B型肝炎ワクチン接種全額助成
医師会独自では全国初 2300万円予算計上
公益社団法人豊島区医師会(渡邉伸介会長)は、医師会独自としては全国で初めてB型肝炎ワクチン予防接種の全額助成事業を開始することとなった。これまで行政等に助成を要望してきたが、今回まず医師会独自でスタートすることにしたもので、今年度は約2300万円の予算を見込んでいる。対象者は2カ月から1歳未満の豊島区民。接種開始は9月1日からで、区内の豊島区医師会指定医療機関で受け付けている。1人につき3回まで、任意接種費用の全額を助成する。
渡邉会長に事業内容等お話を伺った。
――まず事業の意義について。
「日本の予防接種の常識は、世界の非常識と言われています。ワクチン接種で防げる病気(VPD：Vaccine Preventable Disease)に対してワクチン接種で発症を防ぐことは、世界の常識です。デメリット(副作用)よりメリット(国民の健康・生命を守り、かつ費用対効果が高い)がはるかに優るからです。未だに任意接種に据え置かれているB型肝炎がその非常識の典型例でしょう」
「1992年(約20年前)にWHO(世界保健機関)は全ての小児へのB型肝炎ワクチン接種を勧告し、昨年の時点で世界の95％の国(184/194)で定期接種化しています。残り5％には流行の少ない北欧を除けば、日本・赤道ギニア・南スーダン位しかありません。ソマリアやハイチも数年前に日本の仲間から去りました。ちなみに中国・北朝鮮は90％を超える高い接種率であり、アジアでは日本だけが取り残されています。しかし日本は決してB型肝炎ウィルス(HBV)感染の少ない国ではありません」
――なぜB型肝炎ワクチンが重要か。
「B型肝炎ウィルス(HBV)に感染すると、急性肝炎・劇症肝炎・慢性肝炎・肝硬変・肝臓がんを発症するリスクが生じます。乳幼児で感染すると持続感染(キャリア)に移行しやすい。特に0歳児は90％と確率が高い。若年成人に性感染症などで広がりつつある遺伝子型Aは約10％がキャリア化しうる。母子感染だけではなく『水平感染』があり、家庭内(父子感染)や保育所・運動部での集団感染事例も散見されますが、これは感染源が血液や体液だけでなく、唾液・涙・汗などにも存在するからです。いずれにしろ一度B型肝炎ウィルスに感染すると高額の医療費がかかり、ワクチン接種の方が費用対効果から有利であることは、世界の常識です」
――なぜ医師会が助成するのか。
「B型肝炎ワクチン接種の助成事業は、水痘やおたふくに比べて少なく、全国で10数ヶ所の自治体にとどまり、ネグレストされてきました。他のVPDと違って感染しても自覚症状がなく、B型肝炎が臨床上問題になるまでの経過が長く、すぐにアウトカムを求める自治体の事業にそぐわないことが、一因となっています。豊島区医師会も要望してきました。しかし早急にB型肝炎ワクチン接種の開始が必要と考え、6月の総会で医師会独自での助成を決定しました。補正予算で、2300万円を計上しました」
――最後に。
「風疹患者が1万人を超えましたが、ワクチン未接種の年代に一致し、80％が男性で、20～40歳代が多くを占めています。先天性風疹症候群(CRS)が12人も出ており、それを恐れた中絶が増加し、少子化対策に逆行しています(同じ厚労省担当)。VPDをワクチン接種で防いでいる先進国では、考えられないことで、米国は日本への渡航警戒レベルを1段階あげました。一方日本は、アジア・アフリカにワクチン接種拡大プログラム(EPI)として多額の援助をしています。又JICAは、ベトナムに風疹ワクチン(MRワクチン)製造を支援していますが、8月になると日本国内の風疹ワクチンが足りなくなる予想が出ています。アジア・アフリカより日本の子どもを守ることが優先されるべきです。資金が足りないのではなく、使い方が間違えているのです」
「今回の医師会独自の助成が、VPDを知る切っ掛けになれば幸いです。B型肝炎のキャリアになってしまった子供に、「なぜワクチンがあったのに、私には打ってくれなかったの」と言われないためにも」。
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