2016年1月

第3104号 2016年1月01日号


タバコは地域創生の「トゲ」
 巣鴨高岩寺住職・医師 来馬 明規


 不本意ながら、新年の挨拶に代えて「残念な話」をお伝えすることになった。筆者が医師・僧侶として取り組んできた「タバコ問題」に関してである。  今春、地元の大学に「地域創生」を学ぶ新学部が開設される。

 おめでたい話である。都市への一局集中や地方の過疎など、日本社会の諸問題に実践的に取り組む人材の育成が始まる。学生は企業や地方自治体から注目され、卒後は即戦力として大いに期待されることだろう。

 大学はすでに全国の地方自治体と連携を深め、学生実習の拠点を確保している。少子化に危機感を感じ、大学は新学部に渾身の力を投じていることが見て取れる。巣鴨の街も「身近な実習教材」になるだろう。仏教系の大学でもあり、高岩寺は新学部に対し、最大限の協力を惜しまない立場である。

 ところがである。驚いたことに新学部の中心的存在となっているのは、喫煙者であることを公言し、「喫煙文化人」として長年タバコ産業の寵愛をうけ、禁煙推進団体を口汚く罵(ののし)ってきた客員教授なのだ。その教授は人気著述家でもあり、数々の論文のなかで「禁煙運動はファシズムで欧米のサルマネ」「禁煙屋はヒトラーでタバコ取り締りの権力欲中毒」「禁煙運動より自動車反対運動をすれば良い」「喫煙と肺癌の因果関係は証明されていない」「受動喫煙に害はない」などと荒唐無稽な言説を展開している。

 これらの発言は根拠が薄弱だ。何度読み返しても教授自身のニコチン依存の言い逃れか、タバコ産業の片棒担ぎ、つまり喫煙者に卒煙を諦めさせ、タバコ消費維持を狙った低俗な虚言としか受け取れない。

 医師の使命は「公衆衛生の増進に寄与し国民の健康を確保すること(医師法第一条)」であり、「タバコ産業から金銭・物資を受け取らない(世界医師会1997)」ことが求められる。作家であれば暴言も「表現の自由」の範囲内かもしれないが、医師・教育者の発言ではない。教授は医師免許を返納し、大学当局は処罰の検討が必要だろう。

 一例ではあるがタバコ礼讃を繰り返した関東地方の麻酔医は、所属する病院から処分をうけている。病院の規則に反し、事前承認を受けずに出版・講演を行った結果、真に受けた患者等が他の医師らの禁煙指導に反発し、同病院の診療を大混乱に陥れたからである。

 切り口を変えてタバコと地域創生の関係を見てみよう。タバコは消費地における健康問題のみならず、原料の葉タバコを生産するアフリカ、アジア、北米・南米諸国にもさまざまな害を及ぼしている。労働搾取、小児労働と職業性ニコチン中毒(写真)、無秩序な開墾、化学肥料や農薬汚染、葉タバコ乾燥燃料の調達による森林破壊などがまん延し、地域がニコチンビジネスの食い物にされているのだ。

 つまりタバコは一部に利益をもたらす反面、原料生産地域が荒廃し、消費地域では人がタバコで死んでいる。「タバコがもたらす富と破壊」は、「地域創生」の理念とは相容れないのではないだろうか。

 残念ではあったが筆者は昨年末に高岩寺を代表し、大学幹部に対して「利益相反」のために新学部への全面協力がむずかしいことを伝えている。

 とはいえ、教授もタバコ産業の傀儡(かいらい)として踊らされているだけの被害者なのかもしれない。実は教授の言説の多くは「タバコ産業が編み出した古典的レトリック」の受け売りであり、タバコ産業への名義貸しのようにも見えるからだ。教授の周囲からは「教授に勧められたおかげで禁煙することができた」「シャイで大人しいのに、こんな暴言を吐くのは信じられない」という声も聞かれる。

 いずれにせよ、教授も大学も「タバコという悪縁を絶つ」決断が求められる。すでに教授の顔貌や声質にはタバコの悪影響があるようだ。筆者は「タバコというとげを抜く」のが専門なので、ぜひこのとげ抜きをお手伝いしたいものである。(とげぬき地蔵尊高岩寺住職・医師 社団法人日本禁煙学会監事)


»» BACK

«« Go to TOP


トップページ バックナンバー 豊島区の選挙 紙面で見る
区民の歴史
リンク集 豊島新聞について

豊島新聞綱領

本社事務所
〒170-0013
豊島区東池袋
1-21-11
オークビル5F

豊島新聞は
毎週水曜日
発行です

民の情報紙

株式会社
豊島新聞社

豊島新聞
TEL
3971-0423
FAX
3986-4244
情報・投稿
購読申込み
購読料
3ヶ月2,700円