第7回3000字感想

 今回は感想に対する意見が色々出ていて、ちょっと考えさせられましたが、感想を楽しみにしている人もいると思って、遅くなりましたがやっぱり書いてみました。私の感想の態度というのは、始めの頃はどちらかというと誉める方向で進めていました。人の作品を貶す事が私には、とても出来ないと思ったからです。人の作品にケチを付ける事が可能な程に自分に能力があるとは思えなかったからです。それに私だって人間ですから、読む時の心理状態などに大きく左右され、一定レベルの感想になっていない状態もあります。ですから、私はなるべくその作品の良い所を見付けようと努力したつもりです。まったく関係ないことを書いた事もありますがね。
 でも最近思うんですが、色々な作品を読んできて、感想隊の隊長などともいわれ(これは勿論感想歴が長いからですが)作品を読んで感想を書きつづけていますが、面白くない作品だと思ったら正直に面白くないといった方が、作者はありがたいんじゃないだろうかと思っています。出来ればここがこうだから、こういう訳で面白くない。なんて感想?(添削してるわけじゃありません)が出来ればいいんじゃないか、なんて思っています。作品を投稿した人は、他の人がどう思うかを知りたいからこそ感想を見るんであって、自分は他人にどう思われようと関係ないと思っていれば、感想を読まなければいいんですからね。それでもやっぱり感想を見る【私のHPのカウンターは感想を見に来る人の件数ですよ(笑)】
 で、結局今も、自分の思った通りに(まぁ出来れば余り傷付けないように、小心者ですから自分も傷つけられるのはいやですからね)書いています。勿論辛口に面白くないとか何だか判らないとか書く事もあります。それは理解出来ないという私の読解力の無さが大きな要因ではあります。しかしそれは反面、読者に判って貰える文章ではないという、作者の責任も少しは含まれているのではないかと考えます。勿論それは作者と読者との年代の違いとか、考え方の違い。知識の差などによっても生じますから、責任が誰にあるかなんて事は判りません。でもやっぱり文章っていうのは、他の人に言いたい事を伝える道具ですから、「伝わって欲しい」という気持ちを込めて、辛口に書いてしまいます。
 で、相変らず私の感想はオヤジの愚痴ですから、誉めている時は喜んで、辛口の時は気にしないで頂きたい。毎朝テレビでやっている星占いみないな気持ちで軽く流して下さい。

Entry.01『朝』河野成年さん
面白いけど、ラストが良く判らなかった。「そこで、…」以降は、後で覗かれた長井の行為だろうか?だとしたら、1行空けるだけで、ずっと理解し易いが(とはいってもずっと続いていく話としての理解だけど違うかも知れない)始めから登場している長井の行動だとすると、精神構造が捻れてしまう様な、独りの世界に没していく主人公の姿として捉えられるし、どっちだろうか?好みとしては後者が好きだ。

Entry.02『冷たい雨』伊勢 湊さん
タイトルを見てハイファアイセットの歌を思い出してしまった。(全然関係ない)始めの方で、昼間になると死体が消えているという事で、怪奇物かと思ったら、ちょっと無理のある現代風の設定だったのは悲しい。話自体はありきたりのような気もするけど、読ませてくれた。で、何がいいたいのかといえば、主人公達の心情なんだろうけど、それがうまく伝わってこないのが残念。

Entry.03『my home』杉田晋一さん
一字下げをしましょう。なんて誰かが突っ込んでそうだけど、字の空白が少なくて読みづらいのは狙いだろうか?ちょっとの思いつきで書いたという感じがしてしまうのは、何故だろうか? 多分死体を自分と気付けない。自分の名前も覚えていないという事をラストまで引っ張っているからだと思う。死体を見つけた時点での主人公の反応が、私と違うからだろうが(勿論主人公が例えば幽霊だと自覚していないとしても、自分の死体だという事には気付くんじゃないだろうか?)これは語り手が幽霊ではなく、ひょっとしたら、死体が別の何者かかも知れないが、そうだとしたらそういう風に読者に判る様に書いて欲しい。

Entry.04『気分はe滅入る』有馬次郎さん
これは中年サラリーマンの悲哀を通してのお笑いなんでしょうか?笑っていいのか悩んでしまいます。中盤の小僧とも言える馬鹿な先生との遣り取りは、唾の飛ばしあいじゃ興ざめです。相手がヘビならナメクジにでもなって、戦って欲しかった。途中の主人公の想像自体は面白いんですが、ちょっと押しが足りないように感じました。もっとぶっ飛んでもいいんじゃないかなぁ。

Entry.05『そしてわたしと自動販売機は一つになったのだ』百内亜津治さん
これはなんだろう。面白い。夢野久作なんかが書きそうな、精神構造のおかしな人の話みたいだけど、読んで良かったと思わせてくれた。ただ残念だと思うのは、タイトル。これじゃ最期にどうなるのかを始めにいってるみたいだ。残念。

Entry.06『鳩』さとう啓介さん
一体この主人公は何をしている人なんだろうか、興味がある。金融関係の仕事だろうか?まだ若いのにZ(しかも白)なんかに乗っているという設定も興味を惹かれた。そういう人物が肉親を大事に思うというのは、「ちょっといい話」としてはいいのかも知れないが、ちょっと陳腐に感じてしまう。情景描写も凝っている様にも見えるが一生懸命作っているという感じがしてしまうのは、自分の物になっていないからだと思う。例えば、妹の第一声「誰ですか?」なんていうのは、いくら作者が主人公に子供だと思わせたいと思っているとしても、二十歳の娘が言うだろうか?独り暮らしをしている女性の言葉ではないと思う。だけど、もしこの作品が長編の一部で、西崎という男がハードな世界での一服の安らぎの場面だとしたら、傑作になっているのかも知れないという感じはある。

Entry.07『踊り場』涼藤庵さん
せめて20年位前なら、面白い作品だったかも知れない。01軍団なんていう名前も古い感じがする。人間の出したエラーが人間を攻撃するという話自体が突飛ではあるが、今のコンピュータをよく知っている人間には、無理があるんじゃないだろうか。もっと必然性や馬鹿馬鹿しさの
どちらかで作品を構成すれば、もっと良くなった気がする。踊らされている場所という意味のタイトルは好感が持てた。

Entry.08『書き置き21番』しょーじさん
こんな年寄りになっても、味噌汁も作れない様な女性と結婚していたとは、可哀想な旦那だなぁ。と思わせるほど作り過ぎじゃないだろうか。まぁそこが狙いなんだろうけど、出来れば料理だけに固執しないで、掃除や洗濯、子育てなんかも少しあっても良かったかなぁ、なんて思いました。

Entry.09『美談』akohさん
元ネタがある話というのは、私も書いたりしますし、芥川の「桃太郎」なんていう有名な作品さえあります。ラストまで設定を不明瞭にして(途中で証拠なんていう言葉があるから、まぁヒントはあるんですが)最期に犯罪の証拠品だったというオチに持っていっているために、原作にある爽快感を狙ったものではなく、いい話には裏があるんだという不健全さを書きたかったと思えてる。そういう意味では、タイトルの美談というのはこれが本当にいい話だと思いますかという読者に対する挑戦の様な気がしてきます。

Entry.10『ファールから』吉原 明さん
小学校の教師は、広く全体的に知っていなければならないから、大変だとは思うけど、今時サッカーのルールも知らない様な人には教師になって欲しくないなぁ。だけどこの主人公がわざわざ試合中に怪我をした選手の所に様子を見にいくという必然性が感じられない。ケガをしたのが自分の所為だというのならば話は判るが、ただその試合の審判をしていただけの関係である。まぁ始めて話した日に好きだと告白したんだから、試合の時に余程気になった存在だったんだろうし、好きになってしまって会いにいったんだと思う事にしましょう。だけど、一学年一クラスの小学校のサッカーチームを全国大会にまで出場させるとは、凄い指導力と、生徒の潜在能力だ。

Entry.11『クローンのある風景』羽那沖権八さん
クローンと子供との違いはなんだろうか?子供に対する愛情とは違っていて当たり前かも知れないけれど、私には、自分の分身としての愛情があるんじゃないだろうかと思えてしまう。そういう視点でこの作品を見ると、その愛情を忘れてしまえる程の愛情を妻に対して抱いているという事なんだろうか?でも、やっぱり自分にクローンがいたら、気になってしまうけどなぁ。

Entry.12『19(nineteen)』川辻晶美さん
翌朝、女子高生の死体が発見された。というエピローグが入るんだろうか? 偽コギャルである主人公が、何故こんなにも高校生と偽って遊び呆けていたいのかは判らないが、確かに遊んでるのは楽だもんなぁ…。高校を中退してどこかに遊びにいってしまう娘に対して、親は何故黙っているのか判らないし、ひょっとしたら家出でもしているのかも知れないが、こういう中途半端な主人公が、そのままの状況で何の変化もなく過ごしているという話は、あまり好きではない。ラスト近くに見えるお酒を飲んだ主人公が少し考えるという行為が変化なのかも知れないが、小説なんだからもっと大きな変化がないと、何がいいたいのか判らない。

Entry.13『ずぼらな死体』岡嶋一人さん
奥さんも奥さんだが、旦那も旦那だなぁと思う。シェービングクリーム位自分で買ってこいよ。どうせ後で文句をいいそうな旦那である。そういう意味では、奥さんだけが悪者という訳ではなく、旦那の性格の悪さも出ている所が面白い。そういう旦那と浮気している女性が結婚するんだから、この女性も見る目が無いといえるだろう。推理物で、しかもどうやって殺したかを推理する話だが、一応推理するデータは揃っているが、塩素中毒が死因というのはどうだろうか? 確かに換気が悪いだろう風呂場ではあるが、最近は中性洗剤が多いし、少しでも吸入すると死に至る訳ではないと思うからだ。この不確実な計画が成功する確率は非常に小さいと言えるのではないだろうか? でもこの旦那は失敗しても何かやりそうで恐い感じはする。こういう爽快感の少ない推理物というのも狙いとしては面白いかも知れない。

Entry.14『苦虫』鮭二さん
乾布摩擦はやっぱり冬にやるもんですよねぇ。夏の夜に血が滲む程やるというのはどういうもんですかねぇ。えっ?気持ちいいんですか?その音を聞いているだけで、興奮してくる位に? それじゃぁ一度やってみましょうかねぇ。

Entry.15『お泊まり』一之江さん
寸留さんに出してもらうなんて、ちょっとイヤらしい。というのは置いといて、男が金を出すのが当たり前なんてのは、やっぱり間違った考えでしょう。結婚を前提に付き合っていないのならば特に割り勘が当たり前だと私は思っています。せめてレストランでは男が金を出して、喫茶店では女が金を出す。くらいの意識は持って欲しいです(笑)で相変らず男女間の軽い話であるが、始めの金の話と後のホテルでの話との関係が無くて(もったいないからやっぱりしちゃおうかな、なんて事で関係があるのかも知れないけど)話としては纏まりに欠けているような気がする。でも流石に後半の男女の会話の部分は面白い。

Entry.16『茶の湯はなぐさみに候』厚篠孝介さん
松永弾正という方が一般的な様な気もするが、茶釜の平蜘蛛と一緒に爆死したという事は知っていたが、こうやって読み物として文字で見ると、鬼気迫るものがある。茶道というものを私は経験したことはないが、形式を重んじるであろう事は感じる。だが、確かに人をもてなす心と、それを受け入れる心があればいいと考える私には、茶の湯がなぐさみだというのは自明の理ではあるが、そうなっていないからこその信長が欲しがっていた家宝の平蜘蛛の魅力なんだろう。織田に逆らって天下を狙おうとした弾正に対し、平蜘蛛を渡せば許してやるという事は事実かどうかは判らないが、読み物としては面白い。久しぶりに読む歴史物もいいなぁ。