45.『【温泉殲鬼変】源泉・脛毛塚』(サポート)
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もれなくおかーさんがつきますv』 うまくいえたから、押し倒してもいい?」 「(将のうしろで、まっちょぽーずキメキメ)だから、本人に懇願するのはよそうな?」 ●漢に憧れを抱く者・将(w2e146)は押したおし、クズノハ窃盗団死天王・青輝(w2c234)は葱る。 殲鬼殲滅に成功。って、いきなりかい。 事のあらましを圧縮版でお送りすると、こーなる。 「んっ。胸が痛いです。この痛みは恋っ?!」 と、将が叫べば、『それはヒルコの苦痛では』というツッコミも忘れたまゆいが反応し、孫の手に詰め寄る。 「恋といえばっ。そうだ、どさくさまぎれに。里長、好きです!」 「すまん、俺はべつに好きなやつが。つか、ちっともどさくさまぎれになってない気がするんだが」 「どさくさってどんな草だろうなぁ〜?」 青輝はべつの方向に反応する。『青く輝く』名前のとおり、彼の心は青々と萌ゆるものに対して、敏感だ。青物、すなわち、野菜系。 「きっと、こんな感じだぞ〜☆」 思えば、迷わず実行にうつせ。四方を刃がぐるりととりかこむ。 !! 炸裂の、【極】絶対惨殺葱 !! 「なぁ、暗器って緑と白に塗り分けられてても、暗器っていうのか?」 「自然にやさしく人にやさしくない形状でも、暗器っていうのか?」 「っていうか、あれはどうみてもネ」 暗器使いがあれは暗器使いだっていってるんだから、あれは暗器なんだよ。たぶん。そして、流禍は【極】氷縛剣を発動させようとしたその腕を、直前に空蝉の術に変更するのだった。 「そこのマドウ族、今、俺にも飛ばそうとしたろ。ネ○を。○ギを?!」 だから、ネギ(書いちゃった)じゃなくって、あれは暗器。きっぱり。 「どっちでもいいから、仲間に攻撃するんじゃねぇ!」 「ちょっと手元が狂っただけだぞ〜♪」 「‥‥視線をあわせろ」 「これこれ、そこのふたり。まだ全部、終わってませんよ」 いちおうね。虫の息だけど、まだ生きてたりする。華夜がしかたがない、と指を鳴らして、地に円陣をえがいた。 「はい、これで終わり」 ひとしごと終えた式神たち@太極四天陣が、そこらをぴこたんぺこたん駆けずり回り凱歌をあげて、またいそいそと魔法陣に還ってゆく。その光景はなんだか妙にほのぼのの、妖精さん大行進といった風情だった。 ――なんか、どっからどうみても戦闘にはみえないのですが。 いいのか。サムライとして。もっとこう、緊張とか恐怖とかと隣りあわせでなくっていいのか? 「無駄だから☆」 妖精さんの主人っぽく、もう1匹出現させた式蜘蛛のうえに、脚を組んで座した華夜。人はそれを女王様という(げしげし) 「それに、真の敵は殲鬼にあらず。そこにいる脛毛狩人と葱マニアと筋肉萌え! あなたたちです!!」 脛毛塚の未来の担い手は、あなたたちです! と、華夜が指差した先は。 「うふふ、つかまえてごらんなさい〜♪」(韋駄天足だっしゅ) 「あはは、宿祢さん、脛毛ぬいちゃいますよ〜♪」(呪縛符びしびし) 白褌なびかせて楽しそうな宿祢を、虎助があとから狙い撃ちで追っているのだった。 「‥‥方向をまちがえましたね」 どっちかってぇと、世界設定をまちがってる。 が。がっ。そのあいだ。阿鼻叫喚はすでにはじまっているのだ。各馬いっせいに走り出します。 <被害度予想> ◎:焔雷 ○:流禍 ▲:孫の手 △:瑠異 ×:宿祢(つか、すでに別の世界に旅立ってる) 「待て。本命は流禍じゃなかったのか」 「だって、焔雷さん、いつもわたしをいぢめるじゃないですか?!」 ずざりっ。すこし安心していた焔雷の目前に立ちはだかる影は、まゆい。 「覚悟してください。おもいっきり痛くします。孫の手さんにふられた恨みもこめて(私怨)」 「はいはい、僕も焔雷さんを触りたいです〜♪」 将も参戦を表明する。ちっさいとはいえ(だから、まゆいは成人女性だって)、相手はふたりのサムライだ。どうする、焔雷? 「しかたがない、応戦しよう。来い、ちびっこども!」 ぱしん☆ 「そうしててください。女性をいぢめるような乱暴な人は嫌いです」 通りすがった華夜にあっさりと呪縛符を張られ、焔雷、一巻の終わりをむかえる。 「わぁい。胸板すりすり〜♪」 「いっきますよーっ、焔雷さん」 「だから、俺には脛毛なんか」 「え、ちょっとありますよぉ。ほうら☆」 雑巾やぶくよな、絶叫が響き渡る。 「焔雷さん、だいじょうぶ? 光輝く愛の翼する?」 「うーん、そのことだけどね」 丹藤が、またしても横入り。おなじ癒し手として、そしてヒト族の用心深さの表れとして、気になってたことがあるらしい。 「脛毛が光輝く愛の翼で復活するんなら、他の人の無駄毛もいっしょに復活するんじゃない?」 ‥‥し――ん‥‥。 水を打ったよう、ならぬ、源泉を打ったように静まる一帯。 「私は関係ないけどね」 「わ、私もだいじょうぶです」 「うん、まゆいちゃんは大丈夫そうだね」 「どういう意味ですかぁっ?」 そうゆう意味です。深く考えてみましょう。 で、この場合、一番被害をこうむりそうなのは誰か、ということまで考えてみる。 「わたくしですわね」 そう、普通人の女将だった。 「では、なしにいたしましょう」 そーゆーことに。ちょん(拍子木の効果音)♪ 「って、俺は放置されたまんまか!」うん(きぱ) なしくずしに焔雷に視線が集まった今、こそこそその場を逃れようとするサムライひとり。の浴衣の襟元を妙技で、華夜ははっしと掴む。 「流禍、どこ行く気かなぁ?」 「華夜サン、見テタノデスネ」 「それは、ね、僕の流禍だから」 表側だけとらえてみればとっても甘い台詞なのに、そうはみえないのは何故だろう。理由は考えるまでもないが。 「僕のためなら‥‥痛い思いくらい我慢できるよね?」 嫣然たる微笑のまえに、一歩、あと一歩と、流禍はあとじさる。こんな怖い思いは、『神』と戦ったとき以来か。ってより、ぜったい、こっちのが怖い。断言。 饗宴は狂乱で驚嘆のなか、人々は踊り、平和を満喫する。あぁ、平和が一番だよね。 ↓↓↓わりに安全そうな人たち↓↓↓ 「将があっちに関わってるあいだぐらいは、俺も休めそうだな」 「よかったですね。孫の手さん。僕もなんとか‥‥。あ、お茶呑みます?」 瑠異のさしだすだが、世の中そんなに甘くはない。悪魔はあなたの隣にいて、それはしばしば耳がとがっている。 「まだまだ、【極】絶対惨殺葱はのこっているんだぞ〜♪」 「お手伝いしますわ、おサムライ様にして、この温泉の影の主!」 ‥‥もはや、だれだか説明しなくてもいいような気がしてきました。うしろの人は。 「人に遠慮なく、奥義な武神力連発すなっ」 だいじょーぶ。しょせんは、みんな、お笑いよ(謎) ●そして、ヒト族の癒し手・丹藤(w2f446)が韜晦する。 サムライだって疲労する。ごもっとも。いちはやく戦線脱落した、だけどその代わり体力も温存気味だった丹藤は、お昼寝一式のうえで寝そべりながら山の自然を満喫していた。で、そんな一式、いつ持ち込めたのだろう。きっとサムライ七不思議のひとつだ。 「おや、カタツムリだよ」 そういえば、まだ梅雨はあけてない。 「精霊は空にしろしめし、なべて世はこともなし‥‥」 わりと、ことはあるような気もするが、ま、誰も怪我もしてないしっ☆ あ、でも、まだやることはあるんだよね。 「‥‥ん、広告。と言えばアレかなァ。うん、アレ。えーと、何だったかな。とりあえず眠いよね。これは心情か」 「丹藤‥‥のんびりしてて結構なことだなぁ」 ゆらりと被害者ゐさんの風情であらわれた流禍、それでも最後にやるこたやるのだ。 『広告というより言い訳:『矢鱈と脛毛狩り参加者の多い蜃屑楼だが、イロモノ里では断じてないぞ!』 「よし、これで誤解はとけるだろう。丹藤も蜃屑楼の住人として、なにかひとことつけくわえて」 「くぅ」 「ってゆうか、寝てるし!」 漫才再開。が、次回公演は、未定である。 おまけ。帰還した彼らが姫巫女の間にいってみると、件の姫巫女は絶賛逃亡中だった。 『捜さないでください。おやつの時間には帰ってきます』 「‥‥これは、罪悪感のあらわれなんでしょうか?」 呆然とするまゆいにむかって、宿祢はしずかに首をふった。 「いや、ただの逃走本能だな。と、丹藤、ちょっとそれを貸してくれないか?」 「うん、これ?」 お土産にと持参した丹藤のネギ入り温泉すたみな饅頭(形が卑猥らしい@丹藤談)を姫巫女の間に、宿祢は巧みに設置する。あとは、ざるとひもで準備万端。 罠。わなわな。 そして、あっさりかかった姫巫女に、サムライたちはぬきたて新鮮生膝をたっぷりお見舞いするのだった。 ============================== |