『何して遊ぶ?』
(急がせる様な言葉をかけないで下さい)
(10叱るところを1つにして下さい)
 そう言われてはいても、限度があった。
「早くしろっ!!」
 大人げ無いのは判っていても、大声を出してしまう。
 養護学校への送り迎えも引きずって行く状態になっている今、重くなった子供の手を引くのも体力の限界に来ていた。
 もう10才になろうというのに、読み書きも出来なければ、かずも数えられない。体を使う遊びは大嫌いで、集中力も持続力も全く無い。興味を示せるのはビデオと怪獣のおもちゃだけだ。このままでは大きくなっても作業所にも入れてもらえないだろう。

 会社から帰ると又ビデオを見ていた。今日はディズニーのピノキオだった。
「いい子で学校行かないと、鼻が伸びちゃうぞ」
「うるさーいっ!あっちいけ」
 意地悪に子供に脅しをかけたら、蹴飛ばされた。

 何番目かの遺伝子異常の病気で、発病当時は成人式は迎えられないでしょうと迄言われ、何ヶ月か入院生活が続き、妻は暫く泣いてばかりいた。今では痙攣止めの薬を毎日飲まされて月に一度の割で通院している。

 せめて何でもやらせてあげたいとの一心から色々な会に加入し、学校の無い土曜は殆どボラさん達と、遠足したりプールに行ったりしている。
 妻は会の役員や顧問として家にいれば電話に追いまくられ、外に出れば会合にとやたらと忙しい。

「もっと学校に言わなきゃ駄目よ」今日もやっちゃんのお母さんにはっぱをかけていた。お節介な性格の姉御肌だからやっていけるのだろう。

 通学の為に家を引っ越したのはいいが、車を手放す様になってしまい、子供の好きだったドライブも出来なくなっていた。(もう少し頑張って車買わなきゃな…)

「パパは何にもやらないんだから、もう離婚だからね」
 いつもの文句が機関銃の様に飛んで来た。
「オシッコの世話とお風呂は最低限男親の責任なんだから、ちゃんとやってよ」


 今日明日は何も予定が無かった。
「今日出かけるの?」
「行くわよ」
 妻は何も予定が無い時に、一人で友達の家に泊まる様になった。ストレスが溜まって最近身体が動かなくなっているらしい。(日頃の鬱憤を晴らして下さい。いつもありがとう)

「ほらママにいってらっしゃいのチュウは?」
「いってらっしゃい」
 キスの嫌いな息子はママのほっぺにつけた口を手で拭った。

「さあ何して遊ぼうか?」
 夕食の献立を考えながら息子に声を掛けた。