『甘辛コンビ番外編(唐子が警察に入った訳)』
渋井唐子16才

 当時学校に入れなかった二つ違いの俊介と連れだって、学校の裏山にわらび
取りに来ていた。

 俊介は現在では知的障害者として認知されるべき少年だった。既に中学迄は
義務教育だったが、入学するにはある程度の知能がなければならず、「はくち」
とか「ばか」といわれ、一般的には世間から閉ざされた家庭の中だけの環境に
より育っていった。
(本人自信のせいで「ばか」なんだという間違った考えだが、現在でも無くな
らない誤った考えの親に縛られて生活せざるを得ない障害者もいた)

 当時俊介の様な子は町に一人か二人は必ずいたし、大人でも何人かは手伝い
の様な事をしてぶらぶらしている者もおり、目の前に突然現われたその男にも、
唐子はびっくりはしたが、ただそれだけだった。今まで事件が起きた事も聞い
た事もないような静かな町での事だった。

 突然殴られて気を失った唐子を助けるべく、俊介は突然の来訪者との格闘に
なったが、二才児程度の知能である俊介には、限度というものが分からずその
男を近くにあった棒で叩いたり突いたりして戦ったらしく、唐子が気づくとそ
の男は動かずにあたりに血が飛び散っていた。

 恐くなって弟と家に帰り母に話をすると、母は近くの派出所に飛んでいった。
その日は疲れきっていたが、寝付けなかった。自分が女性だったから起きた事
件であり、弟を不可抗力とはいえ殺人者にしてしまったかもしれない責任とが、
小さな胸を悩ませた。

 その時男は見つからず(唐子を襲って返り討ちにあい逃げたのだろうという
事で)事件にはならずに済んだ。

 その後男は隣り町の障害者だった事が分かった。

 唐子は変貌していった。福祉の仕事をするといっていたのに警官になると言
い、男言葉になった。



 障害者がらみの事件になると唐子はいつも昔の事を思い出してしまう。

 今だに二才児程度の弟の様子を見ていると、体の機能をある程度サポート出
来る様になった現代科学の進歩により、(知的障害者よりも肢体不自由者だっ
たら良かったのに…)などという考えがたまに頭を過ぎっては、とんでもない
事を考えてしまったと悔やんだ。

 現在世界的には、知能指数での判定ではなく、要求する環境のランク(食事
には介護が必要等の体制)毎に教育の方法を変えていこうとする傾向に向かっ
ている。遅れ馳せながら日本も、やっとその傾向に向かってやっていこうとい
う教育者も少しづつだが増えてきている。