『飛んだ』
 久しぶりにアルバムを整理していると、折り目の付いた、色褪せた大判の写真が出てきた。
 私が小学校の頃に他界した姉と写っている写真だった。
「なにその写真。折り目だらけ」
 息子の太一が脇から首を伸ばした。
 たしかに。こんなに折り目があるなんて、どうしたんだろう。私が考え込むと太一が突然横から手を出した。
「これ。飛行機だ」
 そういうと太一は折り目にそって写真を折り始めてしまった。
「もう…」

 そうか。姉が作った飛行機だ。

 小さい頃、空を飛びたいと言っていた頃があった。そんな時、男勝りだった姉が突然写真を紙飛行機にしてしまった。父は随分怒った。姉と私は近くの広場へ逃げ、写真の飛行機を遅くまで飛ばした。
「一緒に空飛んどるよーっ」
 姉が私に言った。本当に空を飛んでいる様な気がした。

 ずっと忘れていた。

 気がつくと紙飛行機は太一の手を離れ、青空を滑空している。
「この折り方よく飛ぶなーっ」
 太一が感心していた。
「そりゃ。ママのお姉ちゃんの飛行機だからね」
 私は、昔に返って空を飛んでいた。

 夏空をしばらく飛んでいた姉と私の写真は、折り目を付けた飛行機のままアルバムで、また眠りについた。