第8回3000字感想

 今回は久しぶりに私も参加できた。それだけで嬉しいが、誰か感想を書いてくれるんだろうか?という事は置いておいて、いつもながら感想になっていない作品もありますし、ちょっと手厳しく書いてしまった感想もあります。いくら私がQ書房では古株だからといって、正当な感想などとは思っていませんし、勿論作者の方々には言いたくなることは沢山あると思います。ただ単に誉められたら喜んで、貶されたら気にしないでいればいいと思っていますので、軽い気持ちで読んで下さい。こう思った人もいるというだけの事ですからね。いつもの通り感想が長い短いは作品の良し悪しには関係ありません。

Entry.01『Vサイン』さとう啓介さん
読み始めて、ついこの間の山手線大久保駅での事故を思い出した。勇気ある行動…。私には到底出来ないだろうと思う。淡々とした描写と、手術室前での老人の出現の様子から、弟が人助けをして事故にあったらしい様子が判った。途中で急に聡(さとし)君の視点に変わる話が無くても、充分伝わってくる。彰とあきら、聡とさとしという名前の使い分けがちょっと煩わしく感じてしまったが、途中の老人の言葉だけは漢字を使った表現になっているから、きっと子供の頃から呼びなれている「あきら」とか「さとし」という漢字ではない、他人ではない家族としての温かみを出したかったんだろう。その効果は出ていると思う。

Entry.02『ヤマグチ君』やす秦さん
読み始めて多重人格の話かと思ったら、ヤマグチ君がほっぺたに噛みついたとあったので、違うのかとも思えたが、やっぱり多重人格の話のようだ。しかも僕は最期にはヤマグチ君に代わってしまうという、乗っ取られるのではなく乗っ取ってしまうという人格の優位度までもが変わるという、ちょっと恐ろしい話になっている。いやひょっとしたら、この人格は3つあって、本来のボクと語り手の僕とヤマグチ君の2人かも知れない。ただ、ここにはボク自体が出ていないから複雑に感じてしまうのだと考えるべきだろうか? 子供の頃の残酷さの原因が、こういう精神的な人格の問題ばかりだったら恐いと思った。

Entry.03『夢恋愛』森田英一さん
夢と現実とが交じり合って奇妙な世界が広がっていくのかと期待したが、夢は夢のままで終わってしまったし、現実への影響も主人公のこの様子だと何もないようだ。結局夢の中でも恋人が出来なかった。あぁ残念。という事なんだろうか?

Entry.04『モニターな僕』有馬次郎さん
ちょっとエッチな感じのする会話やモニターという設定が面白かったが、「ちょっといいですかぁ?」なんていうキャッチやモニターには、最近呼びとめられないなぁ。

Entry.05『ジャッジメント』佐藤ゆーきさん
こういう超能力物で面白いのは爽快感を追求するものと、主人公の悩む姿だったりするけれど、その悩みを逆手にとったラストはびっくりした。殺されると思った山に住む男が、先手を取ったというのは当たり前なんだろうけど、あっけない主人公の死が逆に新鮮だった。

Entry.06『サンダルウッドの香り』山森瑞穂さん
こういう耳が痛い内容の感想というのは難しいが、話としては奥さんが日頃の家事に疲れてちょっとお香を始めるというだけの事だ。これだけ言いたい事を書けばちょっとはストレスも少なくなるかも知れない。

Entry.07『天国まで』ウエダー末吉さん
小説というよりは、童話といった感じの作品。これはQ書房では評価が低いかも知れないが、私は好きだ。ほんわりした気分にさせてくれる。いいなぁ。

Entry.08『土砂の中』のぼりんさん
推理物かと思って読み始めたらホラーでした。始め佐川(女性を食べた精神異常者)を思い出して、高橋留美子のマンガを思い出した。肺呼吸とエラ呼吸とではいくら上半身とはいえ、骨格自体が違ってくる様に思えるが、話の展開も良かった。

Entry.09『おかえり』石井和孝さん
設定がよく判りませんでした。榊信次と恵とは夫婦で、恵さんが家出?でもしていて帰ってきたのか。又は昔恋人同士だった彼らが、結婚していた恵さんが、離婚でもして昔の彼(榊)君の所に飛びこんで来たのか?後1000字以上あるんですから、出来ればその辺りを書いて貰えれば、もう少し判ったと思います。読者にお任せのところなのかも知れないけれど、榊君が恵さんを許して?受け入れ様としているのは感じられます。それとも別れた女性に帰ってきて欲しいという事がいいたいんでしょうか?

Entry.10『残酷な仕打ち』スズキさん
私には到底出来ない事ではあるけれども、こういうセックスだけの為に生きるっていう人生もありなんだろうなぁ。羨ましいとは思わないが、人間色んな経験をしてどんどん大きくなっていく分には、歓迎します。

Entry.11『あたしってちょっとマリアさまみたいじゃない?』秋間山飛さん
面白い。好きな男性の為に受けた豊胸手術が主人公に悲しい結果を与えてしまうという悲劇が読者には喜劇になっている。これは笑えます。

Entry.12『スリーセブン』ラリッパさん
ひぇーっ。メーターは殺した人の数なんですかねぇ。始めの夢が(あの世へ向かうという)正夢になってしまったというオチもうまいと思います。だけど走行メーターが故障している車って車検が通るんだろうか?

Entry.13『消える』自作
一週間の字が違ってますねぇ。見なおしたつもりだったんですが、仕方がない。やはり短い時間で書いただけあって、もう少し何とかなったと思うんですが、ごめんなさい。それにしても鼻飾りはないよなぁ。

Entry.14『遺書を書く右手』伊勢 湊さん
輝彦君が正義感に溢れただけの人という訳ではないという所が、この話をよくしている様な気がする。少し突き放している輝彦君におもねる訳ではないだろうが、彼の良い点も悪い点も親友として今後認めていったというだからね。ただ「これは僕がどうやって…」は無くても良いような気がした。読者がどう感じるかはこういう話の場合、作者の手を離れてもいいような気がする。

Entry.15『光子の結婚』やまだ小麦也さん
こういう新妻が可愛いかどうかとか夫(新夫という言葉は聞かないなぁ)が今風でないなんて事は置いておいて、こういう失敗談というのは、いつの時代でも笑い話になってしまう。だが、妻への要求をいった後での夫のほっとした様子から伺うと亭主関白になりたがっている男の悲哀も感じられる。もし奥さんから「何を言ってるのよ」なんて反論されたら、いったいどうしただろうか?今まで何でもやってきて出来たただろう夫が、奥さんから逆に要求をつきつけられたら、「はい」って言ってしまいそうでもあり、そういう旦那の気持ちもあると余計に面白かったような気がする。

Entry.16『爆進!』しょーじさん
しょーじさんの作風も段々と固定してきたようだ。面白い。何だか初期の頃の筒井康隆っぽく感じるというのはちょっと誉め過ぎかな?戦車で町を走り廻ったら、まずはアスファルトはへこんむだろうが一度は誰でもやってみたい事だろう。ただラストのF15だと、ハリヤーなんかの垂直離着陸機ではないから、どうやって家の前に止めたのかなんて問題も起こってくるけど、まぁいいか。

Entry.17『見切り師』羽那沖権八さん
話の設定だけに留まらず、バイトではあるが主人公の心情も垣間見えていて良かった。昔テレビでみたバーゲンの○○とかいう良いバーゲン品を必ず手にする女王みたいな設定の話を思い出した。

Entry.18『別れの序曲(第1章)』鈴木真二さん
長編の一部なのだろうが、これだけでは何ともいえない。最後に(HPに掲載中)とあったので、覗いてみたが読めなかったんで何ともいえないが、普段こんな事は言わないが、小説家を目指しているとするならば、やはり一字下げ位はして欲しい。前半部分と後半部分が逆転している意味もこのままでは不明である。これではただ単に主人公の現状と、主人公が別れた女性との始めての出会い(というよりは切っ掛け)が書かれているだけで、何がいいたいのかわからない。3000字として投稿するならば、やはり3000字としての完結した話を求めたい。そういう意味では本当に序曲の第1章というタイトル通りの作品になってしまっていて、残念である。

Entry.19『燎原』厚篠孝介さん
ちょっと不安だったんで、タイトルの「燎原」を調べてしまいました。野原に火をつけること。野原を焼くこと。焼かれて火があがった野原。それじゃちょっと意味が違うというんで調べると「燎原の火」は勢いが盛んで防ぎとめられないこと。とあります。きっとこの燎原の火は信長の心情なんでしょう。それが燃える本能寺と合わさっているんでしょうかねぇ。歴史物は調べるのにも時間が掛かるし、いい加減なことを書くと文句を言われるしという事で大変だとは思いますが、今回も面白かったです。

Entry.20『ACT』ニムラさん
最後まで舞台の説明だったらどうしようと思ってしまったが、そういうのでもありかも知れない。劇中劇というのは読めば判るんだけど、一応劇の中で説明してる、ラストでしめくくるという舞台の練習のシーンが判り難くて、劇中劇の劇という設定は読み取れなかった。ラストが胸にさわったというオチもちょっとがっかりだ。実は劇が終わったら死体役の女性が死んでいたなんて事になってるのかと思ってしまったからかも知れない。