オルガンの音に親しんできた世代
昔懐かしい足踏み式のオルガンの音、この懐かしい音をいつまでたっても忘れられない。
子供の頃遊んでいた楽器は木琴、ハーモニカ、太鼓、おもちゃのピアノに手風琴(アコーデオン)などだが、音楽として親しんできたのはオルガンだ。
何しろ小学校時代は音楽の時間だけではなく、毎朝教室で朝礼の際には担任教師が弾くこの音にあわせて礼、をして「よろしくご指導ください」と頭を下げたのだから… 殆ど毎日のように親しんできたのだ。
Y・Тという伯母は教師(小学校か中学)で、家に遊びに行くと当時家庭ではめずらしい大型のオルガンが板の間に置かれていた。足踏みではなく電動式で、鍵盤の上部には数個のストップがついている大型の楽器だった。遊びに行くとこのオルガンを鳴らしてみるのが楽しかった。こんなのが欲しいなぁ…と思ったものだ。
それにしてもかつての小学校教師は音楽専門でなくても皆、唱歌の伴奏程度は器用にこなしていた。教師になるためのカリキュラムに織り込まれていたのかもしけない。
中学からは校内のチャペルのパイプオルガンの音に接してきた。学校が耶蘇教系であったため、賛美歌の合唱をよく行っていたからだ。そんなこともあってかクラシックの世界でもパイプオルガンの音色は大好きだ。


パイプオルガン講座
先日、自宅から近い東京芸術劇場で行われている「オルガン講座」という催しに参加してみた。期待していた以上に内容の濃い講座だった。
ここで得た体験を少しご披露してみたい。


左は会場全景
上は一階の内部
・エレベーターを上がると大ホール
パイプオルガン講座とは?
年に数回不定期に行われている東京芸術劇場独自の企画である。毎回50人程度を対象にして開かれている。応募はだれでも出来るが、現在は受講料を入場券として購入する。(売り出し日に注意)
世界に類の無い二つの顔を持つオルガンの実地見学、レクチュアーを含めて2時間程度のコースであるが、得るものは非常に多い。主たる講師は当劇場専属オルガニストの小林英之氏である。氏はわが国を代表する演奏家でもある。

演奏されるイスに座り、オルガンに直接触って音を出してみたり実際に曲を弾いてみたりすることもオーケーだ。
写真を撮るのも勿論オーケーである。オルガンに興味のある方は是非参加されることをお勧めする。

仕入れた知識
以下はすべて当日の受け売りだが最初にオルガニストの小林氏のレクチャーがあり、その後階段を上り、オルガンの設置場所で実物に触れ説明を受け、更に製作者による解説を受ける。オルガンを正面からだけ眺めるのではなく舞台の裏面に回って観察することが出来た。

★パイプオルガンの歴史はピアノよりはるかに古く、楽器自体の仕組みは昔と殆ど変化していない。
パイプオルガンはふいご、パイプ、鍵盤から成っておりこれは昔から全く変わっていない。
下の絵は18世紀の時代のパイプオルガンの断面だが、変わったのは「ふいご」に風を送るのに当時は人の力に頼っていたのが、現在はモーターを廻して送風機で風を送っている点だけである…ということだ。

★楽器のすべては硬い木と動物の皮で作られている。
種類は、楢、ぶな、桜、ツゲ、黒檀などだ。鍵盤などもツゲの木で作られている。金属はパイプだけといっても間違いではない。しかもこの金属は鉛と錫の合金である。スチールではない。このオルガンの設計、製作を請け負ったフランスのマルク・ガルニエ氏が我々に素材の実物を示し、丁寧に説明してくれた。この人の話も大変興味深かった。

★楽器は基本的にはすべて注文製品で一つ一つ異なっている。
世界中に何台あるかわからないがわが国だけでもキチンとしたオルガンが600台も現存しているという。それらは基本的にすべてが異なっているという。
それはこの楽器の歴史が古く、使い道はコンサートではなくキリスト教会での演奏を主としていたことに由来する。大きさ規模音程スタイルは設置される場所によりすべて異なってる。音程すら少し異なった調律がされているとのことだ。
因みにわが国の結婚式場などにあるパイプ付オルガンは電子オルガンが殆どであり、パイプは単なる「お飾り」らしい。

右はモダンタイプのパイプ群
左は鍵盤とストッパーの一部
右写真は内部の空気を送るフイゴ
左はクラシックタイプのストップ
★芸術劇場のオルガンは二つの顔と3つっの異なるメカニズムを持ったものであり
世界にここだけのものだという。

バロックタイプの正面上部

パイプオルガン豆知識
少し専門的になるが当日聞いた話の一部をご紹介しておきたい。
この劇場のオルガンは事実上3台あり、パイプの総数は9000本もある。そして1本1本すべてが手作りだ。パイプ種類はフルー管とリード管の2種類だが構造はリコーターと同じだ。鍵盤の数はピアノが88鍵なのに対して60鍵どまりだ。
当劇場のパイプオルガンは演奏される作品の年代によりルネッサンス、バロック、モダンというようにオルガンそのものを変えて演奏する仕組みとなっている。世界に例がないということだ。モダンタイプの場合の調律は平均律に近いということだった。少し専門的になるが、オルガンの年表を付しておくので興味のある方はご覧ください。
★オルガン年譜organ.pdf へのリンク

東京芸術劇場パイプオルガンタイプ別内訳

タイプ

調律法

オルガン T

17世紀初頭・オランダ・ルネッサンス

ミーントーン

オルガン U

18世紀・中部ドイツ・バロック

バロック

オルガン V

フランス・シンフォニック

平均律に近い


モダンタイプがバロックタイプに入れ替わるスライドショー
オルガンバルコニー上の巨大なオルガンそのものが回転して、モダンタイプからクラシックに入れ替わる様は見ていて非常に面白かった。
(自動 4こま 5秒間隔  スタートは下の右ボタン、ストップしたい時は左のストップボタンをクリックしてください)

























オルガン音楽の楽しみ
終わりにオルガン音楽のことについて若干感想を述べてみたい。
オルガン独自のリサイタルや演奏会の数は非常に少ない。わが国のコンサートホールには立派なオルガンが設置されているところが多いが、殆どは管弦楽曲の一部として演奏されている。例えば日本人に人気のサンサーンスの「オルガン付交響曲」や、「レスピーギの交響詩3部作」、「Rシュトラウスの交響詩」などだ。ヘンデルなどには協奏曲もあるようだが聴く機会は殆どないだろう。

先日東京芸術劇場で演奏会を聴いた。専属の3名のオルガニストの演奏会だった。近代ものも含めて色々な曲が演奏されたが、やはり何といっても大バッハに尽きる。どれを聴いても実に稀有壮大な音楽だ。
特にフーガの部分は声部がはっきり聴こえて圧巻だ。聴いていて実に楽しく愉快だった。バッハのオルガン曲の中でも「Toccata und Fuge d-Moll BVW 565」 は10分足らずの短い曲だが、適度なハッタリが効いていて爽快な気分になる。最も人気がある名曲であることが うなづける。生演奏は圧倒的な音で終る。

オルガンは「鍵盤楽器」だが、実に「偉大なる管楽器」だということを改めて再認識した。