2000/12/24
○「創竜伝11 銀月王伝奇」田中芳樹作 講談社文庫
10巻までの続きかと思っていたが違った。まるで外伝。といっても10巻までのあらすじを余り覚えていない。10巻目も随分前に出たような気がする。ずっと続けて読んでいるのはやはり面白いからだが、何といっても「オーホホホホホ」のなっちゃん(小早川奈津子女史)のキャラクターがたまらないからだろう。悪役の娘として登場したが、憎めない役どころになっていた。今回は竜堂家4兄弟も始めての対面という設定になっている。確かOVAも出ていて深夜に少し放送したりしたこともあったが、何処までビデオ化されたかは不明。知らない人のためにいうと、天界の住人である竜種族の4兄弟が人間として生まれ、醜いこの世の人間どもをバッタバッタとなぎ倒すという、地球の大都市を破壊しながらも、人間として心優しい人達。(どんな話じゃ!)始・続・終・余という兄弟の名前もいい加減だが、美形でありオツムの方も兄弟そろって賢いという、羨ましい限りの主人公達である。どちらかというとお笑い部門の話だが、政治経済に関するちょっとした批判も含まれておりニヤリとさせられたりする。
2000/12/20
○「ハイペリオン」ダン・シモンズ作 ハヤカワ文庫
20世紀SFの集大成と帯にある通り、いろんなジャンルのSFが入り乱れている作品。7人の人物がある関わりを持って、ハイペリオンという惑星にある「時間の墓標」をめざすという話で、何故その7人がそこを目指すのかというのが、各人の物語として語られ、各々の関係が明らかになっていくという話。めざす「時間の墓標」には、もうすぐ到着するという所で終わってしまう。解説によると、イギリスの詩人ジョン・キースの「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」を下敷きにしていて、「…没落」と合わせてひとつの作品であるらしい。とはいってもこれはこれで、ひとつの作品だという。勿論読んでみれば判るが、これだけでは何だか判らないというのが正直な感想だ。自分の意思で「時間の墓標」を目指す7人の各々の目的が語られて終わりという構成だから、一体これからどうなるのかわからないままでは、早く解決してよ。といいたくなってしまう。ただ、各々の話は面白い。特に始めの「司祭の物語」は、子供の頃に見た「マタンゴ」という映画を思い出してしまった。昔読んだファンタジーに出ていた時間が逆に流れるという設定も、当時は理解出来なかったが、これは判りやすい。まぁSFのごった煮みたいな作品だと思って間違いないだろう。だからこそSFファンに人気があって、星雲賞連続受賞なんて事になったのかも知れない。でもSFを読んだことが無い人は、この本を読んではいけない。何がなんだかわからなくなってしまうに違いない程、あらゆる分野のSFがオンパレードになっている。
2000/11/29
◎「弥勒戦争」山田正紀作 ハルキ文庫
25年程前に出版された作品の再版物。始めに読んだのが最初の出版当時ですから、随分経ちました。あの時の感動はやはり少し落ちたような気がします。というのも、3冊同時読みをしていた所為もあったかも知れません。昔読んだ記憶では、もっと前半部分がぐいぐいと引きこまれるような気がしたんですが、この年になるとそうでもなかった。しかし、当時仏教という日本人に馴染みの宗教感がこんな嬉しい形で、壊されたのが驚きでした。小松左京の「エスパイ」のごとき超能力者の戦いは殆ど無いけれど、そこが逆に新鮮で日本のSFはこうあるべきだ。なんて思ったのを思い出しました。
2000/11/28
○「ゆきの山荘の惨劇(猫探偵正太郎登場)」柴田よしき作 角川文庫
新世紀でネコが主人公の作品を書いた所為もあってか、ネコが語り手の小説に興味を持って読んだ。推理小説としての出来映えはまぁまぁだろうが、何といってもネコが犯罪を犯してしまうという(バラしてしまった)のにはびっくりした。後書きで作者の飼い猫はパソコンを使える?という話をしていて、そのことから書いたらしいが、三毛猫ホームズ等の作品とは又違った楽しみ方が出来る話である。猫好きな人には楽しいかも知れない。
2000/11/26
○「歓喜の島」ドン・ウィンズロウ作 角川文庫
前回の「ボビーZ…」とはちょっと違って、ハードボイルドな探偵物。しかも時代は1958年のニューヨーク。主人公は、ニール・ケアリーシリーズの4作目に出演し死んでしまうらしい(まだ4作目は邦訳されていない)、ウォルター・ウィザーズ氏。お洒落な感覚のスパイ映画という感じ。これも映画化されるらしいが、好みとしては、「ボビーZ」の方が面白かった。探偵物というかスパイ物に共通の、ラスト近くなると、いったいどうなってしまうのだろうかという位に、事件や謎が寄り集まってきて、これで本当に解決出来るのかと思ってしまうが、やっぱり大団円になるという、アメリカ式のお話。まぁ、そこがいいのかも知れない。だけど早くニール・ケアリーの4冊目が、出ないかななぁ。えっ!まだ読んでないの? 「ストリート・キッズ」から始まるこの話は、やっぱり読んで欲しいですねぇ。
2000/11/19
◎「ホビーZの気怠く優雅な人生」ドン・ウィンズロウ作 角川文庫
ドン・ウィンズロウの作品を読んだ事がある人へは、彼の作品はお薦めする必要がないでしょう。きっと一読したことのある人なら、ぜ〜たい読みたいと思います。ケチなチンピラとでもいうべき男が主人公ですが、刑務所の中で、殺人を犯して(正当防衛)しまい、彼に待っていたのは、殺された男の所属する組織からの報復と、麻薬取締局からの、伝説の麻薬組織の帝王ボビーZの替え玉(主人公がそっくりさん)になる事の要求。少しでも生きていられる可能性のある替え玉になる主人公ですが、死んでしまっているホビーZの変わりになって、人質交換の人質となってメキシコとの国境へ、だがそこで待っていたものは…。あぁこれ以上言うと読もうと思っている人に悪いから言えないよぉ。とにかくハラハラドキドキの最高のお話です。訳者のあとがきによれば、ワーナー・ブラザーズが映画化権を買ったらしいですから、そのうち映画になるのでしょう。今から楽しみです。原題が「The
Death and Life of Bobby Z」ですから、原題の方がストーリーを表している様な気もしますが、ラストのどんでん返しには、えっ?そんな!と思ってしまいました。ちなみに、この後読むであろう「歓喜の島」も既に映画化が決まっているようです。
2000/11/17
○「ナース」山田正紀作 ハルキホラー文庫
ホラーとはいいながら、これはポップなスプラッタ小説。今まで映画ではポップな感じのホラー映画は見たことがあったけど、小説では始めてだ。主人公は看護婦達で、果たして看護婦のチームが別の科(内科とか外科とか)の人とチームを組んで、婦長や主任がそのチームを纏めているという病院は、聞いた事がないけれど、まぁ、そんなことはいいでしょう。愛と奉仕の心で日頃のキツイ仕事もなんのそのという看護婦達が、逃げ出した男達(警官や自衛隊の人達)を尻目に、力強く異星人?(悪魔?)と戦うという話。昔サラリーマンを主人公にスパイ戦をする男達の話をこの作者は書いた事があったけど、系統としてはその部類だろう。はっきりいって、ホラー小説としては、どんな感じか想像しながら読まないと恐くない。これは多分にホラーというよりは、主人公達の底抜けに明るくて、何事にも動じない可笑しさが書きたかったからだと思う。
2000/11/16
△「鬼花人 ブルーマン5」菊池秀行作 講談社文庫
神を食った男 ブルーマンの5冊目。今回は主人公の八千草飛鳥が1巻目で現れた奈良が舞台だが、話の進展が少ない、荒ぶる神を身体に宿すという殺人狂の主人公が、今回は少し大人しくなってしまった。今までの惰性で読んでいるが、今回はやっと面白くなりかけたところで、終わってしまった。期待してたのにぃ、残念。でもラスト近くで、秋光尼や土蜘蛛も登場し、次回は面白くなりそうだ。
2000/11/14
○「なめくじに聞いてみろ」都築道夫作 扶桑社文庫
やっぱり以前読んだ本であった。さすがに30年以上も前の作品なので、自販機のおつりに5円玉があったりと、時代を感じさせるが、内容的には、相変わらず都築節が光っている。彼の作品を読むと、結構色んな事を勉強できるのだ。例えばストリップという言葉は、ストリップティーズ(ティーズは悩ますの意味)から来たとか、結構うんちくが詰まっている。当時にすれば結構おしゃれな言葉もポンポン出ている。元々彼が翻訳していた、イアン・フレミングの007なんかの影響で書いたらしい作品だから、テンポは速いし面白さ満載ではある。タイトルの意味が知りたい人は、立ち読みで16ページを参照すべし、えっ! どうしても知りたいって、そんな奴にはこういうのだ。「なめくじに聞いてみな」
2000/11/12
△「偽史日本伝」 清水義範作 集英社文庫
意外というよりは、そんなバカなという日本史が書かれた短編集。しかし意外性が思ったよりも少なかったというのが実感。確かに邪馬台国が日本のどこなのか等という疑問が発生した理由はお笑いだったし、弁慶と義経の関係についても、面白かった。だがしっかりお笑いだと思って読んでしまったものだからだろうが、ちょっと期待はずれだった感が残ったのは仕方が無いかもしれない。何故か、この本を読む前に、武蔵と小次郎の巌流島の決闘の話が載っていると思い込んでおり(実は送れて来たのは小次郎で、武蔵も長い刀?は使わなかったという話)読み終わって、何故無いのだろうなんて思ってしまった。夢でも見たのかなぁ。
2000/11/06
○「やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体」 清水義範作 祥伝社文庫
このシリーズは何作目になるのだろうか。名古屋で小さな菓子屋を営む、波川まつ尾を中心としたおばあちゃん達が、遭遇した事件を解決していくという推理物だ。おばあちゃん達のことだから、嫁の悪口をいうおばあさんや、近所の噂話をいちはやく聞き出す人、ボケ始めて話に加われない人等いろんなおばあちゃん達が、まつ尾の店に出入りし情報を持ってくることで、事件を解決していく。今回は、おばあちゃんの一人がゴミ置き場の分別の仕方を気にしていた為に発見した人間の腕から事件が発覚する。そういえばこういう人っているよなぁ(笑)しかし、何といってもこのシリーズで一番面白いのは、おばあちゃん達の日頃の様子や考え方などにある。最近の若い者はというサラリーマンの変わりに、家の嫁は…になっていく。それから私が気にいっているのは、名古屋弁だ。半村良を師と仰ぐ作家だけあって、話も勿論面白い。
2000/11/05
△「喘ぐ血」 リチャード・レイモン ナンシー・A・コリンズ他 祥伝社文庫
エロチック・ホラー「震える血」に続く第2弾の、ちょっと(かなり?)エッチなアメリカのホラー短編集。始めの話が、夫の留守中に筋肉ムキムキの大男を連れこんで、バスタブでSEXしている途中で、男が死んでしまい。男の身体が大き過ぎて出るにでられなくなった女の話。ちょっとコメディーっぽい設定だけど、ラストは恐い。全体的にアメリカらしく、宗教的雰囲気の作品が多いのが難点ではあるが、エッチな気分に浸りたい、ちょっと軽いホラーが好きな人は面白いかも知れない。だいぶ前に買っていたんだけど、とうとう読む本が無くなって読んでしまいました。
2000/11/02
○「エデンの戦士」 田中光二作 ハルキ文庫
これは、再版物。初版が22年も前ですが、私もその頃に読んでいます。で、本屋を物色していて見つけた懐かしの好きだった作家の話です。西暦2500年頃にバンアレン帯は消失し、地磁気も逆転し、人類が滅びさって、2000年後の話。人類が滅びようとした時に、タイムスリープ状態になった青年と少女。しかし青年はハワイに、少女はヨーロッパにと別々の個所で目覚め、お互いを探すが、その頃の地球は、降り注ぐ放射線とDNA操作・細胞合成などにより発生した亜人間や怪物達が跋扈する世界であった。果たして二人は会えるのであろうか…。というヒロイック・ファンタジー。うーん。懐かしかった。さすがに忘れていた内容だったけど、今も新鮮に読み応えのある作品でした。
2000/10/27
◎「慶応四年のはらきり」 夢枕獏作 集英社刊
過去に出版された「仰天文学大系」の文庫版(短編集)。これは最高。中でも、自分の作品をパロディ化してしまっている。「上段の突きを喰らう獅子」などは、まるっきりストーリーがSF大賞を取った作品と同じ流れで進んでいく。これは一読の価値あり。「わたくし未婚の地の文でございます」も面白い。デビュー当時と比べると、随分作風も違って来たし、最近はバイオレンスの作品が目立つが、格闘ファンでもある作者が楽しんでいる感じがする短編集であった。
○「眠り男(フェザーレ)の伝説」 菊池秀行作 徳間書店
まずは文庫本の大きさがちょっと定形外(少し大きい)。愛用のブックカバーが使えないのが悔しい。内容的には、エッチなシーンは殆どなし。登場人物達は催眠術の大家ばかりで、催眠術の戦いやら、登場人物を過去に遡らせる事で、過去の遺産(知識)を求めようと暗躍する世界的な団体やそれに対抗する日本の諜報機関が出てくる。この間のブラックメンは、ちょっとがっかりだったが、こちらは催眠術という一風変わった志向だからだろうか、結構面白かった。
2000/10/25
○「おばちゃまはシリア・スパイ」 ドロシー・ギルマン作 柳沢由実子訳 集英社刊
シリーズ第14作。CIAが、お人よしな観光客を装う運び屋を探している時に、スパイになりたいとやってきた、おばあちゃんを、間違って使ってしまったことから始まった、このシリーズも、今回はシリアへ。ハイジャックを防止したヒロインが何者かに誘拐され、彼女を救出すべく、仲間のファレルと危険に遭いながら冒険する。アサド大統領が無くなる前に出版された様ですから、当然話しの中では生きています。今回は今後又出てきそうな仲間が加わっているのも面白いし、おばちゃまの突飛なアイデアが今回も楽しい。
△「ブラックメン」 菊池秀行作 幻冬舎文庫
個人的な依頼でのアダルトビデオの撮影に出演する女優が、世界のトップモデルや、ミス インターナショナル中国代表で、エッチの限りを尽くすとなれば、面白くないはずがないのだが、ちょっと興ざめ。めちゃくちゃ強い人間と戦うのが、宇宙人という設定だからかも知れないが、魔界都市を徘徊する魔物達のイメージが強過ぎて、MIBの映画並であった。
△「阿弥陀(パズル)」 山田正紀作 幻冬舎文庫
妖鳥(ハルピュイア)・螺旋(スパイラル)に続く、囮捜査官以後の作品。探偵役の風水火那子のデビュー作。今までの山田推理物とは違った作風になっている。推理の過程は面白いが、それはズルイといいたくなる程に、トリックの解明に爽やかさがない。
○「狂骨の夢」 京極夏彦作 講談社
御存知、拝みや京極堂の文庫化3作目。京極夏彦の本が随分出ているのは知ってるけど、文庫専門の私としては、待っていた1冊でした。だけどこれって厚くって通勤時に読める様な本じゃないんだよなぁ。話しの途中で出てくる西遊記の沙悟浄が、河童じゃないというのは、判っていたが、「慈恩伝」という本に出てくるというのは知らなかった。しかし、ミステリーで最後の犯人は誰々で、どうやったとかの説明に、200ページ以上使っているのは、この作者だけかも知れない。
☆真保裕一
最近はまっている作家です。映画化された「ホワイトアウト」が面白いという評判から、読み始めました。
◎「ホワイトアウト」 新潮社刊 吉川英治文学新人賞受賞
和製ダイハードともいうべき、冬のダムを舞台に繰り広げる、人間が出来る範囲を超えたアクション物。とはいっても、荒唐無稽ではなく、緊迫感が充分伝わってくる。これはあまりにも有名なので、これくらいで紹介は終わる。
◎「奪取」 講談社刊 日本推理作家協会賞・山本周五郎賞受賞
他の作品を読むと、特別な堅い仕事を持った人達が主人公の作品が多いが、そういう意味では、これは異色だ。友人の借金返済の方法に、CD(キャッシュディスペンサー)向けの偽札作りを手がけ、それがきっかけで、銀行員さえ騙す偽札を作るようになる、騙しの話し。お札の作り方さえ判ると言うほど、詳しい話が入っている。偽札は労力に見合った利益が見込めないという所もあり、日本の紙幣の高度な技術が伺われるが、それに引換え、硬貨のなんと脆弱なことか。いい加減、自動販売機で500円玉が使いたい。
○「連鎖」 講談社刊 江戸川乱歩賞受賞
元食品衛生監視員の主人公が、放射能汚染食品の横流し調査から意外な事実まで判ってしまうという話し。これは確かに江戸川乱歩賞というだけあって、サスペンス物になっている。但し推理物として読んではいけない。
△「震源」 講談社刊
気象庁勤務の主人公が、昔の同僚の失踪を調査するうちに、大変なことに巻き込まれていくという作者が得意のパターン(だと思う)。但し、いくら気になっている昔の同僚だとはいえ、自分の職を投げ打ってまで、足を踏み込んでいくという主人公の性格が、現実的ではないと思った。
△「奇跡の人」 新潮社刊
事故の為、植物人間となるであろうと思われた主人公が、奇跡的な復活を遂げるが、今までの記憶どころか、産まれたての子供から学び始める状態になった主人公が、看護していた家族も無くし、どうしても自分の過去を探そうとする。ラスト近くで判る自分の過去と、廻りの人達の反応がちょっと出来過ぎ。
△「防壁」 講談社刊
短編集。解説にもあったが、この作者は短編向きではないようだ。というのも登場人物が変わった職業の人が多く、その仕事の内容だけでも、判りやすい様に努力をしてはいるが、その為かどうか、ストーリーとしての出来はあまりよくない。但し、この短編集を読んで作者が書きたい人物像は、全ての作品に統一されている様に感じた。
×「朽ちた樹々の枝の下で」 講談社刊
妻の死を契機に、人生を投げた主人公が森林作業員として働き出すが、山で女性を救出。しかしその女性は病院から逃げてしまう。気になった主人公が何故なのかを調査するというパターン。私には文章からは、休みを取ってまで調査するという必然性が感じられずに終わった。
?「盗聴」 講談社刊
?「取引」 講談社刊
この二冊本屋を探しても見つからないので、読んでいませんが、探してはおります。
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