『続々タイムマシン』
 未来の俺から教育を受け、タイムマシンを譲り受けた俺には、どんな事でも出来た。どんな場所へのどんな時代へも行けたし、あまり昔の国でなければ、殆どの国の言葉も自由自在だし知識も簡単な医療知識や物理・科学それに、歴史等々。
 一人になっても何とか不自由なくやっていける能力も、とても25才とは思えない。

 しかし未来の俺は何と自分勝手なのだろう。こんな男になるつもりは毛頭無い。(そう言えば未来の俺もハゲるのか!)倫理観も道徳観念もめちゃくちゃだ。だが未来の俺に育てられた俺としては、充分に恩を感じてもいた。病院のベッドに横たわったこの男は、俺に夢を託して生死の世界をさ迷っている。

 いくら何でもこのマシンを世界に公表するつもりは無いが、自分の為だけにマシンを利用するのには抵抗があったし、過去の歴史を作りかえるのにも抵抗がある。
 確かに大量虐殺等は止めさせた方が良いのかも知れないが、その所為で歴史がどう変わるか分かったものではない。

 このままだと、20世紀末の世界的経済破綻に続く、世界的な異常気象の連続から食料危機に陥り、世界の人口も約2割に減ってしまう。生き残った人達は自給自足の生活に入る様になるのだ。
 どこにでも自分達の考えを押し付けるアメリカでさえ例外ではなかった。
 石油の採掘もままならなくなった世界は、他国への移動も難しくなり、戦争も出来なくなった21世紀中旬には世界的に平和になるのだ。

 こんな未来を知ってしまった俺としては、21世紀初頭の悲劇さえ無視すれば、人間らしい生活が約束されている今後の世界を変える必要性は感じなかった。


 過去へ行って、ちょっと不自由な人達のお助けマンになってみようかと思い立ったのは、未来の俺が死んでからだった。
 あまり近い過去へは行くのには抵抗があった。というのも、どんな経緯で記録が残るか判らないからだ。外国の過去も、日本人の俺としては抵抗があった。

 しばらく悩んだが、飛鳥奈良時代当たりにしようと決心した。あの頃なら悪くても魔物扱いされて終わってしまうだろう。後は適当にその近辺を行き交う事にして過ごせば良いだろう。

 マシン改造により、頭に動力の太陽電池を括り付け、マシンも名刺大にし手の甲に隠して、出発した。

 過去に渡った俺は日本各地の不幸な人を見つけては助ける暮らしを続けたが、いつしか役の行者などと呼ばれる様になっていた。