第1回 グローバル化社会の教育研究会の概容 .
開催日時 :  2003年 6月20日(金)  午後2時〜4時半
開催場所 : 順 心 女 子 学 園 中 学 校・ 高 等 学 校
(東京都港区南麻布5-1-14 TEL 03-3444-7271)
* 東京メトロ日比谷線 「広尾駅」徒歩2分
研修テーマ: 現地校・国際学校の教師から見た日本の生徒
  話題提供: 西 澤 哲 男 ((学)順心女子学園 外国語科主任)
★ 出席者: 1987年 明治学院大学文学部卒。都立江東商業高校の教職を辞し、 1989年夏に渡米、School for International Training (ヴァーモント州) で教育学修士を取得。 1991年 カナダ外務省外国語研修所(オタワ)日本語科主任、1994年 Overseas Family School (シンガポール) カウンセラー(取出し指導コーディネータ兼務)、 1998年 Knox School (豪ビクトリア州中等学校)ESL・日本語担当教師、2000年 Thomas Carr College (豪ビクトリア州中等学校) 日本語・特殊教育担当教師 (2002年からLOTEコーディネータ兼務) などを歴任。 2003年1月から現職。
29名。 司会 = 小山 和智 (国際教育相談員/事務局)
T. 話題提供

(1) はじめに
  ご出席の皆さんは、私以上に いろんなことをご存知である。今日は、 私自身がオーストラリアの現地校とシンガポールの国際学校で勤めていた時に遭遇したことと、 日本の学校で出遭っていることとのの違いを、学校の内部の人間から見ればどうなるのかをお話しして、 その後、それをケーススタディーの題材としてグループディスカッションをしていただきたいと思っている。

(2)生活指導面について
  まず最初に「いじめ」の事例を挙げたい。数年前、オーストラリアのヴィクトリア州でトップを争う 進学校を親が訴えた裁判があった。「子供が執拗にいじめられているのに、学校は何もしなかった」 と訴え、結局 学校は敗訴して 何万ドルもの賠償金を払わされた。
  これをきっかけとして州内の各学校では、一斉に「政策書」を出し、「いじめはいけないこと」 として学校の対応手順を明示するようになった。オーストラリアの“いじめ”の定義は、 「連続して長期にわたり、相手の苦痛になるようなことをすること」とされている。 “苦痛”には、実際に手を出すもの(暴力)だけでなく、精神的なものも含まれる。 例えば「お前は汚い」「チビ」といった言葉でも、ずっと言われ続けると苦痛になるし、 誰かから別名で呼ばれ続けることも苦痛になる。学校では、いじめる側の生徒を呼んで 指導もするが、その親も学校に呼ばれる。改まるまで、授業を受けさせなかったり 自宅謹慎をさせたりして、指導は手厳しい。また、いじめられる生徒にも、すぐにシュン とならずに主張したり自己防衛したりできるように指導がなされる。
  私は、日本の公立校の勤務経験もあるが、日本の学校では、いじめている側に あまり指導を していないように思う。「教師が出て行くと、いじめがエスカレートする」と考える傾向が感じられ、 いじめられている生徒は保健室登校などでお茶を濁される。いじめられる側の生徒への対処的指導に 留まっているケースも多い。ただし順心女子学園では、両方呼んで指導がなされている。 私は中学1年の担任だが、まだ“いじめ”の概念のレベルまで達していないこともあって、 ゆっくり話すことで解決している。
  次に、学校の外における生徒指導の考え方だが、シンガポールの国際学校では「学校から一歩 外に出たら、生徒管理は親の責任」とされている。ある時、街でタバコを吸っている生徒がいたので 「やめなさい」と言ったら、生徒手帳を見せて「自分は喫煙できる年齢に達している」と言い返して きたので、私は謝った。逆に、何かあったら、すぐ警察が出てくる。10年前にはマイケル・フェイ君が “鞭打ち”の刑を受けて話題になったが、何か法に触れるようなことをすれば家庭もしくは本人の責任 という形になる。実際には、警察が来る前に国外脱出させたり本国に帰らせたりする。必要なら 親も一緒に帰国する(マイケル君の場合は、親が仕事に忙しくて対応が遅れた)。だから、シンガポール の国際学校では、突然生徒がいなくなるということが、年に何度かある(笑)。
  オーストラリアでも基本的には、学校の外のことは学校の管理外になる。しかし、中学・高校には 制服があって、生徒が制服を着ている時には 教師は指導することができる。私の勤務先の制服を着てい る高校生が街でタバコを吸っていたら、中学部の副校長が注意した。高校生は自分学校の先生だと判ら ないので「何を言っているのか?」という顔をしていたが、最後に「私は、君の学校に勤めているんだよ」 と言った段階で、慌ててタバコを消した(笑)。制服着用時には「学校の名誉を背負っている。看板を汚さ せない」という考え方がある。
  私が日本で公立校に勤めていた時は、生徒が何か問題を起こすと、最初に学校に連絡が入った。 そして、学校の先生が警察に行くことになっていたので、これは違うなぁと感じる。   もう一つ。シンガポールの日本人学校には 2千人くらいの生徒がいるが、髪の毛を染めることは 禁じられている。毎年卒業生の2割程度が国際学校に進学しているが、1週間くらいで黒髪がいなく なってしまう(笑)。 日本人学校ではめられていた枠が外れると、髪の毛が茶色になるのだ。ある時、日本人の親から学校に 電話があって「うちの子を探してくれ。髪の毛がブロンドだから直ぐに判る」と言ったが、 セクレタリーは「いや、みんな染めているから判らない」と答えていた(笑)。 オーストラリアのカソリックの学校では、余りに酷いと指導の対象になる。ある生徒が一晩でブロンド になってツンツン頭(スプレーで固めて)で登校してきたら、朝のホームルームが終わると直ぐに校長室 に呼ばれて、そのまま親が迎えに来るまで待って帰宅させられた。翌日、髪の毛を染め変えて登校するよう に指導されていた。日本人の生徒がそんなことをする例はほとんどないが、それでも、日本の感覚からする と「崩れていく」という感じがしないではない。日本から一人で高校に留学してきた生徒が、羽を伸ばして 夜遊びを続けて改まらないため、結局帰国せざるを得なかった(ESL訓練校から正規の高校に入る推薦 状がもらえなかった) 例もある。「日本人はまじめ」というイメージではあるが、そうでない生徒もいる。

(3)学習指導面について
  シンガポールで私の勤務した国際学校では、52か国の生徒がいて、英国式(Oレベル・Aレベル)、 アメリカ式(SAT、TOEFL)、国際バカロレアの3つのシステムが混在していた。高校2・3年次 の終了時に、これらの外部テストの結果により大学進学の道が決まるので息が抜けない。カリキュラムは 単位制だが、欠時数の補充はない。試験の日に欠席するのは自分の責任で、救済はない。せいぜい通信制 の学校を紹介してくれるだけである。
  オーストラリアでは、州ごとに高校修了の資格が異なる。ヴィクトリア州では、VSEという12年 生末の統一テストがあり、全てはその結果で行く大学が決まる。欠時数は若干考慮はする(特技あるいは 家庭の事情など)が、追試はない(風邪をひいてもダメ)。なお、学習障害等の面倒見のよさでは、オース トラリアはシステムが完備している。
  日本の学校では、欠時数の補充や追試など救済措置をとることが当然とされているが、海外でそれを 期待することはできない。しかし、中学時代に茶髪にしたり眉毛を剃り落としたりして高校進学を諦めて いた生徒が、縁あって留学してきた事例がある。英語は全くできなかったが、片田舎の勉強しかすること がない環境に置かれたことが幸いして、3年後には新聞に取り上げられるほどの成績優秀者になった。 日本の学校でダメだった子が、そうやって成績優秀者になっていく例もある。

U.グループ・ディスカッション
 (フィード・バックから)

(1)海外に行く前にしておいた方がよいこと
  ・ 日本と事情が違うので「ビックリするな」と子供に易しく言っておく
  ・ 教育は親の責任であることを きちんと認識しておく
  ・ 文化の違いを予習していく(心の準備をしていく)
  ・ 人間として、人はみんな一緒
  ・ 2つ目の文化を楽しむ気持ちを持つ(行く前から帰国のことばかり心配しない)
  ・ 家庭では日本語を大切にする気持ちも大事
  ・ 個と社会との関係が希薄にならないように(日常生活の中で全人的な関係を育てるように心がけること)
  ・ 日本人としてのアイデンティティを見失わないで、新しい文化にも関心を持つ
  ・ 家族でよく話し合って、一緒に赴任する(子供に選択権を与えない)
  ・ 母親は「明るく」「完璧を求めず」「容認する」

(2)日本に帰ってくる前にしておいた方がよいこと
  ・ きちんと事前に調べて、親の教育方針を立てる
  ・「他と変わっていることは、素晴らしいことだ」と教える
  ・ 海外で培ったものは全てプラスに考える(「チャンスを生かそう」と希望を持つ)
  ・ 親は焦らないこと(“後れる”という言葉からの解放を)
  ・ 帰国後の学校の受け入れ体制は まだまだ不十分であることを知る
  ・ 親の意識を変えること(異文化の世界から帰ってきていることの認識を)
  ・ 現地の体験を大切に(思いっきり楽しんでくること)
  ・ 現地生活に けじめをつけて帰ってくる(お別れセレモニーを忘れずに)
  ・ 学校選択をしっかりとし、子供が学んだものを潰さないで 生かすようにする

(3)話題提供者のまとめ
  ・ 教師とのコミュニケーションの大切さを親に向かって発信すること
  ・ 親は子供に、伝えたいこと(教育方針や夢など)を持続して伝えていくこと
  ・ 子供の幸せは何かを、本気で考えること
    例:「変わっていることは いいことだ」と親は本気で思えるか    (以下省略)


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