『命名(アンゴルモア)』
<大きな彗星との衝突で恐竜が絶滅した>と一般受けする仮説は、殆どの学者は信じていない。確かに彗星は地球の衛星である第2の月と衝突し、その衝撃で第2の月は地球の軌道を離れ、地球の地軸にも変化が起こった。彗星のせいではあったが、恐竜の絶滅は、月がひとつになったせいで重力が倍近くになり、その重力に耐え切れなかった為だ。人類にとっては、どうでも良かった事だ。しかし、その第2の月が帰って来る。新しい地球の衛星となるべく6500万年振りに。残った人類にとっては大変な事だろうが、私にはもはや関係が無い。

 この文章は、今までの予言がほとんど外れた事が無いといわれた角田という男性の、メモの抜粋である。これは、彼が亡くなってから1週間程で見つかった。(別紙角田氏のメモ参照)
 当時このメモの内容についての議論が、世界中のいたる所でなされたようだ。白亜紀の恐竜絶滅についての原因は、無論当時は結論が出なかった。ただメモ発見と同時期に、地球に向かう彗星が発見されてからは、地球の終わりか月が増えるかの世論で湧いた。
 しかし発見は、衝突(現在の新星日)の8日前であった。(別紙新彗星発見報告書参照)
 当時は彗星を爆破させたり、軌道を変えたりするという対策も検討されたが、これには時間が短すぎ、結局対策無しのまま当日を迎える事となった。
 彗星は始め【ツノダの月】と命名されたが、各種宗教の終末説と相互して、ノストラダムスの予言(ノストラダムスの参考文献なし)で、アンゴルモアが降りてくるという記述から、角(アングル)の月(ムーン)の名を一部の報道機関が取り上げ、それ以降彗星の事をアンゴルモアと呼ぶようになった。(別紙さくら新聞参照)
 アンゴルモアの接近に伴い、いくつかの問題(暴動等)も発生した。しかし新星日になると、知られている通り……

 今では殆ど飲む人もないカフエを一口含むと、教授は頭を掻いて採点結果を告げると、スクリーンを待機状態に変えた。
(ふーん。論文としては最低な文章だったが、よく10世紀も前の資料を探し出したもんだ)

 小さかったが、やっと2mを超えた6才の息子の写真を見ると、教授は伸びをした。
「さあ、今日は終わりだ」
 家族サイトに行くと、子供はまだ勉強らしく戻っていなかった。

 窓から、はるか下に見える水平線には、周りにスカートを穿いた様に、月の残骸を散らばらせたアンゴルモアが、昇ってきていた。