『知恵の塔』
 この塔に取付いてから、既に9日と10時間が経過しようとしていた。食料は殆ど残っていない。
 この『知恵の塔』は登っていく程に知能が活性化し、頂上に着いた時にはあらゆる事柄が判るという。私は巨大な醜いサルだが、肩の上の女性に連れられ?この塔の頂上に、まさにもう少しという所にいた。
 いったい誰がこんな塔を建てたのか。どうして知恵が付くのかは判らないが、確かに私は言葉まで喋れる様になっていた。
「頂上に着いたら、あなたも、もっと知能が活性化するのかしら?」
 彼女はそう聞いてきた。
「…十分です」
「そうね…。言葉が喋れる様に迄なっているんですもの…。でも私はもっともっと知りたいわ」
 彼女の目は輝いていた。
「私、上に行けば行く程不安になってくるの。知識欲が大きくなっていくみたい」
「十分です」
「そう…。あなたは所詮そういうモノなのかも知れないわね。…後どれ位かしら?」
「十分です」
 私は下手な洒落で彼女を和ませ、彼女も笑ってくれた。
 それから本当に十分後、我々は頂上に着いた。

 我々は全てを理解した。
 彼女はあまりの事に、塔から身を投げてしまった。
 私はというと又サルに戻るべく、ゆっくりと塔を降り始めた。