Sweets










「妹子にちなんで、イモを使った今の季節にピッタリの「すいーつ」だぞ!」


 いきなり背後から抱きついてきて、僕が文句を言う前に上機嫌でそう言ったのは、例のごとく仕事妨害魔の太子であって。
 ……何ですか、「すいーつ」って。そんな変な名前なんて知りませんよ。
 取りあえず差し出されたものを見たが、そのあまりの独特の香りに思わず鼻をつまんだ。何だろう…何かが腐ったような匂いだ。この世のものとは思えない。

「太子、臭いですよ、これ。一体何なんですか?」
「む、臭いとは失礼だな。良いイモ使ってるんだぞ、匂うわけないだろ!」
「太子、鼻大丈夫なんですか?」
「……お前、何が言いたい」
「だって、これ強烈に匂いますよ」

 もう一度嗅いでみたけれど、すぐに鼻をつまむほどダメだ。この匂い、耐えられない。
 イモって腐るとこんな匂いがするんだろうか。少なくとも太子の言う「良いイモ」はこんな独特の匂いじゃない。もっと甘くて食欲をそそるようなものだろう、普通は。

 だが、誰もが僕のように鼻をつまむだろう、その強烈な匂いを彼は全く気にする素振りを見せない。どころか不思議そうに悪臭を放つ「すいーつ」を嗅いで、

「いいにおいしかしないぞ」

 とか平然と言っている太子は、本当に人間なのだろうか。実は人間のふりした宇宙人?どっちにしろ、ひどく鼻が利かないことは確かだろう。


「どう嗅いでもいいにおいなんてしません」
「何だと! お前こそ鼻、曲がってるんじゃないか? 根性と同じで」
「……そういうことにしておいてあげますから、これは遠慮します」
「ポーーー!? あからさまに床に叩きつけようとするな、この青虫が!」

 何とも見事な身のこなしで、僕がワザと落とした「すいーつ」を地面に衝突する寸前の所で受け止めた。チッ。折角無に返してやろうと思ったのに。

「仕事妨害もいいところですよ、太子。アンタこそ、下らんことしてないでさっさと仕事してください」
 淡々と告げ、太子を部屋から追い出そうと腕を掴むと、彼はあからさまに落ち込んだ顔をこちらに向けた。
 何だ、その捨てられた子犬の目は。
 その手にはのりませんよ。

「……妹子のためなのに……」
「はぁ? どこが僕のためなんですか。嫌がらせでしょ」
「嫌がらせじゃないもん。労わりだもん」
「気色悪い喋り方は止めてください」
「…じゃあお前こそ、眉間に皺よせるの、止めろよ」

 え?
 眉間に……皺?
 驚いて言葉のでない僕の手から逃れてブスッとした顔を上げると、人差し指で僕のこめかみを軽く押す。
 確かに意識していなかったそこは、緊張して皺が寄っていた。
 触れられた途端、緩んでいくそこが、今更のように痛む。

「……お前、ずっとそんな顔してるぞ」
「させてるのは、誰ですか」
「だから仕事だって減らしたろ? まぁ、それでもお前は優秀だから、本当に最低限しか減らせなかったけれど。悪かったな」
 苦笑交じりに僕のこめかみを押す太子は、相変わらずスイーツの香りとカレー臭が漂っている。二つの匂いが混じり合って嗅覚は麻痺してしまったのだろうか、不思議と匂いはしない。

 いや、それよりも。
 何より今僕の頭を占めているのは、彼の言葉。
 道理で仕事が減ったわけだ。そういえば馬子さまにも「そろそろ休暇をとりなさい」と言われていたっけ。忙しい時期に何故そういうことを言うんだろう、と思っていたけれど、太子の差し金なら納得できる。
 そして、その手にある怪しげな「すいーつ」とやらも、その優しさの一端だったわけで。

 知っている。彼はとことん馬鹿で、優しいことは。


「……遠まわしすぎて、分かりませんよ、そんな優しさ」


 そっぽを向いて呟くように言ってしまったのは、照れくささのあまり赤面した顔を見られたくなかったから。
 彼の見えない愛情ほど、僕はたまらなく弱い。


「そんな事言われたって、お前真面目だから、直接言ったって休んでくれないだろ」
「まぁ、そうですね。どこぞの誰かさんとは違って僕は真面目だけが取り柄ですから。家族のために仕事しているわけですし」
「……ホレ見ろ……やっぱり休む気なんてないじゃないか……」
 あからさまに落胆の表情を浮かべてため息をつく。
 そんな太子に、僕は少しだけ口元を緩めてその肩に手を置いた。

「だから、太子が癒してください」
「え?」
「休みは要りません。でも、その代わり太子が僕を癒してください。それで十分です」
「妹……うわ!」
 体を強引に引き寄せて、そのか細い身体を抱きしめる。太子は一瞬身体を固くしたけれど、すぐに抱き返してくれた。
 無駄につるつるな頬にネコのように擦り寄って、彼の鼓動を感じながら目を瞑るだけで、全てがどうでもよくなってくる。
 人目なんて、もうどうでもいい。


「……お前から甘えてくるとは思わなかったな……」
 妙に上ずった声でぼそりと呟く太子の頬が、さきほどより熱い。
 鼓動も僅かに早まっているようで、太子の動揺が体全体を通して伝わってきた。
 まだ、そんな可愛らしい反応ができるのか、この人は。まるでいつもと逆だ。

「甘いものが欲しい気分なんですよ」
「だ、だったら私の「すいーつ」を」
「それは遠慮しておきます」
「な、何だよ! 私に抱きつくのは良くて、「すいーつ」はダメなのかよ!」
「はい」
「きっぱりと言いやがってチクショー……。襲うぞ」
「いい加減静かにしてもらえますか」

 まだ何か言おうとしたその唇を奪う。
 温かい太子の舌を吸うと、体から力が抜けていくのが分かる。
 何だろう、何か甘いな。この甘さ、どこかで。
 舌を解放して、頬を染めたままぼんやりと僕を見つめる太子の手の物体を見て、ようやく理解する。

「イモの味がしますね」
「そりゃ、さっきのデザート味見したからな」
 さっきの。
 さっきのって……ああ、あの悪臭の。

 ようやく、匂いの感覚が戻ってきたようだ。もう臭くてたまらない。
「……何か臭くて萎えてきたんで、もういいです」
 あっさりと太子の体を開放すると、さっさと筆を取り、文字を綴る。
 それを見た太子が慌てて僕の体にへばりついて、
「ちょ、ま、待て! 萎えたってどういうことだよ、責任もって襲えよ!」
「もう萎えたんで、いいです」
「何だよ、人のこと襲っておいてそのセリフは……!」


 ああ、もう煩くてかなわないな。
 でも、何でだろう。さっきから笑ってしまう。
 ああ、幸せだ、なんて。
 袖を引っ張ってうだうだ言っているあの人の頬を掴むと、

「……あとで、太子の方を美味しくいただきますから」

 甘さたっぷりの貴方を好きなだけ。




END






キャーvv
かくれがのとろさんにいただいてしまいましたvv
1492のコロちゃん番を踏みつつ、妹太リクでしつれいしました…
コックにちなんで「太子か妹子のどっちかが料理を作ってくれる話」とか
そんなリクエストをしたような記憶があります…記憶って!!!
こちらでの掲載がすごく遅くなってしまってすみませんでした!!
とろさんの妹太が大好きなんですv
大人な太子と真面目な妹子…誘いまくる太子萌え!!ありがとうございましたvv
そして調子乗って萌えないヘン絵を描いてしまいました…

妹太です!…ヒイイとろさんの太子のラブリー太子の愛らしさは出せません!!
すみません〜;
これからもステキな妹太を!楽しみにしていますvv