新世紀 [家族をテーマ、モチーフにした作品部門] 感想

この部門のテーマは私には難しい。照れくさくなってしまうからだと思う。素直に家族への愛情を表現出来ないというのは、人間としての成長がまだ子供だからかも知れない。ちょっと恥ずかしい。

○Entry.01「ダメ犬死亡までの記録」ツチダさん
日記調の話し。この作者はこういう形が好きなのだろうか?喜劇・笑劇部門でもこういう形態だったと思う。主人公(父親)がダメ犬を毛嫌いしながらも、愛情を持っていくのが伝わってくるし、家族への思い遣りも感じる。ダメ犬とはいいながら家族の一員として認めていく様子が、ほのぼのとして来る。それに引換え、廻りの人達のなんと自分勝手な事か。主人公の気持ちをストレートに出した文体が、読者へ共感を運んでくる。しかしダメ犬が、最後までダメ犬のままというのも、作者の作品への思い入れなのだろう。

○Entry.02「FULL MONTY」ユカコさん
小説というよりは、回想の様な文。しかし淡々としているせいで、効果が上がっている。事実は小説よりも奇なりだ。もしこれが全て作り事だとしたら、この作者は恐ろしいほどの力量だ。あとがきに事実をモチーフにとあったんで、少し安心。しかし未完の小説を発表するために、書き上げたようだ。その所為だろうが、タイトルと話しの書き込みとの違いが目立ってしまったように感じる。愛に対する考え方や戸惑いと、自分の好きな様に生きて何が悪いんだという訴え。そういうものが、タイトルと結び付いていないと思える。バンビと彼の友人のキリンとの関係が、リスの立場から充分伝わってくるし、青春の一頁という感じもする。こういう関係もありだなぁ。とは思えるし感じられる。だがラスト近くなって急に、キリンの同性愛という事が浮上し(まぁ伏線はあったが)リスがキリンと暮らすようになってしまうというのはどうだろうか。リスの心の動きを主体にせっかく書いてあるのに、寂しい女が、手頃な男性(自分を愛してはくれないが、心が落ち着く)と慰めあいながら暮らし始めるという、終わり方だからだ。まさか、同性愛者と一緒に暮らすと面白いよ、なんて事をいいたい訳じゃないはずだ。これじゃ女性の弱さを見せて男性と暮らす、女性の嫌らしさが伝わってくる終わりかたになってしまっている様に感じる人もいるのではないだろうか。でもこれは穿った見方だろう(反省)作品としては面白い。

○Entry.03「てんかんの時」Baileyさん
家族というテーマだから、こういう話しがあるだろうとは思っていました。静岡の有名な病院というのも、多分私の知っているところだと思います。私の子供も養護学校に通っておりましたが、つい最近施設に入所しました。勿論会いにはいけますが、完璧に住所も移ってしまいました。だから今は、夫婦だけの生活になっています。当然悩んだ挙句の判断ですが、今も本当にこれで良かったのだろうかという思いはあります。癲癇系の発作だと、過呼吸だから、酸素マスクでは無い様な気もしますが、これは病状によって違うかも知れません。最近は癲癇の薬も良くなってきておりますから、お兄さんも、今はもう大分良い方向に向かっているかも知れません。最近では日本でも、障害者についての意識が少しは高まってきたかというと、やっぱりそんなことはないですから、悲しい現状です。という本人さえも子供が障害者でなければ、他の人達と同じだったと思います。ボランティアの人達でさえ、結構障害者に接していたから、という人達が多いのが実情ですしね。勿論純粋に参加する人もいますが…。話しとしては、妹の目から見た兄と家族の話しとして、良く書けていると思います。もしこれが、全て創作だとしたら、脱帽です。読んだ後しんみりしてしまいましたし、慣れてしまうという家族の対応も頷けました(実感してます)ただ、私にはまだ昇華しきれていないからでしょう。子供のことが書けません。お涙頂戴式な話しになってしまうのが見え見えだからです。うーん、なんか感想にならないなぁ。ごめんなさい。

○Entry.04「HONDA」赤井推加さん
ホンダというのが、日系2世を指すスラングだとは知らなかった。死んでいった父親が残した外国の兄弟。廻りにこういう人はいないが、作品としては「ありがち」だと思う。少し意外性が欲しかった。しかし主人公が成長していく姿が嬉しいし、主人公の思いが充分に伝わってくる。ただ頭一字下げが無い所為か、【一】を始めは詩の様に感じてしまった。