第53回1000字感想

 今回も感想が遅くなってしまいました。そして今回も感想が少なそうです。作者の方はいつものように気楽に読んで下さい。一人の読者が勝手に感じた事を書いているだけです。作品とは全然関係ないことも書いてあったりして感想とは呼べないものさえもありますから、先に謝っておきます。

Entry.01『じいさんときなこ』中川きよみさん
ボケた幽霊という設定がなんとも面白い。面白いと書いてしまうと可笑しい話だと思われてしまうかも知れないが、これはなんともしんみりとしてしまう話しだ。こういう話しを読むと、やっぱり夫婦という関係は複雑だなぁと感じいってしまう。

Entry.02『飼育』有機機械さん
タイトルから受ける印象はやはりエロチックなものだから少し期待してしまった(笑)ラストで親としての感情だけになってしまう語り手(主人公)が何だか物足りない気がしてしまうが、そういうオチもありだろう。ただ一般市民が異性を秘密裏に育てるという難しさを考えてしまうと、やはり話しに無理が出てしまう。大きな屋敷の地下室か何かで、箱入り娘として育てるようなそういう飼育を期待してしまった私はやはりエロおやじであろう。

Entry.03『ムカシムカシアルトコロニ』スナ2号さん
フランケンシュタインの、あの優しい心を持った怪物の悲しさを表わす感動的な話しかと思ったら違った。人の思いやりの無さが怪物を作ったという、まぁありがちなオチになってしまったのが少し残念な気がする。こういうストーリー展開にするのならば、王道としては始めは血を求めていた怪物が、少女の優しさを受け入れ、改心?して優しくなったのに、元に戻ってしまったという展開の方が、確かに変化球としての面白さはないかも知れないが、感動的な話しになるのになぁと思ってしまう。

Entry.04『君がいない』羽音さん
3年前に別れた女性に似た人を見て、彼女を思い出したという事なのだが、今でも悲しいというそのおもいが綴られている。ただそれだけだから、読んでいて面白くない。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけれど、他人の不幸は蜜の味という思いとは別で、感情移入が出来ないからだ。やはり読んでみて感動を与える為には、感情移入が出きるような設定が書かれていなければ、小説としては落第ではないだろうか?

Entry.05『サンセット・オレンジ』べんぞうさん
タイトルはカクテルの名前だろうか?酒。特にカクテルなんて殆ど飲まないから判らないが、多分そうだろう。陽が沈むように主人公の運命も沈んでいくが、身心喪失として恐らく精神鑑定の結果無罪になってしまう。しかし「ムーンイエローのこの俺がね」という正義の味方として悪を倒す使命に燃えている主人公のせりふが面白い。

Entry.06『飛ぶ鳥のように』夢追い人さん
死んでしまった男を見つけた男が、生きる事の大切さを知るというオチになっているストーリー展開が、安易といえば安易だが少しほっとする。死んでしまった男の視点から書かれていた内容がラストで通報した男の視点に変わるというギャップも中々面白かった。

Entry.07『歯車が崩壊する音』浅田壱奈さん
この作品も私には苦痛だ。親友に彼を取られてしまって、悲しくて泣き濡れて、世界の終りだと思えるという内容だが、長編の中の一分の文章としての作品ならば良いだろうが、1000字の作品としては落第だと思う。だからどうした? って聞きたくなるのだ。その後の展開が知りたくなるのだ。歯車が崩壊したから殺人を犯したとか、天才になったとか、何か展開が欲しい。
とここまで書いて、なんと仮面舞踏会では同じチームの2番手の方ではないですか? お疲れ様でした。せっかく綺麗に纏まった作品になったのに残念でした。というか、実は2番目の話を読んだ時に話の展開があまり無く、一体これからどうしろって言うんだろうという不満がありました。3番手では始めに登場していた男性は意識不明になってしまうし…。とここでグチっても仕方がない(笑)でも又仮面はやりたいです。

Entry.08『ストロベリー&バニラの赤いハーブティー』檸檬さん
これもかと思ったら違った(笑)この作品も付合っていた彼と判れたらしい女性の心理だが、壊れた恋は忘れて明るく生きようとする姿が表現されているから、これはこれで良いのだ。私の好きな話では無いが(こういうのって苦手なんだよなぁ)主人公には感情移入出きる。しかし句読点の取り方が独特で、そういえばこの人は詩人からの参加者じゃないかと納得してしまった。こういった意外性のある文章の切り方っていうのは、勉強になって嬉しい。

Entry.09『不思議な易者』満峰貴久さん
地獄というのがどういう所か判らないし、本当にあるのかどうかも判らないが、世界の宗教に共通しているのは、確かにこの世のようなところでもあると思っているから、この話はあまり新鮮な感じがしなかったのだが、苦労するからこその楽しさや達成感というものが味付けとなっている人生というものの大事さを提示していないで終わっているところが、微笑ましかった。

Entry.10『マッチ・ポイント』長田一葉さん
ああいった瞬発力を要求されるスポーツというのは見るよりもする方が面白い。バックハンドで相手に背中を向けて、クイっと手首を返しながら、バシっとクロスに大きく返したり、フレームショットなんていう姑息?な手段で、フェイントを使うのも面白い。主人公がただ試合をしているだけの話だけれども、臨場感は伝わってきた。試合をしている動機のようなものを盛込んでしまわないで、試合の描写だけにしているところも、逆に新鮮味を感じた。

Entry.11『頑張れの復権』ごんぱちさん
井上陽水の「東へ西へ」を思い出してしまった。学生同士のバカ話でもありラストではオチャラケてしまっているが、頑張れという思いやりの気持ちを大事にしたいという作者の心意気が嬉しい。やっぱりこの作者は優しいなぁ。
ところで仮面のラストお疲れ様でした。私の予想とは違う結末になったけど、きっとあの方が始めの展開からの意外性があって良かったのかもしれないなんて思っています。言い訳をさせて貰うと、桜の花の咲く季節が何度も登場するのはいいけれど、花開前だったり後だったりとよく考えると、少なくとも2年は経過している。それであんなに風にしてしまったんですよ(いい訳)でもリレー小説って面白かった。

Entry.12『ドッペル』ハンマーパーティーさん
引越した時に、近くの図書館で図書カードというものを作った時に、同姓同名の人がいるらしく、住所を再確認された事がある。この作品を読んで、少し興味もあってか、自分の名前でwebを検索してみたら、あるわあるわ、ヒット数が結構あった。ある人は会社の代表だったり、役人だったりと、凄い数である。自分を見たら死んでしまうというあのドッペルゲンガー?現象は、ポーの小説で始めて知ったと思うが、世の中には自分と同じような顔形の人が3人はいると聞くし、社会人になったころ、近所の商店で「○○中学の××先生ですよね」なんて聞かれたこともある(笑)とストーリーとは全然関係ない。自分に似た人とあって見たいという思いはあるが、それでも死んでしまうのは嫌だが、俺って少し疲れが溜まってるんだな、幻覚を見るようじゃ、もう帰って寝ようと思わせるラストが、最近忙しいから疲れてるのかなぁと思ったりもした。って全然感想になってない。

Entry.13『あの時の薊(アザミ)』さとう啓介さん
この作家は良い意味で最近どんどん潜行している気がする。性格付けをするための材料が、つい見過ごしがちだけれども自然にあるものが多く、しかも家族愛のようなテーマが多いというのは、好感が持てる。とここで持ち上げても仕方がないから私の好みから言えば、このラストの暗い雰囲気から脱出するという手もあるのではないだろうか。姉と妹という二人の性格付けを打破してしまってもいいのでは無いかと思えるのだ。姉はいつまでも秋のアザミである必要は無いのだから、少しのきっかけで春のアザミに変身させたかった。何だかそういう方向性も模索の対象にして貰えると嬉しい。

Entry.14『プレゼントのミステリ。もしくはファンタジー』木葉一刀さん
子供が小さい頃に、クリスマスのプレゼントをツリーの下に置いたんだけれども、子供が寝る前にそれを見つけてしまった。子供はそれを早速空けてしまっていて、私は吃驚してしまい。「どこで見つけたの?」と問い詰めてしまった。子供も驚いて、ツリーの下だというので、朝起きてから見つけるべきプレゼントを見つかってしまったのは私の責任だと思いなおし、それじゃサンタさんが持ってきてくれたんだ。なんて自分でも驚いたふりをした思いがある。ってこの謎はそんな単純なものじゃないんだろうなぁ。本当にサンタがくれたものだったのかなぁと季節感のある良い雰囲気が味わえた。

Entry.15『ミニトン』越冬こあらさん
ラスト一行で笑ってしまいました。ミニトンという新種?の食べ物の登場だけれども、この作家の色々不思議なモノのアイデアはいったいどこから湧いてくるのだろうか? まったく羨ましい限りだ。それにしてもイジメられている鬱憤のはけ口に弱者を苛めて快感を味わうというこの風刺の味付けは美味しい。しかしミニトンを生きたまま配達してしまう、しかし主人公が怪しげな兄ちゃんにさえも逢いたいのかも知れないと思わせるラストも美味しくって面白い。

Entry.16『蛙飛び出す』土筆さん
廃人が徘徊していて口にする俳句を、俳人の俳諧歌として受け取る蛙という設定が面白い。しかしミカエルなんていう洒落は好きだが、廃人というからにはその変を徘徊なんか出来るのかよというツッコミが出てしまいそうになった。

Entry.17『クローズ』鈴矢大門さん
現実を見とめたくないという想いが伝わります。自分が知らなければ、それは自分にとっては無い事と同じだと思おうとしている悲しさではあるけれども、それはやっぱりどうしても知っていることであって、取消しは出来ない。夢破れてしまった青年が陥りそうな、現実というものの厳しさを味わった時の驚きが、よく表現されていると思った。でもこの主人公はラストで傘を買ったから、きっとこの現実に立ち向かっていったのだろう。答えは誰も答えてはくれないものなのだ。自分で見つけるしかない。

Entry.18『怪物』日向さちさん
こういう作品を読むと、もう私には子供の頃の感覚を表現するという事が出来ないのではないだろうかと思ってしまう。いくら経験していてもそれが鮮烈に記憶として残っていなければ想像(創造)するしか無い。作家が若いからだと思ってしまえばそれまでだが、きっとこの作家の度量なのだろう。最近小さい頃の話が多いようだが、こういう作品を書けるというのがなんとも羨ましい。

Entry.19『膝を曲げて息を吐け。』アナトー・シキソさん
何を書いていいか煮詰まってしまって、結局何とか仕上げてしまったという雰囲気の作品なのだが、この雰囲気が楽しい。今までの話の続きではない分、今回の話は十分に楽しめる。やっぱりこの作家は面白い。

Entry.20『あのね、パパはね』自作
あぁ、今読み返してみても恥かしい。もう少し何とかなったろうにと思ってしまう。でもこのタイトルを付けて思ったんだけれども、シリーズ物にしたいなぁ、なんて…。でも考えて見ると、「パパはウルトラマン」なんて本もあったなぁ…。でもたまにはこういう作品も年に一本位は書きたい(笑)ちなみに3000字も同じ話です(申し訳ない)あちらを先に書き始めて、こちらが先に出来上がり、えいやっと締め切り間際に投稿してしまいました。興味があったら3000字もどうぞ。もちろんサンタクロースのクロースが衣装であるクロスの洒落から生まれた作品です(笑)

Entry.21『ソダツ。』犬宮シキさん
うーん。タイトルからして判らない。「育つ」「疎脱」なんだろうか?疎外感から脱却するという意味で捉えるとストーリーも何となく判るような気がするから「疎脱」にしよう(笑)遠くから来る女性(話の内容から察するに、両親が亡くなって引取る事になったが主人公は見た事がない親戚とかだろうか?)の為に、クリスマスが近いからと町へプレゼントを買いに行かされたという所だろう。そこに現れた級友の星石(主人公の艶骨も凄い名前だ)彼に主人公は憧れていたようだ。とこんな感じの話なのだろうか? プレゼントを買うというよりも星石との決別を決めている主人公の心理状態の話のようだが、イマイチ理解出きなかった。

Entry.22『葬むらん』ながしろばんりさん
笑った。若い人どころか年配者にだって書き難いと思われる時代物でもあるが、巧い。途中に出てくる猪鹿蝶には笑ってしまったが、作者はあの若さで花札をやった事があるのだろうか? もっともバカ花やコイコイくらいならばルールが簡単だから知っているかも知れないなぁ。一球入魂やカットしてなんていう野球用語やら、フラミンゴ打法まで出てくるとは…、野球に関しては少し古い感じもしたがそれでも十分に楽しめました。

Entry.23『チコレートサンデー』るるるぶ☆どっぐちゃんさん
この作家はどんどん観念的な感じの話に進んで行くのかと思っていたが少し留まったようだ。話の内容は判る(笑)でもやっぱり作者の言いたい事は想像するしかない。チョコレートが流れ落ちるという情景を思うと、流れ落ちるまで口に当てている主人公がいるわけだが、口に当てられているのに食べようともしない女性が横たわっており、しかもベッドである。何だか淫靡な世界だなぁと思ってしまう。インリンと一緒に暮らしている(飼っている)主人公が彼女の我が侭を好んで受け入れている、そんな情景が浮かんでしまう。また我が侭が始まったかという主人公の喜びが浮かんできて、卑猥とさえ思えるのは、私のスケベぇさからだろうか?

Entry.24『わたしの空』橘内 潤さん
ディズニーのアニメでは幸せに暮してしまうというラストになる人魚姫だが、やっぱり悲しい話は悲しいままに終わらせたい。「レ・ミゼラブル」でさえ、ジャンバルジャンが死なないでコゼット達と幸せに暮らすというストーリーになってしまう映画は原作の良さを無くしていた。子供向けの話(童話)には悲惨な結末などは不用だと思う大人のエゴは嫌いではあるが、確かに子供達に童話などを話す時、3匹のこぶたは2匹までは食べられてしまうという現実や最後に狼も3匹目のこぶたに食べられるなんていうストーリーで無くてもいいのかという気持ちもある。白雪姫の義母が白雪姫の結婚式で殺されるなんていうエピローグを知らなくても、子供のうちはそれでもいいのかと思ってしまう。でもやっぱり子供だからこそ、現実を見るという意味で、やっぱり泡になってしまう人魚姫の悲しさや、死んでしまうネロは正しい結末なのだ。しかしまだマッチ売りの少女が死なない話は聞いた事がないので、救いがあるのかも知れない。