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乱 歩

◆乱歩氏と私の親父との関係
江戸川乱歩の小説は中学生の頃愛読した。親父の本箱に全集があったからだ。この全集は確か平凡社版で乱歩さんから寄贈されたものであり、直筆のサイン入りの貴重なものだった。

親父は出版社の編集を生涯の仕事としており、かつて乱歩先生のお世話になったことがあるということだった。勿論未だ独身時代であり、「苦楽」という出版社の一編集員として売れっ子作家達の原稿とりに狂奔していた頃のことだ。




★時期は1926年(大正15年)の頃だと思われる。

闇に蠢く」のなまめかしい?挿絵

掲載したのは講談社の江戸川乱歩全集の回顧録「探偵小説40年」
上巻104ページに載っている記事だ。
このときすでに乱歩氏は売れっ子の作家で各誌から執筆依頼が殺到し超多忙だったらしい。
当時親父は大阪にある「苦楽」という出版社の駆け出しの編集員だったらしいのだが、「闇に蠢く」という小説を依頼していた。
ところがこの回顧録によると乱歩先生は執筆中にスランプに陥り、約束した分が書けなくなり逃げ回っていたらしいが、これはそのときの様子だ。
「指方君」というのは間違いなく私の親父のことだ。当時この出版社の編集長は川口松太郎氏であったが、すごすごと手ぶらで帰ってきた親父は何と弁解したのか…

想像するとちょっと可笑しかった。


闇に蠢く
江戸川亂歩 大正15年1月号〜3月号、5月号、6月号、8月号〜11月号(中絶) (1月号の宣伝紹介文)
一變態性慾の畫家と莓の如く妖艶溢るゝモデル女が先づ第一幕の登塲人物。然も讀者は既に江戸川先生の魔の如き筆の儘に引きずられるだらう。


◆乱歩展と展示品
私は中学生の頃、猟奇的で耽美的でおどろおどろしい世界の虜になった。私が愛読したのは「怪人二十面相」などという少年向きの作品ではない。
「ありえない…」と思ってもひとりでに引きずり込まれてしまうのだった。かなり病的でアブノーマルなセックスを連想させる描写もあり、中学生には少し刺激的だったかもしれない。
当時はおおっぴらに読む…というより親の目を盗んでコソコソ読む…といった類の読み物だった。今のようにセックスがあふれかえっている時代ではなく、我々世代にはこのような体験者が多いのではなかろうか。この辺の経緯についてはこのサイトの「思い出話6・3・3制」に回顧してある。

彼はわが国の本格的な推理小説の草分け的な存在であることは衆知のとおりである。その功績は大きい。昨年(2004年秋)のことだが転々と住居を変えた乱歩が最終の住処とした東京池袋で乱歩展が開かれた。まず池袋の東武百貨店で開かれた展示会に出向いた。

色々な興味ある資料や展示物があったが、その中で印象に残ったのは、意外なことに彼が浅草オペラのファンであったらしいことだ。彼が聴いた曲目のリストは自身ペン字できちんと整理されており、その中にはスッペやレハールのオペレッタが多かったがプッチーニやヴェルディの本格オペラ例えばトスか、アイーダ、リゴレットなんかもあった。そして当時の人気歌手の田谷力蔵に対して確か金弐拾円也の当時としては大金を贈ったりした記録があった。
もう一つ印象に残ったのは彼が極彩色の地獄絵、または無残絵といわれるオドロオドロシイ絵の蒐集家だったということだ。池袋、浅草、が小説の舞台になるケースは多く、無残絵も彼の作品にはかなり重要な意味を持つ。

幻影城を訪れる
乱歩は住まいを転々としナント46回も引越しを繰り返している。そして1934年(昭和9年)今から70年前にこの地にやっと定住した。この建物は今、立教大学の所有物になっている。殆ど大学の構内にあるといっても良いほど至近距離に位置している。建物そのものはシンプルなもので特徴は窓が少ないことだ。中庭に入り応接間の内部を見た。何の変哲もない応接間だが、その一隅に8ミリ映写機が置かれていた。
当時としてはかなり珍しいものではなかったか。


乱歩邸玄関

幻影城

中庭

応接間

前編 江戸川乱歩は大好きな作家だ。

「幻影城」といわれる彼の書斎はいわゆる土蔵造りであり、その中で、後半の色々な作品が生まれたらしい。
内部に立ち入る事は出来ずその様子は撮影禁止であったが、おおよそ以下のようになっている。おびただしい蔵書だ。洞窟を連想させる土蔵もまた彼の作品に色々な影響を与えた舞台だと思われる。

乱歩を読みあさる
乱歩の著作は中学生のころから親しんでおり、殆ど総ての著作は目を通している。
下の一節は「魔術師」という中編小説の出だしと挿絵の一部だ。(講談社発行の全集より)
この出だしを読むと面白い。この作品が世に出たのは1930年(昭和5年)、今から70年以上も昔のことだが犯罪都市東京の様子が現代とそっくりなのに驚かされる。
勿論今は其の凶悪性や規模などは比べ物にならないほどオソロシイ街だが、東京という大都会の持つ犯罪性を的確に言い表していると思う。
少しも古臭さが感じられないのは不思議だ。











彼の作品は純文学のジャンルとはいえないと思うが、推理小説、探偵小説としてはきわめて質が高いと思われる。なるほど長編物の中には真に荒唐無稽で読んでいてバカバカしく感ずる作品も結構見受けられる。
晩年の作品を読むと筋書きが陳腐だったり二番煎じだと思われるものもあるのは事実だ。これらの作品の多くは時代の寵児だった彼に対して新聞や雑誌の連載モノに多くの依頼があり、十分な筋書きの推敲や検討などがなされないまま執筆せざるを得なかったという理由もあるのだ。にっちもさっちも行かなくなり途中で投げ出したり、長期にわたり筆を休めてしまったこともあるようだ。

しかし、油が乗っていた頃の中篇または短編の著作には文学作品といってよいほど耽美的で素晴らしいものが数多く見られる。これらは初期から中期にかけての作品に多い。年代的には本格的な作家として認められるきっかけとなった「二銭銅貨」(大正12年)に始まり昭和6年に発表された「盲獣」に至る一連の作品群である。

私はファンの一人だが書評などと大それたことをするつもりはない。
読んで面白いと思った作品は数多くあるが、二三点に絞ってみるとそれは「孤島の鬼」「人でなしの恋」「白髪鬼」などだ。とにかく引きずり込まれるような面白さだ。
短編には優れたものが多いが特に「押絵と旅する男」は傑作だといわれている。妖しく異様なしかも激しいセックスの描写で群を抜いていると思われるのは「芋虫」という短編だと思う。性的欲求不満の妻から弄ばれ、自分も快楽の淵に沈む男が戦地で両手両足を奪われ傷痍軍人であったことから批判にさらされたらしい。
この作品は戦時色が強くなり、日本各地に統制運動が起こり始めると、政府から「全編削除」という厳しい命令が下されたが左翼文学以外では稀有な例といわれている。

彼の作品は怪奇探偵小説だからテーマは人殺しであり、大窃盗であり、男女のカネと愛欲が絡み合うものだ。ただセックスといっても例えば近時、ある経済紙の連載もので、一世を風靡した有名なJW氏の「失楽園」に代表されるような、そのものずばりのセックスが延々と続くというような描写は全く見られない。何か夢の中の出来事みたいな感じだ。
例えば、地底洞窟の中で拉致されてきた美女が全裸で人間寝台を作り上げ、悪の権化である美青年がこれまた裸体でそこに寝転がる…そして洗脳された彼女らは順次彼の寵愛を受けるらしい…などという実に荒唐無稽な情景描写さえあるのだ。
当時の世相は一部でこのような退廃的なものを許さないという風潮があり、乱歩の作品も批判の矢面に立たされたのだ。表現の自由は確立されていない時代だった。

乱歩にはもう一つの側面がある。それは探偵小説の学術的な研究ともいえる論文集であり実に豊富な内外の資料に基づき記述されたものだ。講談社版では全集の15巻目に「幻影城」としてまとめられている。その冒頭に探偵小説の定義と類別という件があり、そこで以下のように定義づけている。
★探偵小説とは、主として犯罪に関する難解な秘密が論理的に、徐々に解かれていく経路の面白さを主眼とする文学である… 全く無駄の無い表現である。

作品のキー


白髪鬼

文代夫人

接吻

魔術師

黄金仮面

作品に共通しているある種のイメージとキーワードがある。
トリックは推理小説共通のテーマだがそれ以外に特有なものとして洞窟、人形(蝋人形)、洋館、覗き見、SM、探偵、魔法、同性愛、変装、劇場などであり、登場人物は「美女と野獣またはとんでもない美男子」が象徴的だ。特異な人として「一寸法師」という人々も数多く登場する。
舞台は浅草が多く、当時東京の郊外だった池袋界隈も犯行現場として多く出てくる場所だ。そして犯行はオドロオドロと春雷が鳴るような、どんより曇った日が多い。


人でなしの恋

暗黒星

探偵

地獄風景

孤島の鬼
乱歩作品の挿絵も興味がある。

もっとも著名なのは竹中英太郎画伯の怪奇かつ優美な画風であろう。
今時にはまずお目にかかる事はない画風であり私自身も好きな挿絵だ。

乱歩の作品は新聞連載ものが多かったこともあり、挿絵は読者にとっても作品のイメージを膨らませ、読んでもらうための重要な要素だったと思われる。
実に不思議な感性を持った絵だと思う。

明智小五郎はホモ(homosexual)?

探偵小説は簡単に言えば、犯人である「加害者」と「被害者」および「探偵」の三者間で繰り広げられる葛藤劇だ。
作品の中で重要な位置を占めているのが「探偵」と言われる人だが、明智小五郎は、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロと並ぶ、世界的な名探偵の一人と言ってよかろう。日本には他にも、金田一耕助や神津恭介などそうそうたる探偵が揃っているが、江戸川乱歩が書き残した明智小五郎をして第一人者といっても過言ではないと思われる。彼のイメージは乱歩の表現によれば「面長なモジャモジャ頭で、好男子ではないが、愛嬌があって講釈師の神田伯龍に似た顔立ち…」と書いてある。

神田伯龍は全く知らない人なので私には想像できないが、明智は英語、フランス語に堪能且つ柔道の有段者で、ピストルの名手ときている。飛び切りのnice guyなのだ。
ところが意外や意外、彼は「魔術師」の娘である美しい文代夫人が居ながら、男色趣味の持ち主なのだ。これは乱歩氏が美少年に大変興味を抱いていたことと無縁ではないだろう。

意外に面白いのは彼と警察との関係だ。
勿論如何な命探偵と言えども犯人逮捕の際には警察のお世話になる。しかし、警察や刑事などは大体が間抜けな存在として書かれている。一種の道化役者だ。
もっとも刑事の中には親友であり敏腕刑事である浪腰警部みたいな人物も登場するので面白い。こんな間抜けでドジばかり踏む警察官を描写して警視庁辺りから何か文句がつかなかったのだろうか。(続く)