謹賀新年-禁煙が信念- 巣鴨高岩寺住職・医師 来馬 明規
タバコというトゲをぬく
筆者が禁煙推進活動を始めて十年になるが、今なお毎年六百万人がタバコで亡くなっている。オーストラリア、タイをはじめ、すでに十ヶ国以上でタバコ製品に警告写真の表示が義務づけられ(*)、各国政府は写真の大きさや衝撃度を競いながら「タバコのない国家」を目指している。
このようにタバコは「嗜好品」ではなく、「死向品」と呼ぶべき反社会的工業製品であるのに、本邦ではいまなおコンビニの店頭でお菓子のように並べられ、「吸い込め詐欺」がまかり通っている。
とはいえ、昨年は日本のタバコ規制に大きな変化が訪れた。
法制化の気運
東京オリンピック・パラリンピックを控え、厚生労働省からついに「受動喫煙防止対策たたき台」が示された。喫煙所設置を部分的に容認する不十分な内容ではあるが、今年中の法案化と成立が期待されている。一部の国会議員にはタバコ利権を断ち切れるかが試され、本案はまるで「踏み絵」のように見えることだろう。なお、前都知事の受動喫煙防止政策を潰したのは、例の「ドン」であったことも言及しておこう。
メディアの変化
今まで、我が国では巨額のタバコ広告費がひそかにメディアを黙らせてきたが、そのからくりを経済誌『選択』が七、十二月号誌上で暴露した。「電通」と「族議員」の実名を名指した記事には驚いた。タバコ産業の露骨なメディア操作・議会対策がありのままに報道されたのは今回がおそらく初めてだろう。
また十月にはNHKジャカルタ支局がインドネシアの葉タバコ農園を取材し、小学生が半強制的に働かされ、ニコチン中毒「緑タバコ病」で苦しんでいるさまを衛星放送で報道した。
我が国のタバコ産業はソフトなイメージ戦略を展開しているが、このような横暴な振る舞いが日本語で視聴できるようになった意義は大きい。
豊島区も巣鴨も
豊島区も変化している。新年恒例の「豊島区主催 新年名刺交換会」会場ホテルの宴会フロアは、今年から当日に限り喫煙所が閉鎖され、全面禁煙での開催が予定されている。がん対策を推進する自治体として当然の姿勢だ。
筆者は昨年同ホテルで開催された都知事講演や寺院の式典で、会場に漂うタバコの煙で吐き気を催し出席を断念した。会場が常時タバコの煙で汚染され、客のみならず従業員もが受動喫煙被害をうけていることを常々ホテル側に指摘してきたが、今年の名刺交換会は体調を壊さずに出席できそうだ。
今回の名刺交換会をきっかけとして、同ホテルが法制化を待たず、「恒久的屋内全面禁煙」になることを願っている。
筆者の地元・巣鴨も変わった。タバコ対策に後ろ向きな巣鴨駅前で全面禁煙の定食店がオープンして繁盛している。高岩寺周辺でも餃子専門店、コーヒーチェーン店、ホテルのレストランなど、ほとんどの新規飲食店が全面禁煙で開店し好評を得ている。
地蔵通りではタバコ臭がないことに来客が驚く。通行人が喫煙行為を注意し、AEDの横を若い女性や家族連れが通る。商店街はいまや「おばあちゃんの原宿」ではなく、「健康優先の万人おもてなし通り」になっている。
おわりに
夏には都議選を迎える。タバコ規制の鍵をにぎるのは、我々が付託する議会の決議である。
タバコ規制はさまざまな既得権益を侵害するかもしれないが、議会にとっては、「誠実さ」が問われる一年となるだろう。なによりも心から健康の大事さに気づき、圧力団体ときっぱり訣別できるかが問われている。「タバコを吸う権利を尊重(本心はタバコ利権を尊重)」などと嘯(うそぶ)く議員候補者は要注意だ。本人の卒煙はもちろん、我々にも「ニコチンビジネス擁護では選挙に勝てない」という気運の醸成が求められる。
罰則つきの受動喫煙防止法がないのはアジアではミャンマー、北朝鮮と日本だけ。この事実はもう隠しようがない。
(とげぬき地蔵尊髙岩寺住職・医師 一般社団法人日本禁煙学会監事)
*インターネット検索「タバコ警告表示」「プレーンパッケージ規制」参照
【写真】オーストラリアのタバコ箱(オーストラリア政府資料)
「喫煙は口・のどのがんのもと/子供におまえの煙を吸わせるな/喫煙は失明のもと」
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