2001/12/16
◎「嗤う伊右衛門」京極夏彦作 角川文庫
彼の作品は、妖怪オタクともいうべき作品ばかり読んでいた所為か、怪奇小説かと思って読んだが、なんと純愛小説だった。勿論「伊右衛門」といえば、四谷怪談の民谷伊右衛門の事。鶴屋南北の「東海道四谷怪談」とは全然違っていて、怪奇小説だと思いながら読んだ私には、嬉しい誤算だった。始めは作者の腕なのだろう、読んでいてゾクゾクする程の恐さがあった。登場人物達の喋り方や、廻りの様子の表現が秀逸で、文章から恐さが滲み出てくる。だからこそどんな恐い話になるんだろうと思っていたら、なんと主人公の伊右衛門とお岩さんとの切なくも悲しい恋物語。これには感動してしまった。中盤からの登場人物達の流れは現代のサスペンスドラマ風であり、その所為もあってか物語の展開が始めの恐さを半減させているが、その反面お岩さんの現代女性的な魅力と、世の中を斜めに見ているが心優しい伊右衛門の心情が際立ってきて、どんどん惹きこまれていく。いうなれば障害者とでもいうべき顔の崩れたお岩さんの人間的な魅力と、外見を一切気にしない伊右衛門やその仲間達の心根(鶴屋版の四谷怪談とは全然違うのだ)お岩さんと伊右衛門ばかりでなく登場人物達の異常なまでの愛と憎しみ。そして狂気へと変わっていってしまう悲しさ。これは現代にも通ずる江戸時代の「美女と野獣」の悲恋版である。
2001/12/9
◎「火城」高橋克彦作 角川文庫
6年前にPHP文庫から出版された作品の角川での再販物。作家は勿論「写楽殺人事件」で華々しくデビューし、最近歴史物なんかも多く書いている。何年か前のNHKのあの時間帯を確保した原作者でもあるから、もちろん知らない人はいないと思う。「総門谷」シリーズなんかとは違って、まっとうな歴史小説である。ワクワクドキドキの冒険物が好きな私としては、最近少なくなってしまった冒険物の時代設定は歴史上の話にするか、SFにでもするしかないと思いこんでおり、そういう意味でも大変参考になる。時は幕末であり、チョイ役で、幕末から明治にかけての有名人が登場してくるが、本当にチョイ役であり、この本を読んでしまうと主人公の生き様が非常に魅力的であり、感動を与える。主人公は後に日本赤十字社の生み親らしいが、あの頃の勉強を殆どしなかった私には、そういえばそんな人もいたっけなぁ、なんて思いしかない。大体私は歴史というか社会は嫌いだった(笑)が、最近は年のせいかも知れないが、昔の話って面白いと思えることが多く、年を食ったんだろうなんて思いもあったりする。とにかく主人公は魅力的だ。幕末というと、坂本竜馬なんて名前も浮かんでくるが、彼らとは違った生き方をしている主人公は、今の日本はダメだとは思っているが、幕府が倒れても倒れなくても、未来の日本を作るために自分が出来ることは、世界に誇れる技術力だと気付き、その為の奮闘が凄まじい。佐賀藩という中で、視野は既に世界を見ており、ペリーが黒船で来る前に蒸気船を作ろうと人を集め藩主を説得し、その為に働いていく。自分では出来ないと判り落ちこんだりするが、出来る様にする為の人材を集め、結局プロデューサーとしての仕事をしていく。こんな魅力的な人が何故今までドラマなんかにならなかったのかと不思議に思えてしまうのは、きっと私だけではないだろう。勝海舟の無能ぶりがチョット出て来たりするのも面白い。とにかくこれは是非読んで欲しい。幕末といえば新撰組や坂本竜馬ばかりでなく、佐野栄寿(常民)という人がいて日本の為にどんなことをしたのか、とにかく「泣き」の栄寿は魅力的だった。
2001/12/02
×「ソロモン王の絨毯」バーバラ・ヴァイン(ルース・レンデル)作 羽田詩津子訳 角川文庫
タガー賞受賞の作品という事もあって期待して読み始めたが、結論からいって面白くなかった。始めの半分位まで、何が何だか判らないのだ。登場人物が目まぐるしく変わっていき、しかも途中に地下鉄の話が挿入されていて、どんな伏線があるのかが判り難い。しかもこの作品は事件が起こってからの話ではなく、こうして事件が起こったという説明になっている。へぇーっ、面白そうじゃん。と思うかも知れないが、私には付いて行けなかった。謎解きを期待して読み始める読者には、はっきりいってこの作品はあわない。コロンボの様に犯罪を犯した犯人を読者は知っていても、何故この人が犯人だと判ってしまうのかを、コロンボの推理が解き明かすというあのダイナミックな展開とは違っています。ただ単に事件の背景がだらだらと書かれているだけなんですよね。まるで事件から何ヶ月かして後追い記事を読んでいるようで、ストーリーとしての緊迫感がない。確かに事件になりそう(ラスト近く)になると少しは面白くなっていくんだけど、小説を読んでいる感じはしませんでした。この原因が訳者の所為ばかりだとは思えなかった。
2001/11/11
△「星の国のアリス」田中啓文作 祥伝社文庫
始めて読む作家だったが、途中までは結構面白く読ませて貰った。しかし推理仕立ての話をラスト近くで解説する人物が、なんでこんな奴なのと疑いたくなるような、頭の良さというか御都合主義というか、少し悲しくなってしまう。吸血鬼ものというテーマでの競作の1作なのだが、吸血鬼がラストまでわからないという面白さはあるし、ひょっとしたら吸血鬼というのはいなくて、犯人のトリックなのかとも思わせる話も、読んでいて面白いといえば面白いが、これも少し短過ぎて随分はしょった感じがしてしまった。
△「日曜日には鼠を殺せ」山田正紀作 祥伝社文庫
久しぶりの山田正紀の書き下ろしSFなんだけど、短いせいかちょっと物足りない。まるで「バトル・ランナー」の様な設定がこの作品の欠点かも知れない。登場人物は魅力的だし、冒険物に似た魅力もあるんだけど、中途半端な感じがしてしまう。ただこの作品の主人公が、誰なのかが判らないような話しの進め方は面白いとは思った。生き残りのゲーム?だからこそ読んでいるうちに、誰が生き残るのかを予想してしまうのだが、作者に裏切られていくのは、少しの快感ではある。最後まで主婦の名前がわからないというのも、ちょっと洒落てはいるが、やっぱりもう少し長い作品として読みたいと思う。
△「源内万華鏡」清水義範作 講談社文庫
清水義範のマトモな歴史物?を読むのは2作目だと思うが、今回の話は平賀源内のお話。平賀源内といえば殆どの人が知っているであろう歴史上の人物であるし、どんな切り口を見せてくれるのかちょっと楽しみにしていたのだが、期待した分はずれの気持ちが大きくなってしまった。日本初のコピーライターだとか、芸能人的な人間だったとかいうのは今更古い(言いつくされている)という感じがして、平賀源内を知らない人にとっては、面白いと思えるのかも知れないが、はっきり言って面白い作品に仕上がっているとは思えなかった。色々な人に良い影響を与えた人物だったんだという以外に目新しい人物像が浮かんでこない作品になってしまっている。ちょっと残念。
2001/11/03
○「海王伝」白石一郎作 文春文庫
前作「海狼伝」の完全な続編。前回は、村上海賊から離れて、西洋式の帆船や中国のジャンク船などの良いとこどりの船を作って、昔世話?になった対馬近海の海賊をやっつけ、船頭(ふながしら)だった親分を殺されてしまった後に、笛太郎が船頭になり中国へ貿易に行こうとする所で終わってしまったんだけど、今回はサブの主人公が山育ちの牛之介。動物にも優しい彼は人とのコミュニケーションでも偉容な能力を発揮し、シャム語なんかも喋れるようになってしまう。と彼の事はいいんだけど、話は村上海賊だった父が、明国の海賊となっているらしいという噂を知り、会いたいんだけど彼の噂が良くない。母は彼の帰りをずーっと日本で待っているというのを考えると、悩んでしまうというストーリー展開になっている。結局、異母弟が出て来たりするし、ラストでは父親に会うんだけど、父親は結婚したはずの母の事さえ覚えていないし、自分の事も知らない。知っていて言わないんじゃなくて、本当に忘れてしまっている。そんな父と戦うハメになってしまい、その開戦も凄まじい。たった1艘で敵は小さい船ながらも100艘ほどという状況で、どうやって闘い抜くのか…。いやぁ、今回の話も面白かったぞい。冒険物というか人間として成長する話としては、こちらの方が上だろう。でも何故か私は「海狼伝」の方が面白かった。
○「海狼伝」白石一郎作 文春文庫
前回の「航海者」に引き続いて、やっぱり買ってしまった白石一郎。地理に詳しくない私は特に九州方面の地名が出てくると、どこだろうなどと思ってしまいますが、対馬で育って海賊にさせられ、瀬戸内の村上水軍(海賊)に捕まったのが元で、その中の客分的存在の商人のような親分の手下として、海と船に魅せられて育っていく男の物語。直木賞受賞とい事もあるし、冒険物だという事もあるんだろうが、私はこういうの好きです。前回の「航海者」は歴史物という感じがしたけれども、こちらは完全な創作物という感覚で歴史に埋もれたエピソードのような感覚でした。海賊というと、なんだか荒くれ者の犯罪者の軍団という感じがしてしまうんだけど、確かにそういう部分もあったにはあったようだが、当時の日本でいう海賊(特に村上水軍)は、瀬戸内海の通行料(積荷の1割というから暴利ではある)を取って、航海の安全を見守る役をしていたようだ。しかし流石に冒険物だけあって、主人公の笛太郎の成長していく姿が楽しい。
2001/10/20
◎「航海者」上下巻 白石一郎作 幻冬舎文庫
久しぶりの時代劇(でもないか)三浦按針ことイギリス人のウイリアム・アダムスが航海をして日本に辿りつき死ぬまでの話。海洋冒険物とまではいかないが、当時の航海の大変さと、家康の度量の大きさなどが、充分に覗える作品。久しぶりに良い作家に出会った感があった。名前は知っていたが、読んだことがなかったのだが、この本は面白い。「航海者は、航海することが必要なのだ。生きることは必要ではない」というコロンブスの言葉として出てくるそれは、冒険小説のテーマとも言えると思える。「山がそこにあるから…」というあの言葉よりも胸を打つ。生きることは必要ではないと言いきってしまう彼らの心情に敬意を表したい。こういうテーマで小説が書ければ、いう事ないんだけどなぁ。
しかし仙台あたりまで探索と称して出かけていった時には、仙台で製造された西洋帆船の手助けをするという話でも出てくるのかと思ったけどそういう話は出てこなかった。隆慶一郎の未完になった「まだ見ぬ海へ」の主人公の向井正綱なんかも出てきて、楽しくなってしまった。今度は彼の、海狼伝でも読もうかと思ってしまうのであった。
○「銀魔伝 源内死闘の巻」井沢元彦作 中公文庫
前作の続き、早く次のが出ないか楽しみだ。今回は、あの悪評高き田沼意次が平賀源内らと一緒になって銀魔を倒そうと頑張る話ではあるが、やはり銀魔の力は強く、田沼も結局は歴史の中から追い出されてしまう。源内が殺人を犯して投獄され牢屋で死んでしまうというのは、仲間である田沼らの手引きで、死んだ振りして脱獄するという話になっている。しかし銀魔が何故鎖国を強要したり、通貨統一をさせないでいるのかの謎がまだ解き明かされていない。両替商だけが儲かる仕組みと、商人から税金を取らないという政策を続けさせる意味とが、日本の発展を拒んでいるような闇の力の方向が見えないのはもどかしい。やっぱり続編に期待してしまう。
2001/10/10
○「銀魔伝 本能寺の巻」井沢元彦作 中公文庫
久しぶりに井沢さんの本を読んだ。シリーズの1作目。どちらかというと、半村良の伝奇物の系列です。だからとっても面白い。遥か昔から日本の裏世界でこの世を取仕切っている銀魔(銀様から銀魔になったらしい)が、タイトルにある通り本能寺の変の糸引きをしていたというお話。明智光秀は、本能寺で信長を討たなかった。それは信長が銀魔の要求を撥ね付けた為に、銀魔達に罠をかけられ、明智光秀の城の留守居役である別の人を操って、本能寺へ襲撃したという話になっている。しかも秀吉も実情は知ってしまうが、天下を取るチャンスとばかりに光秀を討つという話になっている。銀魔はその後家康に取り入り、天下を取らせていくといき、続きは又のお楽しみと続いてしまう。光秀の甥が復讐を果たすべく、銀魔に立ち向かっていく話を横軸に、読んでいて楽しくなってくる。光秀の子供が四国に逃れ、坂本姓を名乗るところで、これって後の坂本竜馬の先祖?って思ってしまった。確かそんな話を何かの本で読んだ気がしたが、そのうち出てくるかも知れない。しかし歴史の裏にはこんな事があったんだという、まことしやかな話というのは何故こんなに面白いんだろう。こういう伝奇物は虚実取り混ぜるその具合のよさが作品の出来不出来にかかってくるけれど、これは流石に歴史物に強い井沢さんだけあって、面白い。半村良ファン&伝奇物ファンには絶対に読んで欲しい一冊です。
△「美人姉妹は名探偵」ジェイン・ヘラー作 法村里絵訳 扶桑社ミステリー文庫
ソープドラマという日本にはちょっとないドラマの脚本を書いている主人公(未婚の女性)が仲の悪い姉(離婚歴3回の独身)と同じ男性を好きになってしまうが、その男性が殺されてしまい、殺害現場にすぐ来てしまったものだから犯人と間違われ…という感じの推理物。話としては大した事はなくて、主人公の女性が一生懸命犯人を探すというパターンに、ソープドラマの脚本(実は始めの方で辞めてしまう)を書いていたという利点?から奇想天外とまではいかないけれども、犯人探しをするという味付けの笑ってみていられるテレビ番組みたいなお話。ソープドラマはどちらかというと、昼メロみたいな感じらしいが(もっとも昼メロも見た事がないからなんとも言えないが)どうやら、そんな雰囲気でもないらしい。元々石鹸のコマーシャルが入るドラマなんでソープドラマといわれたらしいが、普通のドラマとは違って宇宙人が平気で出て来たり、幽霊になった登場人物が人気の為に何週も出演したりと、なんだか話を読むと、御都合主義の何でもあり、登場人物は全て波乱万丈の人生を送るみたいなドラマらしい。一度見てみたいとは思うが、小説としての完成度は、いまいちだろう。
2001/09/22
○「呪いの鯱」西村寿行作 講談社文庫
鯱シリーズの9作目。前作の「神聖の鯱」で終わりかと思ってチェックしないでいたら、7年も前に出ていた。勿論古本屋でGET。鯱シリーズも当初は、旧ソ連との闘いだったが、ソ連崩壊と共に敵もはっきりしなくなったし、彼らより強い相手がいなくなってしまったんで、このシリーズも終わりだと思っていました。だって前作なんか鯱のリーダー格の仙石文蔵なんか植物と対話する能力まで手に入れてしまったり過去に戻って狼を連れて来たりしましたからねぇ。荒唐無稽もここまで来るとサスペンスというよりは、SFに近くなってしまっています。それでも今回は前作で、仙石文蔵の孫だと判明した娘が拉致され、仙石文蔵まで囚われるという事態になり、鯱の仲間である他の3人のうち2人までもが、危うく敵の手に落ちるという事になってしまいました。それを助けるのが仲間うちではちょっと異質ですが、人間くさい十樹吾一という若者?です。各国の諜報機関を手玉に取ったり、1人で戦争もどきを始めたり、まったくおバカになって読める話です。こういうのって大好きです。この鯱シリーズも始めから読んでいると彼らの成長過程が面白いんですが、この1冊でも充分楽しめるように彼らの能力だとか彼らを取り巻く環境などの説明はされています。私も随分久しぶりに読みましたが、1冊目から読みなおしてみたいとさえ思ってしまいました。。もっとも処分してしまいましたから、探さなくっちゃいけませんけどね。
2001/09/11
×「三毛猫ホームズの暗闇」赤川次郎作 光文社文庫
三毛猫シリーズは、当初文庫本ではなく、新書版の本を出るとすぐ買って読んでいましたが(当時は金があったのだ。笑)トリックを見破るという話から、段々登場人物達の生活を書き出すようになって、読まなくなってしまいました。本屋で久しぶりに手に取って、ホームズが出てから20年も経つというんで、買ってしまいました。赤川次郎の文体ってこういうのだったのか。なんて○○○んだろうなんて思ってしまいました。古本屋さんで、100円コーナーに置かれている理由が判ります。しかし小説を書くうえで勉強になるとすれば、せりふが多く、せりふ以外は登場人物達の説明だけで文章がなりたっているという状況です。赤川次郎は文学を目指しているわけではないと思いますから、構わないんでしょうが、こういう作品でも商業誌として立派に売れる(買っている私の所為?)という事実は、凄いことですよね。小説書きになったらこんな風に沢山の本を出したいとは思いますし、ファンも付いて欲しいとは思いますが、本当にこんなんでいいんだろうか?そう考えさせられる作品でした。
2001/09/10
△「人質カノン」宮部みゆき作 文春文庫
彼女の短編集で、日常ともいえる生活の中で発生する事件などを軽いタッチで書いた作品集。ミステリー作家ではあるが、ミステリーとは呼べない作品もあります。いじめにテーマをとった作品が7作品中3作品もあるという構成ですが、作者の暖かい心が覗える作品に仕上がっています。私は彼女をミステリー作家だと思っておりますので(SF作家かも知れないとは思っていますけど…)そういう意味では、この作品集はミステリーの醍醐味ともいうべき、犯人探しは期待してはいけません。もっとも最近のミステリー作品というもので、犯人探しを主に書いている作品というのは、とても少ない様に思いますが、この作品集も犯人探しがメインではありませんから、彼女の語り口を楽しみたいという人達が読めば良い作品集です。この作品集を読むとやっぱり彼女にはもっと長い話を書いて欲しいと思ってしまいました。
2001/09/06
○「T・R・Y」井上尚登作 角川文庫
始めての作家ですが、結論から云ってしまえば面白かったです。時代は明治後期。話はコンゲームなので、どんな逆転劇が見られるか、はたまた思ったとおりの幕切れかという意地悪な読み方をしてしまいました。第19回横溝正史賞受賞作だけあって、中々読み応えはありましたが、ちょっと小説としての読みやすさには欠けるように感じてしまったのが残念です。この前に読んだ宮部みゆきの読みやすさがこういう感想を与えてしまったとは思いますが、始めはなかなか読み進めなかったというのは事実でした。登場人物の中には後の蒋介石まで出てくるし、三国志で有名な関羽に似た(子孫かもしれないなんて話もありましたが)関虎飛なんていう人も出てくる、みんなのお母さんともいえる新らし物好きの新橋芸者まで出てくると、もう楽しくなってしまいます。舞台は上海から日本へと広がり、孫文先生が説く革命の為に武器をチョロマカス為に陸軍のお偉いさんを騙すというストーリーですが、映画の「スティング」もどきの、主人公が殺し屋に狙われているという設定はちょっとがっかりしましたが、最後の最後まで小説ならではのトリックもあって、ワクワクさせてくれました。ただラストが大団円になっていない所(云ってしまった)が、個人的には残念だなぁという思いがありました。
2001/09/01
○「R・P・G」宮部みゆき作 集英社文庫
宮部みゆき初の書き下ろし文庫。単行本を買わない私には、こういう事は是非続けて欲しい。書いた途端に読めるというのは、やっぱり嬉しい。タイトルのRPGはもちろんロールプレイングゲームの略で、レポート・プログラミング・ジェネレーター(IBM開発のプログラム言語)ではない。インターネットを通じて他人が家族になるという設定での殺人が起こるというミステリー。ROMというのが、リードオンリーメモリーの略だと思っていた私は、ネットでは、リードオンリーメンバーという略で使われているというのを始めて知った。まぁ誰かが元の言葉を洒落て使い出したんだろうが、そうだったのかぁ、なんて思ってしまった(みんな知ってるのかなぁ)
ネットでの殺人というと、伊集院大介(栗本薫が書く推理物の探偵)の話にもあったし、文庫化されていないから読んでいないが、御手洗清(島田荘司が書く推理物の探偵)の話もあるようだ。まぁ、流行なんだろうが、コンピュータを専門に勉強しているわけではないからだろうが、彼女の作品にも、あまり突っ込んだ内容は出て来ない。話の途中で犯人だろうと思われる人物が予想出来てしまうが、最近の本らしくそういう事には無頓着で、違った個所での裏切り(作品のトリック)があり、そりゃぁずるいんじゃないの?なんてちょっと思ったりしたが、書きたいことはミステリーという手法を通しての愛の形だから、まぁ良いんだろう。しかしこの作家も何を読んでも高レベルなのには驚かされるてしまう。
2001/08/29
○「痴人の愛」谷崎潤一郎作 新潮文庫
Q書房の工藤さんの勤める会社の本。なんか新潮って久しぶりに買った気がする。勿論昔々の作品ですし、あまりにも有名なんでみんな知っているでしょうし、読んだことがあるでしょう。私も記憶によれば中学の頃に読んだと思います(ちょっと早熟?)話は、主人公譲治の情事ではなくて、情事が愛する女性ナオミの情事です。もういい加減ナオミなんて女とは別れなさいと思わせる内容に、私は付かれて、そして疲れてしまいました。今にして思えばこういう女性っていうのは、現代の若い女性には多いかもしれないとさえ思われる程昔の事ですし、一字下げしていない文章を買って読んだというのも面白いです。私は彼の「鍵」を始めて読んだように記憶していますが、あの作品も漢字とカタカナだけで構成されていて、中学生には読みにくかったのを覚えています。しかも漢字も当て字が多用されていて、それだから逆に面白かったという思いもありました。ところで、この作品はあまりにも有名なので、内容については触れる必要はないでしょう。読んでいない人がいるようでしたら、是非読んでみてください。私にはこういうナオミのような女性とは係わり合いにはなりたくありません。
2001/08/22
○「囚人同盟」デニス・リーマン作 中井京子訳 光文社文庫
古本屋で見つけた本です。1998年2月が初版だから、3年程前のものですが、タイトルにある通り、囚人の話です。作家も囚人で現在も服役中らしいですが、アメリカ版の塀の中の話だけなのかと思いきや、アメリカが抱える問題でもあろう刑務所の諸問題や裁判というか告発する際の問題なども含まれていて、囚人達が悪い?奴らをやっつけるというどちらかというと愉快で痛快なお話。刑務所の中に新入りが服役してきて、それが主人公達と同じ部屋になるんですが、彼が主人公達を仲間に引き入れて、不正を働いている悪い刑務所の所長なんかをやっつけたり、隠れて競馬で大儲けしたり、最後にはみんなで釈放なんていうちょっと出来過ぎではありますが、楽しい話でした。まぁ、古い作品だと思うんですが、途中で出てくるコンピュータに、競馬の予想をたてさせたりするのは、ちょっとお笑いではありますが、これが今程コンピュータの知識を持った人が少ない時代(2・30年前の話し)ならば、世界的な傑作になってもおかしくないと思える話でした。でもいくら話のタネとはいえ、刑務所には入りたくないしなぁ。
2001/08/08
◎「童話物語」上巻(大きなお話の始まり)下巻(大きなお話の終わり) 向山貴彦(著) 宮山香里(絵) 幻冬舎文庫
ハイファンタジーと銘打った童話です。文庫本の帯には、M・エンデ+J・クロウリー+宮崎駿を連想させる圧倒的筆力。本書が21世紀の新しい童話だとありますが、そこまでの作品ではないかも知れない。でも面白かった。妖精に会うと黄色くなって死んでしまい、妖精の日というのが来て、世界は滅びると伝えられている世界での話なんですが、なんといっても感動的なのが、主人公の少女が成長する姿でしょう。この少女(ペチカ)は極めて性格が悪いんですが、それは余りにも貧乏なためで家族とは死別しており、教会の守頭の元へいって働かせてもらい生活しているんですが、出てくる奴らがみんな悪い奴という始まりで、主人公は苛められています。この主人公の前に妖精フィツが現れて、ペチカの運命が変わっていく(まぁ、悪い奴から逃げながら旅をする)という話ですが、こういう主人公っていうのは、苛められていても清く正しく美しくというパターンがあるけど、やっぱりそういうありそうもない事よりは、心が歪んでいるという設定になっているこの話の方が面白い。まるで、「ダメおやじ」(古いから知らない人もいるかも知れないけど、昔あった古谷みつとし作のマンガで、家族から苛められ続ける主人公が、最後<<本当にすごーく後なので私は可哀想で見ていられなかった>>には家族が仲良くなるという話)のパターンだけど、ラスト近くまで主人公は人を信じることが出来ずにいて、なんとか人と触合いながら成長していくという、まぁ感動物です。
ただ、荒唐無稽さが際立っているのが、どんな高いところでも何も使わずに登ってしまうという、ペチカを追い掛けて謝りたいと思っているルージャンや、何処までも追いかけてペチカをやっつけようと思っている守頭(めちゃくちゃ強い女性)。もちろん妖精の性格付けも面白い。
ファンタジーというだけあって、時間や通貨の単位なども設定されているのが解説では随分誉めてあったけど、そんな当たり前の事を誉めるのは止めて欲しいんだけど、設定のための資料として、上巻の最後に60頁ほどの資料が付いているから結構考えてるんだなぁとは思いました。大人向けの童話と解説にはあったけど、これはやっぱり青少年向けの本です。出来れば主人公と同じ位の年代の人に読んで欲しい。やれば出来るんだというメッセージが強過ぎるキライはあるけれど、「アンティアーロ・アンティアーゼ」(まだみんな旅の途中なんだから、明日になれば変われるかもしれない。遣り直しが出来るんだよという意味らしい)という心温まる話になっています。
2001/07/25
△「密告」真保裕一作 講談社文庫
久しぶりの好きな作家の本だが、読み始めからイヤな気分で読み進むハメに陥った。なんと主人公は8年も前に好きだった女性を仲間、いや上司に取られ結婚されてしまい、それからずっと不倫のような関係にある。ただ肉体関係がないというだけだが、やはり関係は不倫である。それを現在まで引き摺っていて、その彼女からの依頼による旦那の浮気調査もどきによって、密告者と思われてしまうという話だが、この不倫の女性関係を言えない為に、自分の潔白を信じて貰えない。なんとも痛し痒しだが、このじれったさがホントにそんな事あるのかよ思われて最後まで納得できなかった。いつのまにか日本ミステリー大賞の審査員にもなってしまった作家ではあるが、どうも話の設定の必然性が最近弱いように感じてしまっている。話の展開は面白いし、相変らず変わった職業(今回は射撃の特待生みたいな感じで選手だったが、選手から外された、やる気のない事務畑の警察官)だが、下手なミステリー同様に物語の展開でのそんな事しないだろう。というツッコミが出てしまう。読者を引きつけるには、やはり何故そうなってしまうのかという共感を読者に与えなければならないのではないだろうか? そういう意味では私には共感できなかった。
2001/07/15
○「トゥエルブY.O.」福井晴敏作 講談社文庫
第44回江戸川乱歩賞受賞という謳い文句に釣られて買ってしまった。タイトルの意味は読めば解るけど、もちろん「トゥエルブモンキー」とは全然関係ない。主人公は自衛隊の勧誘員をしているが、昔はヘリコプターの優秀なパイロットだった。ある偶然から昔命を助けられた人物に会うが、実は彼は沖縄からアメリカ軍(海兵隊)を撤退させてしまうという離れ業を行ったテロリストで、テロリストとしての彼の名前が「12(トゥエルブ)」そして世界最強のコンピュータウィルスや秘密兵器「ウルマ」。主人公が巻き込まれてしまう事件とその関係者達の運命。話しとしてはアメリカが屈してしまう程のテロリストとしての荒唐無稽な力の大きさと、そのテロを行う意味の純粋さなど、舞台も登場人物もそんな事出来ないよと思いながらも応援してしまうという、素直な気持ちだろう。ハッキリ言って面白い。でも◎でないのは、ちょっと話しの意外性というかラストはこうなるんだろうなぁと考えている通りにストーリーが展開してしまうからだ。やっぱり新人作家には水戸黄門みたいに決まったパターンでなく、ラストはお決まりのようにはなって欲しくないという思いがあるからだろう。この作品はそういうラストをミエミエにしていてそんなタフなランボーみたいな奴はいないよとツッコミをしてもらいたがっている作品なのかも知れない。
2001/07/08
◎「夜のフロスト」R・D・ウィングフィールド作 芹澤 恵訳 創元推理文庫
「クリスマスのフロスト」「フトスト日和」に続く3冊目です。これは知る人ぞ知るイギリスはデントン署の部長刑事のお話し。昔奥さんとの別れ話で、人生を悲観していた主人公は、やけっぱちになって銀行強盗を捕まえる際に、撃たれ瀕死の重傷を負いますが、その英雄的行動で、イギリスの警察官として最高の名誉であるらしい勲章を貰ったせいで、少しのドジは大目に見られるという主人公の日頃の仕事の話しなんですが、この部長刑事には毎回、部下が付いていますが、本が変わる度に部下も変わってきます。しかもその部下達は必ずこの主人公を毛嫌いしています。犯罪の現場でも、被害者の家族の前でも下ネタを繰り返し、物忘れは酷く、行き当たりばったりの捜査と思いこみ、部長刑事の位の為に、作成しなければならない資料はあるんだけど、全然遣らない。経費の領収証は自分で書いてしまうという、本当にいい加減な奴です。でも仕事だけは一途に一生懸命やっているという、なんだか出来の悪い日本のサラリーマンみたいな感じです。そしてその忙しさといったらこれは日本のサラリーマンだって勝てません。一日の睡眠時間なんて1・2時間くらいのもんです。3冊目だけど、3冊とも同じですから、本当に忙しいんでしょう。そのとばっちりで憐れにも部下は今回は奥さんと離婚という憂き目にさえあってしまいます。今回読んでいてこの面白さの中に、なんだか40を越えたおじさんの悲哀があるような気もしてしまいました。事件解決の手柄は人に簡単にやってしまうし、署長からのお叱りは一手に引き受けて逃げ回っていますが、本当に悪い奴でなければ、犯人にも同情してしまうという優しい一面もあるところも魅力です。ケーブルテレビで、イギリスでテレビ化されたこの「フロスト」ものを何回か見ましたが、前評判通り、小説の方がずっと面白かったです。というのもテレビだからなんでしょうが、この1冊の本の話しを3・4回に分けて別の話しにしてしまっていて、出てくる警察署長も随分良い奴なんですよね。なんか小説のフロストの面白い点を削ってしまっているようで、テレビではがっかりしてしまいました。小説版のフロストの方が絶対面白い。でも実はテレビ版の「A
Touch of FROST」はなんかタイトルが凄く気に入って、このHPのタイトル(A
Touch of Short Story」なんてのにしようかと思った事もありました。この本は出来れば始めから読んで欲しい。でも文庫本で1300円は高すぎるよなぁ。
2001/06/09
○「クッキングママの告訴状」ダイアン・デビッドソン作 加藤洋子訳 集英社文庫
とうとうクッギングママシリーズも9冊目となりました。もしも読んで見ようかと思う人がいれば、やっぱり1冊目から読んで欲しい。やっぱりシリーズ物ですから、登場人物達の成長する姿とか人間関係がどうなっていくかがシリーズ物の面白さのひとつですからね。今回は前回壊されたというか、修理した台所が衛生局の検査で、×(不合格)になってしまい、ケータラーとしての仕事が出来なくなって、なんとか仕事を続けるために、テレビ出演することになってしまいます。それもスキー場の山頂近くにあるレストランでの撮影という変わり様。おかげで年間リフト代が只になるというおまけ付きですが、何とか台所の修理代を稼ごうと旦那(殺人課の刑事)のスキー(これがアイゼンハワー大統領のサイン付きという高価なもの)を売ろうとした相手が死亡し、自分も車の追突事故に巻き込まれるという始まりです。相変らず主人公は、読んでいて止めろよと思う位に好奇心が旺盛で、やっぱり危険な目にあってしまいます。いくら冊数が増えてもこれは変わらないのかなぁ、いい加減もっと賢くなって欲しいと思うんですが、それが魅力ではあります。相変らず料理のレシピも出てきますが、最近はさすがにレシピまでは見ていません(笑)。今回はスキーのシーンが勿論出てくるんですが、段々暑くなってくる今、こういう話しを読むとスキーに行きたくなってしまいました。そういえばスキーって最近行ってないし、もう板もサビてるだろうなぁ。なんて関係ない事を思ってしまいました。
2001/05/31
○「真・天狼星ゾディアック」全6巻 栗本薫作 講談社文庫
いやぁ。文庫本で6冊はやっぱり長いです。文庫本のあとがきの始めに、「…文庫を最後まで(笑)…」なんていうのまでありましたから作者も長かったと思っているのでしょう。一応主人公というか探偵役が、伊集院大介というこの作者の代表的な探偵の一人ですから、推理小説として書いているのかも知れませんが、これは推理小説ではありません。探偵伊集院大介が見守っている竜崎晶君が巻き込まれた殺人事件の顛末です。謎を解く爽快さや、どんでん返しの連続もありませんが、伊集院大介が好きなファンへのサービスとしての話のようです。この伊集院という探偵は、知らない人はまったく知らないでしょうが、私の記憶によれば「琴の聖域」という話から登場しました。私は確かパチンコの景品で手にいれた記憶があります。外見はひょろっと痩せた銀縁メガネの頼りなさそうな人物で、彼のワトソン役というべき人物も何回か変わって、今はパソコンおたくともいうべきアトム君がその役をしています。明智探偵に対する怪人二十面相の如く、敵対するシリウスという怪人との闘いは、今回は見合わせられて、最近の低年齢化している少年犯罪をも見据えた展開になっています。始めの2巻くらいまでの殺人事件の提示から後は、晶君の芸能界デビューや、背後から忍び寄る不気味な影ともいうべき「ゾディアック」の面々が、ぐいぐいと読むのを止めさせてくれませんでした。謎解きを期待する人にはお勧めではありませんが、この本は面白い。
2001/05/22
△「幻象機械」山田正紀作 中公文庫
久しぶりの山田SFであった。もちろん好きな作家であるが、本当に久しぶりの山田SFの所為もあるだろうし、私の最近の読書傾向からの頭のキレの悪さからか、あまり面白くなかった。右脳と左脳の日本人特有の機能を研究している主人公が遭遇する話し。話しの中程までは暗くて一体話しはどうなるのか混沌としている。その暗さはラストまで続きやりきれない。この暗さはもちろん狙いであろうが、私は着いて行けなかった。日本人は特別の種族というアイデアだけでなく(これは使われすぎ)ある種族(ひょっとしたら宇宙人か?)が日本人を作ったというSFのアイデアの割りには、内容がこなれていない印象を受ける。石川啄木の詩が随所に出てくるし、創作されている短編小説も出てきて凝ってはいるのだが、書きなれている作家が片手間に書いた作品のように受け取れてしまった。啄木が出てくるという事で、何ヶ月か前に読んだQ書房1000字の「怪獣啄木」の明るさを思い出してしまった。
2001/05/19
×「トライアル」真保裕一作 文春文庫
せっかく好きな作家になったのに、残念な短編集だ。やはりこの作家は長編向きなんだろう。公営ギャンブルである競輪・競艇・オート(バイクレース)・競馬の4つの話しである。短編集としての組み合わせは良い。作者得意?の特殊な職業の話しで、全ての話しが不正を匂わせ物語りは進んでいく。家族や夫婦、兄弟などの愛がテーマの様だが、せっかくの面白そうな題材なのに、拍子抜けしてしまった。特殊な職業のための説明が多くを締め、物語に深みが無くなっている。ラストの競馬にいたっては、騎手が地方競馬界から中央競馬界でも馬に乗れるような感じにも受け取れてしまっていた(競馬の騎手は地方競馬か中央競馬のどちらかしか騎乗出来ない規則になっているのは常識だ<<片方しか資格を取れないのが現状だ>>)本の帯にある解説者の言葉に「私が真保裕一の数ある作品の中でも、一冊選んで読んでほしいといわれれば、この本をひとに進めてきた…」とあったので、期待してしまったのだが、この解説者はこの作家の他の作品を読んでいないとしか思えなかった。非常に残念だ。
2001/05/12
○「テイル館の謎」ドロシー・ギルマン作 柳沢由美子訳 集英社文庫
おばちゃまシリーズは既に14冊も出ているが、シリーズ以外の作品。彼女の作品の魅力は全編に流れる優しさだろう。この作品も事件は起きるが殺人は起こらない。タイトルにある「謎」というほどの謎もありはしない。これは推理小説ではなくて、ヒーリング小説だ(そんな小説があるとは思えないが私は勝手にそういってしまおう)。心のやすらぎを求める人にはうってつけだと思う。人生とは何か、生きるとはどういうことかなんて大上段に構えるわけではないけれど、こういう生き方もいいなぁと思わせてくれる作品だ。主人公というか語り手は書けなくなった作家ではあるが、ラストには作品を書き始める。きっとこの作品も別の形で彼女が書いてくれそうな気がする。(以前にも児童書という名目で話しに出てきた作品を発表したことがあるのだ)おばちゃまシリーズも面白いが、こういう遊び心のある作品もまた彼女の魅力のひとつだろう。
2001/05/09
?「真・天狼星・ゾディアック」(3・4巻)栗本薫作 講談社文庫
とうとう竜崎晶がミュージカルに出演。なんと3巻目の殆どがその描写である。作者もこの登場人物にかたいれしているのがハッキリ判る。それほど魅力的な少年?である。この作者の書く人物像をみていると、こういう人に憧れているというのが一目瞭然だ。1冊殆ど使っているだけあって(全体の1/6というのも凄い量だよなぁ)劇の内容も多分話しには関係ないんだろうけど、面白い。こういう長編っていうのは、作者が好きなことを書いていて、それが事件の伏線になることもなく(少しは関係あるんだけど)枚数を稼げるというのは、プロとしてはいい傾向なんだろうなぁ。シリウスもやっぱり登場するし、ひょっとしたらシリウスと共同戦線を張りそうな伏線まで張っているから、なんだか後の2巻が待ち遠しい。
2001/04/25
?「真・天狼星・ゾディアック」(1・2巻)栗本薫作 講談社文庫
2巻だけでは何ともいえないんだけれども、ニューヨークで発生していた猟奇殺人事件(ビック・アップル・バンパイア)にも似た、トーキョー・バンパイア事件が発生する。その事件に関係するように、ゾディアック・カードとゾディアックというグループのCD。死んだはずの魔人シリウスと、操られていた刀根という精神病院を脱走する殺人マシン。美少年といっても、20才だから青年の竜崎晶は、ミュージカルの主役に抜擢。異常に彼を可愛がる伊集院。事件はこれからどうなっていくのかという所でチョン。これだから長い推理小説は嫌いなんだよなぁ(と言いながらも、しっかり続きを買ってしまっている)
フィルムの何コマかの間に、1コマだけ違う映像を入れることで、人間に暗示をかけるというサブリミナル効果。初めて知ったのは、昔「刑事コロンボ」を見ていた時だったが、宮部みゆきがトリックに使ったときに、今時それは無いだろうと思っていた。そのサブリミナル効果を今回は匂わせている。しかもそれは映像ではなく、音として、しかもインターネットでのサブリミナル効果の可能性も匂わせているのもちょっと気になった。しかし彼女の作品は乗ってくると止められなくなるのは不思議だ。
2001/04/23
◎「庭に孔雀、裏には死体」ドナ・アンドリューズ作 島村浩子訳 ハヤカワ文庫
アンソニー賞・アガサ賞・マリス・ドメスティック・コンテストの三賞受賞のユーモア・ミステリーです。いくら賞を貰っていても読んだ人が面白いと感じなければ、それはその人にとっては駄作だと思っていますが、これは面白かった。三賞受賞も頷けます。これは私が今までに読んだ事がない部類の本でした。というのも、ミステリーと名がつく話しというのは、探偵気取りで謎を追いかけ、危ない目にあったりしながらも、事件を解決していくというのが、オーソドックスというものです。多分。でもこれは違いました。嬉しい裏切りです。なんと主人公は、近くで殺人事件が発生したり、自分が殺されそうになったりするのにも関わらず、頭の中は結婚式の付添人の仕事の事で一杯で、その事だけで毎日が過ぎていきます。一体事件は誰が解決するんだよー、と思ってしまう程なんですよ。確かに事件の手口というかどうやったのかなんていうのは、使いふるされたアイデアでしたが、登場人物達の性格や実行力なんかのパワーが凄いの一言です。披露宴を自分の家の庭で行うという、今の日本では考えられない結婚式ですし、参加者も4・500人という大結婚式ですが、その一切を取り仕切るという付添人の仕事というのは、確かに半端じゃないようです。しかも結婚する人達はその仕事を全て付添人の主人公に任せており、間際になってから予定を変えたいというのは当たり前というてんやわんやの可笑しさ。しかも実は3組の結婚式の付添人を主人公は引き受けてしまっているんですから、こりゃぁ大変としかいいようがない。
タイトルの孔雀は、ピーコック(雄)は知っていましたが、メス(ピーヘン)は知りませんでした。ちなみに孔雀は、披露宴に庭に孔雀がいれば、見栄えが良いと考えた新婦の一人が要求して、取り寄せることになったものです。しかし、日本でこんな事をして、それを一切仕切ることになるような風習があったら、そんな人にはなりたくない(笑)
2001/04/15
◎「ハイペリオンの没落」(上・下)ダン・シモンズ作 酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫
いやぁ、面白かった。これは去年の暮れに読んだ「ハイペリオン」の続編ですが(4部作の内の2部目)最高でした。これは絶対傑作です。「ハイペリオン」だけでは、ちょっとお勧めマークだったけど、2つ合わせて読めば、SF大好き人間にはたまらないでしょう。相変らずSFのごった煮ではありますし、目新しい手法もありませんが、それでもこれは傑作です。これを読まずしてSFファンとは言えないでしょう。第一部で謎だった色々な事柄が、第2部の本書では後半部分になって一挙に明かされていきますが、そのなんと感動的な事か。もう内容を喋りたくなっちゃいます。でもこれから読もうと思っている人の為には、言えませんからねぇ。私を信じて下さい。これは絶対に面白い。早く第3部の文庫化がされないかなぁと、今から楽しみです。
2001/03/18
○「八つ裂きジャック」菊池秀行作 祥伝社文庫
死なずの醍醐の甥である、醍醐蘭馬が主人公の話。といっても菊地作品の死なずの醍醐シリーズも秋せつらシリーズも実は読んでいません。揉め事処理屋とか人探し屋が主人公というのに興味が無かったせいでしょう。でもそのうち彼らの作品が増えてくるに連れてあぁ読んでおけば良かったと、今になって後悔しています。話は主人公の蘭馬が切り裂きジャックと遭遇してしまうところから始まりますが、その切り裂きジャックはロンドンで大暴れして捕まらなかったあの切り裂きジャックとは○○です。(○○は読んでいない人の為に流石に言えない)主人公が操る蜘蛛と、彼をとりまく菊地さんらしい登場人物達がこれからのシリーズ物の開始らしく憎めない存在として登場してきます。といってもまだこれはシリーズ化していないそうで残念です。以前切り裂きジャックの話を書いていましたが、それとは全然違っていて、どちらかというと工藤念法のノリに近いでしょう。
○「新興宗教オモイデ教」大槻ケンヂ作 角川文庫
○「くるぐる使い」大槻ケンヂ作 角川文庫
上記2作は今日時点で読み終わったわけではないんですが、記載が遅くなってしまいました。「筋肉少女帯」のボーカルの、あの大槻ケンヂの作品です。よく芸能人が書くエッセイではありません。完璧なSF小説です。私はエッセイという物を読みませんので、始めは大槻ケンヂという名前で、本屋でも素通りしておりましたが、「くるぐる使い」に掲載されている同名作品と「のの子の復讐ジグジグ」の2作は星雲賞を受賞しています。以前に「ステーシー」という話を読んでいたんですが、この作家とはそれからの付合い?です。「くるぐる…」の方は短編集ですが、「新興…」の方はなんとデビュー作です。この2冊に共通していえる事は、この作家はSFが大好きだというのが伝わってくる事でしょうか。話の中にも昔のSF作家の作品などが出てきて面白い。それと、「ステーシー」にも言えることですが、登場する人物達の精神が正常でないという事でしょう。そうする事で、非日常(現実とは違うんだよ)と断っている様にも思えます。超能力やら不思議体験やらが出てきますが、ロックらしく、映像にしたら多分スプラッタでしょうが、何故か爽やかな感じさえしてしまうという不思議な感じの作品群でした。
2001/03/11
△「神曲法廷」山田正紀作 講談社文庫
ダンテの「神曲」の内容が随所に出てきて、「神曲」を読んでいない私としては、読んでおけば随分違った感動があったのだろうと思わせてくれる。物語の構成自体も洒落ていて、『それでは開廷します。』という文章から始まっている。これは本文とは関係なくタイトル的な雰囲気なのであるが、『被告人は前に出なさい』と続き、ラストは、『判決理由。…』と連なっている。しかも最後にはこの内容を登場人物の一人が続けて言うという狂言回し的な事までしている。ちょっと凝り過ぎだよとも思うが、憎い演出ではある。厚い所為で通勤途中で読む本では無いので寝る前に少しづつ読んだせいか、随分時間が掛かってしまったが、推理小説としてのトリックは、はっきりいって一級品だとは言えないかも知れないし、読みにくくも感じた。最近読んでいる本の文章のレベルのせいなのかも知れないが、凝った文章がスラスラと読むのを妨げてしまう。主人公は精神を病んで地方へ飛ばされるべき運命となった休職中の検事で、彼の先輩からの依頼で、ある建築家を探すのだが、この建築家が設計した「神宮ドーム」で火災が発生し、大勢の死傷者を出してしまっている。しかもこの火災の公判直前に、担当弁護士が地裁で殺され、それをしった警察が現場検証に来ている最中に判事までもが殺されてします。しかもどちらも密室に近い状態だ。いったい彼らはどうやって殺され、犯人は誰なのか? という感じの話なのだが、主人公が精神状態が正常でないという事もあるのだが、登場人物達の精神も病んでいる。勿論犯人の心までもが常道を逸しているのだから、なんともやりきれない話になっている。これがお勧め度が低い理由になっているような気もする。
2001/03/07
△「消える密室の殺人」(猫探偵正太郎上京)柴田よしき作 角川文庫
猫探偵正太郎がシリーズになって帰ってきた。第2弾。正太郎の御主人(猫に言わせると同居人)は推理作家であり、離婚経験のある独身で、惚れ易いけど事件の方がより大事という女性であるためか、出版者の担当には無理を言っているが、担当は彼女の事が好きで彼女もある程度は認めているという設定だが、これがシリーズ化されたとなると、その内結婚でもしてしまうんじゃないだろうかと思える。まぁそんな事はあんまり関係ないんだけど、こういうシリーズ物の醍醐味っていうのは、登場人物が今後どうなっていくかという楽しみも多いにある。推理小説(謎解き)として読む本じゃないけど(トリックともいえないような謎でした)シリーズ物としての価値を買いたい。日本にもこういったロッキングチェアというかカウチポテトというかよく解らないけど、転寝をしながら何も考えないで読む本という分野が多くなってきた様な気がする。私はこういった分野は好きです。
2001/02/27
◎「スピリット・リング」ロイス・マクマスター・ビジョルド作 梶元靖子訳 創元推理文庫
「ヴォル・ゲーム」の作者が書いた初のファンタジー。あとがきを読むと種本があるとの事だが、中々面白かった。15世紀頃のヨーロッパの小国が舞台で、金細工師で大魔法使いである人物の娘が主人公。女性だからという理由で魔法の素質はあるのに、魔法の勉強はさせてもらえず、嫁にも出してもらえない。父である大魔法使いが死んでしまい、隣国から攻めてきた敵に魂を死霊の指輪(スピリット・リング)に閉じ込められて悪の手先とされてしまうことになった父を、どうにかして助け出そうとする。恋と冒険の物語。現代からみれば、ちょっと気が強いが可愛らしい性格の女性と、彼女が好きだった男の弟との恋物語を絡ませて、敵をやっつけようと奮闘する話がぐいぐいと読ませてくれた。キリスト教の司教でありながら魔術師だという修道院の院長や、鉱夫をしていた男性(主人公の恋の相手)のキャラクターも魅力的だ。ファンタジーはどうも苦手という人でも、これはお勧めです。私も炎の魔術位は出来ればいいなぁ。「燃(ピロ)!」
2001/02/19
○「怪笑小説」東野圭吾作 集英社文庫
前回に引き続き推理作家の推理小説じゃない本。お笑いの本です。本来はこちらから読むべきだったんでしょうが(こちらの方が早い時期に書かれている)遅く読み出してしまいました。「毒笑…」の方は12作でしたが、こちらは9作で、しかも各話に作者のコメントともいうべきあとがきがついていました。解説には今までの作風と余りに違うための照れ隠しだろうと書いてあったが、今までの作風を知らない私にとっては、確かに作品のいい訳とも思えたが、同じ題材でこういう形で長編にしたら感動物になっただろうなんていうのもあって、面白いあとがきだと感じた。これは読んでみないと判らないだろう。
2001/02/18
○「毒笑小説」東野圭吾作 集英社文庫
恥ずかしながら、この作家は今まで読んだことがありませんでした。名前さえも「とうの」だと思っていましたからねぇ。以前タモリが案内役でやる番組で、彼の「マニュアル警察」というのをドラマ化してやっていたのを見て、面白かったんで原作者の名前は覚えていたんですが、この話も載っている短編集です。一応推理小説家ですが、この本は推理小説というよりは、Q書房に多く投稿される作品のちょっと長い作品の様な雰囲気を持っています。どちらかというとオチのあるお笑い系の話なんですが、さすがにプロだけあって面白いのもありました。「も」というのは、「も」というそのままの意味です。ひょっとしたら、Q書房投稿作品の方が面白いのもあるかもしれないというレベルなのが残念ではありますが、通勤電車で読むには最適な本でしょう。
2001/02/09
○「フラッシュフォワード」ロバート・J・ソウヤー作 早川書房
ハードSFを御希望の方にはちょっと期待外れです。どちらかというとSFの知識が無い人でも書けそうな話。実際にあるヨーロッパの研究所を舞台にして、ある実験の結果全人類が21年後へ2分程意識が飛んでしまう(未来を垣間見てしまう)という話。垣間見れなかった人はどうやら、それまでに死んでしまうらしく、実際の未来もその光景に向かって進んでいく。未来は変えられるのか? という運命論としてのSFになっている。2分程意識が飛んている時には、現在の人間は意識がない為に、事故にあったりして死んでしまう人も多く、大変な災害となるが、それでももう一度未来を見たいという要望から実験をするという人間のエゴまでも書かれていて、結構楽しめた。タイトルのフラッシュフォワードとは、その時間帯に撮影されていたビデオなどが、全て何も写っていないという所から来たんだけど、量子物理の世界まで巻き込んだ解釈にしている点は面白いと思った。
2001/02/06
◎「隋唐演義」(上・中・下)安能 務作 講談社文庫
久しぶりの中国歴史物は面白かった。中国の隋の時代から唐の時代への移り変わりを英雄達の流れで200年弱をたった3冊で纏めてあるから、話はスピーディである。英雄の秦叔宝(しんしゅくほう)を中心に上中巻は進んで行く。親を大事にする為に、日本でいうならば殿様を裏切って敵方に就くなどというのは当たり前で、兄弟の契りを結んでその兄弟のために死をも厭わないという、日本のそれとはまた違った中国のあり方がまた興味深い。賄賂は当たり前の政府の役人に賄賂を拒んだために、酷い目に遭うなどは茶飯事で、戦争をしていても、敵に味方したなどと中傷し、罪人として殺してしまうなどという、ちょっとびっくりの世界である。3冊目に入ると唐の時代(三蔵法師も話には出てくる)になって、武則天(中国史上唯一の女帝)や李白、楊貴妃なども登場し、なかなか飽きさせない。この頃の話にも、まだ処女を鑑定する道具などの封神演義に出てきた宝貝(ぱおぺい)が少し出てきて、、仙人までもが登場する。始めに演義と歴史とは同じなのかという話も出てくるが、演義は歴史を庶民が勝手に解釈して面白おかしく伝えてきたものらしい。これは狸と狐が同じもの?だという位に当たり前だという。日本では、馬と鹿の区別も付かないのは馬鹿というが、鹿も馬だといってしまう中国の考えは聡明さの表れだと言いきってしまう。そういう「聡明さ」は今の日本人の心にも少しはあって欲しいものである。そういえば万歳三唱というのは中国のこの頃のものが日本に伝来されたのかも知れない。
2001/1/15
○「BRAIN VALLEY」(上・下)瀬名秀明作 角川文庫
読み始めたら、一気に読める本かも知れない。だが私は読むのになんと20日近く掛かってしまった。これが日本SF大賞を受賞した作品だという事は、やはり日本のSF層は薄いんだろうか?(私はこの作家をSF作家とは思っていない)確かに話としては面白い。脳の仕組みは正確に判っている訳ではないから、解明されている所を発展させて、それらしく見せている。だが途中で出てくる「癲癇」については、脳の障害として扱われてはいるが、ちょっと物足りなかった。癲癇にも色々な種類があり、発作の程度も多々あるという点が記述されていなかったことだろう。これは重要なプロットになっているからこそ、ちょっと残念だった。日本SF大賞受賞に関する点で残念なのは、この作品が悪いというわけではない。自分の好みとしては、この作品は半分の量で良かったという気がするからだろう。2冊分充分に掛かる話かも知れないが、横道にそれている話がちょっと多いと感じだからだ。専門用語が多すぎてついていけないという悲しい理由が根底にあるからかも知れない。
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