『甘辛コンビの推理2』
天野光夫26才独身
渋井唐子3?才独身
ひとたび事件が起これば速やかに解決する。
甘辛コンビと人は言う。

 地下の駐車場は人気も無く、自分の足音と冷えた空気が静けさを増加させて
いた。
「ズズッ」と音がする方に目をやると、女性が仰向けで倒れていた。近寄って
みると胸にはナイフが突き立っている。
「大丈夫か、誰にやられたんだ?」声をかけて抱き起こすと、彼女は右手の中
指を立てて上に上げた。
(ファックユー?まさかこんな時にそんなポーズをする訳が無いじゃないか)
と思った時には、首をガクンと倒して動かなくなった。
「誰かーっ」声を限りに叫ぶと警備員の足音が聞こえてきた。


【遺産相続の争いか?億万長者の娘殺される】

【悲惨!声が出せない悲劇!薄倖の美少女殺害さる】

【物取りの犯行か?障害者の悲鳴は聞こえず!】

興味だけで書かれたマスコミの文章が、被害者の記事を載せていた。


「…という訳で、物盗りの線と同時に、遺産分配に関する線で調査を続行した
いと思う。それじゃ続行して捜査にあたって欲しい。何か意見があればいって
くれ」
 捜査主任がみんなを見渡した。
「継母の連子である義理の兄の拓巳を重点的に調べたいのですが…」と渋井が
いうと、
「じゃ甘辛コンビは、拓巳の調査で良し、何か怪しい点でもあるのか?」期待
を込めて捜査主任が聞いた。
「いや、これといって証拠がある訳ではないんですが、ちょっと気になること
がありまして…」言葉を濁しながら渋井は答えた。

捜査の結果、兄の拓巳が遺産相続の恨みから殺害したことが分かった。相続内
容では、拓巳と恭子の兄姉、継母の里美には殆ど遺産が相続されず、被害者で
ある智子と障害者福祉への寄付が大部分を占めていた。その後の調査で、父親
の殺害容疑も浮かび上がって来ており、事件の完全な収束には時間がかかる様
相を呈してきた。

「ところで、何故兄貴が怪しいと思ったんですか」天野は渋井に聞いた。
「手話で、右手の中指を立て顔の横に持って来ると『兄』という意味なんだよ」
渋井が暗い顔で答えた。
「主任、渋井さん暗いですけど、どうしたんですか」天野がぼそぼそっと聞く
と、主任は「唐子の弟は知的障害者なんだよ。そのせいか障害者が関わった事
件になると、いつも暗い顔になるのさ」主任も重そうに口をむすんだ。