このデータは消防庁の統計資料だが平成17年のものである。

しかし、この傾向は現在も大きくは変わっていないと思われる。
悲惨!! 火事の実態 <前編>
燃え盛る炎は恐ろしい…   だが美しく、魅力的で見ていて飽きない 
不思議な興奮、陶酔状態に陥る…

総てを焼き尽くす紅蓮の炎を見ていると胸がスカーとする…   
これは放火犯の言い分だがこの気持がわからないでもない

放火は殺人にも比肩する極悪非道な犯罪だが
出火原因でダントツに多いのだ。


子供の頃は火を扱うことが多かった。焚き火は庭先で日常茶飯事だったし、私自身、かまどのご飯を薪で炊いたり、風呂がまの石炭をくべたりしたことが何度もある。火の取り扱いには慣れていた。
但し、火を扱うときにはその恐ろしさを親から厳しくしつけられ細心の注意を払っていた。特に火の後始末は徹底的に教え込まれた。

近年火災で死ぬ人が多いのは何故なのか。特に耐火造りのマンションの火災が目立つのは何故なのか。

この冬年をまたいで痛ましい火事が続いている。年の初め楽しい帰省先で幼い子供を含めた一家が火災の犠牲になる… あまりにも痛ましいニュースに心を痛めた方々も多かろう。住宅火災の死者は1〜3月が図抜けて多いそうだ。
対価造りの建物は火災が発生しにくいのは事実だが、それは類焼に対してであり室内には燃えぐさがあり、出火の危険は少なくない。また最近の建物は新建材を多用しており、一酸化炭素や有毒ガスも発生しやすく、焼死するよりもガスを吸い込み倒れることも多いようだ。
一酸化炭素は空気中濃度が0.1%になると中毒症状を起こすといわれている。この辺のことは十分注意する必要があるだろう。

<赤き火事、こう笑せしが、今日黒し> 明治の俳人、西東三鬼の句は火事現場を詠んで真に不気味である。
紅蓮の炎が高笑いするかのように生命財産をなめつくし、後には黒くおぞましい廃墟だけが残る。これが火事後の生々しく恐ろしい現場だ。(この句の引用は朝日新聞の記事からヒントを得ている)


私はかつて現役のころ損害保険会社に勤務し、10年近く「火災査定」という職種を体験した。火事を直接メシの種にする一種のプロである。そして数多くの痛ましい火災現場をこの目で見てきた。今でもあの焼けボックリの見るも無惨な姿や当事者の悲惨な有様が浮かんでくる。

生業とはいえ、このような人の不幸を飯のタネにして仕事をした事は、真に因果なものだと思っている。勿論ホケンの必要性について否定するものではないが…

このような現場体験を元にして、元査定マンの個人的な雑感を思いつくがままに記しておきたい。なお、前編は火事についての一般的なお話、後編は恐ろしい放火事件の実態を私自身の実体験に基づき書いてみたい。

火災査定とは

現在は会社の重要なサービス業務の一つとして位置づけられており、火災査定という呼び名ではない。
火災による経済的な損失を火災保険契約内容に従い顧客に支払う仕事である。かつては「査定」などとえらそうに「カネを支払ってやる」と云わんばかりの極めて一方的かつ高圧的な立場だったのだ。

そしてお客さんからは「ホケン屋はいざ火事で保険金を支払う段になると、いろいろ難癖を付けて支払額をケチり、トタン一枚、柱一本でも残っていれば焼残物として差し引く…」などと噂されており私も何度か直接いやみを耳にした。

◆「火災保険金」は契約内容と約款の条項に従い保険金支払額を決定するが、損害額の正しい算定が大前提になる。

生損保会社の支払いしぶりが大きな社会問題になっている。各社共に金融庁の厳しい指導を受け、やっと少しずつ改善しているかに見えるが、一連の対応により契約者からの信頼は地に落ちたと思っている。私は友人らからも会合などで厳しく指摘されたこともあり、OBの端くれとして真に肩身が狭い。


★写真は1969年、北海道北見市の飲食店の火災現場で仕事のため立会い中の筆者の写真だ。珍しいものだが損害は水濡れにとどまっているらしい。当時札幌支店に勤務し年齢は三十代半ばだったと思う。

仕事は:現場立会いで終わるのではなく、適正な支払額を算定し、被災者である契約者と話し合い、協定し正しい支払先を確かめた上、間違いなく支払うまでの一連の業務を行って初めて一件落着するのだ。結構気骨の折れる仕事だ。罹災した顧客の心理状態は正にパニック状態なのだ。当然火災発生から支払いにいたるまでには相応の時間がかかる。従ってこの仕事は常に何件かの未処理事案を抱え込み、担当職種が変わるまで終りというものがないのだ。

また、単に机上で仕事をするのではなく現場に出向き、、火事という不幸な事態を通して生の人々と顔を合わせ仕事を推し進める。一つとして同じケースは無く、一回一回が真剣勝負だった。私にとっては得がたい体験であり、いろいろな知られざる世界を垣間見ることが出来た。と、同時に、世間知らずだったことを思い知らされ、それなりの努力を重ねた時期でもある。

★現在は損保会社の損害調査サービス網は全国に広く展開しており、火災、自動車共に社員が直接現場を調査することは少なく、殆どは子会社または専門の調査会社に丸投げしているものと思われる。この方がはるかに合理的だからだ。


赤き火事のこう笑

紅蓮の炎が燃え盛っている間は正に修羅場だが至近距離にある住宅から夜中に出火し、消防隊のホースが自宅の庭を何本か横切り大騒ぎになったことがある。結局当該住宅は丸焼けになったが類焼は免れた。夜空を焦がす火焔は真に恐ろしく、当時同居の年老いた母親は生きた心地がせず、自室の押入れの中でガタガタふるえど押しだったのを覚えている。事実ショック死する老人もいるようだ。
火災の原因はさまざまだが消防庁の統計によると、意外なことがわかる。なんと放火がトップで「放火の疑い」を合わせると、全体の二割以上を占めており、次にタバコ、コンロの不始末…と続いている。地域によって、放火は全体の30~40%にも上っているのだ。

警察や消防署が事後調査で放火と断定するのは至難な業である。現行犯か自白がよりどころになるが、実際は原因不明のケースの中には放火がかなり含まれているのではないかと推察する。


暖房器具は要注意→盲点は電気製品
◆最近の新聞紙上に暖房機の取り扱いの不注意から生ずる火災についての記事が載っていた。

見出しは「暖房機器の火事ご用心」
であり、経済産業省・製品評価技術基盤機構の調査結果であった。
それによると昨年10~12月にかけて暖房機器が原因で起きた重大事故が146件発生したとある。そして寒さが本格化するこれから十分注意が必要だと述べている。

新聞紙上では問題製品の会社名も実名で公表されていたが、この部分は差し障りもあるので省き引用させていただく。
意外だったのは約70パーセントが電気製品だったことだ。
電気は安全だと言うのが常識だが、一つ使い方を間違ったり、劣化を放置するととんでもない事態になるのだ。

私の体験では暖房器具全体に云えることだが、高熱を発する機器類の劣化のスピードは家電製品の中ではもっとも早いのでそれなりの注意とメンテナンス、早めの買い替えが大切だと感じている。

◆今日黒し
焼け跡ほど無残な景色は無い。見たくない景色だが私は商売柄、焼け跡を数限りなくこの目で見てきた。勿論大小いろいろなケースがあり住宅、飲食店,店舗、工場、事務所等様々で、死傷者が出た現場も体験している。
見るだけではなく損害を克明に写真に収め、損害額の調査を行い、パニック状態に陥っている契約者であるお客さんと支払額の交渉を行う。気骨が折れる仕事だったが、ピンチの契約者に保険金でお役に立ちたいと、生きがいを感ずることも多かった。

会社が火災の通報を受けると責任者が、火事の大小、難易度、担当者の経験の度合い等々を勘案して担当を決める。場合によっては専門の鑑定人を同行する。現場まで行き着くのは今なら簡単だが、昔は結構大変だった。先方との連絡も思うように取れず、住宅地図が唯一の手がかりだった。地方転勤の頃は地理がわからず苦労したが、営業担当者が社有車で案内してくれることも多かった。


現場の調査は警察や消防の行う鑑識活動が終わらないと立ち入ることが出来ない。調査そのものは丸焼けなら比較的簡単だが、半焼や水濡れの損害調査は難しい。時間もかかるので体力も必要だった。気をつけないと焼け跡では怪我をする危険もある。
北海道時代に体験したことだが、冬場は放水するとすぐに凍りつき現場はツルツルで非常に危なく、二階によじ登ることは出来ないことが多かった。一回では調査が完了せず複数回行うこともある。暑かろうが寒かろうが雨が降ろうが、粘り強キチンと調査しておかないと確信を持って損害額を算定できくず、後で泣きを見ることになるのだ。

火災直後の現場に足を踏み入れ細部にわたり調査をするのは慣れないと困難である。取り壊し後片付け前に調査しなければならず、当然足場は悪く焦げ臭いにおいが鼻を突く、二階が焼け残っていれば上がってみるが、踏み外したら大事だ。収納容器の中身まで調べるので作業衣や手袋も必要だ。
いろいろな現場を踏み経験を重ねるごとに要領がわかってくるが、駆け出しの頃は現場で立ち往生したり、助けを求めたり、当惑することもあった。罹災された方の協力も必要になってくる。若い時代、この仕事を通して苦労も多かったが、体験知識が格段に増え、肉体的にも精神的にも非常にタフになったと思っている。建築物の知識、見積もり技術、商品の値段なども積極的に吸収し実戦に役立てた。
死に金」を支払うのは愚の骨頂
保険金を罹災した契約者に公正妥当、かつ迅速に支払うことはきわめて重要なことだが、言うは易く行うは難い。支払基準やマニュアルは当然あるが、すべてはケースバイケースであり、担当者のさじ加減の余地がかなりあるからだ。100%正しい支払額の決定は何人も事実上不可能だと思われる。損害額の算定は丸焼けでも困難で、ましてや半焼や水濡れ、破損、汚損、煙損になるともっと難しい。
しかし積み重ねられた事例、経験とか感とかで妥当な損害額の算定は可能になると思われるが、その後の交渉が必ずしもうまく運ぶとは限らない。

私は支払い保険金を無駄にはしたくないという思いが強く、いつも「損して得取れ」をモットーにしていた。支払った金を次の商売につなげることが鉄則だと思っていた。保険金を支払ったのにお客さんが他社に逃げてしまうのは下の下だと思う。営利会社としては至極当然のことだ。

◆焼け太り
実にイヤな言葉だ。有ってはならないことでもあるが、これは現実に起こりうるし私自身が実際見聞きしてきたことでもある。悪賢でずる賢いやからは、この国にはゴマンといるのだ。
保険金の水増し請求や詐欺事件であるが、出火原因で最も多い放火はその典型である。保険会社と契約を結んだ物件に保険金取得を目的として火を放てば保険金は支払われない。しかし、当局が放火と断定できなければ民間保険会社は支払いに応じないわけにはゆかない。
そして放火事件の場合、往々にして大幅な超過保険になっているケースが多く、この場合はもっとも悪質な焼け太りとなる。こんなことは社会正義の上から許されることではないが、実際にはかなりの数と金額に上がっているのではないかと推察している。
このことはかつて実務家としていろいろな火災現場を踏んできた人間の一人として確信を持って云えることである。真に恐ろしいことだが経済的な不況が続くであろうといわれている近未来に、焼け太りを目的とする放火は増えこそすれ減ることは無いだろう。

不幸にして火災に遭遇したら
この項の終りに私の体験から若干のアドバイスをしておきたい。なお、これは住宅、店舗など一般的なケースであり、当てはまらない場合もある。  また、記載内容についての責任は一切負わない。

備えあれば憂いなし
いざという時のために火災保険は絶対に必要である。耐火造りでも自火は起こり得る。火事には「失火責任法」が適用されるので「もらい火」で焼けたからといって火元に損害賠償を請求しても原則として賠償してはもらえない。自分で身を守るのが鉄則だ。
(注)失火も刑法上の犯罪だが、民事では重大な過失による失火を除き火元は責任を負わない。
身の安全が第一
人命が第一なので、とにかく外に出ることだ。命を落したりケガしたりしては元も子もない。
焼死する人は少なく、殆どは煙にまかれて倒れることが多いようだ。逃げる時は出来るだけ身をかがめて…
出火から5分間が命の分かれ目だ。脱出するところは最低二箇所を確保し、常日頃の確認が大事だと思われる。
代理店か会社への連絡、報告は絶対必要だ
火災の報告を受けないと保険会社は動きようが無い。警察や消防の鑑識活動が終わったら火事跡をそのままにした状態で直ちに連絡を取る。火災保険証券が無くても契約した代理店か保険会社に連絡すればキチンと対処してくれる。自らの住所、氏名、電話番号だけでOKだが連絡先は覚えておくべきだろう。(自動車保険と同じ会社である場合が多い)
保険会社の現場立会いには協力を
罹災者の協力なくしては的確な調査活動は出来ないので要請に応じて可能な限りの協力を惜しまない。
時に損害見積りの作成、提出を求められるので可能な限り早く提出することが望ましい。
保険金支払いに際して
契約内容を特約を含めてよく理解した上で、保険会社担当者の説明を冷静に聞き、不明な点や疑問点、要望などは整理してキチンと伝える。(感情的にならないように注意)
支払いを受ける際の必要書類は「保険金請求書」であり、担当者から作成依頼がある。罹災者が独自に用意する書類は消防署の「罹災証明書」であるが、これは罹災者が消防署に発行を申請する。

★保険用語は難解
貴方は「保険金額、保険金、保険料、保険価額、時価、填補金、減価償却、再調達価格、一部保険、超過保険、比例填補」などの区別が分かりますか? 一般の方には分からなくて当然です。難しすぎますが知らないと損することもありますのでご注意を。これらの用語は虫眼鏡で読まないと読めないほどの小文字で約款というものに出てくるのです。何とかしてくれよ…と云いたくなります。私は有名新聞や週刊誌でも保険料と保険金を取り違えていたのを読んだことがあります。