駆けずり回り凱歌をあげて、またいそいそと魔法陣に還ってゆく。その光景はなんだか妙にほのぼのの、妖精さん大行進といった風情だった。

 ――なんか、どっからどうみても戦闘にはみえないのですが。
 いいのか。サムライとして。もっとこう、緊張とか恐怖とかと隣りあわせでなくっていいのか?
「無駄だから☆」
 妖精さんの主人っぽく、もう1匹出現させた式蜘蛛のうえに、脚を組んで座した華夜。人はそれを女王様という(げしげし)
「それに、真の敵は殲鬼にあらず。そこにいる脛毛狩人と葱マニアと筋肉萌え! あなたたちです!!」
 脛毛塚の未来の担い手は、あなたたちです! 
 と、華夜が指差した先は。
「うふふ、つかまえてごらんなさい〜♪」(韋駄天足だっしゅ)
「あはは、宿祢さん、脛毛ぬいちゃいますよ〜♪」(呪縛符びしびし)
 白褌なびかせて楽しそうな宿祢を、虎助があとから狙い撃ちで追っているのだった。
「‥‥方向をまちがえましたね」
 どっちかってぇと、世界設定をまちがってる。
 が。がっ。そのあいだ。阿鼻叫喚はすでにはじまっているのだ。各馬いっせいに走り出します。

<被害度予想>
 ◎:焔雷
 ○:流禍
 ▲:孫の手
 △:瑠異
 ×:宿祢(つか、すでに別の世界に旅立ってる)

「待て。本命は流禍じゃなかったのか」
「だって、焔雷さん、いつもわたしをいぢめるじゃないですか?!」
 ずざりっ。すこし安心していた焔雷の目前に立ちはだかる影は、まゆい。
「覚悟してください。おもいっきり痛くします。孫の手さんにふられた恨みもこめて(私怨)」
「はいはい、僕も焔雷さんを触りたいです〜♪」
 将も参戦を表明する。ちっさいとはいえ(だから、まゆいは成人女性だって)、相手はふたりのサムライだ。どうする、焔雷?
「しかたがない、応戦しよう。来い、ちびっこども!」
 ぱしん☆
「そうしててください。女性をいぢめるような乱暴な人は嫌いです」
 通りすがった華夜にあっさりと呪縛符を張られ、焔雷、一巻の終わりをむかえる。
「わぁい。胸板すりすり〜♪」
「いっきますよーっ、焔雷さん」
「だから、俺には脛毛なんか」
「え、ちょっとありますよぉ。ほうら☆」
 雑巾やぶくよな、絶叫が響き渡る。
「焔雷さん、だいじょうぶ? 光輝く愛の翼する?」
「うーん、そのことだけどね」
 丹藤が、またしても横入り。おなじ癒し手として、そしてヒト族の用心深さの表れとして、気になってたことがあるらしい。
「脛毛が光輝く愛の翼で復活するんなら、他の人の無駄毛もいっしょに復活するんじゃない?」
 ‥‥し――ん‥‥。
 水を打ったよう、ならぬ、源泉を打ったように静まる一帯。
「私は関係ないけどね」
「わ、私もだいじょうぶです」
「うん、まゆいちゃんは大丈夫そうだね」
「どういう意味ですかぁっ?」
 そうゆう意味です。深く考えてみましょう。
 で、この場合、一番被害をこうむりそうなのは誰か、ということまで考えてみる。
「わたくしですわね」
 そう、普通人の女将だった。
「では、なしにいたしましょう」
 そーゆーことに。ちょん(拍子木の効果音)♪ 「って、俺は放置されたまんまか!」うん(きぱ)
 なしくずしに焔雷に視線が集まった今、こそこそその場を逃れようとするサムライひとり。の浴衣の襟元を妙技で、華夜ははっしと掴む。
「流禍、どこ行く気かなぁ?」
「華夜サン、見テタノデスネ」
「それは、ね、僕の流禍だから」
 表側だけとらえてみればとっても甘い台詞なのに、そうはみえないのは何故だろう。理由は考えるまでもないが。
「僕のためなら‥‥痛い思いくらい我慢できるよね?」
 嫣然たる微笑のまえに、一歩、あと一歩と、流禍はあとじさる。こんな怖い思いは、『神』と戦ったとき以来か。ってより、ぜったい、こっちのが怖い。断言。
 饗宴は狂乱で驚嘆のなか、人々は踊り、平和を満喫する。あぁ、平和が一番だよね。

↓↓↓わりに安全そうな人たち↓↓↓
「将があっちに関わってるあいだぐらいは、俺も休めそうだな」
「よかったですね。孫の手さん。僕もなんとか‥‥。あ、お茶呑みます?」
 瑠異のさしだすだが、世の中そんなに甘くはない。悪魔はあなたの隣にいて、それはしばしば耳がとがっている。
「まだまだ、【極】絶対惨殺葱はのこっているんだぞ〜♪」
「お手伝いしますわ、おサムライ様にして、この温泉の影の主!」
 ‥‥もはや、だれだか説明しなくてもいいような気がしてきました。うしろの人は。
「人に遠慮なく、奥義な武神力連発すなっ」
 だいじょーぶ。しょせんは、みんな、お笑いよ(謎)

●そして、ヒト族の癒し手・丹藤(w2f446)が韜晦する。
 サムライだって疲労する。ごもっとも。いちはやく戦線脱落した、だけどその代わり体力も温存気味だった丹藤は、お昼寝一式のうえで寝そべりながら山の自然を満喫していた。で、そんな一式、いつ持ち込めたのだろう。きっとサムライ七不思議のひとつだ。
「おや、カタツムリだよ」
 そういえば、まだ梅雨はあけてない。
「精霊は空にしろしめし、なべて世はこともなし‥‥」
 わりと、ことはあるような気もするが、ま、誰も怪我もしてないしっ☆ あ、でも、まだやることはあるんだよね。
「‥‥ん、広告。と言えばアレかなァ。うん、アレ。えーと、何だったかな。とりあえず眠いよね。これは心情か」
「丹藤‥‥のんびりしてて結構なことだなぁ」
 ゆらりと被害者ゐさんの風情であらわれた流禍、それでも最後にやるこたやるのだ。
『広告というより言い訳:『矢鱈と脛毛狩り参加者の多い蜃屑楼だが、イロモノ里では断じてないぞ!』
「よし、これで誤解はとけるだろう。丹藤も蜃屑楼の住人として、なにかひとことつけくわえて」
「くぅ」
「ってゆうか、寝てるし!」
 漫才再開。が、次回公演は、未定である。

 おまけ。帰還した彼らが姫巫女の間にいってみると、件の姫巫女は絶賛逃亡中だった。
『捜さないでください。おやつの時間には帰ってきます』
「‥‥これは、罪悪感のあらわれなんでしょうか?」
 呆然とするまゆいにむかって、宿祢はしずかに首をふった。
「いや、ただの逃走本能だな。と、丹藤、ちょっとそれを貸してくれないか?」
「うん、これ?」
 お土産にと持参した丹藤のネギ入り温泉すたみな饅頭(形が卑猥らしい@丹藤談)を姫巫女の間に、宿祢は巧みに設置する。あとは、ざるとひもで準備万端。
 罠。わなわな。

 そして、あっさりかかった姫巫女に、サムライたちはぬきたて新鮮生膝をたっぷりお見舞いするのだった。

==============================
もどる