新世紀 [QのSF&サスペンス部門] 感想

この部門の作品はとても楽しめた。まぁ、私が好きなSFやサスペンス物だからだろうが、みんな面白い。ジャンルも色々で、楽しかった。でも流石にハードSFは無かったなぁ、残念(笑)

○Entry.01『濃姫』室谷蜜柑さん
以前HPで読んだことがありましたが、また読んでみてやっぱり面白いなぁ。というのが実感です。歴史の大きな流れは変えられないという、通説もありますし、話としては良かったとは思います。が、やっぱり歴史に隠された物語を期待してしまうのは、否めません。濃姫の使っているのが、キーボードかどうかは判りませんが、カラクリ機械ですから、きっとタッチペンの様な筆で、習字の下敷き(名前を忘れた)みたいな感じの変形自在のディスプレイに文をしたためるんでしょう。書き終わると、右下の方に配達ボタンがあって押すと、送信されるのかも知れない。(ってこんなメール装置があったら面白い。誰か開発しないかなぁ)とこう考えると、カラクリ機械があながち有り得ないことではなくなりますので、いいんですが、手紙として書いている濃姫が、タイトル(表題)を書くとは思えません。こんな事でとは思いますが、女性が始めての文通相手しかも男性に年齢を書くとも思えません。なぜ、そんなことが出来るのかというのは、SF(小説)では解き明かさねばならないわけではありません。出来るんだから仕方がない。といってしまえば勝ちです。そういうのを解き明かすというジャンルのハードSFではありませんからね。ちなみに、受信日時については、メールサーバのメールのヘッダーを書きかえれば済むことなので、悪戯をしようと思えば出来ない事ではないはずですが、通常のPOP3形式以外にも、色々な形式がありますから、そこまでする人はいないでしょう。勿論その為には、アカウントやパスワードが必要になりますしね。

○Entry.02『電坑夫(でんこうふ)』羽那沖権八さん
石炭を掘る炭坑夫と同じ様に、電気の石を掘る電坑夫。発想が面白いし、話も感動的になっている。一人前だと思っている血気にはやる若い電坑夫と、老練な電坑夫との遣り取り。男だけの仕事かどうかは判りませんが、これは骨太のハードな話です。こういうのって好きです。電気の石については、自然放電のことを考えると、設定としては無理がある様な気もしますが、そんなことは大目に見るべきでしょう。なんといっても、話が面白い。

○Entry.03『十二人のイカレた男』朝野十字さん
わぁ。俺が出てる。嬉しい。ラジオ番組の中での設定という途中にコマーシャンルまで入る凝り様は面白い。ヘンリー・フォンダの白黒版「…怒れる男」のもじりだという事はすぐに判ったが、事件の内容については後半でやっと出てくる。これはSF世界と十字探偵、新之助の世界を表現するためであると、勝手に納得。量子コンピュータ(通信か)まで出てくるのには、はっきりいって驚いた。アイドル的存在である美雪と、どうせ死ぬと判っているからこその、11人の陪審員が許せなかった気持ちが、美雪の気持ちが判って凍解していくというのは、ちょっと書き足りない気もするし、浪花節的過ぎる気もするが、今までの作品を読んでいると、十字探偵の目指す所は浪花節なのかも知れない。(どこが?)今後十字探偵が、さなぎから羽化した後の活躍も楽しみである。

○Entry.04『1603.03.31/12:00〜にて』ツチダさん
タイムトラベル物では、時間を移動できる方法というのが、重要な位置を占めるが、そんなことには関係なく進めていく話は、なんとお笑いであった。SFの手法をとってのお笑いであるから、立派なSFであるし、話も面白い。江戸時代初期の庶民の生活や考え方、風習などが、違うだろうというツッコミはおいておくと、未来と過去の人間の、考え方の違いを利用した話の展開は、楽しかった。美田美子とそっくりな女の子の出現で、ひょっとしたら未来に行って(又は、主人公には内緒で)美田美子になるのかと思ったが、そうではなかったようだ。友人の出現や、彼に誘われる格闘などの小さな小道具が、主人公の頼りない性格の強調の意味もあって、面白い。

○Entry.05『緋色の庭』紺詠志さん
久しぶりにこの作者のロボット物を読んだ気がする。やっぱりこの作者にロボット物を書かせたら面白い。ロボットと人間との話だが、人間の悲哀を表現しているいつものやり方は、文句のつけようがない。1000字でも3000字でもいいから、又ロボット物を書いて欲しいです。そうすればもっと読めるのに。

○Entry.06『虹色の向こう側』紅緋蒼紫さん
始めはホラーかと思い。次は侵略物かと思いましたが、「2001年…」の黒い石版みたいなもんでしたか。人間の脳に入り込むというと、やっぱり侵略物が多いですが、その点はいい意味での裏切りでした。ラスト近くでの急展開が性急過ぎる気がしますが、大分削ったようですから、仕方がないかも知れません。昔読んだSF(タイトルも忘れてしまいました)に、侵略するつもりで来た宇宙人が人間の精神を乗っ取り、同じ様に全世界の人達と意識を共有出来るという話がありましたが、知的障害者の為に宇宙人達は死滅し、結局人類全体が、意識を共有できるようになって、目出度し目出度しという、そんな話を思い出しました。だけど人類への警鐘を、こういう形で発表できるSFはいいですねぇ。

○Entry.07『新・物語』岡田聡次郎さん
それでこのタイトルなのか。目が出来て、鼻ができて、口や耳ができた後で、赤ずきんみたいに、食われるのかと思ってしまった。それじゃホラーか。宇宙のゴミを拾うという話で、星野之宣のマンガを想いだしてしました。あれは感動的だったなぁ(って全然関係ない)イヴに拾われるという設定のために、宇宙塵を回収しているというのは判るけど、その為の書き込みの比重が多過ぎる気がします。彼の性格付けの為とはいえ、母親からの電話や、電車のシーンはいらないと思いました。脳だけとなって生きつづけていたイヴが人間になっていくシーンや、助けられて生活する廻りの環境(始めは宇宙船の中かと思っていた)の様子なども、もっと知りたい。

○Entry.08『>判決』岡嶋一人さん
携帯電話の電磁波が原因という事ではあるが、彼女が通話中だったという事なんだろう。でなければ持っていただけで、後ろに手が廻るという事になってしまうし、彼女以外の人間が持っていなかったという事には、ならない。途中で出てくるガムの所為なの? なんて思ってしまったほど、ラストまで凶器がわからなかいというのは、作者の意図ではあろうが、うまく引っかかった。そういう意味では面白い。ただ、科学的に証明されたと作中にはあるが、本当なのだろうか? この点には疑問が残る。それだからこそ判らなかった理由でもあるのだが…。相手の都合を考えない電話(携帯に限らず)というのは困った物だが、便利ではある。携帯は電源を切らない限り定期的に信号を発信し続けるからこそ、いつでも連絡が取れるという便利な道具だし、多分今後も電源を切らずに電車に乗り込む人は、後を絶たないだろう。こういう短編での着眼点としては、面白いと思うし、読ませる文章だった。しかし、これは携帯の話じゃなくて、弁護するという態度の話だと読んでしまった。こんな事があっていいのかという弁護士に対する怒りの方が強い。…作者はどちらも狙っていたんだろう。

○Entry.09『アット霊界ドットコム』越冬こあらさん
メールだけでの小説というのは、日記だけの小説や手紙だけの小説と同じなんだなぁと、今更ながらに感じた。真弓が発信するメールの内容をワザと書かないという手法も面白い。始めは、メールヘッダーを読み飛ばそうとしたが、一人から来ているだけではないと気がついてから、日付や曜日まで確認してしまった。ひょっとしたら、どこかに何かが隠されているかも知れない(笑)ただ、タイトルだが、始めのメールから霊界からのメールだと判ってしまうのは、狙いだろうか。途中でメールサーバの説明が入るのだから、始めは読者に判らなくても良かった様に思う。ラストのさらっとしたお笑いも、スマートな感じがした。