『父さんの誕生パーティーを覚えていないわけ』
 今日の夕ごはんは、大きなおむすびでした。お父さんが、一生懸
命台所から引っ張ってきたんです。それも3つもあります。
 もちろん一度に3つも引っ張れるはずがありませんから、大きな
しっぽで一つづつ引っ張りました。
 さすがに3つ目の時は人間に見つかって、大きな声を上げられた
そうです。でも僕たちは、ゴキブリみたいに叩かれたりしないので、
そんなに嫌がられていないと思います。

 久しぶりのおむすびに、弟達も興奮していました。中に入ってい
た梅干しは、酸っぱくてあんまり好きじゃないけど、種の中の白い
ものが僕は好きです。みんなお腹がいっぱいになって、その辺で横
になっていると、お母さんが残ったおむすびを前に、何かしていま
した。
 お母さんはおむすびを噛んでは吐き出し、大きなビンに入れてい
ます。おむすびが無くなると、そのビンに水をいれました。
 翌日になるとビンは濁ってご飯が溶けていました。その中に何か
を入れたので、見ていると泡がブクブクと上がってきました。
「お母さんこれなあに?」
「な・い・しょ。飲んじゃだめよ」
 お母さんは笑って教えてくれません。一体なんだろう?不思議に
思って考えましたが、全然分かりませんでした。

 それから一週間程たった朝、お母さんはみんなを呼んでこういい
ました。
「今日はお父さんの誕生パーティーだから、いつまでも遊んでない
で早く帰っておいでよ」
(そうかあの大きなビンの中の物は、きっとお父さんへのプレゼン
トに違いない。一体何だろう?今じゃ泡も出なくなってるけど、美
味しいのかな?)
 お母さんがいない間に、僕はちょっと味見をしてみる事にしまし
た。ちょっと変な匂いがします。少し舐めて見たけど不思議な味で
した。ゴクッと飲み込んだ途端に天井が回り出し、立っていられな
くなりました。心臓のドクドクいう音が大きく聞こえ、頭が痛くて
しようがありません。飲んじゃいけないっていうのは、毒だったか
らなんでしょうか。

 そこへお母さんがやって来ていいました。
「いやだよチュー太ったら。父さんのどぶろくなんか飲んじゃって。
酔っ払ってるよ。」
 そうか。お酒か。お酒なんて気持ち悪くなるだけなのに、なんで
飲むんだろう。そう思っているうちに、だんだん気持ち悪くなって、
気が付いたら朝でした。

 だから、その年のパーティーは、どんなだったのか、僕には全然
分かりません。後で聞いたんですが、酔っ払いには教えられないそ
うです。