第31回 グローバル化社会の教育研究会のご案内  .
開催日時 :  2009年 6月19日(金) 午後2時〜4時30分
開催場所 : (財) 国 際 文 化 フ ォ ー ラ ム
 (新宿区西新宿2−7−1新宿第一生命ビル 26階)
 * JR「新宿駅」西口より徒歩10分、都営地下鉄「都庁前」より徒歩2分
研修テーマ: 広尾学園インターナショナルコースの現状報告
 (1) 話題提供: 小 山 和 智 (広尾学園中学校高等学校 校長補佐 (国際担当))
★ 出席者: 1976年 立教大学法学部卒。 2003年 目白大学大学院 国際交流専攻科で 修士修了。 1978年から13年半、(財)海外子女教育振興財団に勤務。 その間に ジャカルタ日本人学校事務長として 3年間出向。 その後、(株)国際教育システム、私学公論社を経て、 1994年、クアラルンプール日本人学校国際交流ディレクターとして文部省から派遣される。 1998年 啓明学園 国際教育センター長。 2003年から現職。 日本マレーシア協会参事(文化担当)。 国際教育相談員。 グローバル化社会の教育研究会(EGS) 事務局長。
23名。
T. 話題提供

(1) はじめに
  広尾学園が多文化理解教育に取り組む理由の一つは、その立地にある。 港区中心部で半径1マイル以内に35ヶ国の大使館、6つのインター校に囲まれ、多くの外国人駐在員の家族が周囲に住んでいる。 歴史的な財産もある。 1973年、文部省は、高校では初の「海外帰国子女教育研究指定校」に指定した。それ以降、帰国生を国際性豊かな雰囲気と寛容な職員・生徒の中で支援を続けてきた。 そして 2007年、学園は共学化し、インターナショナルコースを開設した。

(2) 広尾学園の現状と「国際生」
  教育方針は「新しい時代に活躍できる人材を輩出」することである。"新しい時代"とは、格差競争社会と一層の国際化であり、そのなかで "活躍できる人材"に必要なのは、問題解決能力(⇒自律)と、コミュニケーション能力(⇒共生)と考えている。つまり、広尾学園の教育理念は、この「自律と共生」の育成にある。
  在籍者数は、中学校が621名、高校が790名。常勤教職員は104名なので、教員一人当たりの生徒数は14名である。 「国際生」は中学・高校合わせて135名。このうち、15名は国内のインター校から転校してきた生徒なので、帰国生は120名……海外生活経験が6年以上の生徒は69名で、全体の57.5%を占めている。海外生活3年未満は11名、9.2%のみ。また、帰国時の満年齢で分けてみると、中学相当年齢である満12歳〜14歳で帰国した者が ちょうど半分を占めている。 最終滞在地は アジア 51名(42.5%)、北米 46名(38.4%)、欧州 16名(13.3%)。英語圏の現地校出身者は 48名(40.0%)、海外のインター校出身者は 29名(24.2%)、海外の日本人学校経験者は 33名(27.5%)。

(3) インターナショナルクラスについて
  学園の教育理念である「自律と共生」に基づき、厳しい中にも面倒見のよい学習環境の中で、生徒を躾け育むことに全力を傾ける。日本語・英語を併用して 生徒の実力と潜在力を高め、自信や自尊の心を伸ばし、他者に理解と共感を寄せる感覚意識を養成する、というのがインターナショナルクラスの使命である。 中学校のインターナショナルクラスには33名が在籍している(3分の1が男子)。国際生は中学全体で74名なので、その半分弱。中学3年生は2年前、5名でスタートしたが、次第に増えて 現在は15名になった。中学2年も昨年、9名で始まり、現在は11名である。 海外での最終在籍校は、現地校16名、インター校9名、日本人学校1名、そして国内のインター校のみが7名。 最終滞在地は アジア9名、北米11名、英国4名、大洋州2名。 在外経験年数は平均8年。
  カリキュラムは、現 中学1年は 毎日45分授業が7時間(週35時間)だが、時間割外の1時間、始業前の指導が毎日15分ある。赤くマークした部分が日本語で行う授業の時間数(週10時間)、白い部分が英語で行う授業の時間数(週26時間)。社会科の内、「日本地理・日本史・公民」については、日本人教員が特別にインタークラスにきて指導するようにしている。 「英語」は英語で教えるが、本科にいる帰国生も何名か参加する。 他方、本科にいる帰国生は、英語取り出しの6時間を含め週30時間授業である。 これに「PLTフォローアップ」という個別課題学習が毎日ある (週5時間)。 土曜日は休みだが、日本語による特別集中講座が組まれていて、帰国生にとっては教科上の学習用語を補充できる点でも良い機会となっている(任意参加)
  インターナショナルクラスには常勤ネイティブ教員が8名ほどいるので、通常の授業時間以外にもいつでも質問に応える体制をとっている。 また、夏休みを利用して インターナショナルクラスだけのサマーキャンプを行うほか、20日間のホームステイ留学も用意されている。 さらに毎年 G8サミットと同時に開催される J8サミットに 応募することを奨励している。選考では、英語での論文提出とプレゼンテーション能力が試されるので、生徒たちの励みになっている。一昨年は、広尾学園チームが日本代表に選ばれた。
  さて、インターナショナルコースは、来年4月から改編され、コースの中に「英語を第二言語とするグループ(SG)」を含む形となる。日本人学校出身者であっても受け入れ、英語の特訓を施して、2〜3年で通常の英語での授業についていけることを目指す。 このことは、海外留学の道も開かれることを意味する。 さきほど、本科にいる帰国生のことに触れたが、彼らはほとんどの授業を日本語で受けていて、週6時間だけ「英語」の取り出し授業を受けにきている。 新しいシステムでは、彼らはインタークラスに在籍して、「国語」「数学」「理科」の時間に取り出されて本科の授業を受けにいくわけである。 もちろん、従来型のグループである 「英語を第一言語とするグループ (AG)」は、国際標準の教育レベルを維持していく。

(4) 帰国生受け入れ方式の種類と「時間割」の苦労
  帰国生の受け入れ方式は、だいたい次ぎのようなタイプに分類ができるかと思う。
[] 1970年代に主に国立大学附属校では「帰国生特別学級」を設けていた。学芸大附属高校大泉校舎のように、全校生が帰国生という特殊な例もあるが、本来の趣旨は、本科への適応教育と国内の大学進学を前提としていた。
[] 次に、帰国生受け入れに熱心な学校では、いわゆる「混入方式」をとっていた。校内に国際教育センターなどを設け、そこで英語や国語などの取り出し授業を行う形が一般的だった。対象となる帰国生が多ければグループ授業となるし、少なければ個別指導の形となる。
[] 帰国生受け入れ推進地域などでは、学習支援のセンター校が設置され、放課後や土曜日にセンター校に通う形が多くとられた。
[D/E] しかし、大抵は、本科への適応のために放課後の個別指導や、指導者が該当する生徒のいる学校を巡回して指導する形が主流だった。
[] 他方、大半の私立進学校では、入試選抜では若干の配慮はするものの、入学後は帰国生のために特別なことは 何もしないのが普通だった。せいぜい、英語・数学等で習熟度別の授業をする程度だった。
[] 最近は、外国語指導や国際理解などに重点を置いた「特別学級」を設置する学校が増えてきている。留学や国際交流等の活動を奨励し、英語力を活かした大学受験準備を主な趣旨として運営されている。私立学校だけでなく、学芸大附属や都立の「国際中等教育学校」もこの流れに沿った形といえるだろう。
[] もう一つ、「インターナショナルクラス」を常設し、英語で大半の授業を行う学校がある。代表的な学校は、加藤暁秀学園・玉川学園であり、インターナショナルバカロレア(IB)に準拠したカリキュラムを実施している。
  広尾学園のインターナショナルコースも一応この形である。 [G]とどこが違うかというと、マジョリティとしてのネイティブグループが存在しているかどうかという点である。旧来の「混入方式」が日本の教育への適応のベクトルであったのに対し、この「混入方式」は海外の教育環境に近いクラスの中に、少数の国内生が混入されていくベクトルなのである。

  さて、こうした帰国子女受け入れ校が一番苦労している時間割について触れておきたい。 時間割編成に当たって、3つの要素がある。 まず、一つの学級は 同時に2つ以上の授業ができない。それが「何クラスか合同の授業をしたい」、あるいは「クラスを分割して指導したい」、「帰国生を取り出して指導したい」などという変則的要因が出てくると、編成は大きな制限を受ける。 次に、一人の教師は 同時に2つ以上の授業ができない。しかし、「同じ曜日に同じ科目をやりたくない」、あるいは「体育」など「2時間続けて授業をしたい」といったこと、また「水曜日にしか来ない講師がいる」、「数学の教科会議を火曜の3時間目にできるようにしたい」といったことがあると、編成は大きく制限される。 3つ目の要素は、教室である。音楽室・理科室・視聴覚室などの特別教室は、同時に2つの授業を行うことは、まずできない。体育施設もそうだ。何クラスかの合同授業をすることはできても、別の学年の授業まで一緒にすることは避けたい。
  そういう状況の中で、帰国生のために取り出し指導や個別指導をしようとすると、やりくりは大変なので、どうしても 「そんな面倒くさいことはしたくない」 という空気が生れかねない状況にある。 例えば、中学校の19クラスの時間割編成表では……各学年の右端がインタークラスで、青いところが、本科のクラスから英語の時間にインタークラスの授業を受けにくる時間である。 当然、本科のほうも英語の時間にしておかなくてはならない。 赤い部分は、日本語で授業をする時間だが、体育と音楽は、本科のクラスとの合同授業なので、当然、同じ時間が体育や音楽の授業になる。 また、国語の時間に、ある程度の国語力に達している生徒は、本科のほうの国語の授業を受けにいく (逆取り出し) が、当然その時間に、本科の同じ学年のクラスに国語の授業がなければいけない。 時間割編成は "神業"ともいえる至難の作業だ。

(5) おしまいに
  広尾学園で過去30年に亘って行われてきたのは、先ほどの [B]型の「混入方式」だった。帰国生を本科の学級に混入し、「英語」「国語」の時間のみ別室で分割授業をする形である。数学や社会などは、放課後に個別指導を行っていた。 2007年に「インターナショナルクラス」が常設され、[H+B]の形となった。つまり、本科にいる帰国生は「英語取り出しグループ」ではなくて、「インタークラスの英語の授業」に参加する形になった。逆に、インタークラスにいる生徒は、「国語」は本科の授業に"逆"取り出しで参加するほか、「体育」「音楽」等は本科との合同授業になっている。 来年度の中学1年生から導入される形は、[H+G]である。つまり、帰国生としての特別指導を希望する場合は、全員インタークラスに在籍し、教科によって参加する授業が分かれていく方式である。
  特進インターナショナルクラスは、もはや「適応教育」ではなくて、「国際エリート教育」であることに、既にお気づきと思う。 広尾学園は急速に姿を変えつつあるが、10年後 あるいは15年後に、この子供たちが どんな進路を進んでいるのか、今から楽しみである。 また、次年度からの改編が成功するか否かは、ひとえに、このEGS研究会に関わられる皆様や保護者の ご理解とご支援にかかっている。 よろしくお願いしたい。

U.自由協議の概要


◎ 私立の進学校では「先取り学習」が当たり前になっているが、帰国生がそのカリキュラムについていくのは困難である。とくに高校から入学した場合、あるいは途中から編入した場合には、相当な苦労をすることになる。運良く有名校に入れたのに、学力が伸びず浪人している例も多い。その子に本当に合った学校を選ぶのは、大変である。
注) 現行の「学習指導要領」では中学校が30単位の3年間、高校が3年間で75単位以上を履修することになっている。「先取り学習」は、最初の2年間で中学校の教科書を終えてしまう方式が一般的で、高校2年で高校の課程も終えてしまう。


◎ 最近は、父親の理解と協力をどう得ていくかが大事だといわれる。公立校でも、授業参観日を日曜にしたり、PTAを夕方開いたりする学校も出てきているが、実施する校長は苦労している。
⇒ 広尾学園も授業公開は日曜である。父親の多くから「この学校の先生が話すことは分かり易い」と言ってもらえるので、何かと協力してもらい易い。

◎ これから帰国生は皆 「特進インター」に所属するとなると、英語ができない子は居場所がなくならないか? また、「英語ゼロ」の状態で 「特進インターSG」に入ったとして、本当に英語力がついていくだろうか?
⇒ 小学5・6年でやっておくべき抽象概念・思考の訓練ができてさえいれば、英語力は見る間についていく。 授業料は高いが、それだけの学習機会も提供することになる。

◎ 日課表を見ると、午後4時からSHR・清掃だが、8限目に英語の授業を勉強する生徒は「感動体験を味わえるような」部活や生徒会の活動ができないのではないか。 「自律と共生」の訓練には、部活動や生徒会活動も大事だと思う。
⇒ 確かにそうで、できるだけ早く英語力をつけていって、8限目授業を"卒業"してもらいたい。また、プログラムはまだ検討中なので、今後 手直しを重ねながら進めていくことになる。

◎ 2年前はインターナショナル・バカロレア(IB)を導入ということだったが、方向が変わっているようだ。 何故変わったのか? あるいは、インタークラスの生徒の進学先はどうなっていくのか?
⇒ 一つは、IB本部から 「年度を9月〜6月に」との勧告を受けていて、学園としては苦慮していたことが背景にある。 また、在校生の半数以上が日本の大学に進学を希望していることもあって、保護者からは 「IBの"一発勝負"のリスクは高すぎる」 「TOEFL、SATの指導にして欲しい」という要望が強かった。 海外大学の志望者も 大半がアメリカであり、IBが 「篩い落とし型のエリート教育」である点が、保護者の不安材料にもなっていた。

◎ 知識教養の教科の部分は充実していることは分かったが、「自律と共生」の訓練の具体的な方法が 今一つ見えてこない。
⇒ 新入生合宿は非常に重要である。自分自身の目標を設定し、宣言することと、クラスの目標を決めることを通して、コーチングや話し合いのやり方を、まず体得させる。 インターナショナルクラスでは、これに毎週のディベートや授業中の発表・話し合いなどが組み合わされる。
                                           (以下 省略)

『小山の教育通信』 2009年7月
  過去30年に亘って行われてきた「混入方式」では、帰国生を本科の学級に混入し、「英語」「国語」の時間は別室で分割授業をしていましたが、2007年にインタークラスが常設され、本科にいる帰国生は「インタークラスの英語の授業」に参加する形になっています。 逆に、インタークラスにいる生徒は、「国語」は本科の授業に “逆取り出し” で参加するほか、「体育」「音楽」等は本科との合同授業になっています。
  ところが、来年度の中学1年生からは、帰国生としての特別指導を希望する生徒は全員 「特進インターナショナルクラス」に在籍し、教科によって参加する授業が分かれていく方式となります。 また、いわゆる 「帰国生特別選抜」もインターナショナルクラスだけになり、入試科目等も変更されることが報告されました。 もはや 「適応教育」ではなく「国際エリート教育」となるわけですが、10年後あるいは15年後に、この子供たちが どんな進路を進んでいるのか、今から楽しみです。
  後半の自由協議では、私立進学校の「先取り学習」の実態が話題となり、帰国生がそのカリキュラムについていくのは困難であること、運良く有名校に入れたのに学力が伸びず浪人している例も多いこと、などが話し合われました。 また ここ数年,英語や国際理解に特化したクラスの編成を行う学校が増えていることに関し、その類型の整理やそれぞれの課題なども協議しました。 さらには、国公立校でも 父親の理解と協力をどう得ていくかが大事にされていること、進学校においても 授業だけではなく 「感動体験を味わえるような」部活や生徒会の活動も重視されるべきこと、などが確認されました。

H O M E