地域・おもしろマーケティング大賞 田中屋 目白
豊島区中小診断士会(西川会長)および豊島区商店街連合会(足立会長)の共催で行われた「地域・おもしろマーケティング大賞」シリーズも、いよいよ最終回を迎える。今回は、「おもしろ大賞」部門の「最優秀賞」の栄誉に輝いた酒類販売店「目白・田中屋」(目白3-4-14)を紹介したい。
店はJR目白駅のすぐ脇にあり、近くには深緑の森に囲まれた学習院大学のキャンパスが広がる。周りはファッショナブルな服装に身を包んだ若者たちで賑わい、まさに活気溢れる環境の中にある。
「目白・田中屋」は昭和二十四年、先代がこの地に創業。現在は田中豊三さん(五二歳)が三代目を継いでいる。地下一階にある店は、二年前に喫茶店から酒類専門店へと、リニューアルオープンしたばかりだ。喫茶店だったその頃、秋篠宮殿下と紀子様が、学習院大学の帰りによくデートに使われていたそうだ。当時はビルの数フロアーに渡り、果物屋・酒屋・喫茶店など幅広く経営し、従業員も百人程度抱えていた。だが、オーナーの田中豊三さんが高血圧で体調を崩され、「ゆっくり商売したい」と、酒類販売の専門店として再スタートしたという。
品揃えは豊富で、国内はもとより世界各国から集めた珍しい洋酒など、千二百種はあるという。特にコニャックには特段のこだわりを持っている。フランスのコニャック市に出向き、葡萄農家を直接訪ねて検分しているそうだ。選び抜かれた名酒が、四方の壁にぎっしりと並んでいる光景は、まさに圧巻という他ない。マニアが好む店として、マスコミに何度も取り上げられたこともあって、近隣の目白や池袋のみならず、遠方からの来客も多いという。
取材には、店長の栗林幸吉さん(四五歳・写真左)と、番頭歴五十年の中村武彦さん(七八歳・写真右)が応じてくれた。
「店がいい場所にあるので、他でも扱っているようなものは置きたくない。社会に貢献できるような商売でありたい」と、栗林さんはいう。
現在コニャック市には、ワインを造っている葡萄農家が二千軒くらいあるそうだが、その殆どが零細農家だという。そのため、世界に通用する名酒を造っていながら、宣伝する力がないため、片田舎の酒蔵に眠っているものがごまんとある。そうした中から「人知れぬ名酒を発掘し、日本の市場に広めてあげたい!」と、当店が中心になって昨年七月に「日本コニャック協会」を立ち上げた。「日の目を見ぬ名酒造り農家のために、その代弁者となってあげられれば…」というのが設立の趣旨だそうだ。
その昔、近江商人の心得として「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」というのがあった。当事者だけではなく、世の為、人の為になることこそが商売の真骨頂だとのこと。「金儲けよりは社会貢献に力を注ぎたい」と、オーナー田中豊三さんは常々語っているそうだが、その心は、近江商人の心意気を感じさせるものがある。(山口)
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