『最近お腹が出てきたとお悩みの貴兄へ』
 残暑厳しいおり、いかがお過ごしでしょうか。突然のお便りにてご無礼申し上げます。
 さて、当社で開発いたしました新薬は、最近お腹が出てきたとお悩みの皆様方に朗報を与えるものです。

 突然舞い込んだ手紙には、試供品と書かれた錠剤が入っていた。
 聞いた事のない製薬会社。悩む事はない。ゴミ箱へ直行だ。
 私は40に手が届こうというのに独身だった。ちびでぶに揃って最近は頭も薄くなってきている。外見なんか気にはしないが、健康の為にもLLサイズからは脱却したい。暑くなって食欲も増えている。
 賞味期限切れの食べ物を食べる事もよくあるが、腹が痛くなった事など記憶にない。身体はいたって丈夫だ。…よしっ。試しに思い切って飲んでみよう。

 3日経ったが何ともない。効かなかったのかも知れないが、まぁ身体は何ともないから大丈夫だろう。


 目が覚めるとお腹が変だった。ぷよぷよと心地良い軟らかさだったのに、少し固くなっていた。
 柔らかいうちは痩せられるというけど、固くなってしまったら痩せないかもしれない…。
 シャツを脱いで鏡を見ると、へその上当たりに赤い痣の様な模様が浮かんでいた。痛くはない。勿論汗疹であるはずがない。
 あの薬のせいだろうか?注意書きを読まないで飲んでしまったが、1錠しかなかったんだから、飲み方なんかある訳がない。…もう少し様子を見てみよう。死にゃしない。

 翌日になると痣が大きくなっていた。じーっと見ていると痣が動いた様な気がした。いやいや、め・目の錯覚だ。

 あぁ。どうしよう。こんなじゃ病院へも行けない。この痣はどう見ても成長している。お腹一杯に広がってきた。しかも時々動いていて、それがはっきり感じられる。…あの手紙は捨ててしまって会社の名前も覚えていない。…やっぱり病院へ行こう。このままじゃ不安が増すばかりだ。

「大きな痣ですなぁ。レーザーで消せますが、これは時間が掛かりますよ」
「そういう事じゃなくて、この痣生きてるんですよ」
「え?ご冗談を。はっはっは」
 やぶ医者め。
 顔に見え始めた痣は『人面疽』という言葉を思い出させ、恐怖も湧いていた。


 あれから一ヶ月。やっと落ち着いた。身体中の贅肉も落ち体型もスッキリして、一躍有名人になってしまった。

「おぎゃぁ。おぎゃぁ」
 私のお腹を痛めて生まれた可愛い男の子が隣りで泣き出した。ミルクの時間だ。
 この子の為にも結婚したいが、子連れじゃ若い娘は無理かな?