隋にて 4



「う〜〜ん、倭国に戻った時の凱旋ポーズはこれでいいかなあ。…いやいや、こっちの足を上げたほうが…」

太子が宿の部屋で、ひとり妙なポーズをとって足を攣らせてみたり、それでもって仕事をしてる気になってみたりしていると、
ガチャリと部屋の戸が開いた。

「お帰り妹子。早かったじゃん。あのさあ、遣隋使の報告のポーズなんだけどさあ…」
「……」
「どうした?」

無言の妹子は口元をひきつらせ、目じりに涙を湛えて震えていた。

「どしたの。妹子いぢめられたりしたの?…!ま、まさかおねーさんたち…タコタコ星人だったとか?」
「太子の…」
「え?」
「太子の馬鹿あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ドグワァッ!

「なッななななな何?!」
クリティカルヒットで天井まで飛ばされつつウルトラハンサム摂政動体視力で表情を伺えば、妹子は小刻みに口元を痙攣させ、どうやら非常に怒っているらしい。


「わ、私が何をしたっていうんだ!!」

「あんたが…あんたがあンなコトしたから僕は…」
「え?ええ?」
「あんたが!知らなくてもよかった感覚を!僕に教えたり…するから…」
「……」
「僕は…僕は!……じゃ、ない!ない、…の、…に」
勢い良く叫んだその言葉の最後の方は、聞き取れないほどのつぶやきになって消えた。




「あーそうか」

崩れるようにその場に座り込んでしまった妹子に近づいて、片膝をつけてしゃがみこんだ。
よしよし、と、あたまをなでてやるとバッと頭を上げ、これ以上の屈辱はないという表情で、睨まれて振りほどかれた。

「さ、触んないでください!あンたに触られたくなんてない!!!」

構わず抱き込むと、妹子は駄々っ子のように暴れた。


「私の手が、忘れられない?」
「だ…誰が…!!」
羽交い絞めにして後ろから囁くと、妹子はまたひとつ大きく身を振るわせる。
「安い女じゃ、もうだめになっちゃった?」
「やめろ!離してください、離せ!!」
じたばたと強く抵抗するのだが、太子の抱きこみ方が器用なせいか、腕の中から抜け出ることができない。



「してあげても、いいよ」

耳に囁きこまれる声にカァッと頭に血が昇る。
神経を逆撫でするような言い方を選ばれた。妹子はそう感じた。
いや、そこまでいうと過敏すぎるかも、被害妄想かもしれないけれど。
…もう、この場から消えてなくなりたい。



「じ、冗談じゃない。誰があんたなんかに…」
なんとしても、この屈辱的な状況から抜け出したくて、必至で身体をよじらせて離れようとするのに、なぜかちっともうまくいかなかった。
膝がくだけている。

身体が、もう言うことを聞いてくれない。


視線だけで抵抗するけれど、太子はいつものどこを見ているのか分からない、死んだ魚のような目で。
底が見えない。

いつものようにちょっと眉をひそめて。
困った風な、でもちょっと楽しんでいるかのような表情だ、とこの旅で見慣れてきた妹子は思った。

抱きかかえられて頭を撫でられているだけで、体温の上がる自分が信じれらなかった。



「妹子。いーもこ」
呼ばれる名前が優しくて、心地よく聞こえてホントやめて欲しい。

そうだきっと。
慣れぬ言葉を駆使し、慣れぬ大陸の名で呼ばれ続け、緊張していたからなんだ。
そうだ気を張っていたんだだから僕は…頭の中で自分に対して無意味な言い訳を繰り返しているうちに、太子の指は髪の生え際をたどり冷えた耳を暖め、ゆっくり揉みしだき、妹子は思わず肩をすくめて溜息を漏らす。



「や、やめて下さ…」

ジャージのファスナーを下ろされる動きを、もう止めることができない。

否定の仕様がなく、興奮していた。
快感への期待が、確かにこの身体のなかに、あった。。


「………!」
身体が大きく震える。。
先刻ちっとも上がらなかった熱が、いとも簡単に沸点に達しそうになって…


「たっ、太子…」
ギュッと目を閉じてうわごとのように名前をつぶやいた。

「まだファスナー開けただけだよ妹子」
からかうように言われて。カッと耳が熱くなる。
「し、死んでください馬鹿太子」

じゃあ閉めちゃおうかなあとかいう太子の手を、しかしついに妹子は両手で引きとめてしまった。



「ん?」

もう、止められない。

何がなんだか、わからない。



初めて目を伏せて。

熱い息とともに吐き出したことばは





「お願い、します…」




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