『酔っ払いがやって来た』
 下りの最終に間にあって、ホームで電車を待っていた。

「♪…んーふふふ・ふーん」
 楽しそうに酔っ払いが、近づいてくる。近づいてくる。近づいてくる。
(♪近づかなーぁあーいでーっと)
 仕事の区切りがついた俺は、躁状態になっているようだ。口には出さねども、ちょっと楽しい。
 酔っ払いは独唱をしながら、静かに(大声で)電車を待っていた、ぴょーん。
(あれ?どうも調子がおかしい(可笑しい)ぎゃははのはー)

 そーこへ因幡の白兎ー? いんや、あれはどう見ても、ヤクザのおじさんだっちゅうーの。こういう人には関わっちゃだめよ〜ん。みんな見て見ぬ振りふりふりっプリッ。
 ところがどっこい酔い待ち草のおじさんが、何思ったか近づいたー。ドキドキドッキンドッキンコ。
「たばこ」
 手を動かして吸う動き。お手々をひらひら、ヤーさん様に突き出した。嫌な顔したヤーおじさんは、びっくりしてはいたけれど、苦笑いしながらたばこを出して、酔い待ちおじさんに渡したげな。うーん。アンタはエライ。禁煙区域も何のその。おじさん美味そにたばこを吸った。ひえ〜。すんげーぞぃ。周りの人はどう思ったか、やくざのおじさん偉いのか。酔っ払いが馬鹿なのか。どっちもどっち? ひえっがび〜ん。

 そうこうしてる間にアナウンス。電車が来て乗り込んだ。素敵なやくざのおじさんは隅の方で立っている。そこへ酔ったおじさんは、しばらくするとにこにこ顔で、酔ったよたヨタ近づいた。「あんたの髪の毛、おもしろいねぇー。ハァー。今どきパンチなんて、やくざみたいだ。ハァー」
 酒臭い息を吹きかけながら、おじさんミョウにからんだよ。
「いい加減にしろよ」
 さすがに怒ったヤーさん様は、酔ったおじさんに言い返すーっ。それでもみんなの迷惑に、ならない様にと小さな声で。
「何だとこのヤロ。生意気な」
 言ったが早いか酔っ払い、ヤーさん様の後ろから、羽交い締めして口に手を入れ引っ張った。哀れな口は変形し、ちょっと切ったか血が出て来たよ。たらたらたらたら、たらりんこ。
 その時、電車の扉が開いて、外には駅の係員。電車の中から「喧嘩だ」の声に、思わずヤーさん様を引っ立てた。
「俺ゃ。何もしてねぇよ」言っても聞いてもらえない。
 当の酔ったおじさんは、しらんぷりして電車の中で、開いた席へと移動した。
 電車の中の乗客共は、あちきを含めてだんまりさ。そのうち扉はしまったよ。あ〜。鬱になりそうだ。