『太郎丸』
第1日目
 目が覚めると左肩が疼いた。手を当ててみると腫れているようだ。鏡を覗くと左肩の上には可愛いらしい顔が微笑んでいた。目も鼻もあり口をもぐもぐ動かしていた。何故か嬉しかった。ほっぺを軽く押して見ると笑った。まるで生まれたばかりの赤ちゃんの様だ。取りあえず仕事に行かなければならない。帰ってから考えよう。
 帰宅して服を脱ぐと、腫れは瘤の様になっていた。服を着ていても違和感が無いのは何故だろう? こんなに大きくなっているのに、服を着ている時には無くなっている様だ。

第2日目
 彼。女性かも知れないが肩にいる子に名前を付けた。太郎丸。男らしい、いい名前だ。元気に育って欲しい。口を見ると歯が生えていた。そういえば何も食べさせていない。何か食べるだろうか?ポテトチップスを口に持っていったら、美味しそうに食べた。腹が減っていたのかも知れない。一袋を殆ど一人で食べてしまった。なんて可愛いんだろう。

弟3日目
 太郎丸が始めて喋った。「パーパ」そう聞こえた。俺にも子供が出来たんだ。実感が湧いてきた。太郎丸の事は誰にも言わないでおかなくっちゃ。誰かにいったら、連れ去られてしまいそうだ。今日は二人で焼き肉を食べた。

第4日目
 太郎丸はだいぶ大きくなってきた。俺の顔の半分くらいにまで、成長した。だけど首から上しかないので、身体は俺と一緒だ。首を右に傾けると、太郎丸は喜ぶ。きっと真っ直ぐ物を見る事が出来るからだろう。
 太郎丸の髪の毛を切ってやった。だいぶ伸びてきていたのだ。俺の髪の毛よりも早く伸びる。俺の若い頃の顔に似ている。血を分けた親子なんだから、当たりまえか。

第5日目
 太郎丸が、俺が寝ている間に勝手に食事をしていた。俺は怒った。怒るのは当たり前だ。太郎丸は俺の子なのだから。しかし眠い。なんとなく自分の顔が小さくなった様な気がする。俺の顔より大きくなって口応えしていた太郎丸はやさしい顔で俺を見ていた。

第6日目
 今日は気分が悪い。会社が休みで良かった。明日も休みだし、とにかく寝よう。

弟7日目
 目が覚めると、俺の右肩の瘤は小さくなっていた。何故か親近感があるのが疎ましい。
 夕方右肩を見ると、薄く赤くうっ血しているだけになった。よく見ないと判らない。ちょっと悲しいのは何故だろうか。
 風呂場で身体を洗った頃には、腫れ物の事はすっかり忘れていた。明日からは、また仕事だ。俺はカガミを見ながら髭をあたった。