よろず相談受けます

さて、前回はいろいろな驚くべき電話相談を羅列しただけで、私が一体どのような対応をしたのかについては一切明らかにしなかった。

今回は少し趣をことにして、いくつかに絞って体験談を述べてみたい。
内容は「死亡事故、脅し」等についてであるが、その前に実録「事故の実態」から始めてみたい。

貴方の運転大丈夫かな?
 

私もクルマの運転は真にヘタで、特にバックでの車庫入れは一回で入ったためしはなく、縦列駐車にいたってはまず何回やっても成功しないので、3台ぐらいのスペースが無いと初めから行わないことにしている。
当事者と電話で話していると実に「ヘタクソ」が多いのにあきれる。

これはあくまで私の感覚的なものだが道路上では@追突事故、A交差点の右折直進の衝突、B広道に出るときの一時停止見落しの衝突、など不注意によるものが目立つ。
だが結構多く見られるのが「駐車場内での逆突事故」で、こんなのはバックのときキチンと後ろを見ればぶつかる筈は無いと思うのだが…

狭い道から広い道路に出るときに「一時停止の標識に従い、停車の後、左右を確認しつつ、そろそろ出たが直進車にぶつかってしまった」と事故の連絡をする御仁が少なからずいるが、「ウソをおっしゃい!それではぶつかるはずがないではないか」と言いたくなる。これは私に云わせれば己の頭を右左に振り、見たと錯覚しただけに過ぎない。教習所では首さえ振ればOKかもしれないが。
◆この場合は狭い道から出た方に80%以上の過失がある。

追突の場合でも直前の車の動静ではなく「前の信号が青になったからアクセルを踏んだらぶつかってしまった」とバカみたいな事を云う御仁が多いが、「一体どこ見て運転しているんだよ、ぶつかるのが当たり前じゃねえかよ!」と言いたくなる。
◆いくら信号が青でも後からぶつけたほうが100%悪い。
しかし、「人間とはこのようなもの」と思い、これらを反面教師として今後はせいぜい運転には気をつけることにしましょうか



事故を起こしやすい場所がある。ドライブの前に確認しておくのも一つの手だ。
(交通安全マップ) という事故多発場所を示した情報が警視庁から公開されている。

地方訛りやクルマの名前
事故の電話による初期対応は、耳が遠いと勤まらない商売だ。相手に対して「えぇ?」と何度も聴き返すのはご法度だ。また、相手に対しては言語明瞭、意味明瞭、よいテンポで歯切れよく対応しないとダメだ。質問されて答えに詰まると、とたんに信用は丸つぶれだが、間違ったアドバイスをするよりはマシだ。

話は短すぎてもダメ、しゃべりすぎもダメ。同情してもすべて同調はダメ、悪態をつかれてもダメなものはダメとはっきり言う勇気も必要だ。あいまいな対応は誤解を招き後日とんでもないことになるのだ。(恥かしながら大失敗したことあり)
事故の相談だから明るすぎる対応はダメだが暗すぎる声もアカン。風邪を引いて咳き込んだり喉にタンが絡まるのは最低だ。二日酔いはアタマの回転が悪くなるので絶対にしてはならない。
ある程度落ち着いた「ジジイ声」は相手を安心させる効果があるようだが中には「お前の声は威圧的だ!」と絡んでくる人も居る。コールセンターの女性オペレーターに対して「オンナじゃダメだ!オトコの上司を出せ!」とわめく人もいる。休日は上司もお休みで居ない。その時は上司に成りすまして対応した。興奮して「社長を出せ!」などと怒鳴るのは論外だ。こういう輩にはアタマを冷やしていただくため当方から電話を切らしていただくしかない。

範囲は当然全国区だから、北は北海道から南は沖縄までと言うことになり、困るのは地方の訛りで、特に東北弁は苦手だった。電話の声はひどく分かりにくいものだ。
また、土地の名前も書けないで困る場合が多く、しかたなくカタカナで書き、後で郵便番号簿で調べたりしていたが…

相談」はある程度想像で補うことが出来るが、最初に出て「事故受付」を行う女性オペレーターは気の毒だった。「ヒドイ地方訛りで何を言っているのかぜんぜん判らないので何度も聴いたら、とうとう先方がカンカンに怒って電話を切ってしまった。すみません」と言うのがあったが笑い事ではない。こんなのに出くわしたらコトだ。
最近は外国人の事故も多くなっている。ムハマッド某‥などという方が電話口に出るとヒドク緊張した。
事故の内容や病気ケガのことについて説明するのは自国語でも至難の業で、通常は慣れたオペレーターがマニュアルに従ってリードし、やっと出来るのだ。外国人に要求しても日本語で出来るわけがない。しかし、当方は英語がからっきし話せないからこうなると悲劇だ。こんな時つくづく「英語が話せたらなぁ」と思った。サービス業のホケンにはこれからはこのような人材が必要とされるだろう。

最近の自動車会社から売り出されるクルマの名前にも困ることが多い。私はクルマには興味があり、「間違いだらけの‥」とか雑誌などをよく見るほうだが、最近の車には珍奇な?ネーミングが多く、損傷車両の確認や代車手配の際、相手にクルマの確認をする必要があるが、よく判らず困ることがあった。

例えば次のようなクルマが市販されているが、どこの車でどのようなタイプで幾らぐらいするのかお分かりですかな?

「イスト、サイファ、デミオ、スイフト、ストーリア、モビリオ、プレミオ、オーパ、プログレ、ティアナ、ストリーム、ディオン、アルファード、ヴォルツ、エアトレック、フォレスター、ハリアー‥」等々だがこれは皆れっきとした国産車なのだ。これに外車が加わるともうお手上げだ。一社ぐらい日本名をつける会社があってもよさそうなものだが‥

事故はトラウマだ
年末年始やゴールデンウイーク、盆休みなどは事故のかきいれどきだ。
皆がお休みでも事故は休んではくれない。この時期事故が多発するのは当然だ。
条件がそろっている。即ち、交通量の増大、不慣れな道のドライブ、疲れ、イライラ、飲酒、年末寒波のスリップ事故などである。事故を起すと大変だ。病院や修理工場は休みで
クビが痛い程度のケガは休み明けにしてくれと断られることが多いのだ。動けなくなったクルマはレッカーで運ぶだけだ。
正月元日,早朝からコールセンターに詰めるのは変な気分だが朝からダラダラ酒を喰らうよりはよい。

おめでたい筈の元旦に死亡事故を起す人も結構居るのだ。また、盆休みにご先祖様のお墓参りのとき人をひき殺してしまったり、自分自身がお陀仏になるケースもある。
ヘンな話だが、火事の原因で結構多いのが仏壇のローソクから出火し丸焼けになるケースだ。事故の発生に因縁話は関係無く、神仏にいくらお祈りしても決して守ってくれない。総ては一寸した人間の不注意から大事になるのだ。私は事故を相手に永年商売して来たホケン屋だったのでそのことを身をもって体験した。

こんな時に電話相談は当事者にとっては唯一の心の拠り所になりうるのだ。しかし、この道のプロでも単に電話だけで事故に関わる詳細な判断情報を正確にキャッチすることは不可能だ。更に何等権限を持っていない相談員としては決定的なことを言ってはいけない。だから困惑することも多い。

事故を引き起こすと大半の人が一種のトラウマを受ける。
その程度は人によっても事故の態様によってさまざまだが、人身事故など重大事故の場合のショックは大きいことが電話の向こうから伝わってくる。聴いていると本当に気の毒になってくる。

ある正月休みの朝、地方の若い女性契約者から泣き声で相談を受けた。泣きながら途切れ途切れ訴え、動揺の為、要領を得なかったが、曰く
「初詣に出かけ走行中、突然反対車線からクルマがふらふらとセンタラインを越えて自車線に入り、よけるまもなく正面衝突した」と言う。自車は父親の大型乗用車、相手は軽自動車だった。

勿論双方が大破したが当方はエアバッグも開き軽い打撲で済んだが、初老の相手ドライバーは外に投げ出され即死状態だったという。クルマの強度が全く違っていたのだ。
彼女は大きなショックを受けた。そして
「相手の通夜や葬式に出る必要があるのか無いのかを教えて欲しい」と言うものだった。

私は即座に「絶対出席してはならない」と強くアドバイスした。
この事故は相手が亡くなっているが、相手の一方的な事故であり当方に一切の過失は無いことがあきらかだと判断したためである。むしろ当方が被害者なのだ。落ち着いたら相手遺族に対して車の損害等について損害賠償請求を行うようにアドバイスした。
彼女は電話口で嗚咽しながら消え入りそうな声で何かを云い、30分も電話を切ろうとしなかった。相手が死亡したという事に大きなショックを受けたのか、何度も「葬儀には本当に出ないでもよいのか」と聞き続けていた。最後に納得しやっと電話を切った。

このようなケースで下手に葬儀に出ることは自分にも非があることを認めることになるというのが私の判断であった。ただこのような判断を下すにはリスクを伴うこともあるのだ。事故の過失割合を「0対100」と確信できないとコワイ話だ。

私には一日の仕事量の目標を与えられていた。次の相談案件が数件既に机の上に載っていた。9時から5時まで昼休みを挟んで15件の相談をこなす必要があった。対応内容は当然記録し報告書にして担当部署にファックスする必要がある。それをしないと休み明けに担当者がキチンとしたフォローは出来ない。レポートを要領よくまとめるには慣れと速記能力を要求され15件という目標はかなり厳しく、こういう長電話は避けたかった。
因みに私は内容はともかく、スピードだけは他の数人居た同僚より速く、ノルマは殆どクリヤーしていた。

一日置いた翌日の夕刻になり、彼女から小生宛に電話があった。前回とは異なりしっかりした口調で礼を述べた上、アドバイスどおり「通夜や葬儀には出席しなかったこと、葬儀の後で相手遺族が謝りに来宅したこと、警察も相手の非を全面的に認めたこと」などを話してくれた。
私は人助けが出来たと思った。今後彼女がPTSD(心的外傷後ストレス障害)にならないことを祈るのみだ。
因みに死亡事故の際、加害者側からよく聞かれるのは「香典を幾ら包んだらよいのか‥」というものだ。確かに困るだろうなぁ。

現代はトラウマを受けている人は大勢いる。しかし、心の悩みをキチンと聞いてくれる人は殆どいない。人々は孤独で寂しいのだ。自動車事故もその例に漏れず、当事者にとっては「肉体的な外傷」以外に大きな「精神的外傷」を受ける事が多い。重大事故は当事者にとっては正に「オォ!マイ ガ!」なのだ。この商売はウオームハートを持ち、カウンセラー?としての役割も場合によっては必要かも知れないと思うようになった。
私はそれまでは能率一辺倒で処理件数しか頭に無かったのだ。

◆上記写真は今回の話題とは直接関係はありません

迫られるギリギリの決断
相談員には決定権はなくリップサービスで安心させ、原則として総て先送りし、担当に委ねる。案件が総てこのスタイルでOKなら全く「気楽な稼業」だが、そうは問屋が下ろしてくれない。

事故現場から携帯電話を使って厳しい要求が出た場合、契約者の立場を考え、緊迫したギリギリの選択を迫られる場合が少なからずあるのだ。これがこの商売の辛いところだ。
昔と異なり携帯という便利なツールが現れたため、ホケンのフリーターなのに否応なしに修羅場に引きずれ込まれてしまうのだ。
出来れば避けて通りたいのだが運悪く?こんな案件が回ってくると身の不幸?を嘆きたくなる。例を挙げてみよう。

築工事現場で駐車中の大工さんのクルマにぶつけ、後部ドア等を破損した。
謝ったが、若く威勢の良い被害者は激怒し帰してもらえない。とても困っている。
今すぐに何とかしてくれと事故現場から切羽詰った声で依頼。

相手被害者の携帯へ電話したところ曰く「クルマには大切な道具が積んであり、壊された。仕事中盗まれたらどうするのか!加害者には一日中見張らせるので決して解放しない!」と興奮してど迫力ある大声で怒鳴りまくる。(気持ちは判らぬでもないが…一種の軟禁状態におくことになり許されない行為である)

私は例によって電話に向かって平身低頭??謝り「直ちに現場に同等のクルマを手配するので積荷を移し変えること、道具類の損害は後で確認し、補償するのでリストアップして欲しい、壊れた車は修理工場に依頼し運んでもらってください」と懇願し、やっと許してもらった。

この間契約者は呆然と?現場に半日立ち尽くし、私のアドバイスに上の空で「ハイ、ハイ」と答えるだけ。よほど脅されたのかすっかり怯えた声は聴いていて気の毒になった。

コワイ大工は最後に「加害者はぶつけておいてグズグズし何の誠意も示さない!許せん! お前(相談員)は具体的に動いたので誠意を認め、解放するが今後の対応によってはタダでは済まないぞ!」とすごんだ。
実はこの商売ではこんなケースは枚挙に暇が無いのだ。こんな程度のことで驚いたりビビッたりしていては落第だ。

このようなことを一々緊急連絡網でお休みの社員のご自宅に電話相談し指示を仰いだら一体どうなるのか。(連休時は、電話しても留守が多い)
それこそいい迷惑であり、何のための初期対応かと批判が出るのは必定だ。契約者からの信頼も丸つぶれになる。「相談員だから云々」はユーザーにとっては一種のいい訳としか受け取られず、事故という緊急事態では通用しないのだ。
怒鳴られる程度のことは日常茶飯事であり、平気だったが中には人格を否定するような罵詈雑言を浴びせる者も居る。だが相手は総てお客様だ。キレたら総てがオシマイであり、ジット我慢の子だった。
さすがにこんな目に合うといくら商売だとは云え後々まで尾を引いた。この仕事を辞める前に一度こんな客に大声で「ザケンナょ!バカヤロー!」と怒鳴って辞めたかったが‥
こんなときは帰宅してから飲む酒の量が増えグチになり、聞き役の家内には大変迷惑をかけたと思う。それこそこちらがトラウマを受けてしまうのだ。

相手から不当な請求を受け脅されているという相談も多い。脅されたときにどう対処したらよいのかは切実な問題だ。これは別の機会に述べてみたい。

過失相殺豆知識
あなたはどこかでこんな表を見たことはありませんか?

これは
自動車事故の過失割合をパターン化したものだ。
このケースは「車同士の右折車と直進車の事故の過失割合」を示している。

「過失相殺」とは加害者、被害者間の不公平をなくすために過失の程度に応じて当事者間で損害賠償責任を負担し合うと言う制度だ。星の数ほどある自動車事故だが、全く同じものは無いので、過失についてキチンと決められるのは裁判官だけだ。
事故のときに立会った警察官が過失割合をほのめかすことがあるが、これは民事に属することであり不用意な言動だと思う。
実際の運用面ではホケン屋、弁護士等実務家は、過去の判例を基準化した資料等によりケースバイケースで判定している。

一番多く発生しているクルマ同士の衝突事故を例に挙げると

◆駐停止中のクルマにぶつかる

◆信号無視してぶつかる

センタラインを越え反対車線に入って衝突
などは100対0だが他の殆どのケースは、双方に過失が生ずる。右の例では右折車に70〜80%の過失、直進車に30〜20%の過失があるとされている。

駐車場のような交通整理が行われていない場所などでは原則として5分5分と考えてよい。
双方が自己の過失云々で主張を譲らず争いになり示談できないケースは非常に多い。

特に損害が大きくなれはなるほどその傾向は大きくなる。

ひやりマップ